How do you build? -Theros Sealed- Part4

伊藤 敦



 グランプリ静岡から3か月あまりが過ぎて、また国内グランプリのシーズンがやってきた。

 読者の方々は、グランプリ名古屋14への準備は進んでいるだろうか。

 名古屋のフォーマットはリミテッド。すなわち、グランプリ初日はシールド戦による戦いになる。

 新たに「神々の軍勢」が入った「テーロス」シールド……その練習は、十分だろうか。

 既にMOではシールドDEの賞品が増えたことが話題になっているし、2014年3月現在晴れる屋TCでは毎週木曜にシールド大会を開催しているから、回数をこなすこと自体は、そう難しくはないだろう。

 ただやはりシールド上達への一番の近道は、上手い人に教えてもらうことだろうと思う。

 シールド特有の速度感や、ドラフトとは全く異なるタッチカードの必要性と許容性、そして時にはデッキの色を2色とも変えてしまうほどのダイナミックなサイドボーディングなど。

 シールド巧者と呼ばれる人たちは、こういったただ漫然とシールドをやっているだけでは決して会得できないシールドの構築技術を持っていると考えられるからだ。

 そんなわけでこの“How do you build?” シリーズは、プロプレイヤーや元プロなど、洗練されたシールドの構築技術を持った様々なプレイヤーたちに、お題となるシールドプールに実際に挑戦してもらって、その構築過程と思想についてインタビューしていくという内容のものだ。

 前回からは間が空いてしまったが、「神々の軍勢」入りシールドでは全2回を予定している。さらに、今回ももちろん解答編として“rizer’s answer” をのちに投稿するつもりなので、シールドを極めたい方は是非そちらも参照してみて欲しい。

 それでは、今回のプールを見ていこう。



1.Lost in the Sealed Labyrinth




「Part4 シールドプール」

1 《恩寵の重装歩兵》
1 《鋤引きの雄牛》
2 《オレスコスの太陽導き》
1 《イロアスの英雄》
1 《迷宮の霊魂》
1 《ラゴンナ団の長老》
1 《エファラの管理人》
1 《アクロスの密集軍》
1 《大アカシカ》
1 《セテッサのグリフィン》

2 《存在の破棄》
1 《ヘリオッドの選抜》
1 《邪悪退治》

-白(15)-

1 《前兆語り》
1 《メレティスの天文学者》
1 《雨雲のナイアード》
1 《トリトンの財宝狩り》
2 《氾濫潮の海蛇》
2 《スフィンクスの信奉者》
2 《水底の巨人》

1 《撤回のらせん》
1 《迷宮での迷子》
2 《層雲歩み》
1 《航海の終わり》
1 《無効化》

-青(16)-
1 《アスフォデルの放浪者》
1 《悪意の幻霊》
1 《蘇りし者の密集軍》
1 《肉餓えの馬》
1 《アショクの心酔者》
1 《エレボスの使者》
1 《フィナックスの信奉者》
2 《モーギスの戦詠唱者》
1 《形見持ちのゴルゴン》

1 《ファリカの療法》
1 《胆汁病》
1 《屍噛み》
1 《死の国の重み》

-黒(14)-

2 《アクロスの十字軍》
1 《燃えさし呑み》
1 《ファラガックスの巨人》
1 《野蛮な祝賀者》

1 《タイタンの力》
1 《天啓の嵐》
1 《統率の取れた突撃》
2 《槌の一撃》
2 《洗い流す砂》
1 《神々の憤怒》
1 《運命の気まぐれ》

-赤(14)-
2 《突進するアナグマ》
2 《旅するサテュロス》
1 《サテュロスの道探し》
1 《セテッサの誓約者》
1 《ナイレアの信奉者》
1 《墓荒らし蜘蛛》
1 《黄金の木立ちの蛇》

1 《戦士の教訓》
2 《ケイラメトラの好意》
1 《ナイレアの存在》
1 《霊気のほころび》
1 《神々との融和》
1 《蛮族の血気》
1 《食餌の時間》
1 《悪戯と騒乱》

-緑(18)-

1 《アクロスの重装歩兵》
1 《羊毛鬣のライオン》
1 《憤怒売り》

1 《戦いの柱》
1 《金床鋳込みの猛禽》
1 《速羽根のサンダル》

1 《静寂の神殿》

-多色・アーティファクト・土地(7)-
hareruya


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 地味。

 多分このカードプールをグランプリでもらったとしたら、あなたはそういう印象を抱くのではないだろうか。

 少なくとも、もらった瞬間に小躍りするようなプールではないことだけは確かだ。

 だが、実際シールドの大半はこういう一見特筆すべき見どころのないプールであり、こういったプールの処理の仕方が総合的な勝率に最も関わってくるとすら言えるのである。

 プールの隅々まで見渡して、何とか2日目に生き残れるプランを探し出して欲しい。

 さて、どんなデッキを組むべきだろうか?






























 何とか40枚のデッキが組めただろうか。

 では、今回のゲスト2名の回答へと移ろう。



2.Katou’s Answer

 「リミテッドが上手いプレイヤー」は、実はそれほど存在しない。

 というのも、ある程度以上のプレイヤーならリミテッドは当然嗜んでいるから、その意味では誰もが「リミテッドが上手いプレイヤー」であり、そんな中でも際立って上手であえて「リミテッドが上手いプレイヤー」と呼ぶほどとなると、rizerのような別格の強さが求められるからだ。

 しかし、ここにその別格たる資格を有する人物がいた。

 最近のプレイヤーは知らないであろう昔話になるが、かつてグランプリ静岡03、そしてグランプリ横浜04と、リミテッドGPを立て続けに2勝するという離れ業をやってのけたリミテッドマスターがいたのだ。

 「リミテッドが上手いこと」の証明という意味では、これ以上ないほど十分と言える。

 その男の名は、加藤 一貴 (東京)

 かつて神河を制した彼ならきっと、テーロスの多彩な神々をも容易く操れるだろう。

 





--「まずシールドというフォーマットそのものについて、何か気をつけるべき点などはありますか?」

加藤 固定概念を持たないこと……ですかね。例えば『テーロスシールドは多色で組むべき』とか『必ず後手を取る』といったような、そういう決まりきった考えは捨てた方が良い、というのがあると思います。それよりも、『このプールでどうやったら勝てるか』を真摯に追求するべきですね」

--「なるほど。では次にテーロスシールド、および神々の軍勢入りシールドのそれぞれの経験をお聞かせください」

加藤 「テーロス×6なら20回はやってないかなといったところです。神々の軍勢入りは初めてですね」

--「それでは早速今回のプールですが、100点満点で何点くらいでしょうか?」

加藤 「サイドの選択肢など含めると、60点くらいはあると思いますよ。2敗はするにせよ初日は抜けられるかな、といったところです」

--「地味めなプールの割に、意外に点数が高いですね」

加藤 「本当にダメなプールっていうのは、カードが強くても1種類のデッキしか組めないとか、サイドカードが全くないといったような、選択肢がないプールだと思うんですよね。それに他の環境はともかく、僕はテーロスのシールドはプール全体を駆使して戦うべきと思っているので」


--「なんだかrizerの考え方に近い感じがしますね」

加藤 「この“How do you build?” “rizer’s answer” のシリーズは過去3回分とも読んでいますが、実際結構近い部分はあると思いました。まあ、僕は絶対デッキを41枚にはしませんけど(笑)

--「では今回のプールについて、どのように考えてデッキを組まれたのでしょうか」

加藤 「まずプールに重いところが少なくて、結局2色ではどうしてもフィニッシャーが足りないという悩みに着目しました。そうすると、フィニッシャーを確保するためには多色にせざるをえないので、マナサポートが豊富な緑を軸にするというところまでは簡単に決まりました」

--「なるほど。あとは2色目ですね」

加藤 「そうですね。赤は使いたいカードがシングルシンボルですし、黒もそれほど使いたいカードが多くはないので、《羊毛鬣のライオン》《イロアスの英雄》とある白を相方にしようと思いました」



「緑白タッチ黒赤」

7 《森》
5 《平地》
3 《沼》
1 《山》
1 《静寂の神殿》

-土地(17)-

2 《旅するサテュロス》
2 《オレスコスの太陽導き》
1 《イロアスの英雄》
1 《悪意の幻霊》
1 《羊毛鬣のライオン》
1 《戦いの柱》
1 《ラゴンナ団の長老》
1 《セテッサの誓約者》
1 《墓荒らし蜘蛛》
1 《エレボスの使者》
1 《アクロスの密集軍》
1 《黄金の木立ちの蛇》
1 《セテッサのグリフィン》
1 《形見持ちのゴルゴン》

-クリーチャー(16)-
2 《槌の一撃》
2 《存在の破棄》
2 《ケイラメトラの好意》
1 《ナイレアの存在》

-呪文(7)-
-サイドボード(0)-
hareruya




--「かなり地上が堅い感じですね。《オレスコスの太陽導き》《ケイラメトラの好意》のようなプチコンボもあって、簡単には負けにくい構成だと思います。これについては、何か理由があるのでしょうか?」

加藤 対戦相手のデッキをどのように想像するかにもよると思うのですが、僕は基本的に、相手は綺麗めの先手ビートダウンを組んできがちという前提に立っているので、こういう風に組みました。メインに関しては結局、対戦相手が先手デッキなのか後手デッキなのかを想像して組まないといけないので、そうなるとどちらかというと相手は先手を取りたいだろうということで、自分が後手になっても良いようなデッキを組むようにはしています。まあでも好みの問題もあるとは思いますね。僕の場合はビートダウンみたいな素直な構築をあえて外して、マネドラみたいな泥臭くてぐちゃぐちゃしたゲームを目指すデッキが好みなので」

--「相手がビートダウンではなかったとしたら、どうでしょうか」

加藤 「もし相手も多色デッキだったら、このデッキのままだとプールの差で負けますね

--「とすると、そういう相手だった場合にはサイド後のプラン変更も辞さないというわけですね」

加藤 「相手次第で、例えばサイド後は緑白のビートに変えるかもしれません。また実戦では他にも、相手に合わせた様々なプランに切り替えるだろうと思います」

--「他に何か気になった点などあれば教えてください」

加藤 この環境の<帰化>系スペルの信頼性がまだちょっとわからないので、テーロス×6のときほど入れ得でないのであれば、スペルの選択は考え直した方がいいかもしれません」

--「ありがとうございました」

 さすがに2つのリミテッドGPを獲っただけあって、デッキ構築のスピードも今までインタビューしたプレイヤーよりも圧倒的に早かった。となればその構築思想にも見習うべき部分がかなり多いだろうと思われるので、是非参考にしてもらいたい。



3.Saito’s Answer

 ついにこの男が“How do you build?” に来てくれた。

 「××ストンピィ」や「Saito ××」の名を冠する斬新なコンセプトのデッキ群を生み出し続けるデッキビルダーとしての活躍で主に知られているが、プロツアー神戸06を引き合いに出すまでもなく、リミテッドの実力も折り紙付きだ。

 さらにMTGSHOP 晴れる屋の店主としては言わずもがな、最近ではプロツアー戦線に復帰した津村 健志とともに「HARERUYA PROS」としての活動も開始した、文句なしのビッグネーム。

 齋藤 友晴 (東京)

 プロプレイヤーのプロたる所以。しっかりと見せつけてくれることだろう。
 





--「テーロスシールド、および神々の軍勢入りシールドのそれぞれの経験をお聞かせください」

齋藤 「テーロス×6ならGPやPTQ含めて20回以上やったかな。でも神々の軍勢入りはでらエクスプレスの1回しかやってないね」

--「そういった経験からの想像でいいのですが、神々の軍勢が入ってシールドはどう変わると思いますか?」

齋藤 「まず、神々の軍勢によってカードが弱くなったよね。《雨雲のナイアード》をはじめとするコモンの強い『授与』が減ったし、アンコモンの『使者』シリーズや『試練』みたいな過激なカードも減った。そういう大まかな決定打が減ったから、オーラや『授与』対策として評価が高かったバウンスの点数が少し下がったね」

--「なるほど、興味深い指摘です」

齋藤 「ただ受けに回るカードが強くなったわけでもないので、依然として攻めるデッキの方が優位だとは思うよ。特に『神々の軍勢』で赤が大幅に強化されたから、テーロス×6の時よりは赤いシールドデッキを見るようになるんじゃないかな。他にも、《アクロスの空護衛》《天馬の乗り手》に比べて(小型セットな分)出やすいだろうから、前よりも『英雄的』デッキが組みやすいだろう、みたいなことは言えるかもね」

--「ではそれを踏まえて、まずこのプールは何点くらいでしょうか?」

齋藤 「うーん、35点かな……正直グランプリでもらったら初日抜けは厳しいと思う。あまりもらいたくないプールだね」

--「それでは、このプールでの構築過程を教えてください」

齋藤 「まずマルチカラーや、《蘇りし者の密集軍》みたいに2色だと本来のカードパワーを発揮するカードに着目して、白赤を組んでみたんだよね。この組み合わせはドラフトでも有力アーキタイプだし。ただカード足りないし火力も『授与』もなくて全体的にパワー低すぎて却下した。次に青白を組んでみて、青の序盤の薄さを白が穴埋めしてマナカーブ的にもちょうど良いし、《エファラの管理人》4枚ある『神啓』カードとのシナジーもあって、魅力的な組み合わせに思えた」

--「《オレスコスの太陽導き》《スフィンクスの信奉者》ですね」

齋藤 「ひとまず青白は有力な選択肢として保留して、《羊毛鬣のライオン》がある白緑を組んでみたりもしたけど、緑はゲームに大きく影響するカードが少ないので使う理由がないなと感じた。しかも1マナ域があると最大のパフォーマンスを発揮する《ケイラメトラの好意》も、《恩寵の重装歩兵》だけでイマイチだし。何よりゲームに勝つビジョンがない

--「青白はビジョンがあるんでしょうか」

齋藤 「あると思うよ。飛行、ライフレース、アドバンテージという3つの軸でゲームできて、どれかの面で優位に立てばいいからね。他にも緑黒や赤黒も検討したけど、結局青白に落ち着いたね」



「青白タッチ黒」

8 《島》
6 《平地》
2 《沼》
1 《静寂の神殿》

-土地(17)-

1 《恩寵の重装歩兵》
2 《オレスコスの太陽導き》
1 《イロアスの英雄》
1 《前兆語り》
1 《メレティスの天文学者》
1 《悪意の幻霊》
1 《ラゴンナ団の長老》
1 《トリトンの財宝狩り》
1 《雨雲のナイアード》
1 《戦いの柱》
1 《エファラの管理人》
1 《エレボスの使者》
2 《スフィンクスの信奉者》

-クリーチャー(15)-
1 《撤回のらせん》
1 《航海の終わり》
1 《無効化》
1 《屍噛み》
1 《邪悪退治》
2 《層雲歩み》
1 《ヘリオッドの選抜》

-呪文(8)-
-サイドボード(0)-
hareruya




--「かなりコンセプト色の強そうな白青『英雄的』ですね。《スフィンクスの信奉者》を2枚も採用して、飛行で押したいというのが見てとれます」

齋藤 《ネシアンのアスプ》が減って、単純に飛行が前より強くなったというのがあるね」

--「タッチも3枚と多めにとっているのが興味深いところです」

齋藤 「『授与』2種はまあいいとして、《屍噛み》は結構この環境でも最高レベルのコンバットトリックで、タッチできるレベルだと思うよ」

--「ちなみに、過去の“rizer’s answer” は読まれましたか?そうだとしたら、rizerの構築についてどう考えたんでしょうか」

齋藤 「読んでないものもあるけど、基本的にはセオリーが異なると感じたね。対戦相手のレベルをどう設定するかの違いかもしれないけれど、rizerはかなり従来のシールドセオリーに近いのではないかと思う。環境が洗練されてない、例えばプレリリースみたいな時期だったらrizerのように長期戦向きの構築でも良いかもしれないけれど、例えばグランプリ名古屋14のような、『神々の軍勢』発売から2か月強経った後の環境だったら、MOやトライアルとかで参加者のシールド構築もこなれてきてそこまで遅い環境にならないんじゃないかな」

--「その他、気を付けた点などあれば教えてください」

齋藤 「お互い攻め合ってる局面でレースをまくれるような、《突然の嵐》みたいなカードを大事にしたいね。あとは環境に強い『授与』が減ったから、メイン《帰化》系は考えものかもしれない。少なくともソーサリーの《存在の破棄》はあまり入れたくないかな」

--「ありがとうございました」

 加藤とは異なる形だが、齋藤も自分がいかに勝つか、優位に立つかといった点を重視して組んでいるようだ。この環境でうまく勝てないという方は、参考にしてみるといいかもしれない。



4.and yours?

 いかがだっただろうか。

 ちなみに今回は、「神々の軍勢によってシールド環境はどう変わったか」をテーマに据えている。

 グランプリ名古屋14の初日を突破するために、環境理解として欠かせない事項と思われるので、是非自分なりに考えを整理してもらいたい。

 そして、この記事への感想、自分ならばこう組んだというアイディア、加藤や齋藤の構築についての意見などがもしあれば。

 例によってこの記事へのコメントに寄せてくれると嬉しい。

 それでは、また次回。

 See you!




5.rizer’s answer -Theros Sealed- Part4


 こちらをご覧ください!






 さらに。

 ここでお知らせがある。

 2014年4月30日までの間、晴れる屋トーナメントセンターでは例によって。

 今回の記事で題材となったシールドプールの店内貸し出しを行っている。※終了しました

 これであなたが考えたデッキの一人回しが可能になる。

 友達と一緒に借りて、どのような構築が良いか議論するのもオススメだ。

 「神々の軍勢シールドの練習がしたい」「実物のカードを並べて考えてみたい」「作ったデッキを実際に回してみたい」といった方は。

 トーナメントセンターにご来店の際、大会受付カウンターにてスタッフにお気軽にお尋ねください。