津村健志の「チーム戦のススメ」 前編

津村 健志


 こんにちは。いよいよ日本ではおよそ9年ぶりとなるチーム戦のグランプリ「GP京都2013」の開催が近づいてまいりました。もうチームメイトも決まって練習に明け暮れている方や、まだチームメイトの決まっていない方など様々だと思いますが、この記事では「チーム戦のススメ」と題しまして、チーム戦の魅力やチームシールドの構築法などを紹介していきたいと思います。

 前編となる今回は、僕自身のチーム戦の思い出を交えながらチーム戦の魅力をメインにお届けしたいと思います。後編では実際にチームシールドを行う予定ですので、チームシールドに不慣れな方は後編もお楽しみに。



~チーム戦の醍醐味~

 チーム戦の醍醐味は、何と言っても最高のゲームを最高の友人と一緒に楽しめるところです。個人戦では自分の成績が他者に影響を及ぼすことはほとんどありませんが、チーム戦では自分の成績がチームの勝敗にダイレクトに響いてきます。一人の成績にチームメイト全員が一喜一憂し、喜びや悔しさを共有できるのはチーム戦ならではの魅力ですし、それだけに普段は感じないような重圧や責任感が生まれます。

 2005年度に(齋藤)友晴さんとKJ(鍛冶 友浩)と組んだ「One Spin」というチームでプロツアー・アトランタ05でトップ4に残れたのですが、僕が最終戦に勝利して決勝ラウンド進出が決まった瞬間にKJが男泣きしてしまったエピソードは今でも鮮明に覚えていて、その一勝は今までのどんな試合よりも嬉しいものでした。


(左から齋藤 友晴、津村 健志、鍛冶 友浩)


 最終的にトップ4でGabriel Nassif率いる「Nova」に負けてしまったのですが、後日談として実は最終戦は引き分けでもよかった、そして引き分けだとトップ4で最も当たりたくなかった「Nova」に当たらずにすんだということで、KJに「津村が最後引き分けていたら…(笑)」としばらくの間いじられていたのを覚えています。

 僕がマジックを始めてからそろそろ16年ほどが経とうとしていますが、このプロツアー前後は今までで一番練習をやっていた時期でした。それこそ朝起きてから寝るまでずっと練習するような感じでしたし三人で共有した時間はとても長かったので、三人とも我が強いにもかかわらずチームワークは非常によかったと思います。今では考えられないようなあつい議論もたくさんしましたが、プレイヤーとして大きく成長させてもらった思い出深いチームです。

 もうひとつ思い出に残っているチーム戦はプロツアー・サンディエゴ07です。こちらは三人戦ではなく、二人でチームを組む「Two-Headed Giant」という競技で行われたのですが、とにかく笑いに満ち溢れたプロツアーでした。


(写真右側:左から津村 健志、廣澤 遊太)


 僕は個人戦の試合中はほとんど表情を変えないようにしていますが、このプロツアーは試合中に上記の写真のように笑ってしまうくらいずっと冗談ばかり言ってました。試合に負けても笑顔でいられるようなチームでしたが、そんな中で最も印象に残っている一幕はトップ4のかかった最終ドラフトでのことです。
 二連勝してなんとかタイブレーカー勝負という重要な局面で、僕はどのカードをピックすべきか悩んで廣澤君に相談してみました。すると返ってきた言葉は「そんなことより津村、鼻毛出てるで。」の一言。まさかこんな緊張感のある舞台でそのような返答がくるとは思っていませんでしたが、そのおかげで肩の力が抜けて緊張もほぐれました。その後きちんと真面目に答えてくれてチームは無事に二連勝することができましたが、後にも先にもこれだけ笑ったプロツアーは他にはありません。


 さてさて、そんな笑いあり涙ありのチーム戦ですが、ここからは個人的に気を付けている点をまとめてみたのでご覧ください。



~戦略以外の注意点~

 個人的にチーム戦においてもっとも重要なことは、喧嘩をしないことです。「子供じゃないんだから」と思われるかもしれませんが、真剣勝負の場ではどうしてもあつくなってしまいがちなので、普段なら気にならないような指摘でさえも火種になりえます。過去にはチームメイトを殴ってしまって失格になったチームがいるくらいなので、「チームの雰囲気作り」は戦略面以上に重要ではないかと思います。

 そのため、チームメイトのミスを必要以上に模索したりしないようにしましょう。自分自身も含め誰だってミスはするものですし、仮に自分がミスをしてしまってもあまり落ち込まないように努めましょう。ただしチームメイトによってはミスを指摘してくれる方が良いという方もいると思うので、この辺りはチームメイトの性格と要相談と言ったところですね。いずれにせよ、せっかくグランプリに一緒に出ると決めた友人たちなので、最後まで楽しく、帰り道まで全員が笑顔でいられるように心がけたいものです。



~デッキ構築の注意点~

 まず初めに、個人戦とチーム戦の最も大きな違いは、対戦相手のデッキが驚くほどに強いことです。12パックも開けるので当然と言えば当然なんですが、個人戦と同じ感覚でデッキを組んでしまうと失敗の原因になります。例えば、普段だと使うような除去カードでもデッキに入らないこともありますし、アンコモンやレアとの遭遇率も個人戦とは比べものになりません。そのため、できることなら全員のデッキを妥協することなく組み上げたいですね。
 ちなみに「妥協することなく」という基準に関しては、自分がそのデッキを使いたいかどうかを判断材料にするといいと思います。もしも「このデッキは弱くて使いたくないな」と思うようなデッキがひとつ、あるいはふたつある場合は、その他の色の組み合わせを模索してみましょう。個人戦とチーム戦の感覚の違いは実際にチームシールドをやってみるとすぐに実感できると思うので、お時間のある方はぜひ一度練習してみることをお勧めします。

 そしてチーム戦は個人戦の二倍という膨大な量のカードプールがあるので、デッキリスト記入時間などは少し多めに見積もっておくと良いと思います。サイドボードも含めカードの分配なども非常に大変ですが、以下に一般的な構築工程と個人的な時間配分の目安を記しておきますので、ご参考までに。




 ステップ1ではデッキに入らない弱いカード、または入れるかどうか微妙なカードを除外していきます。全員のデッキを強くするためにも、個人戦より少し厳しめに選別するのがコツです。

 ステップ2はカードプールを見渡してみて、一番強そうな組み合わせを試してみます。ここで指針となるのは、軽いカードはバランス良く分け合うこと、多色カードをできるだけ使えるようにすることです。

 特に前者は非常に重要で、ここで言う「軽いカード」とは戦線の構築に関与する2マナ以下のクリーチャーと除去呪文を指します。例えば《パーフォロスの試練》のような各種「試練」シリーズは優秀で軽いカードですが、これらのエンチャントは2ターン目のアクションとしてカウントしづらいので色決めの指針にはなりません。三人全員に2マナ以下のカードが行き渡るようにできるのが理想なので、もしも特定の2色に2マナ以下のカードが集中している場合は、その時点でそれら2色を同じデッキで使うことはないと判断することができます。

 後者の多色カードも、色を決める指針となる重要な要素です。多色のカードや《奔放の神殿》のような2色を推奨するカードはデッキ構築中の道しるべと言えるものなので、これからチームシールドをやってみようという方はぜひそれらのカードをヒントに構築を始めてみてください。ただし多色カードに拘りすぎるあまりに2マナ以下のカードがひとつのデッキに集中してしまっては本末転倒なので、個人的にはまずは2マナ以下のカードをバランス良く分けて、その後に多色カードをたくさん使える組み合わせを試してみる手法が良いのではないかと思います。

 ステップ2ではなるべく多色カードを使えるように構築しますが、もしかするとそれらを使わない組み合わせの方がデッキが強かったりするので、ステップ3ではその他の組みわせを模索します。あまりにも多くの組み合わせを試すと時間がなくなってしまうので、多くても二通りくらいにとどめておくと良いでしょう。

 なお、ステップ2~3の段階ではデッキに使うカードを23枚近くまで絞る必要はありません。あくまでデッキ全体の印象が分かればそれでいいので、ここではデッキの細部に関する議論などはしない方が時間の節約に繋がります。

 ステップ4では、いよいよ実際に使うデッキの構築です。つい先日にBig Magicさんの企画で黒田(正城)さんとチーム戦のデッキ構築方法についてお話させていただいたのですが、僕と黒田さんでは「誰がどのデッキを使用するか」を決めるタイミングが大きく異なりました。僕の場合はステップ4に入った時点でデッキの担当者を決めてしまい、デッキの細部(22~23枚目のカード選択や土地の枚数など)は各人の判断に委ねます。一方の黒田さんは3つのデッキを各人が一回ずつチェックして、できるだけ客観性を大切にしながらデッキを組み上げ、その後にデッキの担当者を決めるそうです。

 このふたつのどちらが良いかは判断しかねますが、黒田さんのやり方は三人のカード評価がある程度等しくないと時間がかかってしまうので、三人のカード評価をすり合わせる時間がない方は、僕のように担当者を先に決めてしまった方が良いのではないかと思います。

 ステップ5では前述の通り個人戦よりもカードが多いので、いつも以上に落ち着いて記入するようにしましょう。デッキ構築が早く終わったプレイヤーが余りのカードを記入するようにしたり、チームメイトへのおもいやりの精神を大切に!

 デッキ構築以外の注意点としては、試合中に相談する際にカード名を出してしまうと対戦相手に情報を与えることになりかねないので、チームメイト同士にしか分からないような相談の仕方をするように気を付けましょう。他にも対戦相手のターン終了時に相談を始めるとそれだけでインスタントを持っていることがばれてしまうので、極力自分のターンで考えをまとめておきたいですね。また、相談ができるとは言え時間の使い過ぎには注意が必要です。個人戦と同じく時間は有限なので、相談に熱中してしまって余計なワーニングをもらわないように、最終決定権を持つキャプテンだったり、実際に試合をしている人に最終決定権を委ねるといったルールを決めておくと良いと思います。





 「チーム戦のススメ」前編は以上になります。後編となる次回では、世界を旅する殿堂顕彰者、中村 修平さんと実際にデッキ構築をする予定です。構築の段階で僕たちが悩んだ点や、構築の指標になった点を重点的にお届けするつもりなのでお楽しみに!

 それでは、また次回の記事でお会いしましょう。


※編注:記事内の写真は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『Live Coverage of 2005 Pro Tour Atlanta』
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Events.aspx?x=mtgevent/ptatl05ja/welcome#1
『Sliver Kids Stun San Diego / Round 8: Suspending their Sentence』
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Events.aspx?x=mtgevent/ptsdg07/fm8