今回も最新セット『タルキール龍紀伝』の環境分析を行いたいと思う。
残念ながら国内のリミテッドプレミアイベントがない関係で【前回】に引き続きクイックレビューという形で、内容の掘り下げよりも記事の鮮度を優先して進めようと思うのだが、何せラージセットのリリースであるため環境の変化が大きく、内容を削るのにも限度がある。それでも極力コンパクトにまとめたつもりなので最後まで付き合ってもらえれば幸いだ。
では早速始めよう。個別のカードに言及する前にまずは環境定義から。
■ 環境の特徴
(1).色の組み合わせについて
マナサポートが《進化する未開地》だけになった関係で、必然的に3色以上のミッドレンジ、コントロール戦略を肯定するハードルはいつもより高い。基本的に2色で組んで神話ドラゴンレベルのカードだけタッチを検討することになるだろう。
色の組み合わせは友好色をおすすめしたい。3パック目の対抗色スペルもあるので対抗色が成立しないわけではないが、「濫用」や「疾駆」など友好2色で同一キーワード能力を共有するため、友好色で組んだ方がコンセプトの先鋭化がしやすい分アプローチとして優れている。
(2).主要アーキタイプについて
最強のアーキタイプは赤黒「疾駆」だが、アンコモン依存度や必要パーツの安さまで考慮すると最有力なアプローチは赤緑という見方もできる。
白緑も悪くない選択で、赤系にサイズで負けないという必要条件を満たしつつ、飛行による継続的な打点と+1/+1カウンター関係のシナジーを最大活用できる点は大きな魅力だ。
青白と青黒は線の細さがネックになっており、高いレアリティのボムに巡り会わない限り積極的に踏み込む必要はない。青黒はアンコモンに疑似黒タイタンこと《ラクシャーサの墓呼び》や《ウクドのコブラ》などがいるのでまだある程度の頻度で肯定されるが、青白はアンコモンクラスでも満足なサイズが存在しないのでかなりつらい。
対抗色の組み合わせでオススメなのは赤白と黒緑だ。白に足りないサイズを赤で補完する、黒に足りないサイズを緑で補完するという点で両者のコンセプトは同じだが、白赤の方が早い分(そして最強色である赤を使っている分)アーキタイプとしての強さは勝る。黒緑は赤白よりもレアの強烈さと人口密度の薄さから来るカード供給の安定性が魅力だ。
(3).コントロールとビートの力関係ついて
環境に存在する除去の質は近年の中では高い水準にあるが、それでも除去を軸にしたコントロールよりもビート戦略の方がアプローチとして有効。主な要因としては「疾駆」によるゲームスピードの加速とソーサリータイミングの除去の信頼度の低下が挙げられる。中でも《疾走する戦暴者》は強烈で、《疾走する戦暴者》を使わないデッキはこれをどう対処するかを構築段階から意識する必要がある。
この問題の解決策は至極シンプルで「5/4と1:1交換できるブロッカーを用意する」というのが一番効率的だ。「疾駆」を経由した場合はスペルによるバックアップが難しいので、通常のコンバットよりもブロックによる単純交換が信用できる。単純すぎるように感じるかもしれない解決策だが有効な解決策は得てしてシンプルなものだ。スペルのバックアップを整えるために相手が盤面を作る方向で動けば最低でもアタックは2ターン遅くなるのでこちらもそれ相応の準備が出来る。
上記の要素を端的にまとめると以下のようになる。
・基本は友好2色環境(青白は例外)
・ゲームスピードは速い
・生物のサイズがかなり重要
・従来の環境よりもソーサリー除去に死角がある
・ゲームスピードは速い
・生物のサイズがかなり重要
・従来の環境よりもソーサリー除去に死角がある
ではこれらのポイントを踏まえた上で各色の特徴と主要カードを解説していこう。
■ 赤
死角なし。軽量除去、重量除去、「大変異」と「疾駆」の性能がどれも非常に高く2から5までの主要なマナ域をプレイアブルなカードでくまなくカバーしている間違いのない最強色。
他の4色では赤の敵にはならず、赤の敵は人口密度だけである。
1位 《双雷弾》
最低限保証されてる働きが十分強いうえに振り分けのおかげで状況によっては上振れが期待できる。
特に白黒相手のときなどは《疾走する戦暴者》を待ち構える《チフス鼠》を4種ある2マナのタフネス1を巻き込みながら除去する展開が現実的に期待できて素晴らしい。
2位 《疾走する戦暴者》《サルカンの怒り》
5マナに《影の手の内》が存在する黒と組む場合は、役割を分散させるため競合する《サルカンの怒り》よりもサイズのある《疾走する戦暴者》を優先する。
同じ理屈で緑と組む場合は5マナに《突進する大鹿の群れ》がいるため《サルカンの怒り》を優先する。
白赤で運用することを想定した場合は基本的には《疾走する戦暴者》を優先することになるが、4マナ域にサイズのある生物を確保できている場合は《サルカンの怒り》を優先してもいい。
白は4マナ域に積極的にプレイしたいコモンがないため、4ターン目に限って見るとほぼバイバック付きの《溶岩の斧》のような働きが期待できる《疾走する戦暴/Sprinting Warbrute》の需要はとても高い。
ただし、白は緑と比べて素のサイズが一段低くなっているため、スペルのバックアップの要請が高く、「疾駆」コストを払うと2~3ターン目に展開した生物が殴れないなどの状況が容易に想定できるのも事実だ。
これらを総合して考えると、4マナを《疾走する戦暴者》の代わりに《山頂をうろつくもの》で埋められるのであれば、《疾走する戦暴者》と《サルカンの怒り》の2択で後者を優先することが肯定される。
レアケースだが、青と組む場合は《疾走する戦暴者》を優先しよう。
3位 《アタルカのイフリート》
環境に蔓延するタフネス1イジメの代表格。上振れしたときのアドバンテージをとりつつ異常な高打点をたたき出す動きには目を見張るものがある。
黒と組んだ場合は《毒塗り》でお手軽に2:1交換が取れるので意識して《毒塗り》を回収しよう。
■ 緑
赤に次ぐ有力色は緑だ。
現環境は全てのアーキタイプで生物のサイズが重要になるので「緑+X」の全てのカラーコンビネーションが肯定される。
1位 《勇壮な対決》
4ターン目以降であれば除去しつつ展開という2アクションが期待できる上に、レアに対応することも可能な優良除去。
2位 《アタルカの獣壊し》
後半引いてもうれしい2マナ2/2が弱いわけもなく。あらゆる白青黒のコモンに優先して取っている。
選択肢がある比較対象は《アタルカのイフリート》だろうか。
赤緑の完成形での勝利貢献度は《アタルカの獣壊し》の方が高いが、赤の人気を考えると色主張の意味をこめて序盤に赤を漏らさないことは重要になってくる。
つまり「赤緑が確定した場合」と、「緑だけが確定した場合」においてはこの2択で《アタルカの獣壊し》を優先するということになる。《アタルカのイフリート》から人気食の赤に切り込むのはリスキーだし、赤しか決まっていない状況で《アタルカの獣壊し》から2色目を緑に決めるために下方向に赤を漏らすのもリスキーだ。
3位 《突進する大鹿の群れ》
青、黒と組む場合はこの順位で。白の場合は替えのきかないパーツなのでマナカーブ次第で最優先にしてしまっても構わない。逆に赤と組む場合は《疾走する戦暴者》がいれば下方修正して《踏み付け》を優先しても良い。
余談だが赤緑で《踏み付け》を取った場合は3パック目で《ゴブリンの踵裂き》を最優先(マナエルフよりも)で取るようしよう。最初の奇襲で5~6点削った上で2回目の「疾駆」にジャイグロを合わせれば、相手のレアなど無視して勝てる。
■ 白
今回の白は除去と飛行という勝てる要素を兼ね備えつつ、低マナ域の充実ぶりと色拘束の薄さで使い勝手の良さもアピールという優等生的な色だが、現環境は白に唯一足りない要素である生物のサイズが従来の環境よりも重要になるので、順位としては赤と緑の次点に留まる。
組む相手はやはり赤か緑が理想だ。青と黒ではコモンのパーツで白の線の細さをカバーすることが難しい。
1位 《平和な心》
幾度となく再録されている伝統的な軽量除去だが、現環境では「疾駆」に対応できず「濫用」にいいようにあしらわれるというリスクがあるので従来ほどの働きを期待するのが難しい。
しかしそれでも2マナとしては破格の働きをするので侮るのは厳禁だ。
既に白緑が決まっている場合は緑のカードも含めて最優先でいい。
2位 《砂造形の魔道士》
「鼓舞」という能力は活躍の幅にブレが発生しやすい能力だ。
上振れは3ターン目に《光歩き》を「3/2飛行」にする動きになる。これは2ターン目⇒3ターン目の動きとしてはあらゆるアーキタイプの中でも最高のものだと言っていい。
標準的な活躍は2/2をサイズアップすることになり、これも十分にコストに見合った仕事ぶりと言える。
問題は2/2が盤面へほぼ何の影響ももたらさない状況で、1/1を強化せざるを得ない場合である。これは運用というより構造上の問題で、プレイングだけでなくドラフト段階で極力下振れが起きないように、タフネス1に関しては大幅な下方評価をするなどの構造上の対策が必要だ。
3位 《不朽の勝利》、《霧蹄の麒麟》
赤と組む場合、5マナは《疾走する戦暴者》《エイヴンの戦術家》《サルカンの怒り》と競合が激しいため《霧蹄の麒麟》を優先する。
緑と組む場合はよほど5マナが太らない限り除去を優先したいが、例外として白緑は+1/+1カウンター依存のカードが複数種あるため、それらのカードを採用する場合はテンポよく運用するために《霧蹄の麒麟》を優先することが肯定される。具体的には《鱗の祝福》《鼓舞する呼び声》《毅然さの化身》がそれにあたる。
注意したいのはこれらのカードが搭載されるからと言って自動的に優先度が逆転するのではなく、最低限の除去の枚数が確保された状態で、初めて評価が逆転するということだ。目安としては確保している除去が2枚というのを基準にして、2枚未満ならば除去から確保しよう。
黒と組む場合は《霧蹄の麒麟》を優先する。
青と組む場合除去の少なさから《不朽の勝利》を優先したくなるのだが、青の不人気を考えると3パック目で《エイヴンの偵察員》が大量に確保できることも想定するべきで、一概にどちらと決めつけるのは乱暴だ。
除去から取った方が固い選択で裏目を引く確率は低いが、5マナを空けて待った方が当たったときのリターンが大きいため期待値的には拮抗していると言えよう。
■ 黒
除去色である黒はサイズのある赤か緑と組むことで最大のポテンシャルを発揮する。
特に赤黒のコンビネーションは友好色レアやアンコモンの「疾駆」シナジーを搭載することも可能で、環境最強のアーキタイプの一つとして挙げることが出来る。
3パック目の《過酷な命の糧》の独占を狙って白と組むことも考えるだろうが、前環境に比べて横に並べるパーツが減少して《過酷な命の糧》のポテンシャルが下がっていること、生物のサイズを《グルマグのアンコウ》に頼り切ってしまう構成になりやすいなどの理由で、望んで飛び込むほどの価値はない。
青と組む場合は「濫用」シナジーを軸にすることになるが、青黒が「濫用」の際にテンポを失わずにアドバンテージを取るためには《スゥルタイの使者》がとても重要になる。また、ご多分に漏れず足りないサイズを《グルマグのアンコウ》で補完することになるので、つまりはデッキの完成形の3パック目への依存度が極端に高くなるのだ。
3パック目の依存度が高いのは白黒も同じだが、白黒が当てにしているのは中盤以降に引いてもよい除去であるのに対して、青黒は序盤に欲しい=まとまった枚数を確保したいマナ域のパーツを後回しにすることになる分、構造的にかかえるリスクはより深刻だ。
1位 《禿鷹エイヴン》
昨今のリミテッド環境は昔と比べて赤と黒だけでなく各色にある程度除去が用意されているので、除去よりも一定水準以上のアドバンテージソースの方が重要度が上がっていることからこのカードを便宜上トップに挙げたい。
ただし赤黒の場合は「疾駆」のプレッシャーを最大化させるために、極力序盤のテンポを緩めたくないので《スゥルタイの使者》や《よろめくゴブリン》以外のパーツをサクる動きが有効でなく、大きく優先度を下げることになる。
反面、黒緑は序盤の勢いで押し切るよりも中盤以降に勝てる場をしっかりと作るゲームプランが一般的なので、若干のテンポロスよりもドローの重要度を高く評価していい。《禿鷹エイヴン》が取れた場合は《鱗の召使い》をプレイアブルに評価すべきだ。単体でも見た目より良い仕事をするし、《禿鷹エイヴン》がこれをサクって3/4飛行になる動きはとても良い。
白黒では空いた4マナ圏を埋める優秀パーツとなる。また、2~4点稼いだ後で、もうチャンプアタックしかできないのに「鼓舞」の邪魔になった2/1などを間引くという動きも悪くない。
青黒での活躍は言わずもがなだろう。「濫用」デッキの中核となるパーツだ。
2位 《押し拉ぎ》
使いやすい除去。最近の相場だともう一マナ重くても不思議ではないのでこのコスト設定はうれしい。
赤黒の場合はマナカーブやシナジー次第で《無謀なインプ》を優先してもいい。
3位 《無謀なインプ》
赤黒で特に良い仕事をする。
黒緑でも悪くない働きを見せるがマナ域の競合の問題で優先度はもっと低くてもいい。
青黒ではメリットよりもデメリットの方が気になるが、このカードが悪いというよりは色が悪い。
白黒では「鼓舞」の対象として素晴らしい反面、後手3ターン目のリスクが他のアーキタイプよりも大きいため注意が必要だ。
ここで言うリスクについて具体的に言及すると、このカードのブロックできないというデメリットが最大化する局面が白黒で運用したときの対赤の場合だということだ。タフネス1の生物の返しで赤が「変異」を展開し、その返しが《無謀なインプ》だった場合、こちらの生物を殺されつつ本体に6点叩き込まれるという目も当てられない惨状になり、次のターンに相手が除去や《ゴブリンの踵裂き》などのバックアップで殴ってきた場合、速やかにゲームが終わってしまう。
構造的にどうしてもこういった負けパターンを内包してしまう場合も、それをちゃんと理解して可能なかぎりプレイングで避ける、逆に勝ちパターンを理解してドラフティングでそこに寄せるといったことを常に心がけるようにしよう。
■ 青
今回の最弱色は青だ。
コモンには青に参入することを肯定するレベルのカードがなく、青をやる場合は《龍王シルムガル》《龍王オジュタイ》《屍術使いのドラゴン》《氷瀑の執政》レベルのカードが欲しい。
こういった前提で考えると青のコモンランキングを作ることにあまり意味がないため、青に限ってはここまでのテンプレートを崩して、各アーキタイプで評価の変わる特徴的なカードをピックアップして紹介する形式にしたい。
・青白
白青は反復カードを複数枚搭載できるので《神出鬼没の呪拳士》が加点評価される。
また《ドロモカの隊長》がある場合は《テイガムの一撃》を確保するよう意識しよう。一撃といいつつ2回殴れるのですこぶる相性がいい。
・青黒
《グルマグのアンコウ》につなぐパーツとして《グルマグの溺れさせるもの》は優秀。
また、除去が豊富なので《僧院の伝承師》も1枚は採用したい。
・青赤
レアケース中のレアケース。シナジーの無いカラーコンビネーションなので狙うものではない。かろうじて成立する状況を考えると、赤の流れが良く、白黒緑が混んでいて、《氷瀑の執政》が手元にあるという状況でようやく肯定される。赤の流れが良いのなら2色目は混んでいる緑や黒にした方が空いている青よりも良いというのは涙なしには語れない。
・青緑
《オジュタイの息吹》や《テイガムの一撃》で《針葉樹の徘徊者》をバックアップするテンポデッキ的な動きは悪くない。先手のハメパターンが強いのはもちろん、後手の場合も生物を出しながら《砂の造形》で相手の攻めを裁くことで展開をイーブンに戻せる点が良い。
以上。なんとか最低限の内容には触れたつもりだが、環境の概観はつかんでもらえただろうか?
『タルキール龍紀伝』はリミテッド的にアタリが続いた近年のエキスパンションの中でもかなり技術介入が高く面白いものになっているので、やりこみ甲斐は十分なはずだ。
変則リリースの関係で期間が短いのだけが残念だが、短いからこそファーストステップの環境把握をこの記事を参考にしてスキップしてもらえれば幸いだ。
それでは良いリミテッドライフを。