How do you build? -Theros Sealed- Part1

伊藤 敦

 「シールドは運ゲー」という言葉を聞いたことはないだろうか。

 リミテッドのグランプリで初日落ちした人がよく言うあれだ。

 確かにプレイヤーが使えるプール自体の強さは、その場で開封したパックの引き次第である以上、シールドには運の要素が大きく絡む。

 だから、古くは《梅澤の十手》や最近だと《群れネズミ》に代表されるような、いわゆる爆弾レアを引いた人とそうでない人との間には。

 厳然たる格差が生まれることになる。

 だが。

 あえてこう言わせてもらおう。

 それでも「シールドは運ゲー」ではないのだ、と。

 そう、シールドには技術介入の余地がある。それも、多くのプレイヤーが考えている以上に。

 しかし、シールドにおけるテクニックというものは、その圧倒的な言語化の難しさがまず前提としてあり、根本的にシールドに触れる機会が少ないことと相まって、長らく研究が進んでいない分野でもある。

 例えばこれがブースタードラフトなら、週末に身内で集まってワイワイやったりする中で、カードの点数について議論をしたり、強かったアーキタイプとその必要パーツについて意見を交わしたりする機会も多いだろう。

 対してシールドというフォーマットは、近々に国内グランプリの予定でもない限り、(一部のMO廃人を除いて)マジックプレイヤーの日常にあまり組み込まれていない。

 したがってシールドの技術はあまり重要視されておらず、その結果プロプレイヤーたちもこれまで多くを語ってこなかったように思われる。

 けれども。

 私は知りたい

 強豪と呼ばれるプレイヤーたちが毎回のように難なく2日目に進む中で、どうして私だけが初日落ちしてしまうのかを。

 あるいは、PTQの予選ラウンドで、どうして早々と0-2してしまうのかを。

 そこには単なるパック運を超えた、明確なる戦略の差があるはずである。

 そのロジックを。

 その秘密を、解き明かしたい。

 そして今度こそ。

 あのドラフトテーブルに座るんだ----。







 ……なんて、例によって冗長な前置きはこれくらいにして。

 そんなわけで、このシリーズではシールドの構築技術をメインテーマとして取り扱う。

 形式については、全3回、つまり3つのシールドプールについて、

 まずはそれぞれ2名ほどの強豪ゲストプレイヤーに時間を計って実際に挑戦してもらう。

 そして、何故そのような構築に至ったのか、その思考過程をインタビューする、といった按配である。

 シールド強者たちはいったいどのような意識で、そしてどのような手順によって膨大な選択肢の中から22~24枚のカードを選別しているのか。

 それを言語化してもらうことで、初日落ちか2日目進出かの命運を左右するシールドの構築技術について、これを読んでいる方々と一緒にその正体を探っていけたら、と思っている。



 なお、以下にカードプールを載せるが、読者諸兄はそこから先、強豪プレイヤーたちの回答へと画面をスクロールする前に。

 どんなに短時間でも構わない。

 できれば、自分なりの回答を用意してから読み進めてもらいたい。

 それにより、自分の判断の分岐点がどこで、どのような理由によるものか。

 あなたの考え方のどこに他のプレイヤーとの差異があるのかを明確にできるからだ。

 さて。

 それでは、題材となる第1回目のカードプールを見てみよう。




1.Swimming in the Sealed pool



「Part.1 シールドプール」

2 《恩寵の重装歩兵》
1 《希望の幻霊》
1 《旅する哲人》
1 《レオニンの投網使い》
2 《乗騎ペガサス》
1 《密集軍の指揮者》
2 《エイスリオスの学者》
1 《天馬の乗り手》
1 《沈黙の職工》

1 《ヘリオッドの選抜》
1 《ヘリオッドの試練》
1 《太陽の勇者、エルズペス》

-白(15)-

2 《前兆語り》
2 《水跳ねの海馬》
1 《海岸線のキマイラ》
1 《記憶の壁》
1 《水底の巨人》

1 《液態化》
1 《無効》
1 《航海の終わり》
1 《反論》
1 《タッサの試練》
1 《豚の呪い》
1 《捕海》

-青(14)-
1 《蘇りし者の密集軍》
1 《悪意の幻霊》
2 《血集りのハーピー》
2 《悪魔の皮のミノタウルス》
1 《エレボスの使者》
1 《蘇りしケンタウルス》
2 《毒々しいカトブレパス》

1 《毒蛇座の口づけ》
2 《ファリカの療法》
1 《蘇りし者の行進》
1 《エレボスの鞭》
1 《鞭の一振り》
1 《死の国からの救出》

-黒(17)-

1 《アクロスの十字軍》
1 《イロアスの神官》
1 《ミノタウルスの頭蓋断ち》
2 《槍先のオリアード》
1 《モーギスの狂信者》
2 《国境地帯のミノタウルス》
1 《燃えさし呑み》

2 《統率の取れた突撃》
1 《ドラゴンのマントル》
1 《伝書使の素早さ》
1 《火花の衝撃》
1 《タイタンの力》
1 《峰の噴火》
1 《パーフォロスの激怒》

-赤(17)-
1 《恭しき狩人》
1 《信条の戦士》

1 《狩人狩り》
2 《ナイレアの存在》
1 《拠点防衛》
1 《神々との融和》
1 《残忍な発動》
2 《切り裂く風》
1 《食餌の時間》

-緑(11)-

1 《アクロスの重装歩兵》
1 《青銅の黒貂》
1 《ファリカの癒し人》
1 《死の国のケルベロス》

2 《旅行者の護符》
1 《炎放ちの車輪》
1 《こそ泥の兜》
1 《破壊的な享楽》

1 《山》Foil

-多色・アーティファクト・土地(10)-
hareruya


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 ブースター6つ分、84枚のカードを並べてみたわけだが、やはり目を惹くのは環境最強レアこと《太陽の勇者、エルズペス》だろう。

 だが、その他にも《豚の呪い》《エレボスの鞭》《燃えさし呑み》《恭しき狩人》《死の国のケルベロス》と、使えそうなレアが揃っている。

 しかしこのカードプールで、実際にどのようなデッキを組むべきか。

 まずは自分の力で、挑戦してみて欲しい。


































 何となく「自分だったらこんな風に組む」というイメージを持っていただけただろうか。

 では次に、ゲスト2名の回答を見てみよう。




2.Komuro’s answer

 あの鮮烈なる《伝承の語り部》トップデッキを、君は覚えているだろうか。

 プロツアー・名古屋05で戴冠した、黒田 正城(大阪)に続く史上2人目の日本人プロツアーチャンピオン。

 そして、

 「華麗なる天才」。

 小室 修(東京)


 神河マスター小室だが、はたしてテーロスシールドでもうまく異国の『神』を使いこなせるのだろうか。




--「では、小室さんがデッキを組んだ過程を教えてください」

小室 「まずパッと緑と青が切れますね。緑は論外ですし、青はスペルがそこそこ揃ってはいるものの、青に一番期待する役割である飛行クリーチャーが全くいなくて、ちょっと使う気になれません」

--「そうするといきなり赤白黒の3色に絞れますね。次に考えたのは何色なんでしょうか」

小室 「ここで試しに白黒を並べてみたんですね。何といっても《太陽の勇者、エルズペス》《エレボスの鞭》を両方使えますし、これで組めたら言うことなしなわけですけど……」

--「何か不満があったんですか?」

小室 「実は白黒だと、4マナと5マナのクリーチャーが心許なくて、全然殴れないことに気づいたんですよ。それに白のカードって一見パーツが揃っているように見えますが、クリーチャーが『英雄的』の達成を前提にしている部分が多くて、それが白黒だとあまり誘発させることができないんですね。そうなるとこのデッキ、《巨体の狐》出されただけで詰んじゃいそうで、これじゃないな、って思ったんです。《アスフォデルの灰色商人》でもいればまた話が違ったんですけどね」

--「なるほど。それでは残る赤黒か赤白ということですか」

小室 「そうですね。まずは赤黒ですが、カードは足りているけれども、マナカーブが悪いですよね。2マナ域がとにかく薄くて、先手を取られると厳しそうな感じがします」

--「それで赤白ですか」


小室「はい。というか、僕は残り3色くらいになったら3色のカードをマナカーブ順で全部重ねちゃうんですよね。そうすると、『2マナ域があるのはどの色か』『重いところが強いのはどの色か』といったような、色ごとの強みと弱みが一目でわかります。今回もそれをやってみて、それで一番バランスが良い組み合わせは、やはり赤白かなぁと」

--「赤白は赤白で押し切れるかちょっと不安ですが」

小室 「テーロス環境は除去も薄いし、1マナのコンバットトリックが2枚あるので、押し切れると思います。相手が事故ってる時とかもすぐ勝ちそうですし。あとはまあ、最近ドラフトで赤白にハマっているというのが大きいんですが(笑)」

--「タッチ《死の国のケルベロス》は見送っていますが、このあたりはどうなんでしょう」

小室 「既に白白赤赤を要求しているので、この上でタッチというのは赤白を選択した意味が薄くなります。赤白ならタッチしない方が無難でしょう」

--「ありがとうございました」


小室 修 「赤白」

9 《平地》
8 《山》

-土地(17)-

2 《恩寵の重装歩兵》
1 《アクロスの十字軍》
1 《希望の幻霊》
2 《乗騎ペガサス》
1 《アクロスの重装歩兵》
1 《密集軍の指揮者》
2 《槍先のオリアード》
1 《ミノタウルスの頭蓋断ち》
1 《天馬の乗り手》
2 《国境地帯のミノタウルス》
1 《モーギスの狂信者》
1 《燃えさし呑み》

-クリーチャー(16)-
2 《統率の取れた突撃》
1 《タイタンの力》
1 《パーフォロスの激怒》
1 《ドラゴンのマントル》
1 《ヘリオッドの試練》
1 《太陽の勇者、エルズペス》

-呪文(7)-

-サイドボード(0)-
hareruya






 かなり素直に純正赤白を組んだ小室。白黒や赤黒の弱点を見抜き、最も安心できる形に組み上げた構築力はさすがの一言だ。

小室 「今考えると《旅する哲人》《ヘリオッドの選抜》入れてないのはミスですね。《アクロスの十字軍》抜きの土地16の方が良かったです。この環境のシールド初めてなんで勘弁してください(笑)」

 ……まあ小室ほどの実力者ともなれば、多少組み間違えてもX-2でまとめられるだろう。たぶん。



3.Takahashi’s answer

 続いてのゲストは、今最も波に乗っている男。

 グランプリ・北九州13グランプリ・香港13と、参加グランプリを連続でトップ8入賞。しかもそのフォーマットはスタンダードにテーロスリミテッドと、構築とリミテッドを選ばない実力の持ち主。

 さらに、

 「不屈のストイシズム」。

 高橋 優太(東京)




 香港でのトップ4入賞によりテーロス環境への深い理解は証明済み。早速高橋のシールドテクニックを盗みまくろう。

--「それでは、デッキ構築の経緯を教えてください」

高橋「まず白に目がいきましたが、この白を使うかどうかが肝ですね。《太陽の勇者、エルズペス》はS級妖怪ですが、罠の香りがします」

--「え、ですか?中二病?

高橋 「そうです。『英雄的』のカードが多い割に対象に取れる呪文がそこまで多いわけでもないし、そもそもシールドにおいては他のカードに依存する《恩寵の重装歩兵》のようなカードは弱いです。もっと長期戦を見据えた戦略を採りたいですね」

--「それを踏まえて、どのように色を選ぶのでしょうか」


高橋「僕の場合、色ごとに『是非とも使いたいカードランキング』を作成します。白だと、《太陽の勇者、エルズペス》《天馬の乗り手》《密集軍の指揮者》の3枚で、青は《豚の呪い》《航海の終わり》《捕海》の3枚ですね。青は生物が半端じゃなく弱いので、サブカラー候補として一応置いておく感じでしょうか」

--「なるほど。他の色はどうでしょう」

高橋 「黒は《エレボスの鞭》《ファリカの療法》2枚と《エレボスの使者》で4枚あります。赤は《燃えさし呑み》だけですが、黒と組ませた時だけ《死の国のケルベロス》のオプションがあります」

--「緑は……」

高橋 「最初ちょっと《ナイレアの存在》による多色を考えましたが、冷静に考えて無理でしたね。あ、あと使いたいカードは0枚です」

--「そうすると、黒が一番使いたいカードが多いですね」

高橋 「そうですね。このあいだPTQで3ターン目に《運命の工作員》出されまくって思い知りましたが、シールドではボムに対処できないと即死です。そう考えると除去が最低3枚は欲しくて、その点黒はかなり良いですね。2マナ3マナもきちんとありますし」

--「2色目についてはいかがでしょう」

高橋 「白黒は一見良さそうに見えますが、4マナ5マナあたりに殴れるクリーチャーがいないんですよね。それに、序盤からシンボルもきつい。対して、赤は黒に足りない4マナ域を補完してくれる上に、シンボルのきつさも要求されるターンが異なる(序盤は黒黒赤で、中盤以降は赤赤)ので、白よりマシです。さらに、この環境のシールドは緑率が高いので、《国境地帯のミノタウルス》のような相打ちが取りやすいサイズの生物は貴重です」

--「それで赤黒ですか」

高橋 「はい。シールドのデッキを組むときは、どういう勝ち方をするか、なるべく具体的に想像することが大事なんですが、赤黒だと『地上を止めて、《血集りのハーピー》《こそ泥の兜》で殴る』というシンプルなプランが立ちますね。対して、白黒はすぐに殴れなくなるので、勝ちへのゲームプランが立ちづらいです」

--「タッチもなしで綺麗な2色ですね」

高橋 「黒黒赤赤なんで、タッチはしない方が良いですね」

--「ありがとうございました」


高橋 優太 「赤黒」

9 《沼》
7 《山》

-土地(16)-

1 《青銅の黒貂》
1 《蘇りし者の密集軍》
1 《悪意の幻霊》
2 《血集りのハーピー》
2 《悪魔の皮のミノタウルス》
1 《ミノタウルスの頭蓋断ち》
2 《国境地帯のミノタウルス》
1 《エレボスの使者》
1 《モーギスの狂信者》
1 《燃えさし呑み》
1 《死の国のケルベロス》

-クリーチャー(14)-
1 《タイタンの力》
2 《ファリカの療法》
1 《鞭の一振り》
1 《パーフォロスの激怒》
1 《ドラゴンのマントル》
1 《毒蛇座の口づけ》
1 《エレボスの鞭》
1 《旅行者の護符》
1 《こそ泥の兜》

-呪文(10)-

-サイドボード(0)-
hareruya






 誰もが使用すると思われた《太陽の勇者、エルズペス》を使わず、赤黒に仕上げた高橋。ミッドレンジ気味の構築で、しかもダイスロールで勝ってもあえて後手を取るという。小室とは対照的だ。

高橋《ファリカの療法》が2枚あるので序盤は出遅れをとらないですし、このデッキなら後手を取って良いと思います」

 その他にも、高橋の環境理解の深さを窺わせるカードチョイスが随所に散りばめられている。

高橋《こそ泥の兜》は過少評価されているカードで、『パワー3が4体以上いるなら絶対入る』というくらい強いです。あと《毒蛇座の口づけ》《旅するサテュロス》をたった1マナで無効化できる上に、『怪物化』を封じることができるので、メインに入れていいカードです」

 香港でのトップ4入賞で、再びプロツアーの参加権利を獲得した高橋。構築にリミテッド、いずれもS級妖怪クラスの実力を見せつけた今なら、相棒の山本 賢太郎(埼玉)に引き続いてのトップ8入賞も期待できそうだ。



 ……なお、上記インタビューはグランプリ・香港13以前の『覚醒する前の高橋』に対して行われたものであり、香港から帰ってきた『覚醒後の高橋』にインタビューしたところ、以下のような返答をいただいた。

殺意の波動に目覚めた高橋《悪魔の皮のミノタウルス》はプレイアブルではなかった。というか後攻なわけなかった。せめて先攻でしょ

 見事な手のひらの返しっぷりであった。



4.and yours?

 さて。

 いかがだっただろうか……といって終わるのがいつもの筋だが。

 実は、今回選択したこのシールドプールには、とあるコンセプトがあった。

 それは、

 どの2色をメインカラーにするか?および、どこまでタッチするか?

 という2点である。

 シールドをする際、何気なく判断してしまっているこの2点。そこにはどのような判断要素が含まれているのか。

 それを詳らかにするという目的のため、今回の出題となった。

 初回ということもあって、プール自体はそこまで難しくはない……が、それでも小室と高橋との間で意見は割れた。

 すなわち、色決めの判断に際し重きを置いている部分が異なる、ということだ。

 無論、どちらが正解だなどというつもりはない。

 そもそもこの2パターン以外の構築を選択したプレイヤーもいるだろう。

 ただ、シールドの構築というものがどのような一貫性に支えられているのか。

 上手いプレイヤーたちはどこに焦点を当ててシールドのデッキ構築を行っているのか。

 小室と高橋の構築方法を読んで、それらを感得してもらえたなら幸いだ。

 また、その上で。

 『自分だったらどうするか?』という、あなたなりの意見や構築を、あるいは『小室と高橋の構築のどちらが好みか』だけでも、この記事へのコメントに寄せていただけると嬉しい。

 もちろん記事の感想なども大歓迎だ。

 それでは、Part2でまた会おう。

 See you!












 and more…



5.rizer’s answer


 こちらをご覧ください!!











 さらに。

 ここでお知らせがある。

 11/8(木)までの2週間、晴れる屋トーナメントセンターでは何と。

 今回の記事で題材となったシールドプールの店内貸し出しを行っている。※終了しました

 これであなたが考えたデッキの一人回しが、いや対戦だって可能だ。

 友達と一緒に借りて、どのような構築が良いか議論するのもオススメだ。

 「テーロスシールドの練習がしたい」「実物のカードを並べて考えてみたい」「作ったデッキを実際に回してみたい」といった方は。

 トーナメントセンターにご来店の際、大会受付カウンターにてスタッフにお気軽にお尋ねください。