決勝: 辰巳 晃司(東京) vs. 松田 幸雄(東京)

晴れる屋

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By Atsushi Ito


 274名という驚異の参加者数となった第3期スタンダード神挑戦者決定戦も、残すところ決勝戦のみとなった。

 最後のフィーチャーテーブルに座るのは、辰巳と松田。ここまで幾多の物語を抱えながらも勝ち上がってきた2人だ。


 もともとは関西のプレイヤーだったという辰巳。【これまで目立った戦績はない】という話だが、【準々決勝】で光安を倒した際に見せた泰然とした挙措とときに豪胆な仕掛けは年季以上の確かな実力を感じさせる。

 そんな辰巳が選択したのはアブザンコントロール。「丸いから」……すなわち、「どんなデッキとも大きな相性差なく戦えるから」という理由で。それはおそらく正しかったのだろう。事実、辰巳自身の落ち着いたプレイングとも相性が良く、この決勝まで勝ち残ることに成功した。

 しかしその選択が、この決勝戦で初めて、悪い方に転がろうとしていた。


 ずっと中野を拠点としてやってきたという松田。統率者戦を楽しむ傍らで、最強のシディシウィップを追い求め続けてきた。

 そしてそれは成った。従来型のシディシウィップにおいては固定スロットとされていた《クルフィックスの狩猟者》を廃し、《ニクスの織り手》《賢いなりすまし》を搭載した、新型のシディシウィップ。

 綿密なプレイテストの結果、「アブザンへの勝率は8割」とすら豪語するに至った。

 その成果が、今まさに最高の形で現れようとしていた。




Game 1
 先手の松田が何とダブルマリガン。だが「占術」が導いた《森の女人像》から、3ターン目には《ニクスの織り手》と上々のスタートを切る。

 対し、《ラノワールの荒原》《平地》と置きつつ3ターン目のドローステップを迎えた辰巳の様子がおかしい。



辰巳 晃司 



辰巳 「やっちまったな……」

 そのまま何とディスカードへ!松田、この隙に《ニクスの織り手》でライフを詰める。

 辰巳は1ターン遅れで《砂草原の城塞》を引き込み、続くターンには《アブザンの魔除け》でドローしにいくものの、当てが外れて4枚目の土地を引き込めず、さらに2枚のディスカードとなってしまう。

 そしてついに、松田の場に《奔流の精霊》が降臨する。


奔流の精霊


 辰巳は何とか《胆汁病》《ニクスの織り手》を除去するが、《奔流の精霊》が止まらない。そもそも《奔流の精霊》はアブザンでは本質的に対処不可能なカードなのだ。クロックを作り、先に殴りきるしかない。

 だというのに。

 辰巳はなおも4枚目の土地が引けない。やむなく《思考囲い》で、

《女王スズメバチ》
《残忍な切断》
《胆汁病》

 という松田の手札から後続となる《女王スズメバチ》を落とすが、返すターンのアタックで残りライフはわずかに2点。

 さらにライフを1にしながらの《英雄の破滅》《奔流の精霊》にご退場願うも、松田は自身の《森の女人像》《残忍な切断》しつつ「探査」で《奔流の精霊》を追放、そのまま《奔流の精霊》の能力を起動する好プレイ。

 返す辰巳のドローは……4枚目の土地、だがよりにもよって《ラノワールの荒原》!ライフが1点の今、これでは《包囲サイ》が出せない。やむなく《完全なる終わり》でお茶を濁すが、《奔流の精霊》相手では《濃霧》以上の意味はない。

 最後のドローもこの状況を解決しないと悟ると、辰巳はカードを畳むしかなかった。


辰巳 0-1 松田




Game 2
 辰巳は先手3ターン目の《思考囲い》で、

《血の暴君、シディシ》
《血の暴君、シディシ》
《奔流の精霊》
《ニクスの織り手》
《イニストラードの魂》
《残忍な切断》
《ヤヴィマヤの沿岸》

 という濃厚な手札から《ニクスの織り手》を落とし、今度こそ4枚目の土地を置いて順調な様子……と思いきや、よく見ると《平地》《平地》《静寂の神殿》《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》と置いており、緑マナがなく十分なアクションがとれない。

 《血の暴君、シディシ》は能力スタックで《英雄の破滅》するが、再び《奔流の精霊》が降臨してしまう。

 辰巳が緑マナを引き込みたい一心で力のこもったドローを繰り返すたび、3点ずつ辰巳のライフが擦り減っていく。

 やむなくほとんどカラ撃ちのような形で放った《悲哀まみれ》の「占術」でようやく《森》を見つけるも、《イニストラードの魂》を追加される。しかもこれを《アブザンの魔除け》で追放しにいくが、松田に墓地の2体目の《奔流の精霊》を「探査」で追放しながらの《残忍な切断》でかわされる。

 《黄金牙、タシグル》《残忍な切断》され、ついには2体の《奔流の精霊》が松田の場に並ぶ羽目に。


奔流の精霊奔流の精霊



 絶望的な盤面。

 それでも、辰巳は諦めなかった。

 《包囲サイ》《英雄の破滅》されながら、《奔流の精霊》2体のアタックを《胆汁病》でかわしながら、《破滅喚起の巨人》《消去》しながら、手札を空にしながら、ようやく最後の希望を着地させることに成功する。

 すなわち、《太陽の勇者、エルズペス》

 だがことここに至っては松田もこれを無視してライフを詰めにかかる。

 辰巳のライフは、残り1点。さらに《悪夢の織り手、アショク》まで追加されている。

 ゆっくりとカードを引き……辰巳は辿りついた。

 《対立の終結》。それは確かに盤面に対して唯一無二の回答だった。



辰巳 晃司 



 しかしまだ。

 それでもなお。

 松田の墓地には《イニストラードの魂》が、辰巳を絶望させるに足る最悪の切り札が眠っていた。

 葬られたはずの《奔流の精霊》が回収されていく。辰巳のトップデッキすらも、松田の優位を打ち崩す要因とはならない。

 しかも松田はどこまでも慎重に《賢いなりすまし》《太陽の勇者、エルズペス》を自身の場にも降臨させると、《ニクスの織り手》《英雄の破滅》を回収して辰巳の《太陽の勇者、エルズペス》だけを奥義直前で破壊する。

 《悪夢の織り手、アショク》《太陽の勇者、エルズペス》《奔流の精霊》

 無慈悲な相性差を象徴するかのように。

 まさしく圧倒的な終幕だった。


辰巳 0-2 松田



 思えば3つのフォーマットが存在するこの『神シリーズ』の中でも、スタンダードは特に波乱の連続だった。

 【第1期では木原が八十岡を倒して】『神』になり。【第2期は瀬尾が当時『神』だった小堺を退けて】『神』への挑戦権を獲得、【そのまま木原を打ち倒して】『神』の座へと着いた。

 ローテーションのあるスタンダードで、『神』という高みに至るためには、変化に対して敏感に対応する瞬発力と、仮想敵を想像してそれへの対応策を練り上げるという発想力が必要になる。

 松田のシディシウィップへの情熱と研究は、その素養を確かに示すものだった。

 これから、松田は『神』に挑む。

 きっとまた中野勢の友人たちと練習し、新しい発想で我々を驚かせてくれるに違いない。






第3期スタンダード神挑戦者決定戦、優勝は松田 幸雄(東京)!おめでとう!!