rizer’s answer -Theros Sealed- Part5

石村 信太朗

written and interviewed by Atsushi Ito


 お待たせした。今回は“How do you build? -Theros Sealed- Part5” に対するアンサーをお送りしよう。 

 これまでの“rizer’s answer” では、口を酸っぱくしてミッドレンジの優位性を説いてきた。

 それはテーロスシールドの極意であるというだけでなく、最近のシールド環境全体における傾向、強者がひた隠しにしてきた勝利の秘訣でもあったのだ。

 だが、シールドである限り決して揺らぐことはないと思われたその真理が、今まさに崩れ去ろうとしている。

 少なくとも、rizerはそれを予感している。

 これまでのシールドの定石を覆すほどの大きな地殻変動が、「神々の軍勢」によってもたらされようとしているのだ。

 はたして、その正体とは。



ミッドレンジが『英雄的』に対して優位という前提は崩れてしまった

--「さて今回の話ですが、前回ジャンプ的なヒキをしましたけれども、実はこの環境のシールドにおけるメインデッキは、ミッドレンジではなく《突進するアナグマ》……すなわちビートダウンが有力な選択肢になったということでよろしかったでしょうか」

rizer 「色々と語弊はありそうですが、方向性としてはそうですね」

--「ではまずは、そもそもなぜそうなってしまったのか。ミッドレンジ優位を支えていた根拠と、それが崩れてしまった理由というのを言語化してもらえたら嬉しいです」

rizer 「ミッドレンジ優位を支えていたのは、『英雄的』とそれに対応したデッキ、その両方に優位がとれるという点があったからだと思います。ですが、『神々の軍勢』が全てを変えてしまった」

--「具体的にはどの部分がどのように崩れてしまったんでしょうか?」

rizer 「根っこにあるのは、『英雄的』とコンバットトリックの強化、そして軽い除去と『授与』(と『怪物化』)の弱体化なんでしょうね」

--「というと…」

rizer 「以前は『英雄的』の絶対数が少なく、『授与』が強かったのがあって、『英雄的』に『授与』するよりも元から強いクリーチャーに『授与』する方が、動きにムラができにくく強かったんです」

--「確かに、サイズのある緑を軸に『授与』があるカラーを2色目として放り込むのは安定の戦略でした」

rizer 「ですが『神々の軍勢』で、普通の生物に『授与』するには弱すぎるけれども『英雄的』クリーチャーに『授与』する分には優秀という、手頃な『授与』クリーチャーが増えたことや、守るデッキが弱体化したのでコンバットトリックで押し切るのも戦略も有効になり、それにも『英雄的』の噛み合わせが良かったという、いくつかの要因が重なって、ミッドレンジが『英雄的』に対して優位という前提は崩れてしまった

--「なるほど。


1.『授与』の弱体化とトリックの強化
2.『英雄的』の増加
3.除去の弱体化


これらにより『英雄的』+コンバットトリック戦略が支配的地位を獲得したというわけなんですね」

rizer 「そうですね。『テーロス×6』環境では24枚目としてサイドボードを温めていた《戦識の武勇》が除去を押しのけてメインに搭載されるようになったことも、環境の変化を象徴しています。自分のクリーチャーを対象にとりつつ1:1交換が取りやすいカードは値千金です」

--「確かにMOで2回くらいシールドしましたけど、みんなビートダウンしかしてきませんでした」

rizer 「神は言っている、『殴れ』と…」



環境を一度見ておいて損はないですね

--「第2エキスパンションの登場によって、ミッドレンジ優位からビートダウン優位へという、近年ではあまりないほどの様変わりを見せたシールド環境ですが、この構造の中で他人に先んじてリードを取るにはどうすればいいんでしょうか?」

rizer 「ひとまずはより洗練されたデッキの美しさを大事にすることだと思います。つまりマナカーブとコンセプトですね。Frank Karstenの記事翻訳)が参考になりますが、彼が記事でやった作業を真似た方がいいのは間違いないですね。構築時間の壁が高く険しいのですけれど」

--「メインカラーを総当たりで決めるとなると、サイドプランなどとても組む余裕はなさそうですが……」

rizer 「サイドプランについては総当たりの途中で取っかかりが掴めるので、むしろ相性はいいですね」

--「なるほど。確かに、グランプリでは少なくとも色選択は間違いたくないですからね。個人的には、グランプリに出られる方にはその前に是非一度でもMOのデイリーシールドに出ることを勧めておきたいところです」

rizer 環境を一度見ておいて損はないですね。大人数必至のグランプリですから遅いデッキも当然山のようにいるんですが、いざ勝負どころで当たる相手がクソビートである確率は決して低くないですからね」


--「とりあえずメインに関しては『コンバットトリックは全部入れよう』『アグロに振る舞えないデッキは組むのをやめよう』という感じですよね」

rizer 「ですね。重い除去よりコンバットトリックが欲しい、5マナ圏の生物が充実しているよりも軽くて殴れる生物が充実している方が良い、といった環境です。それでいうと、『英雄的』生物が揃っている色を1色目に決めて、残りの色をガチャガチャくっつけるのは楽でいいですね。Karstenのアプローチの短縮版になりますが」

--「総当たりを短縮する指針になりますね」



ビートダウンは組み得だと思います

--「ビートダウンが優位とはいっても、それが浸透してしまえばまた次のステージに進むでしょうから、問題はグランプリ初日ではどの段階が最適戦略になっているのか、ですよね」

rizer 「そうですね。徐々にタフネス1除去をメインから入れる人が増えてきているあたり、ミッドレンジ復権の芽生えを感じますね」

--「自分のbyeの数にもよるんでしょうが、上の方に勝ち上がってくる人たちのメインの組み方というのがどうなっているのか。rizer先生的には、グランプリではどんなデッキを組んだ方が勝てると思いますか?」

rizer 「そうは言ってもこれまでのシールドのセオリーが低速orミッドレンジである以上、現状ではビートダウンは組み得だと思います

--「たとえこの記事があがっても、参加者の意識はそう簡単には変わりませんか」

rizer 「記事を読んだとしても、従来の視点での『良いカード』を使って重めのミッドレンジを組む人が多いと思いますよ」

--「《突然の嵐》《裏切りの先触れ》などですれ違うビートダウンが最強になったりしませんかね」

rizer 「すれ違うビートは低速のデッキが苦手な印象があるんですよね。グランプリほどの参加人数になると、低速のデッキもそこそこいるので油断はできません。それに比べると、オールインなビートダウンは本来ミッドレンジが苦手なはずなのですが、まだミッドレンジ側の有効な受けが確立されていないのが追い風になっています

--「天敵となるはずのミッドレンジが現状存在せず、カモりやすいただの中~低速の鈍重デッキが蔓延っているというのがビートダウンの隆盛を後押ししていると」

rizer 「きちんとビートダウンを捌けるミッドレンジを組むこと自体、難易度が高いですからね。この環境の経験が十分でない限り、ビートダウン側に回った方が勝率が高いと思います」



美しくないと長丁場は勝ち抜けないんですよね

--「さて、今回のプールに入ると、例えば井川さんの組んだ青黒タッチ緑なんかは、割と『やってはいけない典型』みたいになるわけでしょうか」

rizer 「そうですね。もはや《捕海》をはじめとした4マナ呪文で守るのが核になっているデッキが勝ちきれる環境ではないと思います」

--「津村さんの組んだ青緑タッチ黒についてはどうでしょうか」

rizer 「正直なところ、グランプリの仮想敵はこういうデッキですよね。従来のセオリーで組まれた中速っぽい何かです」

--「とすると、rizerなら違うアプローチをとるわけですね」


rizer 「このプール、マナ域ごとに並べると分かるんですが、2マナ圏が半分死んでるんですよね。1マナと合わせて、白△青△黒×赤△緑△(○)という有り様です。そしてできれば白を使いたいんですが、白は残念ながら枚数的に死んでいると」

--「いくら何でもプレイアブルが5枚かそこらではデッキになりませんからね」

rizer 「そして緑の試練を使うしかないのかなーと曖昧に考えながら3マナ圏を見ると、そこにはもっとひどい惨状が!」

--「確かに……」

rizer 「こうして選択肢が赤緑か赤黒くらいしかなくなった結果、できたのがこのデッキです」






「メイン:赤緑タッチ青」

7 《山》
6 《森》
1 《島》
1 《神秘の神殿》

-土地(15)-


1 《アクロスの十字軍》
1 《突進するアナグマ》
1 《レイナ塔の英雄》
1 《性急な太陽追い》
1 《サテュロスの道探し》
1 《雨雲のナイアード》
1 《ケンタウルスの武芸者》
1 《攻撃の元型》
1 《ミノタウルスの頭蓋断ち》
1 《ゼナゴスの狂信者》
1 《一つ目峠のサイクロプス》
1 《不機嫌なサイクロプス》
1 《ナイレアの信奉者》
1 《セテッサの星砕き》
1 《ファラガックスの巨人》
1 《ネシアンのアスプ》
1 《ネシアンのデモロク》

-クリーチャー(17)-
2 《ハイドラの血》
1 《火花の衝撃》
1 《ケラノスの稲妻》
2 《ドラゴンのマントル》
2 《ナイレアの試練》

-呪文(8)-

hareruya






--「普通の人はこの赤緑タッチ青を見てもまだ『本当にこれで勝てるの?』って言うと思うんですが、この赤緑タッチ青の強みというか、この形を評価するキーポイントはどこにあるんでしょうか?」

rizer 「何といっても3マナ圏で、この3マナ圏を使って勝てる形に組んだのがこのデッキですね」

--「なるほど」

rizer 「Frank Karstenの話に戻すと、メインデッキに求められる要素の大きな1つとして『美しさ』というものがあります。美しくないと長丁場は勝ち抜けないんですよね

--「なるほど、この形には唯一それがある……というか、3マナがご覧の惨状である以上、このプールでマナカーブとコンセプトを最も体現しているのがこの形だと」

rizer 「ですね。1本目にこれを見せるところから始めてやりきるしかないかと。肝心のすれ違いビートができないプールですから、オールインビートともっさりデッキの二刀流で頑張るしかない」



ライフを押し込んでくる気のないデッキ相手は緑黒タッチ青で受けにいっていいですね

--「あとは例によってサイドプランの話に移りますが、メインがビートダウンとなるとサイド後はどんな形に変化するんでしょうか?」

rizer 「メインが攻めるデッキなので、サイド後は受けるデッキへの変化が基本になります






「サイド:黒緑タッチ青」

6 《沼》
6 《森》
4 《島》
1 《神秘の神殿》

-土地(17)-


1 《アスフォデルの放浪者》
1 《蘇りし者の密集軍》
1 《サテュロスの道探し》
1 《ケンタウルスの武芸者》
1 《血集りのハーピー》
1 《メレティスの守護者》
1 《フィナックスの信奉者》
1 《見捨てられし流れ者》
1 《ナイレアの信奉者》
1 《荒野の収穫者》
1 《先見のキマイラ》
1 《ネシアンのアスプ》
1 《ファリカの癒し人》
1 《トロモクラティス》

-クリーチャー(14)-
1 《闇の裏切り》
1 《航海の終わり》
1 《豚の呪い》
2 《屍噛み》
1 《古代への衰退》
1 《金箔付け》
1 《蘇りし者の行進》
1 《鞭の一振り》

-呪文(9)-

hareruya






rizer 「こちらは相手が緑黒だった場合のデッキですね」

--「相手が緑黒というと、どのような要素が必要ということでこの形になっているんでしょうか?ドロドロの消耗戦要素、場を固めるサイズと飛行と呪禁とアドバンテージソースがあればええんやみたいな感じはそこはかとなく漂ってきますけど」

rizer 「そのまんまですね。緑黒の組み合わせは押し込み要素がなく、かつメインのクソビートが後手の場合働かないので、《屍噛み》や青のカードなど相性が良いものが揃っているこちらにした方が良いです」

--「しかしメインの美しさとは裏腹に、サイド後はタッチダブルシンボルとかドブ川のような汚さですよねw」

rizer 「ですねw まあ色を問わず、ライフを押し込んでくる気のないデッキ相手は緑黒タッチ青で受けにいっていいですね

--「それにしても、ここまでの色ベースの厳しさと重さであっても土地18にはしないんですね」

rizer 「18でいいですよね、これ。なんで17にしたんだろうw」

--「w」



タフネス1除去は紳士の嗜みですよ

rizer 「他のサイドプランとしては、『飛行』をメインプランに据えた青黒があります」






「サイド:青黒タッチ緑」

6 《島》
6 《沼》
4 《森》
1 《神秘の神殿》

-土地(17)-


1 《アスフォデルの放浪者》
1 《蒸気の精》
1 《蘇りし者の密集軍》
1 《サテュロスの道探し》
1 《雨雲のナイアード》
1 《血集りのハーピー》
1 《メレティスの守護者》
1 《潮流の合唱者》
1 《フィナックスの信奉者》
1 《荒野の収穫者》
1 《先見のキマイラ》
1 《ネシアンのアスプ》
1 《ファリカの癒し人》
1 《トロモクラティス》

-クリーチャー(14)-
1 《目抉り》
1 《無効化》
1 《航海の終わり》
1 《豚の呪い》
1 《屍噛み》
1 《切り裂く風》
2 《捕海》
1 《金箔付け》

-呪文(9)-

hareruya






--「これは井川さんの作った形に比較的近いですね」

rizer 「逆にこちらより早く押し込んでくる相手には、《荒野の収穫者》を引かない場合に一律不利がついてしまうので、メインには据えられません」

--「《目抉り》は必要なんですか?」

rizer タフネス1除去は紳士の嗜みですよ。こんな『英雄的』がいないデッキですら対象ありますからね。除去が有り余っていない限りはまずメインに入るというレベルです。《鞭の一振り》より優先しますね」

--「それは衝撃的ですね。《火花の衝撃》《洗い流す砂》なども同様なんでしょうか」

rizer 「そうですね。先ほどの赤緑ビートも《洗い流す砂》を入れた方がおそらく良いです」

--「え、代わりに何が抜けるんですか?」

rizer 「アナグマ(小声)」

--「ちょwww」

rizer 「真面目な話、《突進するアナグマ》《ハイドラの血》のカウントに必要なので難しいですね。おそらく《一つ目峠のサイクロプス》《ファラガックスの巨人》あたりではないかと」



あくまでも重要なのは『アグロ嗜好』と『デッキの美しさ』

rizer 「最後はビートダウンメタの黒赤緑になります」






「サイド:黒赤緑」

6 《沼》
5 《山》
5 《森》
1 《神秘の神殿》

-土地(17)-


1 《アスフォデルの放浪者》
1 《蘇りし者の密集軍》
1 《サテュロスの道探し》
1 《血集りのハーピー》
1 《ゼナゴスの狂信者》
1 《憤怒売り》
1 《メレティスの守護者》
1 《フィナックスの信奉者》
1 《不機嫌なサイクロプス》
1 《ナイレアの信奉者》
1 《セテッサの星砕き》
1 《荒野の収穫者》
1 《ネシアンのアスプ》
1 《ネシアンのデモロク》
1 《ファリカの癒し人》

-クリーチャー(15)-
2 《目抉り》
1 《火花の衝撃》
1 《洗い流す砂》
1 《屍噛み》
1 《切り裂く風》
1 《金箔付け》
1 《鞭の一振り》

-呪文(8)-

hareruya






--「ものすごいビート殺しですよね。タフネスが高い奴らとタフネス1対策をかき集めた」

rizer 「このデッキがある意味でプール最良のデッキですね。序盤を凌げて、大型レアが出てこない前提なら頼もしいばかりな4マナ圏と5マナ圏」

--「《決断の元型》は入らないんですね」

rizer 「『《帰化》すかし』をしているだけなんで、別に入れてもいいです。《稲妻の流弾》とのコンボも魅力的ですし」

--「そんなニッチなコンボがw しかしこうしてみるとそれぞれの速度に対応したデッキはしっかり組めるんですね」

rizer 「青黒緑が駄目なのは序盤で動くデッキやすれ違いデッキに勝負にならないからで、黒赤緑が駄目なのは重いデッキに勝てないのと序盤の守りを1点除去に頼りきりになるからと、それぞれ弱点はあれど、狙いを絞れば戦えるデッキなわけです。だからこそメインに据えるべきではないわけですが」

--「やはりメインは《突進するアナグマ》だと」

rizer 「事実としてはそうですが、あくまでも重要なのは『アグロ指向』と『デッキの美しさ』であって、断じてクソビートや《突進するアナグマ》を礼賛するべきではないですねw」



メインは綺麗に、サイドは汚く

--「それでは最後に、グランプリ参加者に向けてrizerさんが贈る一言を頂戴したいと思います」

rizer 「とりあえず、『メインは綺麗に、サイドは汚く』というのを念頭に置いて構築していただけたらと思います」

--「なるほど。他に何か補足しておくことなどありますか?」

rizer 「コンバットトリックは上限なく入れた方がいいとか、ビート同型は《突然の嵐》《裏切りの先触れ》ですれ違いを制しろ!とかありますけど、蛇足ですかね」

--「rizer先生もグランプリに出場されるということで、グランプリ・横浜13同様のノーバイからのトップ8、期待してます」

rizer 「2回戦くらいでいなくなってるかもしれませんが、頑張ります」

--「ではそんなところで、『神々の軍勢』編全2回、お疲れ様でした」

rizer 「お疲れ様でしたー」





 いかがだっただろうか。

 リミテッド巧者が持つシールドの構築技術……その一端だけでも垣間見えたと感じてくれたのなら幸いだ。

 これを読んだ読者諸兄がグランプリ名古屋のトップ8に入賞できることを祈っている。

 それでは、またしばらく間が空いてしまうかもしれないが、また会う日まで。





 さらに。

 ここでお知らせがある。

 2014年4月30日までの間、晴れる屋トーナメントセンターでは例によって。

 今回の記事で題材となったシールドプールの店内貸し出しを行っている。

 これであなたが考えたデッキの一人回しが可能になる。

 友達と一緒に借りて、どのような構築が良いか議論するのもオススメだ。

 「神々の軍勢シールドの練習がしたい」「実物のカードを並べて考えてみたい」「作ったデッキを実際に回してみたい」といった方は。

 トーナメントセンターにご来店の際、大会受付カウンターにてスタッフにお気軽にお尋ねください。