はじめに
みなさん、はじめまして!Hareruya Hopesに所属している鈴池 史康(すずいけ ふみやす)と申します。
私はリアルとオンラインの両方でマジックを楽しんでいるプレイヤーです。そのためグランプリやPPTQに限らず、Magic OnlineやMTGアリーナで私と対戦したことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。オンライン上ではMOパンダという名前で定期的に配信もしていますので、お時間のある方はぜひ一度ご覧ください。
これが私にとって初めての記事になりますが、本稿では来るMagic Fest横浜2019に向け、「鱗親和」についてお届けしていきたいと思います。
「鱗親和」とは?
「鱗親和」は、2018年の夏あたりから頭角を現して有名になったアーキタイプです。洗練されたリストが登場するや否や瞬く間にその存在感を強めていき、グランプリプラハ・2018で初栄冠。その後も数々のグランプリでトップ8に進出し続け、今ではモダンを代表するデッキのひとつとされています。
私も同時期からこのデッキを使い始め、『The Last Sun 2018』予選を抜けただけでなく、不戦勝も獲得することができました。
4 《ダークスティールの城塞》
4 《墨蛾の生息地》
2 《ちらつき蛾の生息地》
1 《ファイレクシアの核》
1 《オラン=リーフの廃墟》
-土地 (20)- 4 《搭載歩行機械》
4 《歩行バリスタ》
4 《電結の働き手》
4 《電結の荒廃者》
4 《鋼の監視者》
-クリーチャー (20)-
4 《銅線の地溝》
2 《カープルーザンの森》
2 《ラノワールの再生地》
1 《ペンデルヘイヴン》
4 《ダークスティールの城塞》
4 《墨蛾の生息地》
1 《ファイレクシアの核》
-土地 (20)- 4 《搭載歩行機械》
4 《歩行バリスタ》
4 《電結の働き手》
4 《電結の荒廃者》
4 《鋼の監視者》
-クリーチャー (20)-
これはひとえに、私自身がこのデッキを周囲のプレイヤー以上に理解していたからに違いありません。マッチアップによる有利不利を理解し適切なプレイを見極める以上に、自分自身のデッキをきちんと使いこなせたことが勝因だったと思います。
「鱗親和」は単体のカードパワーは低いものが多く、デッキリストを眺めただけでは動きすらはっきりとわかりません。ですが、実際の対戦ではあっという間に巨大な《墨蛾の生息地》や《歩行バリスタ》によって負けてしまった、という苦い経験をお持ちの方もいるかと思います。このデッキはカード単体の能力を把握していても、カード同士のシナジー(相乗効果)を理解していないとプレイするのも対処するのも難しいデッキなのです。
逆を言えば、一度基礎的な動きを理解してしまえばいくらでも応用が利くということです。回せば回すほどに新しい発見があり、細かいシナジーを組み合わせて足りない1点をどうにか増やせないか苦心したりと、考えることが多くプレイしていて楽しいデッキでもあります。
今回の記事では、デッキリストやサイドボーディングガイドではなく、カード同士のシナジーに焦点を絞り、このデッキがどのように勝利を目指すのかをお伝えしていきたいと思います。これからこのデッキを使ってみようと思っている方はもちろん、仮想敵のひとつとして「鱗親和」を考えている方の参考になれば幸いです。
基礎編 ~2枚の組み合わせ~
まずは基本的な組み合わせを紹介します。細かいところまでしっかり覚えていきましょう。
《硬化した鱗》 & 各種+1/+1カウンターを配置するカード
デッキ名が示す通り、《硬化した鱗》と各種クリーチャーの組み合わせはこのデッキの基本にして王道の動きになります。《硬化した鱗》さえあれば《電結の荒廃者》や《搭載歩行機械》はあっという間に驚異的なサイズに成長しますし、《鋼の監視者》と組み合わせれば速やかに盤面を制圧できます。
なお、《硬化した鱗》がある状態で「接合」する際に追加の+1/+1カウンターが置かれることは意外と忘れがちなので、計算する際にはそれらを見落とさないように気をつけましょう。
《活性機構》 & 各種+1/+1カウンターを配置するカード
《硬化した鱗》を剛のカードとするならば、こちらは柔のカードです。+1/+1カウンターを多用するこのデッキにとって、《活性機構》の「あなたがコントロールするパーマネント1つの上に+1/+1カウンターが1個以上置かれるたび、あなたは(1)を支払ってもよい」という条件を達成することは朝飯前で、各種クリーチャーが戦場に出るに際し、または「接合」時や《鋼の監視者》の能力起動時など、「鱗親和」の基本的なアクションを行うたびにわずか1マナでトークンを生成できます。
《硬化した鱗》よりも挙動が複雑なので、順を追ってみていきましょう。
《活性機構》 & 《電結の荒廃者》
この2種類が揃うと、《電結の荒廃者》の能力を起動するたびに《活性機構》が誘発します。そこで生まれた霊気装置を再び《電結の荒廃者》のコストに充てれば何度でもこの動作を繰り返すことができるので、《電結の荒廃者》はマナの数だけサイズアップが可能になります。
《活性機構》 & 《金属ミミック》
《金属ミミック》で霊気装置を指定すれば、《活性機構》で生成されるトークンに+1/+1カウンターが置かれるため、連鎖的にマナの数だけ霊気装置を生み出し続けることができます。
《活性機構》 & 《鋼の監視者》
《活性機構》がある状態で《鋼の監視者》を起動すると、その能力で+1/+1カウンターが置かれたクリーチャーの数だけ《活性機構》が誘発します。つまりクリーチャーが3体いれば3回、5体いれば5回誘発するので、マナさえあればあっという間に霊気装置で戦場を埋め尽くすことができます。もちろん次のターン以降はそれら霊気装置も《鋼の監視者》で強化することができるので、《鋼の監視者》と《活性機構》は長期戦で非常に頼りになる組み合わせです。
《活性機構》 & 《ラノワールの再生地》
Fabrizio Anteriさんの記事にもあったように、《活性機構》は+1/+1カウンターがいずれかのパーマネントに乗りさえすれば、それがクリーチャーでなくとも誘発します。そのため、対ミッドレンジや対コントロールのような長期戦が見込まれるマッチアップの場合には、《ラノワールの再生地》の+1/+1カウンターをなるべく温存してこのコンボを狙っていきましょう。
《ゲスの玉座》 & 《搭載歩行機械》 or 「接合」持ちのクリーチャー
《ゲスの玉座》は+1/+1カウンターや毒カウンターを増やせる便利なカードですが、《搭載歩行機械》を生け贄に捧げる手段としても重宝します。もしも対戦相手が《流刑への道》などの追放除去呪文を構えていそうなら、《ゲスの玉座》の使用は控え、いつでも《搭載歩行機械》を生け贄に捧げてトークンが出せるようにしておきましょう。
《ゲスの玉座》絡みで注意が必要なのは、「接合」クリーチャーを生け贄に捧げたときの挙動です。その場合は《ゲスの玉座》の「増殖」よりも先に「接合」が解決されるので、トークンや《墨蛾の生息地》などに+1/+1カウンターを乗せてから「増殖」を行えます。
《墨蛾の生息地》 & 《活性機構》 or 《ゲスの玉座》
「感染」での勝利を目指す場合は、与えるべきダメージ量が通常の半分である10点で済むため、《墨蛾の生息地》に+1/+1カウンターを配置することは最も簡単な勝利手段のひとつです。当然対戦相手も警戒するため、いきなり毒カウンターを10個与えることは難しいのですが、ここでポイントとなるのは隙を見て《墨蛾の生息地》で1点を与えておくことです。
こうすると今後《墨蛾の生息地》によるダメージが入らなくとも、《活性機構》や《ゲスの玉座》といったカードでプレイヤーを対象にとり、じわじわと毒カウンターを増やすことが可能となります。待つこともできず、かといって攻めれば隙を突かれて大量の毒カウンターをもらいかねない。《墨蛾の生息地》と毒カウンターを増やす手段の2種が揃ってしまうと、対処するのは至難の業です。
応用編 ~3枚以上の組み合わせ~
ここからは基本編で学んだ組み合わせに更に1~2枚足し、どんな挙動をするのか紹介していきます。
《硬化した鱗》 & 《電結の荒廃者》 & 《歩行バリスタ》 or 《墨蛾の生息地》
このデッキの主要プランになります。《硬化した鱗》と《電結の荒廃者》を組み合わせることで、戦場にあるアーティファクト×2(《電結の荒廃者》の生け贄分)+2個(接合分)のカウンターを乗せることができるようになるので、そこに《歩行バリスタ》か《墨蛾の生息地》を加えて瞬殺を狙っていきます。
《歩行バリスタ》の場合
《電結の荒廃者》か《歩行バリスタ》が対戦相手に戦闘ダメージを与えることが可能な場合、戦闘後に自身の上に置かれたカウンター分のダメージを与えられるので、勝つために必要な+1/+1カウンターの数が半分で済みます。戦場にアーティファクトが5~6個あれば勝てるので、戦闘を絡めて積極的にライフを詰めましょう。
また、仮に対戦相手のライフが削り切れない状況であっても、対戦相手のクリーチャーを全滅させることは比較的容易なことが多いので、クリーチャーデッキ相手にはこのコンボが揃うだけで十分すぎるほどの脅威となります。
《墨蛾の生息地》の場合
《墨蛾の生息地》も《歩行バリスタ》とほとんど同じですが、「感染」能力のおかげで使用するカウンターの数が半分で済みます。《硬化した鱗》がある状態で《電結の荒廃者》をキャストすれば、他にアーティファクト3つを生け贄に捧げるだけで10/10の感染クリーチャーの完成です。
デッキ全体が軽く、《オパールのモックス》もあるため、《森》と《墨蛾の生息地》のみの盤面から次のターンに毒殺することも不可能ではありません。《墨蛾の生息地》を置くことで相手は毒殺を意識しフルタップしにくくなり、何もせずに使用マナへ制限をかける副次効果もあります。《墨蛾の生息地》は引いたら積極的に置いていきましょう。
《歩行バリスタ》 & 《電結の働き手》 & 《硬化した鱗》
《硬化した鱗》がある状況下では、《歩行バリスタ》で《電結の働き手》を打ち落とすと「接合」によって《歩行バリスタ》のサイズを上げられることがあります。《電結の働き手》と《硬化した鱗》が1枚ずつしかない場合にはそこまで大きなサイズアップは望めませんが、もしも複数枚あるときにはこれを思い出してみてください。
《ゲスの玉座》 & 《搭載歩行機械》 & 《鋼の監視者》
大きく成長した《搭載歩行機械》。その真価は墓地に置かれ飛行機械トークンが生成されてこそ発揮されます。ここでは巨大な飛行機械トークンの作り方をご紹介いたします。
十分な+1/+1カウンターを《搭載歩行機械》へと置いたなら、《ゲスの玉座》で生け贄に捧げ、飛行機械トークンを戦場に出します。スタック中の《ゲスの玉座》の「増殖」を解決せずに、《鋼の監視者》の能力を起動し、飛行機械トークンへと+1/+1カウンターを配置します。その後「増殖」を解決すればトークンのサイズは一気に3/3、《硬化した鱗》があれば5/5という規格外のものとなり、大量のダメージを与えることができるでしょう。
《活性機構》 & 《鋼の監視者》 & 《ゲスの玉座》
基礎編の項目で、《活性機構》と《鋼の監視者》が揃えば驚異的な速度でトークンを生成しつつサイズアップが可能だとお伝えしましたが、ここでは《ゲスの玉座》も絡めてみましょう。
一連の過程で戦場に出たトークンを《ゲスの玉座》のコストに充て、「増殖」を繰り返します。これにより戦線を横に広げつつ、《硬化した鱗》並みの速度でサイズアップを図ることが可能となります。この《鋼の監視者》は《金属ミミック》でも代用できることも覚えていてください。
実践編 ~キープ基準とマリガン問題~
まず最初に、私はマリガンの基準がかなり緩いです。だいたいの手札はキープします。
去年の『ドミナリア』環境名人戦では、準決勝の対黒緑ランプ戦で土地5、《再燃するフェニックス》、《稲妻の一撃》という7枚をキープしました。それくらいキープ基準が緩いです。
レガシーで長年《渦まく知識》を愛用している弊害か、土地と呪文のバランスがそこそこ良ければキープしてしまう体になってしまいました。これを承知のうえで読み進めてください。
キープ基準となるカード
初手を吟味する際には、なによりも打点を意識します。《硬化した鱗》はもちろん、《電結の荒廃者》か《鋼の監視者》、またはそれら2種類を探せる《古きものの活性》は明確なキープ基準となります。
上記4種類に次ぐキープ基準となるカードは《活性機構》です。ただし、このカードを淀みなく運用するためにはマナが必要なので、キープ基準となるカードが《活性機構》のみで土地が2枚の手札はマリガンします。
メインボードの指針
《搭載歩行機械》、《歩行バリスタ》、《活性機構》を採用している関係で、「鱗親和」は比較的マナフラッドに強い構成です。そのため、マナスクリューしそうな手札よりもマナが多めの手札の方がいいですし、対戦相手のデッキを知らない1本目は、土地が4枚、呪文が3枚のような手札でもキープします。
サイドボード後の指針
サイドボード後は多くのデッキからアーティファクトを破壊するカードがたくさん飛んでくるので、リソースの数を意識してあまり厳しくマリガンしすぎないようにしましょう。
明確に引きたいサイドボードカードがあるマッチアップは例外で、《墓掘りの檻》や《減衰球》をサイドインした場合にはそれらを探しに積極的にマリガンします。
マリガン問題: ケース1
盤面をひっくり返すことも、相手のクリーチャーを止めることもできないのでマリガンします。もしも《歩行バリスタ》が《搭載歩行機械》ならば、相打ちを取りつつ攻めに転じることもできるのでキープします。
マリガン問題: ケース2
魅力的な手札ですが、先手でも後手でもマリガンします。前述の通りこのデッキはマナが多めの手札の方が好ましいですし、53枚のライブラリーの中に土地は19枚しかないので、土地が引ける確率は35%程度しかありません。
マリガン問題: ケース3
一見弱そうに見えるかもしれませんが、かなりの爆発力を秘めた手札なのでキープします。1ターン目に《ダークスティールの城塞》から《活性機構》、2ターン目には《オパールのモックス》→《電結の荒廃者》と動けば霊気装置トークンが出せるので、《稲妻》系統のデッキに対してはかなり優位に立ちまわることができます。
おまけ ~マリガン問題: ロンドン・マリガン編~
4月10日(水)から、Magic Online上ではおよそ1か月間にわたってロンドン・マリガンがすべてのフォーマットで採用されます。ロンドン・マリガンとは、今月末に開催されるミシックチャンピオンシップ・ロンドン2019で試験運用されるマリガン方式です。このルールが各デッキにどのような影響を与えるのかは、セバスティアン・ポッツォさんのこちらの記事をご覧ください。
このルールで具体的に変わるのは、お互いにキーカードやサイドボードカードへのアクセスが容易になることです。1枚しか採用されていないであろう《粉砕の嵐》を頻繁にキャストされたり、これまで以上の確率で2ターン目に目に出てくる《氷の中の存在》などなど……こんな光景をよく見るようになるかもしれません。
しかし、「鱗親和」もロンドン・マリガンによって恩恵を受けるデッキのひとつです。このデッキが少ないリソースで勝つときはだいたい《硬化した鱗》が絡むのですが、その《硬化した鱗》が初手にくる可能性が高くなるからです。
マッチアップ次第では《硬化した鱗》→《搭載歩行機械》と動くだけでかなりの時間が稼げますし、新ルールならば積極的にマリガンできるようになると思います。
ロンドン・マリガン問題: ケース1
《オパールのモックス》と《溶接の壺》を戻します。この手札なら3マナ目はなくても問題ありませんし、《硬化した鱗》→《電結の働き手》と動いたあとに優秀な「接合」先があった方がいいので《歩行バリスタ》は残します。
ロンドン・マリガン問題: ケース2
《オパールのモックス》を戻すのは確定として、もう1枚は《電結の働き手》か《溶接の壺》かで悩みますね。《電結の働き手》で1ターン目から動くよりも、《溶接の壺》で《鋼の監視者》を守って《搭載歩行機械》へ繋げる方がゲームプランが立てやすいので、《電結の働き手》と《オパールのモックス》を戻します。
実践編 ~頭の体操~
ケース1
ケース2
ケース3
さいごに
いかがだったでしょうか。
「鱗親和」はデッキ内のカードほとんどがシナジーを形成しているため、1枚のカードをプレイしただけで連鎖的にいくつもの効果を解決する必要があります。慣れていないとプレイや解決手順を間違えてしまったり、誘発型能力の解決自体を忘れてしまうこともあります。
これを克服するためには練習しかありません。ここで説明した基本的なパターンを覚えていただき、実際にプレイしてみることをお勧めします。一人回しを繰り返し、スタックの組み方やシナジーを体で覚え、ダイスを動かしながら+1/+1カウンターの増加を視覚的に把握することでより理解が深まるかと思います。
また、ゲーム中の所作を素早く行うためにも、ダイスやカードは自分にとって理解しやすいものに統一するのもお勧めです。特に《金属ミミック》を使用する場合には、《電結の働き手》と《電結の荒廃者》はクリーチャータイプが記載されている最新セットのものを揃えておくといいでしょう。私も《電結の働き手》が「構築物」であることをたまに忘れそうになります(笑)
「鱗親和」について疑問に思ったことや記事に関する質問があれば、私のTwitterまでお願いします。また実際に動いているところが見たい方は、ぜひTwitchに遊びにきてください。
鈴池 史康