Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2018/12/26)
スタンダード部門
先日行われたワールド・マジック・カップ2018 で私が所属する香港代表はトップ4に入りました。それでは、早速私たちがスタンダード部門で使ったデッキリストから見ていただきましょう。
5 《山》
4 《聖なる鋳造所》
4 《断崖の避難所》
3 《ボロスのギルド門》
-土地 (25)- 4 《アダントの先兵》
4 《トカートリの儀仗兵》
4 《輝かしい天使》
4 《再燃するフェニックス》
3 《正義の模範、オレリア》
4 《黎明をもたらす者ライラ》
-クリーチャー (23)-
5 《沼》
4 《草むした墓》
4 《森林の墓地》
2 《愚蒙の記念像》
-土地 (23)- 4 《ラノワールのエルフ》
4 《野茂み歩き》
4 《マーフォークの枝渡り》
2 《探求者の従者》
4 《翡翠光のレインジャー》
2 《真夜中の死神》
2 《貪欲なチュパカブラ》
3 《殺戮の暴君》
-クリーチャー (25)-
デッキリストを見てもらったところで、みなさんはこんな疑問をお持ちになったはずです。
香港代表がデッキに込めた真意
香港代表はこの3つのデッキを使うつもりだよ、とアンドレア・メングッチ/Andrea Mengucciに何度か話したのですが、その度に彼は笑っていました。どのデッキも今のスタンダードのメタゲームの立ち位置があまりにも悪いからです。ですから、スタンダードに精通しているアンドレアが笑うのも理解できました。
しかしここで重要なのは、私たちがプレイするのはワールド・マジック・カップだということ。フォーマットはチーム構築スタンダードであり、いつもの個人戦のスタンダードではありません。チーム戦では、同名カードは一人のデッキでしか使えないのです。
プロツアーでは、5つのデッキが柱になっていました。具体的には白ベースのアグロデッキ、イゼットドレイク、ゴルガリミッドレンジ、《ドミナリアの英雄、テフェリー》コントロール、赤単です。そして、この5つのデッキはワールド・マジック・カップという環境でも最善の選択になると考えていました。
ワールド・マジック・カップの開催に先立って、殿堂入りプレイヤーであるフランク・カーステン/Frank Karstenは素晴らしい記事を公開しました。ワールド・マジック・カップのチームスタンダードではどんなデッキが使われるかを分析・予想してくれたのです。
彼曰く、一番多いであろうデッキの組み合わせは、白ベースのアグロデッキ、イゼットドレイク、ゴルガリミッドレンジとのこと。この組み合わせであれば、同名カードを使えないというルールの影響が少なく、環境で最強の3つのデッキが使えますからね。
ゴルガリミッドレンジは、どのマッチアップにも対応できる力があるので、基本的に使わない手はありません。青を使うデッキとしてはイゼットドレイクと《ドミナリアの英雄、テフェリー》コントロールがありますが、どちらを選択しようとも、ゴルガリミッドレンジとカードが被ることはないので、いざとなればもう一方の青のデッキに変えやすいという魅力があります。《ドミナリアの英雄、テフェリー》が好きなのであれば、ジェスカイコントロールを使えば良いでしょう。その場合は、残りのひとつのデッキは白単ということになります。
私の中では、白のデッキはどの相手にも弱いため、スケープゴートだと思っています。ゴルガリミッドレンジやコントロールには勝てないですし、ドレイクデッキもプロツアー『ラヴニカのギルド』以降、白ベースのアグロデッキへの有効なサイドボードを練り上げてきています。白のデッキに期待するとすれば、ミラーマッチで勝つことぐらいです。このように考えた場合、白ベースのアグロデッキを今の環境で使ってもどうしようもない、という結論になります。
マスターに学ぶ、対アグロ戦略
かつてスタニスラフ・ツィフカ/Stanislav Cifkaはハースストーンのコンクエストフォーマットで、アグロデッキに対して強いデッキだけを選択していたことがありました。コンクエストフォーマットとは、複数のデッキを持ち寄り、一度勝ったデッキはそれ以降使用できないというフォーマットのこと。彼がアグロデッキに対して強いデッキばかりを持ち込んだのは、相手のアグロデッキに勝たせなければ最終的には勝てるという戦略だったのです。
このツィフカの戦略を参考に、私たちも戦略を組み立てました。つまり「白のデッキに勝たせないデッキをチーム全員で使い、残りの2つの対戦でどちらかが勝てば良い」という作戦です。そしてもうひとつの課題は、私たち自身の白のデッキを多少なりとも勝てる方法を模索することでした。
そして、我々が求めていたものを持っていたのがボロスエンジェルでした。ボロスエンジェルは環境初期にゴルガリミッドレンジやイゼットドレイクを倒すようにデザインされたデッキですし、《轟音のクラリオン》を使えるため、アグロデッキに対して強かったのです。
ボロスエンジェルを調整する過程で、Magic Onlineで数を増やしていたコントロールとの対戦結果を抽出してみました。すると、コントロール相手にも大きな可能性を感じさせる結果を出していたことが判明したのです。
白のデッキには絶対に負けないという戦略をとったため、ゴルガリミッドレンジも《野茂み歩き》と《喪心》の枚数を大幅に増量させました。
問題として浮かび上がったのは、ボロスエンジェルもイゼットドレイクも欲しがった《溶岩コイル》でした。ボロスエンジェルにとってはイゼットドレイクと戦う上でキーとなるカードなのです。
イゼットドレイクの調整
他方、私はイゼットドレイクの調整もしていました。調整していく中でわかったのは、ミラーマッチで重要になるのことが多いのは《奇怪なドレイク》や《弾けるドレイク》ではなく、《パルン、ニヴ=ミゼット》だということ。確かに《溶岩コイル》はゲーム序盤では有効ですが、ミラーマッチの終盤戦となると大きな役割を期待できません。終盤は、《溶岩コイル》で除去できない《パルン、ニヴ=ミゼット》で争うことになりますからね。
ミラーマッチを考えると、《パルン、ニヴ=ミゼット》を対処できるカードは最低でも5枚欲しいと思いました。そこで頼りになるのが《火による戦い》です。《火による戦い》は、ゴルガリミッドレンジが2ターン目に《野茂み歩き》、3ターン目に《翡翠光のレインジャー》と動いてきても、タフネスが5になった《野茂み歩き》を綺麗に除去することができます。
《溶岩コイル》をボロスエンジェルに譲って空いた枠は、追加の《標の稲妻》と《火による戦い》で埋め合わせることにしました。《標の稲妻》は4ターン目までに相手のドレイクを除去できる手段としても期待できます。これは、2マナのキャントリップ呪文に依存している一般的なイゼットドレイクのリストには難しいことです。
《ゴブリンの電術師》を入れて初動のスピードを上げると、白のデッキに対して飛躍的に強くなることも知っていました。白のデッキが、パワーが10以上になったドレイクとまともにダメージレースできることは滅多にありませんからね。イゼットドレイクが白単系のアグロデッキに負けるとすれば、クリーチャーを横に並べられ、こちらのドレイクのパワーが2回の攻撃で終わらないサイズであるような場合です。
このように、ドレイクのパワーをいかに早く上げ、ダメージレースを有利にするかが重要であるため、《突破》や《大将軍の憤怒》といった赤の1マナのキャントリップ呪文を全種採用しました。メインデッキに《潜水》ではなく《最大速度》を採用しているのも同様の理由からです。もしチーム戦でなければ、このような選択をとらない確率が高いと思いますね。
メタゲームの変動
グランプリ・静岡2018でセレズニアトークンが再び結果を出したため、ジェスカイコントロールを使う可能性が浮上してきました。セレズニアトークンの魅力は白のミラーマッチを制する力があること。また、相手のエンドフェイズに《大集団の行進》を唱え、返しのターンに《開花+華麗》でクリーチャーを全体強化すれば、ワンツーパンチでロングゲームに唐突な終止符を打つ力も持ち合わせています。
ゴルガリミッドレンジのプレイヤーからすれば、《殺戮の暴君》から《採取+最終》のコンボを決められないと、セレズニアトークンに負ける可能性は十分にあります。
セレズニアトークンが勝ったことで、コントロールデッキが増える可能性があったのは好ましくない状況でした。その反面、ボロスエンジェルはセレズニアトークンに相当有利に戦うことができるので、セレズニアトークンが増える嬉しさもありました。そのため、私たちは戦略を変更せず、席順で対応することにしたのです。
具体的には、イゼットドレイクを使うプレイヤーが真ん中の席に座る構成です。なぜなら、一番使われる可能性が高いと思われる席順は、真ん中の席にはキャプテンが座り、かつ青のデッキを使うというものだからです。イゼットドレイクを真ん中の席に座らせたことが功を奏し、準決勝に行くまで、すべての白のデッキと緑のデッキを倒しました。
準決勝という大舞台で負けてしまったのは悲しい気持ちにもなりますが、この敗北と向き合うことはできています。マジックとはこういうものですからね。この上なく強い初手が来たり、ペアリングに恵まれたり、ラッキーなこともあります。ただ、ラッキーなことばかりではない、というだけのことですよ。
チームシールド部門
チームシールドでは、スタンダードでも使った戦略を使うことにしました。相手はキャプテンを真ん中の席に座らせ、青のデッキを使わせてくるだろう、というあの読みのことです。
ディミーアは環境最強であり、出来の良いボロスに序盤から圧倒されない限りは負けません。イゼットはボロスに負けてしまうことが多いデッキです。ボロスは青のギルドに勝てる可能性があること、そして相手は青のデッキを真ん中の座席に座らせてくる可能性が高いと考えた場合、ボロスを真ん中の座席に座らせる作戦が良いだろうということになりました。そして、ディミーアはミラーマッチ以外で勝てるように横の座席に座らせることに。私たちのカードプールは平均よりやや良いぐらいであり、席順の戦略も非常に有効に働いたため、それにふさわしい余裕の3-0を達成しました。
まとめ
以上がワールド・マジック・カップ2018の香港代表の物語になります。大会に参加していく中で、他のプレイヤーに笑われてしまうような、一風変わった戦略をとらなければならないこともあります。チーム戦とは、まさにそういった戦略が使えないかどうかを考えるべきフォーマットなのです。ぜひみなさんにはミクロレベルではなく、マクロレベルで香港代表の活動を評価していただければと思います。
リー・シー・ティエン @leearson
おまけ:シャハール・シェンハー/Shenhar Shaharが私との対戦で余計にカードを引いたという話について
準決勝で起こった出来事について少しお話させて下さい。私は「シャハール・シェンハーが意図的に追加のドローをしたのではない」と信じています。
シャハールを悪く言う人もいるようですが、そのような「魔女狩り」のようなことを見ていると、私がワールド・マジック・カップ2014で追加で土地をセットしてしまったこと、それから私の身に降りかかったことを思い出します。チームのキャプテンは、常にチームメイトに意見を求め続けられます。そういった集中が途切れる要素があれば、ミスをしやすくなるのも至極当然なことです。それに、シャハールと私のゲームは決して簡単なマッチアップではありませんでしたしね。
プレイヤーは時としてミスをすることもありますから、それを責め、そのプレイヤーの名を汚すようなことは決して褒められたものではありません。彼は追加でドローをし、ジャッジは事実を調査し、ルールに従って判決を下した。それで今回のことはおしまいです。それをまた蒸し返す必要はありません。
私たちはより良い世界にすることができます。そしてそれが実現できるかどうかは、私たちの手にかかっているのです。