準決勝: 武居 力(神奈川) vs. 辰巳 晃司(東京)

晴れる屋



By Kazuya Hirabayashi


先手の【加茂ジェット】恐るべし。

先の【準々決勝】では江口の赤白に何もさせず轢き殺し、その速度を我々に見せつけた武居。

ここでの相手は光安のジェスカイを下してきた辰巳のアブザンコントロールである。

下馬評通りに考えれば、先手番が確約されている武居の有利だがはたして。






Game 1
先手の武居が《鋳造所通りの住人》から《マルドゥの斥候》と展開すれば、後手の辰巳は《砂草原の城塞》からの《思考囲い》

《マグマの噴流》
《僧院の速槍》
《軍族童の突発》
《山》

ここでは《軍族童の突発》を落とし、《疾病の神殿》をセットして未来に備える。


見えた手札通りに武居が《僧院の速槍》を追加し、辰巳への《マグマの噴流》込みで全力アタックすると、《思考囲い》での支払いも含め辰巳のライフは早くも7まで落ちてしまう。

この展開差。アブザンにとって、第2ターンまでのアクションが《思考囲い》のみというは決して珍しいものでは無い。
占術ランドと3色ランドによるタップインが環境基準となる中、第1ターンからマナを使い切るコンセプトが如何に強力なことか。


その表れがこれだ。

先手番武居の場にはクリーチャーが3体並び、辰巳の場にはおらずライフは7。詰めろがかかってしまっている。


鋳造所通りの住人マルドゥの斥候僧院の速槍



辰巳はただターンを返すよりなく、武居が突撃すると《マルドゥの斥候》へと《胆汁病》

これに合わせ武居からは《乱撃斬》が放たれ、強化された《僧院の速槍》《鋳造所通りの住人》により辰巳のライフは2まで落ちてしまう。


踏み止まろうとする辰巳は《吹きさらしの荒野》を使いつつも《クルフィックスの狩猟者》を追加し、ライブラリートップからのセットランドでライフ2の水準を保つのだが、武居は構わず《鋳造所通りの住人》《僧院の速槍》の2体でアタック。

そして辰巳に選択肢は無い。《僧院の速槍》《クルフィックスの狩猟者》でブロックに入った辰巳に提示されたのは《灼熱の血》


灼熱の血



武居 1-0 辰巳



Game 2
続く2本目は互いにマリガンしつつのゲームとなった。

辰巳が《疾病の神殿》《砂草原の城塞》と並べつつターンを返すと、武居が展開するのは《火飲みのサテュロス》《僧院の速槍》

先手番が入れ替わったため一本目よりましな状況なものの、やはり武居の立ち上がりが速い。


とはいえそれだけ先手後手ということは重要である。

3ターン目が初動という手札になるつつも、見た目上は間に合っているのだから。


辰巳が明らかに除去を構えてターンを返すと、武居は悩みつつも《火飲みのサテュロス》をパンプアップ。

無論除去を持っていない訳が無い。ここには《アブザンの魔除け》が飛び、再び武居は小考に沈む。

ここで《巻き添え被害》を使ってしまうか否か。

選択は短期プラン。《巻き添え被害》《僧院の速槍》に力を与え、ゲームスピードを速める選択肢を取る。


だがしかし。


包囲サイ


《包囲サイ》。アブザンにとってこのマッチアップの必須カードであり、武居にとっての最悪カード。

最悪と言ってしまうと語弊があるかもしれないが、いずれにせよこの局面でのインパクトは大きすぎる。

ここに来てゲームの主導権は辰巳へと移った。


辰巳は手を止めず《包囲サイ》で攻撃を開始すると、《かき立てる炎》と共に攻撃してきた《僧院の速槍》には《残忍な切断》

そして続くは《黄金牙、タシグル》


武居は反撃の鍵となり得る《力による操縦》を持っているものの、辰巳のライフが射程圏内に入っていかない。

《黄金牙、タシグル》こそ《稲妻の一撃》《乱撃斬》により処理するものの、火力をクリーチャーに使ってしまって勝ち目があるわけも無い。


突撃し続ける《包囲サイ》を止めることは出来なかった。



辰巳 晃司 



武居 1-1 辰巳




Game 3
さて再び武居の先手、辰巳にとっては試練の3本目となる。

スイスラウンドの結果で先手後手が決まっている以上、この状況を避ける術はない。必ず後手番からゲームを取る必要があるのだ。

だが戦前でどれほど有利な状況下でも確約される勝利もまた無い。

勝ちを確定させるため、不利を跳ね返すため。2本目同様互いにマリガンしての3本目となった。


第1ターン、武居のアクションは……無し。

辰巳が《疾病の神殿》を置いてターンを返すと、武居は《マルドゥの斥候》を「疾駆」。

これまでのゲームと違い、明らかに武居の動きが悪い。


その手札を暴く辰巳の《思考囲い》

《稲妻の一撃》
《乱撃斬》
《マルドゥの斥候》
《力による操縦》
《山》

公開されたカードから選択されたのは《稲妻の一撃》

《マルドゥの斥候》から追加のダメージを貰おうとも、自身のクリーチャーを守れれば勝てるということか。

《砂草原の城塞》を置いて辰巳がターンを返すと、武居は確認されたそのまま《マルドゥの斥候》を走らせるより選択肢が無く、一度は受けてライフ12になりながらも第4ターンのそれは《胆汁病》


そして2本目を彷彿とさせる……《包囲サイ》


武居が呼んだ《マルドゥの斥候》《悲哀まみれ》され、再びの《思考囲い》によりまたも手札が晒される。

《力による操縦》
《乱撃斬》
《稲妻の一撃》
《マルドゥの斥候》

ここからは《マルドゥの斥候》が落とされるものの、辰巳にも後続が続かない。

ゲーム展開は武居の望むものにはならないが、さりとて辰巳も楽では無いのだ。

辰巳にリソースが薄いことを見てとった武居は《乱撃斬》《稲妻の一撃》の2枚で贅沢に《包囲サイ》を除去する。



武居 力 


こうなると辰巳も苦しい。ライフを狙うデッキ相手であることを承知の上で《アブザンの魔除け》《夜の囁き》モードで使用。

確かにカードパワーではアブザンに分があるとはいえ、マナソースが多いこともまた事実。

有効牌の引ける確率は決して高くは無い。


だが苦労して引き当てた《真面目な訪問者、ソリン》が吸血鬼トークンを出せば、武居の手札からは即《マグマの噴流》

《僧院の速槍》が吸血鬼トークンへの《乱撃斬》と共にアタックすると、今度は辰巳が《英雄の破滅》

カードの交換が行われ、ゲームは消耗戦の体を示してきた。


そして先にリソースを着地させたのは辰巳の方だった。

アブザンの中長期プランを支える3マナのクリーチャー。《クルフィックスの狩猟者》が辰巳の有利を拡大していく。


クルフィックスの狩猟者


細かいライフ回復、そして無駄なドローを省く能力。

《吹きさらしの荒野》が辰巳に疑似「占術」の力を与え、《羊毛鬣のライオン》が援軍として確約される。


食い下がろうとする武居は《羊毛鬣のライオン》こそ「怪物化」に対応しての《かき立てる炎》で処理したものの、ライブラリートップには既に2枚目が公開されている。

自身のドローに頼るしかない武居と、ライブラリートップの土地を効率よく置き続ける辰巳。

ゲームの趨勢を決めたのは《クルフィックスの狩猟者》だったのは間違いない。


2枚目の《羊毛鬣のライオン》を引いた辰巳がライブラリートップの土地を置くと、公開されたのは《包囲サイ》

“加茂ジェット”墜落!。


武居 1-2 辰巳



ゲームを終えた武居に市川ユウキを始め、幾人かのプレイヤーがプレイングを指摘する。

「2本目、ミスってたよ」と。


2本目で悩んだ局面、武居は《アブザンの魔除け》に対応して《巻き添え被害》を使ったが、結果的にそれは刹那的なダメージを発生させたにすぎなかった。

何故ならその時点で《力による操縦》も持っていたため、《巻き添え被害》を握ったままなら《包囲サイ》を投げることが出来たからだ。


力による操縦
巻き添え被害


たしかに武居の“加茂ジェット”はアブザンコントロールに有利が付くが、結果が示す通りそれは確実なものでは無かった。

有利ゆえに目が眩む。

かくも重要な局面でのプレッシャーとは重いものである。


アブザンコントロールの辰巳 晃司が不利なマッチアップを跳ね返し、第3期スタンダード神挑戦者決定戦の決勝戦に進出!