行弘賢と学ぶドラフトセオリー vol.8 ~勝敗の鍵を握るのはコンバットトリック~

行弘 賢



 皆さんお久しぶりです。前回から少し間が空いてしまい申し訳ございません。

 完全に私事なのですが、東京に引っ越しいたしました。以前住んでいた和歌山でもMOだけでなくたくさんの友人とドラフトしていましたが、東京でも新たな友人とドラフトできると思うと今からワクワクしています。

 さて、ここまでの回はピック譜を絡めたドラフトのピックのセオリーを中心に解説させてもらったので、この連載を追ってくださってる皆さんはピックに関しては最早初心者の域は脱していると言えます。

 ですので今回は、皆さんがピック以外の要素でもドラフトの勝率が上がるように、プレイングに関するセオリーについて解説させていただきます。

 今回解説させていただくセオリーは、「リミテッドの勝敗の鍵を握るのはコンバットトリック」です。








■ 1. コンバットトリックって何?

 連載も8回目なのでこの記事を見ている皆さんは「コンバットトリック」という言葉自体は知っている方も多いと思いますが、念のため説明させていただきます。

 「コンバットトリック」とは、「接触戦闘を有利にするためのインスタント呪文、またはインスタントタイミングで効果を発揮する能力」です(接触戦闘とは「自分のアタックしたクリーチャーがブロックされたり、相手のクリーチャーを自分のクリーチャーでブロックしたりすること」です)。


◎コンバットトリックとは?

・接触戦闘を有利にするためのインスタント呪文
・インスタントタイミングで効果を発揮する能力


 コンバットトリックとしてよく例に挙げられるのは、皆さんもよくご存じでしょう《巨大化》ですね。


 
巨大化


 《巨大化》は1マナというコストの安さに対して+3/+3修正とかなりコストパフォーマンスに優れています。

 そこでまずは、この《巨大化》を使った接触戦闘の例をみていきましょう。







■ 2. コンバットトリックによる成功例

◎ 成功例1. 自分よりサイズの大きなクリーチャーを倒す


 あなたは現在先手で6ターン目、《ルーン爪の熊》を2体コントロールしています。対戦相手は後手で5ターン目にプレイした《セラの天使》のみをコントロールしており、土地はフルタップです。こちらが序盤から攻めたてていたこともあり、相手のライフは10しかありません。





 このような状況で《ルーン爪の熊》が2体攻撃をすると、基本的にはライフの少ない対戦相手は1体を《セラの天使》でブロックするので、結果対戦相手に2点のダメージこそ与えられるものの、《ルーン爪の熊》を1体失ってしまい、手札に8点分削りきるプランがない限りは損となってしまいます。

 しかし逆にこちらの手札に《巨大化》があった場合、ブロックした4/4の《セラの天使》は5/5となった《ルーン爪の熊》に一方的に打ち取られてしまうことになります。

 ということはこのシチュエーションでは《巨大化》は1マナで《セラの天使》を除去したのとほぼ同義で、対戦相手の貴重なフィニッシャーを上手く倒せたと言えます。



◎ 成功例2. サイズの大きなクリーチャーで複数ブロックを捌く


 今度はあなたは先手5ターン目に《残忍なクルショク》をプレイし、それのみをコントロールしています。対戦相手は後手5ターン目で《大角クルショク》をプレイし、さらに《ルーン爪の熊》もコントロールしています。こちらが序盤から攻めたてていたこともあり、相手のライフは10しかありません。




 この状況であなたが6ターン目に何もない状態で攻撃すると、先程の例と同じで基本的にはライフの少ない対戦相手は《大角クルショク》《ルーン爪の熊》の両方でブロックするので、本来相打ちにはならない《大角クルショク》《残忍なクルショク》とのトレードとなり、損となってしまいます。

 しかし《巨大化》があった場合、8/7となった《残忍なクルショク》は3/5である《大角クルショク》と2/2である《ルーン爪の熊》合わせて5/7の両方をまとめて打ち取ることができます。

 ということはこちらは1マナと1枚で対戦相手の5マナと2枚とのトレードとなり、分の良い交換と言えます。



 このように様々なシチュエーションにおいて、ただの1マナの呪文である《巨大化》を上手く使うことでかなり得をすることができます。

 ただしこれはあくまで成功例であり、こうならないシチュエーションも数多く存在します。

 目に見える成功例も大事ですが、本当に大事なのは失敗例です。今度は失敗例を見ていきましょう。







■ 3. コンバットトリックによる失敗例

◎ 失敗例1. マナが自由な相手にコンバットトリックをプレイする


 あなたは後手で6ターン目に《ルーン爪の熊》を2体コントロールしています。対戦相手は先手で6ターン目に《セラの天使》で攻撃し、土地を6枚全て立ててエンドしてきました。お互いのライフはこちらが16、相手は14です。

 あなたは《ルーン爪の熊》2体で攻撃し、《セラの天使》にブロックされました。仕方なくこちらから《巨大化》をプレイすると、対戦相手からは《勇敢な姿勢》をプレイされ《ルーン爪の熊》を除去されて、こちらは2枚のリソースを相手の1枚により失ってしまい、損してしまいました。




 このシチュエーションで《ルーン爪の熊》2体で攻撃した場合、2つのパターンが生まれます。1つはまだライフに余裕のある対戦相手は《巨大化》を警戒してブロックしないパターン、もう1つは上記のように《巨大化》があっても対応できるためブロックするパターンです。

 前者のパターンでしたらいわゆる「殴り得」なのでアタックしたのは正解になりますが、このように対戦相手が土地を自由にしてターンを返してきたシチュエーションでは、対戦相手も除去やコンバットトリックで《巨大化》に対応できる可能性が高いので、ブロックされる可能性も非常に高いです。

 ですのでこちらがコンバットトリックを持っていたとしてもアタックせずに手札のクリーチャーを展開するなど、こちらが損をしない選択をとるのがこのターンは無難な選択と言えます。



◎ 失敗例2. 使わなくてもいいタイミングでコンバットトリックを使ってしまう


 あなたは後手3ターン目《ルーン爪の熊》をコントロールしています。対戦相手は《開拓地のマストドン》をコントロールしており、土地はフルタップです。

 ここであなたは《ルーン爪の熊》で攻撃し、対戦相手は後手に回るのを嫌いこれをブロックしました。あなたは手札に《巨大化》があったのでプレイし《開拓地のマストドン》を一方的に打ち取ることに成功しました。

 これだけ見ると一見何の不都合もなさそうに見えますが、自分の手札の内容次第ではミスプレイとなってしまうこともあります。




 この時のあなたの手札が《ルーン爪の熊》《無形の育成》《巨大化》ほか土地のようなバランスの良い手札の場合は、《巨大化》をプレイしない方が良いです。

 《ルーン爪の熊》を守りながら《ルーン爪の熊》をプレイできるので、一見テンポが良く悪い選択肢ではなさそうに見えますが、ここで《巨大化》をプレイしてしまうと、相手に《高楼の弓使い》のようなサイズの大きなクリーチャーをプレイされるだけでこちらの攻め手が切れてしまいます。

 なのでここは手札の唯一のコンバットトリックである《巨大化》は使わずに《ルーン爪の熊》《開拓地のマストドン》と相打ちにして《ルーン爪の熊》をプレイするのがこのターンの正解となります。

 ただし逆に、このときあなたの手札が《巨大化》《巨大化》《巨大化》ほか土地のような手札だった場合は、ここで《巨大化》をプレイするのは正解だと言えます。

 何故ならこの手札では《巨大化》よりもそれをプレイする先である《ルーン爪の熊》の方が大事だと言えるからです。


 このようにコンバットトリックは、ただプレイして相手のクリーチャーを倒すのではなく、使い道を考えながら使うことが重要です。







■ 4. コンバットトリックを成功させるために

 何点か成功例、失敗例を挙げさせていただきましたが、ここで1回まとめてみます。


◎成功しやすい

 ・相手の土地がフルタップでそもそも対応されないとき
 ・相手の土地がフルタップではないものの、除去などを撃てる土地の起こし方でないとき
 ・相手から動かないと相手が一方的に損してしまうようなブロックやアタックをしてきたとき


◎失敗しやすい

 ・相手が手札がたくさんある上に何もせずにマナを自由にしてターンを返してきたとき
 ・こちらから動かなくてはいけない不利なアタックやブロックをしたとき
 ・数少ない手札のコンバットトリックをどうでもいいクリーチャーを倒すのに使ってしまったとき



 このまとめを見ると、コンバットトリックをプレイする場合は『相手の土地を見ること』と『自分の手札を見ること』の2点が重要だということが分かります。

 この2点を考慮して、『本当にここでコンバットトリックをプレイするべきなのか』を考えてコンバットトリックをプレイできるようになると良いですね。



◎ 成功する流れを作るために


 序盤から攻めたてて相手をブロック以外の選択肢がない状態にすることでそもそもコンバットトリックをプレイする機会を増やすというのも、コンバットトリックの成功率をあげることにつながります。

 なので、ピックの段階からしっかりビートダウンできるマナカーブの良いデッキを組み上げることを意識しましょう。クリーチャーは15~17枚、スペルは除去2~4枚とコンバットトリック2~5枚合わせて7~8枚あると、コンバットトリックを上手く使えるデッキのバランスと言えます。


◎コンバットトリックを上手く使えるデッキの例

 ・マナカーブが良い
 ・クリーチャーは15~17枚
 ・スペルは除去2~4枚とコンバットトリック2~5枚合わせて7~8枚


 このバランスを大きく外してしまった、例えばクリーチャー10~13枚、除去1~2枚、コンバットトリック4~7枚のようにクリーチャーが少なくコンバットトリックが多めのデッキにしてしまうと、肝心のコンバットトリックをプレイする先がない状態に陥りやすくなるため、ドラフト段階からデッキのバランスを考えてクリーチャーとスペルをピックするようにしましょう。

 失敗例にもあるように、基本的にお互いマナが自由な場合は先に動いた方が失敗しやすいので、コントロールのように守りでコンバットトリックを使う受けるデッキの場合、コンバットトリックをあまり入れすぎないようにしないと失敗するリスクを増やしてしまいますので、こちらも気を付けましょう。







■ 5. 今回のまとめ

 『コンバットトリックをプレイする際は相手の土地と自分の手札を見て、本当にプレイして良いか考えてからプレイしよう!』

 『コンバットトリックを成功させる機会を増やすために、バランスの良いデッキをドラフトするようにしよう!』



 これからはぜひ、これらを意識してドラフトしてみてください。今までと違ったドラフトになると思います。

 今回の記事はここまでです。次回もまた僕の「ドラフトセオリー」を余すことなく伝えようと思います。それでは、また来月もドラフトの記事でお会いしましょう!