この連載がなければ、シールドの構築技術というものを探る機会はなかっただろう。
書き始めた当初は、「そうそう難しいプールなんてないだろう」とか「シールドなんてマイナーだしそんなに需要はないだろう」とか考えていた。
だが実際に書いてみると、思っていたよりも人によって構築方法が違うことや、上手とされる人のシールド構築の思考過程に需要があることがわかった。
記事へのコメントやtwitter等で反応を返してくれた方々には、とても感謝している。
……さて、Part1とPart2では、それぞれ色の選択と速度の選択について取り扱った。
読者の方々もここまでで、あるいはrizer’s answerによって、新たな視座や一貫性を獲得できたものと信じている。
テーロス×6のシールドを取り扱うのは今回で最後となるので、今までに得たものをフルに発揮して回答に臨んでもらいたい。
それでは、今回のプールを見ていこう。
1.Struggling in the Sealed Pool
2 《レオニンの投網使い》 1 《乗騎ペガサス》 1 《セテッサの戦神官》 1 《ラゴンナ団の長老》 1 《威名の英雄》 1 《ヘリオッドの使者》 1 《セテッサのグリフィン》 2 《ヘリオッドの選抜》 1 《今わの際》 3 《神聖なる評決》 -白(14)- 1 《トリトンの岸盗人》 1 《蒸気の精》 1 《海岸線のキマイラ》 1 《海檻の怪物》 1 《液態化》 2 《航海の終わり》 1 《予記された運命》 1 《タッサの試練》 1 《解消》 1 《捕海》 2 《タッサの褒賞》 1 《海神の復讐》 -青(14)- |
1 《悪魔の皮のミノタウルス》 1 《運命の工作員》 1 《洞窟のランパード》 1 《蘇りしケンタウルス》 1 《アスフォデルの灰色商人》 1 《形見持ちのゴルゴン》 1 《毒々しいカトブレパス》 1 《闇の裏切り》 2 《災いの印》 1 《エレボスの試練》 2 《骨読み》 1 《殺し屋の行動》 1 《鞭の一振り》 1 《死の国からの救出》 1 《一口の草毒》 -黒(17)- 2 《イロアスの神官》 2 《サテュロスの散策者》 1 《ミノタウルスの頭蓋断ち》 1 《槍先のオリアード》 1 《不機嫌なサイクロプス》 1 《国境地帯のミノタウルス》 2 《統率の取れた突撃》 1 《峰の噴火》 1 《破砕》 1 《パーフォロスの激怒》 1 《落岩》 -赤(14)- |
3 《サテュロスの享楽者》 1 《葉冠のドライアド》 2 《フィーリーズ団のケンタウルス》 1 《定命の者の宿敵》 1 《狩人狩り》 1 《戦士の教訓》 1 《拠点防衛》 1 《ナイレアの存在》 1 《古代への衰退》 1 《残忍な発動》 1 《切り裂く風》 -緑(14)- 1 《殺人王、ティマレット》 1 《アクロスの重装歩兵》 1 《アナックスとサイミーディ》 1 《英雄の記録者》 1 《死の国の歩哨》 1 《老いざるメドマイ》 1 《灰燼の乗り手》 2 《メレティスの守護者》 1 《旅行者の護符》 1 《速羽根のサンダル》 -多色・アーティファクト・土地(11)- |
目を惹くのは何といっても《威名の英雄》《アナックスとサイミーディ》《運命の工作員》といった3マナ圏の『英雄的』カードたちだろう。
だが、《老いざるメドマイ》や《灰燼の乗り手》などの重量級レアに加えて《海神の復讐》というボムアンコモンの存在が、どんな構築をしたとしても「本当にこのカードプールをうまく使い切れているのか?」という疑心暗鬼を招きそうだ。
しかし、そうした迷いを振り切ってメインカラーとタッチカラーの有無を決断しなければならない。
さて、どんなデッキを組むべきだろうか?
自分なりのロジックを持って完成形がイメージできただろうか。
では、今回のゲスト2名の回答へと移ろう。
2.Hirabayashi’s Answer
幾多のプロツアー参加経験、そしてカバレージライター経験。
豊富なマジックキャリアと屈指の理論派として知られるプレイスタイルは折り紙つきだ。
また最近でも、From the Vault : Extendedでの淡々と叙述しつつも読む者の心を当時に引き戻す繊細な筆致は、その確かな知性の健在ぶりをアピールした。
「孤高のデッキビルダー」、ここにあり。
平林 和哉 (東京)。
彼なら、このテーロスシールドという迷宮を明快な論理で一刀両断にしてくれそうだ。
--「それでは、平林さんがどのようにデッキを組んだか教えてください」
平林 「最初にパッと見たところ『青を使おう』と思いましたね。ですが、青白も青黒も生物が全く足りないので、どうしたものかと」
--「そうすると、他の色に目を移すしかないですね」
平林 「そうですね。まず赤は選択する理由となる魅力的なカードが存在しなかったので切りました。緑も《定命の者の宿敵》はあるけれども、他は微妙なカードばかりで、まともな頭数を確保できなさそうでした」
--「残ったのは白と黒ですね」
平林 「そういうわけでベースは白黒にしようと決めました」
--「結構あっさり決まりましたね。そんなに難しいプールではなかったということでしょうか」
平林 「難しいのはここからで、『どこまで青をタッチするか?』は人によって判断が分かれると思います。最初は《海神の復讐》に加えて《老いざるメドマイ》や《航海の終わり》《捕海》まで全開でタッチしようとしましたが、白も黒もダブルシンボルが多く、どちらかが一色目とは言い切れないラインナップなので、タッチするカードは絞らざるをえません」
--「一体どこまでタッチするべきなんでしょうか?」
平林 「ここで《神聖なる評決》が3枚あることに注目しました。このカードは『授与』によって大きくなったクリーチャーであろうとサイズに関係なく除去することができるという意味では、バウンスと似たような機能を果たします。そうするとこのカードがあれば実は《航海の終わり》や《捕海》はそこまでタッチの必要性がないんですね」
--「なるほど。とすると残りは《海神の復讐》と《老いざるメドマイ》ですが」
平林 「これについては、白黒だと生物ベースに自信がなく、頭数の関係上《蘇りしケンタウルス》《死の国からの救出》《灰燼の乗り手》プランが必須となることからして、《海神の復讐》や《老いざるメドマイ》をタッチして1枚の《島/Island(M14)》を《旅行者の護符》でサーチする形にすると、《蘇りしケンタウルス》でライブラリの唯一の《島》が墓地に落ちてしまうリスクが発生してしまいます。このリスクは許容しがたいですし、それに《海神の復讐》を強く運用するには盤面の高いクロックが不可欠ですが、白黒ベースではそれも期待できません」
--「と、すると」
平林 「はい、最終的には青タッチを全て諦める形となりました」
9 《沼》 8 《平地》 -土地(17)- 1 《乗騎ペガサス》 1 《セテッサの戦神官》 1 《威名の英雄》 1 《運命の工作員》 1 《ラゴンナ団の長老》 1 《蘇りしケンタウルス》 1 《ヘリオッドの使者》 1 《洞窟のランパード》 1 《アスフォデルの灰色商人》 1 《形見持ちのゴルゴン》 1 《死の国の歩哨》 1 《灰燼の乗り手》 -クリーチャー(12)- |
1 《今わの際》 1 《骨読み》 3 《神聖なる評決》 1 《鞭の一振り》 1 《死の国からの救出》 1 《一口の草毒》 2 《ヘリオッドの選抜》 1 《エレボスの試練》 -呪文(11)- | -サイドボード(0)- |
--「1枚も青をタッチしないというのは思い切りましたね」
平林 「安定性とカードパワーのバランスの問題ですが、昔の《戦慄をなす者ヴィザラ》や《刃の翼ロリックス》《賛美されし天使》のようなレアと比べると最近のレアはおとなしいので、安定寄りの構築をした方が良いと感じています」
--「なるほど。ちなみにタッチしなかった青いカードたちを使う場面はないんでしょうか?」
平林 「このデッキだとサイド後に後手になる場合は、《乗騎ペガサス》や《エレボスの試練》《骨読み》とか抜いて、青をタッチすることは考えられますね。後手だと色マナも安定しますし、バウンスの価値も先手の場合より格段に高まります。リミテッドはサイドボーディングする量で実力が決まるといっても過言ではないので、そこは一番の考えどころですね」
--「けだし名言ですね。他にシールドというフォーマットについて一般的に気を付けるべき点としてはどのようなことがあるでしょうか?」
平林 「シールドはドラフトと違って基本的にプール全体に一貫性がない、作れないので、特定のカードに依存した構築にせざるをえないです。なので、『勝つためのカード』と『それに至るプラン』をきちんと決める必要があります。また、マナカーブが歪になりやすいので、イニシアチブを手放したときのことを意識して構築した方が良いですね」
--「ありがとうございました」
やはりさすが平林というべきか、極めて論理的な思考で回答を導いてくれた。
平林 「まあこの環境のシールドはまだ1回もやったことないんですけどね」
経験がなくても一貫性を持ってデッキが組める、そのあらゆる環境に通底する平林のロジックこそ、むしろシールドの構築技術に最も近いといえるかもしれない。
3.Takahashi’s Answer
あの男が帰ってきた。
グランプリ・香港13でのトップ4入賞によりプロツアー・神々の軍勢の権利を獲得し、再び覚醒した『不屈のストイシズム』。
高橋 優太 (東京)。
Part1では謎の理論により《太陽の勇者、エルズペス》を放置して独自に赤黒を構築、その後グランプリから帰ってきて即座に撤回というギャグ要員ぶりを見せつけたが、今回は最初から殺意の波動に目覚めた状態。はたしてリベンジなるか。
--「それでは、高橋さんのデッキ構築についてお聞かせください」
高橋 「……」
-土地(0)- -クリーチャー(0)- |
-呪文(0)- |
-サイドボード(0)- |
--「あれ?あの、デッキの方は……」
高橋 「わからん!勝ちきれる形が制限時間内に組めなかった」
--「ゲームロスってことでいいんですかね」
高橋 「……いや、待て。今思いついた。エクストラ5ターン突入(といって再び構築を始める)」
--「はぁ」
高橋 「できた!」
9 《沼》 7 《山》 -土地(16)- 2 《サテュロスの散策者》 1 《殺人王、ティマレット》 1 《悪魔の皮のミノタウルス》 1 《ミノタウルスの頭蓋断ち》 1 《運命の工作員》 1 《槍先のオリアード》 1 《国境地帯のミノタウルス》 1 《不機嫌なサイクロプス》 1 《洞窟のランパード》 1 《蘇りしケンタウルス》 1 《アスフォデルの灰色商人》 1 《形見持ちのゴルゴン》 -クリーチャー(13)- |
2 《統率の取れた突撃》 2 《骨読み》 1 《鞭の一振り》 1 《死の国からの救出》 1 《一口の草毒》 2 《災いの印》 1 《エレボスの試練》 1 《旅行者の護符》 -呪文(11)- | -サイドボード(0)- |
--「また赤黒なんですけど、これはどういった経緯で?」
高橋 「まずせっかく《威名の英雄》《運命の工作員》がいるのに、攻めるカード、とりわけ2マナ域が不足していてビートダウンが組めない、という悩みからスタートしました。白黒や青黒で組むとメインに《メレティスの守護者》とか入っちゃうんですよね」
--「なるほど。では守るデッキになるんでしょうか」
高橋 「いえ、ダラダラして《老いざるメドマイ》や《灰燼の乗り手》につなげるデッキを組もうにも、《悪意の幻霊》や《ファリカの療法》のように序盤を支えるカードがなく、耐えられないだろうと予測されます。また、白はかなり魅力的なラインナップのようでいて、実は《乗騎ペガサス》や《レオニンの投網使い》など、ターンが経つにつれ価値を失うカードが多く、使用に堪えないという結論に至りました」
--「赤も似たような感じではないのでしょうか?」
高橋 「確かにそうなのですが、2枚の《統率の取れた突撃》によってそういったカードも後半でも価値が生まれます。また、赤黒には《殺人王、ティマレット》と《蘇りしケンタウルス》のようなカード間のシナジーがあり、かつ全体の方向性がコンセプトとして一致しているのが強みですね」
--「では、このカードプールは100点満点で何点くらいでしょうか」
高橋 「55点ですね。運が良いと2敗で済むといったところです」
--「ありがとうございました」
Part1で『《悪魔の皮のミノタウルス》はプレイアブルではない』とか言っていたような気もするが、懲りない男である。
もうミノタウルス高橋とでも呼んでおいた方が良いかもしれない。
ミノタウルス高橋 「最後に一言だけ。『《クラグマの戦呼び》をよこせrizer!』」
どんだけミノタウルス好きなんだよ!
4.and yours?
いかがだっただろうか。
ちなみに今回は総合演習をイメージして、特にコンセプトは決めていない。
存分に思い悩んだ上で、戦えるレベルのデッキをひねり出して欲しい。
また、この記事への感想、自分ならばこう組んだというアイディア、平林や高橋の構築についての意見などがもしあれば。
例によってこの記事へのコメントに寄せていただけると幸いだ。
さて、このシリーズはひとまずここで終了となる。
だが、また次のエキスパンション、もしくは次のリミテッドシーズンの折には、再び出会えるかもしれない。
あるいは別の記事でということになるのかもしれないが、とにかくその時までお別れだ。
このシリーズを読んだ各人が、自分自身で納得できるシールドの構築技術を見つけ出すことを願っている。
See you!
5.rizer’s answer -Theros Sealed- Part3
こちらをご覧ください!
さらに。
ここでお知らせがある。
11月30日までの間、晴れる屋トーナメントセンターでは何と。
今回の記事で題材となったシールドプールの店内貸し出しを行っている。※終了しました
これであなたが考えたデッキの一人回しが、いや第1回や第2回と今回のデッキの対戦だって可能だ。
友達と一緒に借りて、どのような構築が良いか議論するのもオススメだ。
「テーロスシールドの練習がしたい」「実物のカードを並べて考えてみたい」「作ったデッキを実際に回してみたい」といった方は。
トーナメントセンターにご来店の際、大会受付カウンターにてスタッフにお気軽にお尋ねください。