どれだけ自分が弱かろうとも、デッキが強ければ勝ててしまう。
みなさんはこのような経験をしたことがおありでしょうか?
僕はいまだにプレイングが未熟ですが、そんな僕が初めてプロツアーで結果らしい結果を残せたのは、そういった素晴らしいデッキに出会えたからです。
早速デッキリストをご覧いただきましょう。
7 《島》 1 《沼》 4 《汚染された三角州》 1 《溢れかえる岸辺》 4 《地底の大河》 -土地(17)- 4 《フェアリーの大群》 2 《夜景学院の使い魔》 -クリーチャー(6)- |
4 《渦まく知識》 2 《吸血の教示者》 4 《蓄積した知識》 3 《断絶》 2 《商人の巻物》 3 《直観》 3 《狡猾な願い》 2 《綿密な分析》 1 《転換》 1 《苦悶の触手》 4 《精神の願望》 4 《金属モックス》 4 《サファイアの大メダル》 -呪文(37)- |
2 《サイカトグ》 2 《残響する真実》 1 《棺の追放》 1 《被覆》 1 《卑下》 1 《マナ漏出》 1 《断絶》 1 《思考停止》 1 《直観》 1 《再建》 1 《魔力流出》 1 《転換》 1 《天才のひらめき》 -サイドボード(15)- |
【プロツアー・コロンバス2005】にて、ルーキー(大礒 正嗣)が6位に入賞したこのデッキは、かっちん(森 勝洋)が生み出したコンボデッキ。
これまでに数多くの名作を作り上げてきたきたかっちんが、自他ともに認める最高のデッキがこの「Mind’s Desire」です。
デッキの動きとしては、《夜景学院の使い魔》か《サファイアの大メダル》を軸に、《フェアリーの大群》、《断絶》といったカードでマナを増やしていき、十分な「ストーム」が溜まれば、《精神の願望》をキャストします。
そうすれば概ねマナを増やすカードか、追加の《精神の願望》、または勝ち手段である《狡猾な願い》、《苦悶の触手》が手に入るので、そのままゲームに勝利することができるという仕組みです。
このデッキは、実質《精神の願望》の1枚コンボのようなデッキなので、とても対策が難しいデッキでした。エクステンデッドが新環境になったばかりの当時は、《精神の願望》が全くのノーマークで、《もみ消し》などの「ストーム」対策カードを見かけることもありませんでした。
手札破壊に対しては《渦まく知識》もありますし、《直観》からの《蓄積した知識》や《綿密な分析》のアドバンテージ獲得手段の王道もあったので、このデッキは当時の主流デッキであった「The Rock」(緑黒のミッドレンジデッキ)に対して有利が付きました。
さらに、「The Rock」と同じくメタゲームの中心に位置した「リアニメイト」デッキにも、メインから<断絶>が大量に入っている関係で圧倒的に有利でした。このデッキは単純なデッキパワーだけでなく、メタゲーム的な観点で見ても、とても優秀だったのです。
大会前夜まで、2色目を「黒」にするか「白」にするか悩んでいましたが、「黒」には《吸血の教示者》という最高のサーチカードがあること、《思考停止》よりも「ストーム」数が少なくて済む《苦悶の触手》が取れることを理由に、2色目は「黒」に決定。
サイドボードに潜む《サイカトグ》もまた、「黒」を採用する大きな決め手になりました。《サイカトグ》は《秘儀の研究室》を無視できる勝ち手段として、またはクリーチャーに対する壁としての役割を期待しての採用です。実際にこのカードで《ファイレクシアの抹殺者》2匹と《秘儀の研究室》を乗り越えて勝ったゲームもありましたし、いつの時代もコンボデッキの「オフェンシブサイドボード」は強力ですね。
■ 夢と現実の間で
実は僕もこのデッキを使わせてもらって、この大会に参加していました。
結果報告の前に、少し身の上話をさせていただくと、このプロツアーは僕にとって最後のプロツアーになる予定でした。
それまでに4回のプロツアーに参加し、結果は全て初日落ち。【日本選手権2004】でこそ望外の結果を残せたものの、このまま海外遠征を続けるのは、実力的にも、金銭的にも無謀というほかありませんでした。
プロツアーで勝ちたい。願わくば、優勝したい。
そう思ってから、早2年が経過していました。その間に、グランプリでもプロツアーでも2日目にすら進出することができずじまいで、それは自分の実力を客観的に受け止めるには十分すぎるほどの時間でした。
プロツアーに参加するためには多くのお金がかかりますし、プロツアー予選で勝つには多大な時間と労力が必要となります。
いつかは自分で線引きをしなければいけない。そう思いつつも、両親の優しさに甘えて、プロツアーへの未練を断ち切れずにいたのがこの時期でした。
そして、ついに両親から最後通告をされたのが、この【プロツアー・コロンバス2005】直前のことです。
最後のプロツアー。全く実感はありませんでしたが、これまでの集大成として、悔いのないようにと、このプロツアーに臨みました。
結果の方は、デッキパワーのおかげで初めて初日を突破。それも6勝1敗1分という好成績で。しかし2日目の対戦相手は、やはり初日以上に強豪が多く、最終戦を前に僕の成績は9勝5敗1分まで落ち込んでしまいました。
文字通り最終戦となる対戦相手は、後に【殿堂入り】をはたすオランダのFrank Karsten。デッキは《魔の魅惑》を利用したコンボデッキです。
4 《森》 3 《島》 1 《沼》 4 《汚染された三角州》 4 《ヘイヴンウッドの古戦場》 4 《ヤヴィマヤの沿岸》 3 《真鍮の都》 -土地(23)- 4 《極楽鳥》 1 《魂の管理人》 4 《花の壁》 3 《洞窟のハーピー》 1 《フェアリーの大群》 3 《ワタリガラスの使い魔》 1 《永遠の証人》 -クリーチャー(17)- |
4 《渦まく知識》 4 《陰謀団式療法》 4 《生ける願い》 4 《直観》 4 《魔の魅惑》 -呪文(20)- |
3 《破滅的な行為》 2 《起源》 1 《アカデミーの学長》 1 《洞窟のハーピー》 1 《蛆たかり》 1 《厳格な試験監督》 1 《金粉のドレイク》 1 《ワタリガラスの使い魔》 1 《永遠の証人》 1 《ワイアウッドの野人》 1 《曇り鏡のメロク》 1 《真鍮の都》 -サイドボード(15)- |
実はこの対戦の前に、Karstenと同郷で同デッキを駆るKamiel Cornelissen(ちなみにCornelissenも後の【殿堂顕彰者】)に負けており、その時にかっちんにこんなアドバイスをもらっていました。
かっちん 「《魔の魅惑》デッキは《ワタリガラスの使い魔》と《洞窟のハーピー》を回す過程で勝手に「ストーム」を稼いでくれるから、相手のターン中に<思考停止>で勝てることは覚えておいた方がいいよ。」
そんなこともあるのかと感心していたのですが、Karstenとの試合では、このアドバイスが生きました。
お互いに1本ずつコンボを決めて迎えた3本目。
こちらが土地が3枚で止まってしまって動けずにいると、意を決したKarstenがついにコンボを始動させます。
僕が《魔の魅惑》をカウンターできなかったことを確認すると、そこから次々とクリーチャーをキャストしていき、最終的に《ワタリガラスの使い魔》と《洞窟のハーピー》の組み合わせが揃ってしまいました。
ですが、最後のコンボパーツである《洞窟のハーピー》をキャストしたその刹那、Karstenの手札は0枚に。つまり、カウンター呪文どころか、こちらのコンボを阻害する手段が一切ないことが判明したのです。
ここでこちらも《フェアリーの大群》(対戦相手の《魔の魅惑》を利用) 、《吸血の教示者》、《蓄積した知識》、《断絶》といった手札の呪文を解き放って「ストーム」を稼ぎ出し、最後は《狡猾な願い》からの《思考停止》でライブラリーを削りきることができました。
Karstenが優しく指摘してくれたことを明記しておきます。
昔から紳士的で模範的なプレイヤーですね。
最終的に21位に入賞することができ、これまでのプロツアーの成績と合わせ、グレイビートレイン(現在のゴールドレベルに相当)に到達できました。旅費を上回る賞金も手に入ったので両親もなんとか納得してくれ、次回以降のプロツアーにも参戦できることが決まりました。
もしもこのデッキがなければ、僕の挑戦はこの大会で終了していました。いつもよりも長くなってしまいましたが、この「Mind’s Desire」デッキは、そういった意味でも僕にとって非常に思い出深いデッキです。
このあとの【グランプリ・シンガポール2005】に、かっちんが改悪して《精神の願望/Mind’s Desire》が3枚しか入っていないリストで出場したのも、今となっては良い思い出です(笑)
僕がプロツアーで2日目に残ることができたのも、かっちんとこのデッキに出会えたからこそです。
ありがとう「Mind’s Desire」。ありがとうかっちん。また「ストーム」できるその日まで!
※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『Magic Pro Tour Hall of Fame』
http://archive.wizards.com/Magic/Magazine/HallOfFame.aspx?x=mtgevent/hof/welcome
コガモ