行弘賢と学ぶドラフトセオリー vol.7 ~パックの内容を記憶しよう~

行弘 賢



  皆さんこんにちは!最近は暖かくなってきてすっかり春を感じさせる季節になりましたね。時期的にも4月間近という事で様々な環境の変化もある人もいるとは思いますが僕は相変わらずドラフトばーっかりやってます。まぁ3月中旬にニュージーランドで行われた【GPオークランド】の練習も兼ねてというのは勿論ありますが、それにしてもドラフトはやめられませんね。

 
 今回で全12回予定のこの記事も折り返しとなります。6回分の記事を読んで皆さんもかなりレベルアップしていただいていると思いますので、今回からちょっと記事の方も難易度の高いものを教えていきたいと思います。

 そんな今回、教えていくセオリーは『パックの内容を記憶しよう!』です。


 皆さんはファーストパックのカードを見て、とりあえず一番強いカードを取りますよね。そして残ったカードを左へと流す。これは当たり前というか、誰でもやってることだと思います。

 ですが、この作業の間に『取らなかった他のカードを記憶する』という作業をしてる人を見たことはありませんか?プロツアーのドラフト配信なんか見てたらそんな光景を見たことある人もいると思います。取ったカードは伏せ、残りのカードとにらめっこする。

 では何故そのような作業をするのでしょうか?







■ 1. パックの特徴をつかんで記憶しよう

 例えばあなたはこんなパックを剥きました。






 自分が環境最強クラスのレアである《城塞の包囲》を取ることは間違いないのですが、パックが強く他にも初手で取っていいアンコモンやコモンが多数見受けられます。それこそそういった初手級のカードのうちの何枚かは一周しそうなパックです。


 さて、まずはこのパックの特徴をつかんでいきます。


 そのためには、この残りから『自分なら何から取っていくだろうか?』という疑問を解消させていく必要があります。そのためにまずは軽くでいいのでカードに点数付けしていきましょう。


 このパックのカードの点数を分かりやすく上から並べていくと、


点数 カード名
9点《ティムールの剣歯虎》
8点《光変化》
7点《有毒ドラゴン》
7点《砂草原ののけ者》
7点《エイヴンの偵察員》
7点《ゴブリンの踵裂き》
7点《龍火浴びせ》
7点《グルマグのアンコウ》
6点《蓮道のジン》
6点《弱者狩り》
6点《無残な競争》
6点《花咲く砂地》
3点《ティムールの呪印》
2点《スゥルタイの呪印》


 となります。

 これを見て分かるのは、『次の人がピックする確率が高いカード』です。

 この表にあてはめていくと、『下家は《ティムールの剣歯虎》を、下下家は《光変化》を取るであろう』という予測が成り立ちます。


ティムールの剣歯虎光変化


 こうしてパックの中のカードを記憶することで、下の2人の今後の色の予測をすることができました。これで今後は緑や白をピックするべきかどうか、この情報を参考にすることができます。



 さて次に、このパックの色の傾向を見ていきましょう。


カードの種類 枚数
6点以上の白のカード2枚
6点以上の青のカード2枚
6点以上の黒のカード2枚
6点以上の赤のカード2枚
6点以上の緑のカード2枚
6点以上の緑と黒のマルチカード1枚
6点以上の緑と白の土地カード1枚


 色別に分けるとこうなります。こうしてみるとまんべんなく全ての色が強いパックですね。マルチや土地まで含めると少しだけ緑の要素が強く見える、という程度です。


 これだけ6点以上のカードがあるならば何かしら一周します。そしてそのような強力なカードが一周したということは、卓内でその色を選んだプレイヤーが少なかった可能性が高いです。

 つまり、このパックで一周してきた色のカードは『卓で人気薄の色』であると言えます。




 特に重要なのが『7点のカードが一周してきた場合』です。


有毒ドラゴン砂草原ののけ者エイヴンの偵察員
ゴブリンの踵裂き龍火浴びせグルマグのアンコウ


6点と7点で比べて6点が取られているということは、『順当に行けば取られるはずであるカードが取られていない』ということであり、『混んでいる色がある』ということが分かります。逆に一周してきた7点の色については『空いている色』という認識を持ってもいい、と言えます。


 まとめると、このパックの特徴としては『下家、下下家は緑 or 白をやりそう』『一周してきたカードによって卓内の色の傾向が分かる』という2点になります。

 この特徴を記憶しておいて、今後のピックに役立てていきます。

 でも、どうやって役立てていったらいいのでしょうか?





■ 2. 記憶した特徴を役立てよう

 今回の例で言えば、初手こそ白の10点カードである《城塞の包囲》をピックすることができましたが、その後は白の流れもいまいち振るわず、3手目に流れてきた《雲変化》から青のカードを多めに拾いながら、8手目までには以下のようなピックとなりました。





 そして、自分のファーストパックから返ってきた内容は以下のものでした。


点数 カード名
7点《有毒ドラゴン》
7点《グルマグのアンコウ》
6点《蓮道のジン》
6点《無残な競争》
6点《花咲く砂地》
3点《ティムールの呪印》
2点《スゥルタイの呪印》



 白、赤、緑の6点以上のカードが2枚ずつ消え、青の7点のカードが消えてますね。そしてなんと黒の7点カードがどっちも残っています。

 これは明確に黒が空いている証拠だと言えるでしょう。

 逆に白は8手目までの流れで上家がやっている可能性が高く、さらに《光変化》を流したことから下家もやっている可能性があり、上下から挟まれているという最悪のシナリオまで考えられます。

 このようにファーストパックの特徴を参考にした卓内の色の傾向を考えると、このまま白の路線を突き進むのは危険だと言えます。なのでここは卓内で人気薄な黒の《有毒ドラゴン》《グルマグのアンコウ》のどちらかを取ることにしました。


有毒ドラゴングルマグのアンコウ


 こうしてファーストパックから得た情報により、混んでいるであろう白を回避することができました。さらに《ティムールの剣歯虎》をピックした下方面のプレイヤーは緑をやっていると考えられるので、青黒路線でピックすれば返しもある程度期待できるでしょうし、白をやっていそうな上家とも協調が取れそうです。

 記憶しておいた特徴はこのようにして、『その後のピック方針』を決める際に役立てると良いでしょう。



 今回のような単純な点数付けを行う例の他にも、

 ・アーキタイプドラフトに必要なカード(《ジェスカイの呪印》等)

 ・安い2マナ粋(《くすぶるイフリート》等)

 ・安くて重いフィニッシャー(《大牙コロッソドン》等)

 ・安いマナベース強化カード(《ジェスカイの戦旗》等)


 なんかも記憶しておくと、それらの一周を期待することで間のピックでそれらを取ることなく別のカードを取ることができ、無駄なピックを減らすことに役立てることができます。


ジェスカイの呪印くすぶるイフリート大牙コロッソドンジェスカイの戦旗



 このように、パックの内容を記憶するだけで色々と役に立つことがあるので、是非とも記憶していきましょう。

 では次は実際にピック譜を見ながら解説していきます。





■ 3. 実践編 ~パックの内容を記憶し役立てる~

 今回のピック譜は【こちら】(raredraft)になります。



◎1-1





前哨地の包囲

行弘のピック: 《前哨地の包囲》


 初手は文句のない《前哨地の包囲》です。パックがなかなか強く、緑が濃いめのパックと言えますね。

 パック内のカードを点数付けすると、


点数 カード名
8点《アブザンの獣使い》
7点《砂草原ののけ者》
7点《戦いの喧嘩屋》
6点《弱者狩り》
6点《ジャングルのうろ穴》
6点《ナーガの意志》
5点《アイノクの先達》
5点《狡猾な一撃》
4点《くすぶるイフリート》
4点《荒野の地図作成》
4点《先祖の復讐》
3点《アブザンの呪印》
3点《稲妻の金切り魔》
2点《ゴブリンの爆裂樽》


 となります。点数順でピックされると下家以降は緑、黒、白辺りになりそうなパックですね。特に緑のカードは枚数も多く、初手も緑のカードではないので、できるだけ避けていきたいというところになります。

 逆に狙い目は《ナーガの意志》《狡猾な一撃》で、これらが一周してきたならば「青や青赤は空いている」と考えてもいいでしょう。


◎1-2





砂草原ののけ者

行弘のピック: 《砂草原ののけ者》



 2手目はカードパワーを優先し《砂草原ののけ者》を取ります。《ナーガの意志》が一周してきた際にジェスカイにいけるという受けもあります。ちなみに偶然にもこのパックも初手とほぼ同じコモンソートなため、初手と近い状況と言えます。


◎1-3




沸血の処罰者

行弘のピック: 《沸血の処罰者》


 3手目は《沸血の処罰者》を。まずはできるだけレアを使うために赤を絞っていきます。


◎1-4




乱撃斬

行弘のピック: 《乱撃斬》


 4手目も《乱撃斬》を取り、赤の流れをつかんだと言えるでしょう。ここで、2手続けて《蓮道のジン》を流してしまっているのを忘れずに覚えておきます。というのも、現時点では赤はだいたい確定として、2色目としての候補として「青が空いているのではないか」という情報を記憶しておくためです。



◎1-5~8


蓮道のジン蓮道のジンスゥルタイの頭蓋守りナーガの意志


 5手目は《蓮道のジン》を。流石に3連続流れてきたとあれば上家も青はやってなさそうですし、《ナーガの意志》が一周してきた際の受け入れを作っておきます。6手目も《蓮道のジン》、7手目は《スゥルタイの頭蓋守り》、8手目は《ナーガの意志》と青を中心にピックしつつ、卓内の青の人気薄を確信します。



◎1-9

 そして9手目、返って来た内容は以下でした。




点数 カード名
6点《ナーガの意志》
5点《アイノクの先達》
5点《狡猾な一撃》
4点《くすぶるイフリート》
4点《先祖の復讐》
3点《アブザンの呪印》
2点《ゴブリンの爆裂樽》



 予想通り6点以上のカードはほとんど返って来ませんでした。更に4点である《荒野の地図作成》までもが消えており、緑が混んでいることが予想されます。

 逆に《ナーガの意志》《狡猾な一撃》と青赤のカードはどちらも残っており、この2色の組み合わせは卓内で安いということが分かりました。

 なので今回はこれまでピックしているラインナップからも考えて青赤のビートデッキを組むピック方針が固まったので、期待通り一周してきた《ナーガの意志》を取ることにしました。


ナーガの意志

行弘のピック: 《ナーガの意志》


 以降、1パック目の残り6枚中5枚も青と赤のカードを取ることができた上に、2パック目以降も《弧状の稲妻》が2枚、遅い順目で《精神振り》と青赤がフィーバーしてかなり強い青赤を組み上げることができ、3-0することができました。


 今回はファーストパックの内容を記憶していたことで、『下家以降が緑になりそう』『青赤が空いている』という2点が分かり、ピック方針をずいぶん早く固めることができました。

 記憶した内容をしっかりと役立てることができた好例と言えるでしょう。





■ 5. 今回のまとめ

 『ファーストパックの内容を記憶しよう!』


 『卓内の色の傾向を把握しよう!』


 『記憶した情報を役立てるピックをしよう!』


  これからはぜひ、これらを意識してドラフトしてみてください。今までと違ったドラフトになると思います。

 今回の記事はここまでです。次回もまた僕の「ドラフトセオリー」を余すことなく伝えようと思います。それでは、また来月もドラフトの記事でお会いしましょう!