こんにちは!
突然ですが、みなさんはマジックの大会でこんな思い出はありませんか?
~スイスラウンド最終戦終了後の一幕~
A 「『ID』すればよかった(泣)」
B 「『ID』したけど9位だった(泣)」
C 「さっき対戦相手に申し込まれた『ID』って一体なんなんだ(泣)」
A 「『ID』すればよかった(泣)」
B 「『ID』したけど9位だった(泣)」
C 「さっき対戦相手に申し込まれた『ID』って一体なんなんだ(泣)」
トーナメントマジックをする上で欠かすことのない存在、それが『ID』です。
■ 『ID』とは?
まず始めに、『ID』とは『Intentional Draw』の略です。
『Intentional Draw』を直訳すると、『互いに合意の上での引き分け』になります。もう少し噛み砕くと、『お互いのために(ゲームをせずに)引き分けを選択しよう』ということです。
■ なぜ『ID』をするの?
ではなぜ『ID』を選択するのでしょうか?
それはもちろん、互いにとって利害関係が一致しているからにほかなりません。
まずマジックの試合(マッチ)は、ほとんどの場合において、『勝てば3ポイント、負ければ0ポイント、引き分ければ1ポイント』というシステムが採用されています。
シングルエリミネーション(トップ8)がない大会であれば、ただ単純に勝ち点を積み重ねることが優勝への近道となりますが、それではスイスラウンドの後にシングルエリミネーションがある大会はどうでしょう?
■ 1ポイントの重要性
そのようなトップ8ラウンドがある大会において、引き分けがもたらす1ポイントには大変な価値があります。
『ID』をする最大の理由としては、普通に試合をした場合に、【負けてしまうと0ポイントであること】、この1点に尽きます。
つまり試合をすると、負けた側はトップ8争いから脱落してしまう可能性があるのです。
ここまでがんばって積み重ねてきたものが、一瞬で崩れ落ちてしまうかもしれない。
天国か地獄か。もしかすると、地獄に落ちてしまうのは自分ではないのか。
そんなことを考えると夜も眠れなくなりそうですが、ご安心ください。対戦相手もあなたと同じ悩みを抱えているはずですし、そんな人たちを救済するのが『ID』というシステムなのです。
■ Win-Winの関係を築くもの
もしもお互いにトップ8に残れるとしたならば、『ID』を選択することに何の問題も異論もないでしょう。
そうなんです。『ID』とは、基本的にはお互いがトップ8に残るために行う行為なんです。
ただし、『ID』は時に悲劇をもたらしてしまうものとして有名です。『合意の上で』引き分けを選択したはずなのに、あなたか対戦相手がトップ8に残れないとしたら、これほど悲しいことはありませんよね。
■ 間違った『ID』をしないために
それでは、お互いがきっちりと納得のできる『ID』をするために、何を参照にすればいいのでしょうか。それは一般的に『スタンディング』と呼ばれる順位表です。
情報が多すぎて、どこを見ればいいか分からない……。おそらくそういった人がほとんどでしょう。
ご安心ください!僕も始めはそうでした!むしろ今もそんなに深くは理解していませんし、計算もほとんどしてません!(笑)
ではなぜ間違った『ID』をしないのか?
それは
ここからは、いくつかの事例をもとに、『ID』すべきかそうでないかを見ていきましょう。
■ ケーススタディ1: 『ID』すべきかどうかマッチポイントで決まるパターン
・ケーススタディⅠ
6回戦終了時点でのスタンディング
(※対戦済などの理由がない限り、上からマッチアップされるものとします)
(※とりあえずの目標はトップ8に残ることとします)
6回戦終了時点でのスタンディング
順位 | 名前 | ポイント |
1 | A | 18 |
2 | B | 18 |
3 | C | 15 |
4 | D | 15 |
5 | E | 15 |
6 | F | 15 |
7 | G | 15 |
8 | あなた | 15 |
9 | H | 12 |
10 | I | 12 |
(※対戦済などの理由がない限り、上からマッチアップされるものとします)
(※とりあえずの目標はトップ8に残ることとします)
スイスラウンド最終7回戦目であなたは「G」さんと当たり、『ID』を申し込まれました。
この『ID』は受けるべきでしょうか?
A.受けた方が良い
この場合の『ID』は、成功した段階でどちらもトップ8進出が決まるため、お互いにとって理想的な『ID』だと言えます。
なぜならば、このラウンド終了後に16点に届くプレイヤーは、あなたを含めて8人のみ。9位以下のプレイヤーは、いずれかの卓が『ID』を選択しなかった場合にのみ、トップ8に進出する可能性が生まれます。
このケースは非常に簡単なもので、僕でもほとんど間違えない超優良問題です!
◆教訓:最初に8位の人の『ポイント』を見よう
このように8位までが『ID』をした場合に、9位以下の人たちのポイントが届かない状況ならば、『ID』は最善の策です。
もしも同点で複数人が並ぶ場合は少し複雑になりますが、その状況も見てみましょう。
■ ケーススタディ2: オポーネントで決まるパターン
・ケーススタディⅡ
6回戦終了時点でのスタンディング
(※対戦済などの理由がない限り、上からマッチアップされるものとします)
(※とりあえずの目標はトップ8に残ることとします)
6回戦終了時点でのスタンディング
順位 | 名前 | ポイント | OMW% |
1 | A | 16 | 63% |
2 | B | 16 | 60% |
3 | C | 15 | 61% |
4 | あなた | 15 | 60% |
5 | D | 15 | 58% |
6 | E | 15 | 56% |
7 | F | 15 | 52% |
8 | G | 15 | 48% |
9 | H | 13 | 56% |
10 | I | 13 | 50% |
11 | J | 12 | 60% |
(※対戦済などの理由がない限り、上からマッチアップされるものとします)
(※とりあえずの目標はトップ8に残ることとします)
スイスラウンド最終7回戦目でBから『ID』を申し込まれたあなたは『ID』を受けるべきでしょうか?
A.受けた方が良い
まずAさんとBさんは、17点以上に到達する人数が最高で5人しかいないため、このラウンドで『ID』さえできればトップ8が確定します。
次にあなたを含む15点のプレイヤー6人。先ほどの「ケーススタディⅠ」と同様に、全員がIDをすればトップ8確定!……と言いたいところですが、残念ながら今回は13点のプレイヤーが2人います。彼らの試合の勝者も16点に到達するので、このままでは16点以上が9人になってしまいますね。
そうなってしまった場合、9位になるのは誰なのか。それをひも解く鍵はプレイヤー名の横に掲載されている『オポーネント・マッチウィン・パーセンテージ(以下オポーネント)』です。マッチポイントが同一の場合、この『オポーネント』の数値が高い方が上位になります。
『オポーネント』は、端的に言ってしまえばあなたのこれまでの対戦相手たちの勝率です。
今回の状況で言えば、15点で並ぶプレイヤーたちの中で、あなたの『オポーネント』は上から2番目。7回戦という短期戦ですので、もしかすると4%程度は上下する可能性がありますが、それ以上の差があるF、G、Iのプレイヤーたちがあなたを追い越すのは困難だと考えられます。
そのため、この状況でも『ID』を選択してなんら問題はありません。あなたの対戦相手も、あなたも、『ID』をすれば概ねトップ8を手中に収めることができるでしょう。
ここで、もしもあなたが「FさんかGさん」だと仮定すると、事情は異なります。
『ID』してしまうと「HとIの勝者」にオポネントで負けで9位に落ちてしまう可能性が高いので、この場合は『ID』はせずに試合をした方がいいですね。
また、近年ではスイスラウンドの上位に先手か後手を選べる権利が与えられる大会が増えていますが、あなたがトップ8ではなく優勝を目指すのであれば、最終戦を『ID』すれば確実にトップ8に残れる場合でも、試合をする理由は十分です。
まずはトップ8に残らなければ始まらない。僕はどちらかと言えばそう考えてしまうプレイヤーですが、ここ数年で先手の重要性は高まっているため、先手を取るために最終戦を『ID』しないことも、立派な選択肢のひとつだと捉えています。
◆教訓:『オポーネント』をしっかりチェック
この他にももっともっと複雑な状況は存在しますが、オポネントは長いラウンド数であればあるほど大きな変動はなくなっていくことを覚えておいていただければ問題ないかと思います。
(参考) オポーネントの計算方法
ステップ1: まず各プレイヤーの「マッチウィン・パーセンテージ」を求めます。これは、プレイヤーのマッチポイントを「参加したラウンド数x3」で割った数です。また、計算結果が0.33以下ならば0.33と扱います。
ステップ2: 不戦勝を除き、あなたのこれまでの対戦相手の「マッチウィン・パーセンテージ」を平均したものがあなたのオポーネントの数値になります。
ステップ1: まず各プレイヤーの「マッチウィン・パーセンテージ」を求めます。これは、プレイヤーのマッチポイントを「参加したラウンド数x3」で割った数です。また、計算結果が0.33以下ならば0.33と扱います。
ステップ2: 不戦勝を除き、あなたのこれまでの対戦相手の「マッチウィン・パーセンテージ」を平均したものがあなたのオポーネントの数値になります。
■ 最後に
いかがでしたか?
繰り返しになりますが、『ID』とはお互いが合意の上でするものです。「もっと試合がしたい」、「疲れたからIDしよう」、「自分が残れない可能性があるから」などなど、『ID』を受ける理由も断る理由も人ぞれぞれです。対戦相手が『ID』を求めてきた場合には、しっかりとした根拠を持ってそれに対処できるといいですね。
幸か不幸か、ここ数年でトーナメント人口は爆発的に増えているため、『ID』ができないケースが増えているものの、この記事がそういった「もしも」の際にお役に立てたら幸いです。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう。
※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『BIGWEB マジック:ザ・ギャザリング情報サイト』
http://www.bigmagic.net/