Pauperというフォーマットをご存知だろうか?
「Pauper」とは英語で「貧者」を意味する。
例えば金銭的余裕がなくてレアや神話レアを揃えることができず、スタンダードはとてもじゃないが遊べない、レガシーやモダンなんてもってのほかだという人がいたとしよう。
彼は考えるはずだ。
「それでも、手持ちのコモンで何とかマジックが出来ないものか……」と。
……そんなイメージかどうかは知らないが。
貧者のフォーマットPauperとはつまり、コモン限定構築のことだ。
コモン。マジックのカードの中で最もありふれたカードたち。《灰色熊》だって《ショック》だってコモンだ。マジックの基本はコモンで出来ているとすら言える。
だが、所詮コモンはコモン。《謎めいた命令》と《撤回命令》とを比べて悲しい気持ちになるときもある。そんなコモンだけでマジックを楽しむことができるのだろうか?
できる。
コモンだけでも十分マジックは楽しめる。
そのことは意外にも
というのも、現在Pauperは基本的にはMO上で遊ばれているフォーマットだが、MTG Wikiによると、Pauperは2008年12月にMOで導入されたのがはじまり(*1)とされている。
つまりそれから5年半余りの間、Pauperというフォーマットは様々な禁止改訂を経ながらも、スタンダードやモダンに疲れたときの息抜きとして、あるいはPauperそれ自体が持つ競技としての面白さを目当てに、数多くのMOプレイヤーに親しまれ続けてきたのだ。
◆Pauperの魅力
では何故それほどまでにPauperは人を惹きつけてやまないのだろうか。
1つにはコモンゆえのカードの値段の安さがあるだろう。
デッキを1つ作るのにゼロから集めてもせいぜい1万円程度しかかからないこのフォーマットにおいては、気に入らなければ容易に次のデッキに乗り換えることができる。
飽きたら次のデッキを使えばいい。そしてもし気に入ったデッキが見つかれば、ローテーションがないこの環境では(禁止が出ない限り)初期投資だけでほぼ無限に遊び続けることが可能だ。
また、それだけでなくPauperという環境は、コモンだけで作ったとは思えないほど多彩なデッキに溢れている。
しかもPauperのデッキはどれも使っていて「楽しい」と思えるくらい強い。
それでいて新エキスパンションが発売するたび、Pauper環境にも新鮮な風が吹き込んでくる。
そうなるとなかなか遊び尽くすことはできない。
要は奥が深いのだ。
このようにたくさんの魅力を持つPauperというフォーマット。
早速明日から始めたい!という方のために、いくつかメジャーなデッキを紹介しておこう。
*1 ここではPauperとはマジックオンラインにおけるルールに準拠したもの(使用可能カードリスト)を指す。→戻る
■黒単
18 《沼》 2 《ボジューカの沼》 2 《やせた原野》 -土地(22)- 4 《クォムバッジの魔女》 4 《ファイレクシアの憤怒鬼》 4 《騒がしいネズミ》 4 《リリアナの死霊》 4 《アスフォデルの灰色商人》 -クリーチャー(20)- |
3 《発掘》 4 《血の署名》 4 《ゲスの評決》 4 《夜の犠牲》 1 《死の否定》 1 《堕落》 1 《Oubliette》 -呪文(18)- |
4 《押し寄せる砂》 2 《墓所のネズミ》 2 《大牙の衆の忍び》 2 《悪魔の布告》 2 《腐臭の地》 2 《虚無の呪文爆弾》 1 《Oubliette》 -サイドボード(15)- |
スタンダードで猛威を振るっている黒単だけあって、最近Pauperでも最大勢力に名を連ねている。
なかでも最大の立役者は、テーロスの最強コモン《アスフォデルの灰色商人》だ。
このカードの登場はそれまで2線級だった黒単というデッキをトップメタへと一気に引き上げる契機となった。《騒がしいネズミ》や《リリアナの死霊》といった、場に出てしまった後だとそれ単体ではフィニッシャーになりえない場つなぎのカードが、最終的なフィニッシュブローに明確に貢献するようになったのだ。
《ゲスの評決》《血の署名》《墓所のネズミ》といったカードにより計算外の角度でライフを詰められるのも魅力だ。
また、デッキに入っているカードはほとんどが単体除去かETB(enters the battlefield)能力持ちで、「損をしないorわずかに得をするアクション」ばかりで構成されているため、どのマッチアップにおいても圧勝はしないものの、相手からすると常にじわじわと真綿で首を締められるような苦しい戦いを強いられることになる。
黒コン好きの方は是非一度お試しあれ。
■青単
17 《島》 -土地(17)- 4 《秘密を掘り下げる者》 4 《フェアリーの大群》 4 《呪文づまりのスプライト》 4 《凍結燃焼の奇魔》 4 《深き刻の忍者》 4 《尖塔のゴーレム》 -クリーチャー(24)- |
4 《思案》 4 《定業》 4 《対抗呪文》 3 《断絶》 2 《剥奪》 2 《噴出》 -呪文(19)- | 3 《海賊の魔除け》 2 《水流破》 2 《無効》 2 《呪文貫き》 2 《払拭》 2 《鎖の呪い》 1 《大クラゲ》 1 《剥奪》 -サイドボード(15)- |
飛行、ドロー、カウンター、バウンス……「青」という色を象徴する全てのキーワードがここに詰まっている。
「青」を使えるようになるということは初心者から中級者へのステップアップの証であり、そのトリッキーな動きは決して難易度は低くないが、使いこなせれば相手に何もさせないまま倒すこともできる。
そして何より《思案》《定業》《対抗呪文》といった、モダンでは使えない失われた青の秘術たちが、何不自由なく撃てるのだ!
この謳い文句に心動かされる者がこのデッキを一度使えば、二度と他のデッキを使う気がなくなってしまうかもしれない。
それくらいPauperの青単は気持ちがいい。一人回しはほどほどに。
■ウルザトロン
3 《イゼットのギルド門》 3 《イゼットの煮沸場》 1 《未知の岸》 1 《憑依された沼墓》 4 《ウルザの塔》 4 《ウルザの鉱山》 4 《ウルザの魔力炉》 -土地(20)- 4 《海門の神官》 4 《熟考漂い》 3 《ファングレンの匪賊》 -クリーチャー(11)- | 4 《卑下》 2 《炎の斬りつけ》 1 《自然の要求》 3 《とどろく雷鳴》 4 《よろめきショック》 3 《調査》 4 《彩色の星》 4 《探検の地図》 4 《予言のプリズム》 -呪文(29)- | 4 《地の裂け目》 3 《電謀》 3 《赤の防御円》 2 《ゴリラのシャーマン》 2 《天啓の光》 1 《古えの遺恨》 -サイドボード(15)- |
かつてモダンで《雲上の座》が禁止になったとき、プレイヤーたちはウルザランドへと鞍替えし、「無色トロン」という似たようなデッキを作り上げた。
そしてあるとき、Pauperでも《雲上の座》が禁止になった。それならプレイヤーはどうしたか?
言うまでもないだろう。そうしてこのデッキが出来あがった。
「3つの土地を揃える」という制約上、《雲上の座》ほどの安定性と理不尽な爆発力はないものの、《探検の地図》に加えて《卑下》《海門の神官》といった優秀なサポートカードにより、早いターンに揃うことも珍しくはない。
そしてひとたびウルザランドが3つ揃ってしまえば、待っているのは他のデッキでは決して唱えることができない高マナコストスペルの嵐。
X=10を超える《とどろく雷鳴》が撃ちたいなら、このデッキを使ってみることだ。
■ゴブリン
17 《山》 1 《ぐらつく峰》 -土地(18)- 4 《鋳造所通りの住人》 4 《ゴブリンの群勢》 4 《モグの徴集兵部隊》 4 《ゴブリンのそり乗り》 4 《モグの略奪者》 4 《ゴブリンの奇襲隊》 4 《モグの戦争司令官》 3 《火花鍛冶》 2 《ゴブリンの将軍》 -クリーチャー(33)- | 4 《稲妻》 3 《炎の斬りつけ》 2 《死の火花》 -呪文(9)- | 3 《紅蓮破》 3 《電謀》 3 《粉々》 3 《鋭い痛み》 3 《シルヴォクの生命杖》 -サイドボード(15)- |
Pauperにおけるゴブリンはほとんど芸術だ。
8枚の1マナパワー2と8枚の《ゴブリンのそり乗り》のコンバットを、大量の除去や《火花鍛冶》がサポート。ある程度横に並んだら《ゴブリンの奇襲隊》が残ったライフを一気に刈り取りにくる。
コモンだけで、しかも1つの種族だけでここまで「金太郎飴」を実現したデッキは他にはない。
「たまには純粋なビートダウンも使ってみたい!」と思う日が来たら、それが「ゴブリン日和」だ。
■バーン
16 《山》 3 《忘れられた洞窟》 -土地(19)- 4 《ケルドの匪賊》 -クリーチャー(4)- |
4 《稲妻》 4 《Chain Lightning》 4 《溶岩の撃ち込み》 4 《針落とし》 2 《欠片の飛来》 4 《火炎の裂け目》 4 《焼尽の猛火》 1 《火葬》 4 《裂け目の稲妻》 4 《火炎破》 2 《貫かれた心臓の呪い》 -呪文(37)- | 4 《粉々》 3 《紅蓮破》 2 《電謀》 2 《鋭い痛み》 2 《溶鉄の雨》 2 《貫かれた心臓の呪い》 -サイドボード(15)- |
Pauperなのにバーン?と思われるかもしれないが、優秀な火力は大抵がコモンであり、デッキリストを見ればわかるとおり、ほとんどレガシーと変わらないレベルのバーンが組める。
とりわけ《火炎破》までコモンというのは他のデッキにない強みであり、残りライフ10点まで来ると生きた心地がしなくなるほどだ。
Pauperではモダンやレガシーのように「相手が自発的に土地からライフを食らってくれる」ということがないため、「20点の初期ライフをきっちり削りきらなければならない」という難点はあるものの、これだけマナレシオが良い火力が揃っていれば、大抵4~5ターン目には焼き尽くすことが可能だ。
■《幽霊のゆらめき》コンボ
7 《島》 2 《平地》 2 《沼》 2 《広漠なる変幻地》 2 《進化する未開地》 1 《教議会の座席》 3 《アゾリウスの大法官庁》 3 《ディミーアの水路》 -土地(22)- 4 《夜景学院の使い魔》 4 《陽景学院の使い魔》 4 《フェアリーの大群》 1 《孤独な宣教師》 3 《海門の神官》 2 《賢者街の住人》 1 《古術師》 4 《熟考漂い》 1 《記憶の壁》 -クリーチャー(24)- |
4 《断絶》 3 《強迫的な研究》 2 《幽霊のゆらめき》 1 《墓の刈り取り》 2 《予感》 2 《綿密な分析》 -呪文(14)- |
3 《虹色の断片》 2 《不屈の宣教師》 2 《残響する衰微》 2 《溶暗》 1 《ごまかし》 1 《神への捧げ物》 1 《墓の刈り取り》 1 《上天の貿易風》 1 《転覆》 1 《綿密な分析》 -サイドボード(15)- |
Pauperにおいて禁止されているカードは大抵がコンボ絡みで、とりわけ「ストーム」を持つコモンのカードは、《ぶどう弾》《巣穴からの総出》《時間の亀裂》と軒並み禁止になっている。
それらが使えた頃は、《フェアリーの大群》《断絶》などのフリースペルを《夜景学院の使い魔》《陽景学院の使い魔》でコストを安くしつつ、《アゾリウスの大法官庁》などのいわゆる「お帰りランド」をアンタップして擬似的にマナ加速してドロースペルにつなげ、最後に《時間の亀裂》で対戦相手のパーマネントを全て戻して(概ね)勝ちという反則級のデッキが存在していた。
だが、禁止されたとしてもコンボ使いたちがそう簡単に諦めるはずがなかった。
禁止されたのがフィニッシュ部分の《時間の亀裂》だけであるのをいいことに、代わりのフィニッシュ手段を見つければいいと考えたのだ。
そうして見出されたのが《賢者街の住人》だった。
これがいる状態で《幽霊のゆらめき》を《記憶の壁》と《フェアリーの大群》に撃つと、(大抵は使い魔かお帰りランドがあるので)好きな回数だけ《幽霊のゆらめき》を撃てるので、最終的に相手のライブラリが消し飛ぶのだ。
細い線を辿ってコンボがつながったときの達成感が味わいたい方にはオススメだ。
■エルフ
12 《森》 1 《島》 -土地(13)- 4 《ラノワールのエルフ》 4 《イラクサの歩哨》 4 《樺の知識のレインジャー》 4 《クウィリーオン・レインジャー》 3 《エルフの神秘家》 1 《Fyndhorn Elves》 4 《ティタニアの僧侶》 4 《幸運を祈る者》 3 《森のレインジャー》 4 《森林守りのエルフ》 4 《ラノワールの歩哨》 -クリーチャー(39)- |
4 《遠くの旋律》 2 《蜘蛛糸の鎧》 2 《ヴィリジアンの長弓》 -呪文(8)- |
4 《散弾の射手》 4 《Thermokarst》 3 《上機嫌の破壊》 2 《心の管理人》 2 《一瞬の平和》 -サイドボード(15)- |
数あるPauperのデッキの中でも、土地13枚というのはかなり少ない、ほとんど無謀なレベルと言える。
しかしその無謀を可能にしたのがこのエルフというデッキだ。
《森》1枚さえ引けてしまえば大量のマナクリーチャーから手札全てをダンプすることができる上に、《遠くの旋律》は《垣間見る自然》さながらに4枚以上のカードを一瞬にして補充してくれる。
《クウィリーオン・レインジャー》と合わせての《幸運を祈る者》や《森林守りのエルフ》は、一度動き出せば相手の心が折れること間違いなしだ。
圧倒的な展開量。圧倒的なマナ。圧倒的なライフ。圧倒的なダメージ。
全てにおいて対戦相手を圧倒したいなら、エルフを手に取ってみるのも悪くはない。
終わりに
さて、コモンに秘められた無限の可能性を感じていただけただろうか。
もちろんここで紹介した以外にも、Pauperにはまだまだたくさんのデッキがある。
マジックオンラインでは残念ながらデイリーイベントが消滅してしまったが、まだ2人構築と8人構築がある。
モミールベーシックほどではないが、資産的にはかなり参入障壁の低いフォーマットであることは間違いない。
Pauper、始めてみませんか?