軽く自己紹介をさせてもらうと、Magic Online(以下MO)を心から愛するプレイヤーで、休日には1日中プレイすることもしばしば。それとMTG-JPの方でスタンダードの記事を書かせてもらっているので、もしスタンダードに興味がある方はぜひそちらもご覧になってみてください。
そんなわけで、普段はMOでスタンダードを主戦場にしいてる僕なんですが、今回の記事は、モダンについてです。今年からプロツアーのフォーマットに適用されたのがモダンであり、来年以降はプロツアー予選やグランプリでも採用されるようです。いよいよ来週末に迫ったThe Finals2011の2日目もモダンで行われますし、今後はより一層このフォーマットと触れあう機会が増えると予想されます。少し気が早いようにも思えますが、今のうちからしっかりと予習をして、ライバルたちに差をつけちゃいましょう!
まずは、プロツアーフィラデルフィア後に発表された禁止カードの影響を、ざっくりと見てみましょう。
~禁止カードの与えた影響~
《思案》
《定業》
《炎の儀式》
《猛火の群れ》
《緑の太陽の頂点》
《雲上の座》
プロツアーフィラデルフィアの結果を受け、Wizardsが新たに禁止カードに指定したのは上記6枚。これが環境に与えた影響を簡潔にまとめると、以下の二点になります。
1.コンボカードが多く禁止されたため、環境全体のスピード低下
2.Tier1に位置していたデッキの多くが禁止カードのせいで存在できなくなったため、メタゲームが複雑に
1はWizardsが禁止カードを発表した理念そのもので、モダンの環境が早くなりすぎないように、禁止カードを調整することで、環境のスピードを抑えたいようです。これにより、今まで目立たなかったカードやデッキにもチャンスが巡ってきました。具体的には、下で紹介する《神秘の指導》や《けちな贈り物》が最も良い例と言えるでしょう。これまでは環境の早さゆえに見向きもされませんでしたが、長期戦に強いこれらのカードは、現環境ではメタゲームの中心に位置するようになっています。
2に関しては、モダンの勝ち頭と呼ばれていたデッキの多くが絶滅、または大幅な弱体化を余儀なくされたために、メタゲームのベースとなるものがなくなったためです。実際に以前よりも多種多様なデッキに活躍のチャンスが生まれましたと感じていますが、指標となるメタゲームがないということは、何をメタるべきかの判断材料がないということであり、デッキ構築はより一層困難を極めています。
それを最も顕著に表しているのは、他でもない世界最強のチームである「ChannelFireball」のデッキでしょう。
編注:なお、この原稿は12月20日付けのモダンの新禁止カード発表以前に執筆されています。世界選手権のモダン環境を見つめ直す事は禁止後の環境を考える上でも重要と判断し、今回、掲載することにいたしました。次回以降、新たに追加された禁止カードについても言及していく内容となっていきます。ご了承ください。
~「ChannelFireball」ですら答えを出せない現環境~
今をときめく世界最強のチームは、おそらくみなさんご存じの通りアメリカの「ChannelFireball」です。Luis Scott-Vargas、Paulo Vitor Damo da Rosa、Ben Stark、Owen Turtenwald、中村 修平など、年間最優秀プレイヤーレースで常に上位を争うようなプレイヤーばかりで構成されたすごいチームで、世界選手権で4名ものプレイヤーをトップ8に送り込み、世界を騒然とさせたのは記憶に新しいですね。彼らは大会の数週間前から集まって調整を重ね、本番ではチームメンバー全員が同じデッキを使うことが多いのですが、それは膨大な練習量に裏付けされた確固たる自信の表れなのでしょう。
実際に世界選手権2011のスタンダード部門で、彼らは75枚同じリストの「白単タッチ青《鍛えられた鋼》」を使用していますし、今年行われた他のプロツアーでもそのような傾向が見受けられました。
しかし今回の世界選手権のモダン部門においては、その世界一のチームでさえ答えが導き出せなかったようで、その証拠にメンバーのリストがかなりばらけています。それどころか、中村 修平にいたってはチームとは全く関係のない八十岡 翔太にデッキをシェアしてもらう始末。中村曰く、「それほどまでに調整が難航していた」そうで、やはり現在のモダンは一筋縄ではいかないようです。
だいぶ前置きが長くなりましたが、それではその「ChannelFireball」のデッキを見ていきましょう。
1 《森》 1 《平地》 4 《乾燥台地》 4 《霧深い雨林》 4 《沸騰する小湖》 1 《湿地の干潟》 1 《踏み鳴らされる地》 1 《寺院の庭》 1 《繁殖池》 1 《神聖なる泉》 1 《聖なる鋳造所》 1 《蒸気孔》 1 《血の墓所》 -土地(22)- 4 《ステップのオオヤマネコ》 4 《野生のナカティル》 2 《密林の猿人》 4 《タルモゴイフ》 3 《瞬唱の魔道士》 3 《聖遺の騎士》 -クリーチャー(20)- |
4 《稲妻》 4 《流刑への道》 2 《呪文貫き》 4 《稲妻のらせん》 4 《部族の炎》 -呪文(18)- |
1 《台所の嫌がらせ屋》 2 《イーオスのレインジャー》 2 《死の印》 2 《原基の印章》 2 《焼却》 2 《古えの遺恨》 1 《否認》 1 《倦怠の宝珠》 2 《精神壊しの罠》 -サイドボード(15)- |
クリーチャーデッキ最強との呼び声の高い「Zoo」に、《呪文貫き》や《否認》のようなカウンター呪文を加えたのがこの「Counter Cat」です。「Zoo」というデッキは、各色の優良カードを使ってビートダウンするデッキの名称で、フェッチランドからギルドランドを導くことができる環境であれば、いつの時代でも変わらぬ活躍を見せてくれる、ビートダウンの代名詞のようなデッキです。このデッキに勝てるかどうか、というのはひとつの指針となりえますし、モダンを始めるにあたって登竜門と呼べる存在ですね。
このリストは、《ステップのオオヤマネコ》や《部族の炎》のような前のめりなカード選択が目を引きます。メインから《呪文貫き》が採用されていることからも分かるように、どちらかというと、この形は対コンボデッキや対中速のコントロールデッキを意識して作られたのでしょう。
《ステップのオオヤマネコ》や《野生のナカティル》のようなパワーの高い1マナクリーチャーを、《部族の炎》や《呪文貫き》でバックアップしていく手法は、対コンボデッキ戦や対コントロール戦で非常に効果的です。
すでに青入り「Zoo」のレギュラーになりつつある《瞬唱の魔道士》も特筆に値するカードで、特に《部族の炎》との組み合わせは圧巻の一言。《流刑への道》《稲妻》《稲妻のらせん》などを再利用するだけでも十分に強力ですが、やはりこのリストのように《部族の炎》を入れたりだとか、カウンター呪文を入れたりといった一工夫がほしいところ。
このリストが望む理想の展開は、短期決着です。《ステップのオオヤマネコ》や《密林の猿人》《呪文貫き》などは序盤~中盤にかけては強いものの、それ以降はカードパワー不足と言わざるをえず、つまるところ、序盤にクリーチャーでいかにライフを削れるかが重要になるわけです。現代では役不足な感の否めない《密林の猿人》が採用されているのもこれを実行するためであり、序盤に可能な限りクリーチャーでライフを減らし、火力でフィニッシュ、というのがこのデッキが描く青写真です。1マナのカードが多いと言うのは、そのまま手数の多さに直結するので、2ターン目までに3アクション取れることも多々ありますし、環境内でも屈指の爆発力を秘めたデッキと言えるでしょう。
その半面で弱点はと言いますと、長期戦に弱いことです。一般的な「Zoo」は、《タルモゴイフ》と《聖遺の騎士》のコンビで長期戦を戦い抜くことになりますが、このリストには《聖遺の騎士》は3枚のみ。そして先ほど紹介した《密林の猿人》や《呪文貫き》は長期戦には向いていないため、ゲームが長引いてしまうとどんなデッキ相手にも苦戦を強いられ、《部族の炎》頼みになってしまうことが多いですね。
それと《ステップのオオヤマネコ》と《瞬唱の魔道士》のような、「ムラ」のあるカードが多いので、他の「Zoo」に比べ、マリガン後の動きが安定しづらい印象を受けました。《ステップのオオヤマネコ》が真価を発揮するためには、継続して土地を置き続ける必要がありますし、《瞬唱の魔道士》も、単体の性能はモダンで通用するものではありません。マリガンして初手の枚数が減ってしまうと、継続して土地を置けなかったり、《瞬唱の魔道士》用のソーサリー・インスタントカードが用意できなかったりするので、このデッキのマリガン1枚分は、他のデッキものそれよりも比重が大きいと感じています。そうは言っても、1マナ域を求めて積極的にマリガンすべきデッキだとは思いますが、しかしながらマリガンしてしまうと爆発力が落ちてしまう。これはこのデッキが抱える最大のジレンマです。
最後に、このデッキの1番難しいポイントは、フェッチランドの使い方です。
1マナのカードを良く見ていただければ分かるのですが、《ステップのオオヤマネコ》《野生のナカティル》《密林の猿人》《呪文貫き》と、それぞれ色が異なります。これはフェッチランドでサーチする土地を1回でも間違えてしまうと、展開が大幅にもたつくことを示唆しており、短期決戦を望むデッキにとってそれは致命傷になりかねません。しかしながら、逆にフェッチランドで持ってくる土地をしっかりと選別すればスムーズに展開することができるので、ここさえクリアしてしまえばあとはそんなに難しいデッキではありません。
基本的には《野生のナカティル》が大きくなる《踏み鳴らされる地》+《神聖なる泉》、《寺院の庭》+《蒸気孔》、または《繁殖池》+《聖なる鋳造所》の組み合わせの中から、いずれかを選ぶことになるでしょう。2枚の土地で4色を出せるようにするのが定石で、メインにもサイドにも黒マナを必要とするカードはないので、《血の墓所》を持ってくる優先順位は低めに設定しておくといいと思います。
1 《森》 1 《平地》 4 《乾燥台地》 4 《霧深い雨林》 3 《沸騰する小湖》 2 《踏み鳴らされる地》 1 《寺院の庭》 1 《繁殖池》 1 《神聖なる泉》 1 《聖なる鋳造所》 1 《蒸気孔》 1 《地平線の梢》 1 《ケッシグの狼の地》 -土地(22)- 4 《貴族の教主》 4 《野生のナカティル》 4 《タルモゴイフ》 3 《クァーサルの群れ魔道士》 4 《聖遺の騎士》 3 《稲妻の天使》 -クリーチャー(22)- |
4 《稲妻》 4 《流刑への道》 4 《稲妻のらせん》 2 《否認》 2 《バントの魔除け》 -呪文(16)- |
3 《台所の嫌がらせ屋》 2 《呪文貫き》 2 《原基の印章》 2 《古えの遺恨》 1 《焼却》 1 《倦怠の宝珠》 2 《精神壊しの罠》 2 《ギデオン・ジュラ》 -サイドボード(15)- |
こちらが「ChannelFireball」勢のもうひとつの「Counter Cat」。上の「Caunter Cat」と差別化を図るため、《稲妻の天使》の入ったこのリストは「Lightning Cat」と呼ばせてもらいます。
「Lightning Cat」の特徴は、デッキの安定性の高さと、ある程度長期戦を意識したカード選択にあると思います。
前者は《貴族の教主》の採用が大きく関わっていて、22枚の土地に加え《貴族の教主》までをも採用することで、高い安定性を実現しつつ、《聖遺の騎士》の価値を更に高める《ケッシグの狼の地》の採用をも可能にしています。僕は環境を問わず動きの安定しているデッキが好きなので、この構成には非常に好感が持てますね。
後者の長期戦を重視したカード選択は、《稲妻の天使》や、《否認》《バントの魔除け》などに表れており、先ほど話題にあがった《ケッシグの狼の地》も長期戦で真価を発揮するカードですよね。
このような構築を行うことで、対ビートダウン、とりわけゲームが長引きやすいミラーマッチにおいて大きなアドバンテージを得ることができます。「Zoo」のミラーマッチは、同じカードを使うだけあって、消耗戦の後に膠着することが多いのですが、そうなった場合に勝敗を分かつのは有効牌の多さ、つまりお互いのデッキ構成です。
「Lightning Cat」は一般的なリストが採用している4枚ずつの《タルモゴイフ》、《聖遺の騎士》に加え、3点火力で落ちない&飛行が強い《稲妻の天使》が3枚、そして安心の確定除去である《バントの魔除け》も2枚あるので、ミラーマッチには相当強くできています。
サイドボードの《ギデオン・ジュラ》も対ビートダウン戦では鬼神のごとき強さを誇るので、ビートダウンデッキを意識するならこの形がお勧めです。
「Counter Cat」が短期決戦を得意とし、対コンボや対コントロールを意識した作りに対し、この「Lightning Cat」は長期戦を十八番とし、対ビートダウンに強くできており、とても同じチームのデッキとは思えない方向性の違いが見受けられます。
「ChannelFireball」の面々のすごいところは、これほどまでに違う構成をしたデッキを2つを持ち込んだにも関わらず、どちらのバージョンも結果を残す辺りにあるわけですが、「ChannelFireball」がデッキを1つに絞れなかったということは、世界選手権前はそれほどまでにメタゲームが混沌としていた証明と言えるでしょう。
個人的には安定感のある「Lightning Cat」の方が好みではありますが、メタゲームによってどちらが優れているかは大きく変わってくるので、あなたが想定するメタゲーム次第で、どちらのバージョンを使うかを決めるといいでしょう。
お次は見事全勝をはたした《爆裂+破綻》入りの「Zoo」を。
2 《森》 1 《山》 1 《平地》 4 《乾燥台地》 4 《霧深い雨林》 3 《湿地の干潟》 2 《踏み鳴らされる地》 2 《寺院の庭》 2 《聖なる鋳造所》 1 《樹上の村》 1 《幽霊街》 -土地(23)- 4 《貴族の教主》 4 《野生のナカティル》 4 《タルモゴイフ》 2 《クァーサルの群れ魔道士》 4 《聖遺の騎士》 4 《血編み髪のエルフ》 -クリーチャー(22)- |
4 《稲妻》 1 《流刑への道》 4 《爆裂+破綻》 3 《稲妻のらせん》 2 《血染めの月》 1 《四肢切断》 -呪文(16)- |
2 《ガドック・ティーグ》 3 《台所の嫌がらせ屋》 2 《自然の要求》 2 《流刑への道》 1 《霊炎》 3 《古えの遺恨》 2 《法の定め》 -サイドボード(15)- |
このリストは《血編み髪のエルフ》と《爆裂+破綻》のコンボを仕込んだ、一風変わった「Bust Zoo」です。《血編み髪のエルフ》で《爆裂+破綻》が「続唱」されると、《破綻/Bust》モードを選ぶことが可能で、その場合でももちろんマナコストを支払うことなくプレイできます。このコンボが決まってしまうと、僅か4マナであの《ハルマゲドン》におまけで3/2「速攻」のクリーチャーが付いてくるというとんでもないカードになるので、土地がない相手は投了するほかないでしょう。
とは言え、「続唱」で《爆裂+破綻》を捲る必要がある以上、このコンボに安定性がないのは明らかです。もしも手札にきてしまった《爆裂+破綻》を有効活用できないデッキであれば、このコンボの存在意義を疑ってしまうところですが、「Zoo」というデッキは、もう一方の《Boom》を最も上手く使えるデッキのひとつなので、《爆裂+破綻》を引いてしまった場合でも何ら問題はありません。
具体的には、「Zoo」に含まれる大量のフェッチランドが《Boom》と非常に相性が良く、《Boom》で自身の戦場にある各種フェッチランド(と相手の土地)を対象に取り、解決前にそれを生け贄に捧げれば、相手の土地だけが破壊され、こちらは何の被害も受けなくなります。これは自身の土地を生け贄に捧げる手段ならば何でもいいので、フェッチランドではなく、《聖遺の騎士》や《幽霊街》でも同じことができますね。2マナの《石の雨》と言って強さが伝わるかどうかは分かりませんが、「Zoo」のように高い打点を持ったデッキが放つ《Boom》は、ゲームを決定付ける《Time Walk》になりえます。
他にもメインから《血染めの月》を採用していたりと、土地を縛ることにかなりの意識を注いでいることが伺えます。ここでも《Boom》は秀逸で、相手の戦場に多少は存在するであろう基本地形を破壊し、対戦相手を絞めあげるのに一役買ってくれます。
そしてこれらのランデス関係のカード選択を受け、普通の「Zoo」であれば4枚採用が当たり前の《流刑への道》が、そのデメリットを嫌って1枚に抑えられていますし、《血染めの月》影響下で邪魔になる《アゾリウスの印鑑》などのマナアーティファクトを壊せる《クァーサルの群れ魔道士》を採用したりと、デッキ全体の意志統一がなされてますね。
サイドボードには、ランデスの効きにくいデッキを想定して、《爆裂+破綻》と《血染めの月》を抜き切れるように、《台所の嫌がらせ屋》《流刑への道》《霊炎》の計6枚を。そして、このデッキの天敵と言えるコンボ系のデッキに対しては、《ガドック・ティーグ》、《自然の要求》、《法の定め》を用意しています。
しかしこれだけのカードを投入しても、対コンボデッキ戦には不安が残るので、もしもコンボデッキが多いと読むのであれば、「Counter Cat」や「Lightning Cat」を選ぶ方がいいと思います。
ここまでは、最もポピュラーなビートダウンデッキである「Zoo」を紹介してきましたが、ここからはコントロールデッキを解説していきます。禁止カードが与えた影響は数あれど、ことコントロールデッキに関しては、嬉しいニュースばかりでした。冒頭でも紹介した通り、禁止カードの適用により環境全体の速度が落ちたこと、そして苦手としていた「12Post」の退場と、コントロールデッキが復権を果たすために必要な要素が揃ってきています。
それでは、まずは世界選手権を優勝した彌永君のリストから見ていきましょう。
1 《島》 1 《沼》 1 《平地》 4 《忍び寄るタール坑》 4 《涙の川》 4 《湿地の干潟》 3 《孤立した礼拝堂》 2 《悪臭の荒野》 1 《神無き祭殿》 1 《神聖なる泉》 1 《湿った墓》 1 《闇滑りの岸》 1 《新緑の地下墓地》 1 《死の溜まる地、死蔵》 -土地(26)- 3 《瞬唱の魔道士》 -クリーチャー(3)- |
1 《否定の契約》 4 《コジレックの審問》 4 《思考囲い》 4 《流刑への道》 1 《外科的摘出》 1 《真髄の針》 1 《疲弊の休息》 1 《燻し》 1 《破滅の刃》 4 《エスパーの魔除け》 4 《神秘の指導》 2 《滅び》 1 《けちな贈り物》 1 《謎めいた命令》 1 《弱者の消耗》 -呪文(31)- |
4 《聖トラフトの霊》 2 《死の印》 1 《強迫》 4 《機を見た援軍》 1 《滅び》 3 《遍歴の騎士、エルズペス》 -サイドボード(15)- |
彌永君の「エスパーコントロール」は、相手に息切れを起こさせることが主な目的で、8枚の1マナハンデスと大量の除去をもってして、対戦相手の動きを徹底的に阻害していきます。そこで重要になってくるのが、相手の動きに合わせ様々な場面に対応できるように《神秘の指導》が使用されていることです。
《神秘の指導》さえあれば、除去やカウンターが調達できるはもちろんのこと、必要とあらば《疲弊の休息》でのライフゲインだったり、《エスパーの魔除け》や《けちな贈り物》により更なるアドバンテージ差を付けらたりもします。このデッキが苦手としている《罰する火》対策として、《外科的摘出》を持ってこれるのも優秀です。
禁止カード適用前であれば、悠長すぎる《神秘の指導》は見向きもされませんでしたが、禁止カードの適用により環境全体のスピードが落ちたことで、久しぶりに脚光を浴びることとなりました。
一見何のシナジーも持たないこのデッキに、《けちな贈り物》が入っている理由も、《瞬唱の魔道士》の加入が大きく影響しているからで、《けちな贈り物》で「必要なソーサリーorインスタントカード2枚+《瞬唱の魔道士》」と持ってくれば、欲しいカードのうち1枚を確実に手に入れることができますし、そこに《神秘の指導》でも交ぜれば、対戦相手は一瞬にして絶望の淵へと追いやられるでしょう。
1枚だけ採用された《真髄の針》の主な用途は、おそらく《ヴェールのリリアナ》を筆頭とするプレインズウォーカー対策だと思います。それ以外にも《詐欺師の総督》+《欠片の双子》コンボや、次回紹介する予定の《シルヴォクののけ者、メリーラ》絡みのコンボを事前に禁止しておいたりもできますね。ハンデスがこれだけ大量に入ったこのデッキだと、相手の手札次第ではフェッチランドを禁止することもあるでしょう。
ちなみに、青の代名詞であるカウンター呪文を2枚に抑え、ハンデス呪文を優先しているのは、やはり「Zoo」を意識してのことだと思われます。1ターン目から《野生のナカティル》という驚異のクリーチャーを展開してくる「Zoo」がTier1に存在する以上、《マナ漏出》などを使用し、受けにまわるのは得策ではありませんからね。
メインボードの構成もさることながら、サイドボードも素晴らしい構成になっています。《聖トラフトの霊》と《遍歴の騎士、エルズペス》による「オフェンシブサイドボード」は、ただでさえ「呪禁」持ちとプレインズウォーカーという性質上なかなか対処されないのですが、それに加えメインボードから搭載された大量のハンデスがこれに磨きをかけます。
メインボードの形を崩すことなく、むしろその長所を伸ばすこの戦略は、「オフェンシブサイドボード」が何たるかを知らしめる好例だと思います。みなさんも、エスパーカラーを使う際にはぜひ参考にしてみてください。
2 《沼》 1 《森》 1 《島》 4 《燃え柳の木立ち》 3 《新緑の地下墓地》 2 《霧深い雨林》 2 《血染めのぬかるみ》 2 《偶像の石塚》 1 《草むした墓》 1 《湿った墓》 1 《繁殖池》 1 《血の墓所》 1 《踏み鳴らされる地》 1 《闇滑りの岸》 1 《地盤の際》 -土地(24)- 4 《桜族の長老》 1 《瞬唱の魔道士》 2 《永遠の証人》 2 《台所の嫌がらせ屋》 -クリーチャー(9)- |
2 《コジレックの審問》 1 《強迫》 1 《カラスの罪》 3 《罰する火》 1 《燻し》 1 《喉首狙い》 1 《破滅の刃》 1 《壌土からの生命》 2 《知識の渇望》 4 《けちな贈り物》 2 《滅び》 1 《消耗の蒸気》 1 《全ての太陽の夜明け》 1 《粗野な覚醒》 2 《仕組まれた爆薬》 3 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(27)- |
4 《タルモゴイフ》 1 《強情なベイロス》 3 《思考囲い》 1 《根絶》 2 《原基の印章》 2 《焼却》 2 《古えの遺恨》 -サイドボード(15)- |
日本が世界に誇るデッキビルダー、ヤソ(八十岡 翔太)さんが生み出したのは、この上ないほどまでに禍々しい4色のコントロールデッキでした。
ヤソさんが好きなカードを詰め込んだ夢のようなデッキで、古くから「ヤソコン」を支えてきた《永遠の証人》に始まり、《桜族の長老》《全ての太陽の夜明け》《粗野な覚醒》《けちな贈り物》《滅び》、そして《ヴェールのリリアナ》と、ヤソさんの今まで歩んできた道のりが垣間見えるデッキに仕上がっています。
基本的な動きは各色の優良カードを用い、ゲームを長引かせるボードコントロールなんですが、このデッキにアクセントを加えているのが《けちな贈り物》です。《けちな贈り物》は、状況に応じた4種類を持ってくるだけでも十分に強力なカードですが、このデッキはそれだけにとどまらず、《けちな贈り物》の魅力を最大限に引き出すいくつもの仕掛けが盛り込まれています。
《けちな贈り物》により機能する組み合わせを、順に見ていきましょう。
1.全てのクリーチャーに制裁を
~《罰する火》+《燃え柳の木立ち》+《壌土からの生命》ギミック~
《けちな贈り物》で上記の3枚を提示すれば、《壌土からの生命》の持つ「発掘」能力を駆使することで、《燃え柳の木立ち》を手に入れることができるので、《罰する火》を何度でも使用することが可能になります。「ヤソコン」は除去呪文を大量に搭載しているため、ただでさえビートダウンデッキに強い構成になっているのですが、それに加え《罰する火》+《燃え柳の木立ち》のコンボを採用することで、より一層のビートダウンデッキ耐性を付けています。このコンボの秀逸なところは、相手の戦場にクリーチャーがいなくなってしまえば、そのまま勝ち手段になるところで、除去とフィニッシャーという二面性を兼ね備えたこのコンボは、コントロールデッキにうってつけのものだと言えます。
2.コントロールデッキとコンボデッキへのレクイエム
~《カラスの罪》+《壌土からの生命》ギミック~
対コントロールや対コンボデッキに終わりを告げるのがこのコンボ。《壌土からの生命》で土地を回収し続けることで、《カラスの罪》の「回顧」能力が途切れることなく対戦相手を襲います。前述の通り、このデッキはメインボードで除去を多めにとっている分、非クリーチャーデッキ相手に苦戦を強いられますが、そんな時でもこのコンボさえ揃ってしまえば劣勢を跳ね返すことができます。苦手なデッキ相手にも、《けちな贈り物》さえ通ってしまえば善戦できる。このコンボの存在抜きには、「ヤソコン」は成立できないでしょう。
3.欲しいカードを必ず手に入れる
~《瞬唱の魔道士》《永遠の証人》《全ての太陽の夜明け》ギミック~
この3枚を《けちな贈り物》でサーチすると、最終的に必ず《全ての太陽の夜明け》が手札にくるため、それまでに墓地に溜めたカードを再利用できるようになります。こうすることで対戦相手に選択肢はなくなり、《けちな贈り物》は《Demonic Tutor》、またはそれ以上のカードへと変貌を遂げます。
これらは《けちな贈り物》で頻繁に持ってくるパターンで、特に1と2のギミックに必要なパーツを全てサーチするのは、このデッキの常套手段です。「《カラスの罪》+《壌土からの生命》+《罰する火》+《燃え柳の木立ち》」と持ってくれば、仮に対戦相手にどのような選択をされようとも、《壌土からの生命》を軸に全てのエンジンが機能するようになります。《壌土からの生命》で回収した土地をコストにすれば、《カラスの罪》は何度でも「回顧」できますし、《壌土からの生命》で《燃え柳の木立ち》を回収することで、《罰する火》も循環し続けます。
この時点で白旗をあげてしまう対戦相手がほとんどかもしれませんが、それでもまだ戦う意志を見せるようであれば、ギミック3の出番です。
「《瞬唱の魔道士》+《永遠の証人》+《全ての太陽の夜明け》+《粗野な覚醒》」
この4枚を提示すれば、最終的に《粗野な覚醒》がキャストできるので、遅くとも数ターン以内にはゲームに勝利することができるでしょう。
その昔、《瞬唱の魔道士》の役割を《回収》や《喚起》が担っていることがありましたが、それらのカードと《瞬唱の魔道士》の単体性能を比べると月とスッポン。単体で弱いカードを入れることなくこの動きができるようになったことは、《けちな贈り物》が入ったデッキにとって大きな進歩です。イニストラードがくれたこの贈り物は、間違いなく《けちな贈り物》の強さを一段階、はたまたそれ以上に高めてくれています。
サイドボードは彌永君と同じく「オフェンシブサイドボード」戦略が取られており、古来よりボードコントロールデッキが苦手とするコンボデッキ相手には、《タルモゴイフ》と追加のハンデスである《思考囲い》で対抗する形になっています。《タルモゴイフ》は対コンボデッキのみに限らず、ビートダウンデッキ相手にもコントロールデッキ相手にも活躍する万能サイドボード。このデッキと対峙した対戦相手は、おそらくほとんどの除去を抜いてくるはずなので、相手のデッキを問わず活躍が期待できます。
そして彌永君とヤソさんのデッキに共通する「オフェンシブサイドボード」の重要な役割として、ゲーム時間の短縮が挙げられます。どちらのデッキもメインボードの勝ち手段が少ないので、勝つまでに時間がかかるゲームがかなり多いです。そんな時にサイドボードに軽いフィニッシャーが入っているかどうかというのは、ゲームが引き分けに終わるかそうでないかを分かつ大きな分岐点になりえます。
《タルモゴイフ》も《聖トラフトの霊》も、単体の性能だけ見ても十分な採用理由になりますが、そういった付加価値も見逃せないポイントですね。
パート1はここまでになります。今回はメタゲームの中心になりそうな、代表的なビートダウンデッキとコントロールデッキを紹介しましたが、次回はコンボデッキや少しマニアックなデッキをお届けしたいと思います。
それでは、また次の回でお会いしましょう!