『灯争大戦』がモダンに与える影響

Lee Shi Tian

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/05/08)

はじめに

みなさんこんにちは。

『灯争大戦』が発売されましたね。この新セットにはプレインズウォーカーが満載で、他にも強力なカードが収録されています。プレインズウォーカーには新たに常在型能力が備わっており、着地してすぐにゲームに影響を与えるものもあります。3マナのプレインズウォーカーはモダンでも活躍しそうなものが多々見受けられました。

みなさんの貴重な時間を無駄にしないためにも、早速私がセレクトしたカードを1枚ずつ見ていきましょう。

《大いなる創造者、カーン》

大いなる創造者、カーン

トロンにとって収穫となる1枚です。《大いなる創造者、カーン》はさまざまな対策カードをサイドボードから手札に加えられます。たとえばコンボデッキ相手に《墓掘りの檻》《三なる宝球》などを持ってくるのです。古き良き《解放された者、カーン》は、後手ではコンボデッキに間に合わないこともありました。

マイコシンスの格子

常在型能力は一方的な《石のような静寂》です。ミラーマッチでも有効な能力であり、《彩色の星》《彩色の宝球》といったキャントリップ付きアーティファクトを止められますし、《探検の地図》《忘却石》も機能停止させます。また、《マイコシンスの格子》とコンボを形成し、《大いなる創造者、カーン》がいる限り、相手の起動型能力を全て使えなくしてしまうのです。(なんと土地のマナ能力も封じ込められます!)

《人知を超えるもの、ウギン》

人知を超えるもの、ウギン

こちらも無色のプレインズウォーカーであり、ウルザランドが揃っていれば3ターン目に唱えられるものになっています。[-3]能力は土地こそ破壊できませんが、[+1]能力は自分自身を守れるうえにカードアドバンテージを獲得できる強力なものです。

常在型能力も軽視できません。無色のキャントリップ付きアーティファクトはほとんど、0マナで唱えられるようになるのです。以前まではキャントリップしても引き込んだ呪文を唱えるだけのマナが残っていない……なんて残念な瞬間もありましたが、《人知を超えるもの、ウギン》が戦場にいればこのような状況を避けやすくなるでしょう。

また、ウルザランドの完成を妨害されたときでも、6マナは十分に到達可能なものです。ウルザランドが揃いづらいマッチアップはいくつかありますが、そのようなマッチアップにおいて、ウルザランドの完成なしに唱えやすい脅威はシンプルに頼もしいものなのです。

《覆いを割く者、ナーセット》

覆いを割く者、ナーセット

とうとうモダンで使用に値する《トレストの使者、レオヴォルド》の効果を持ったカードが登場しました。3マナのカードはモダンで使いやすいわけではないですが、《覆いを割く者、ナーセット》キャントリップ呪文に依存したデッキへの対策として居場所を見つけるでしょう。モダンではキャントリップ呪文を多用し、キーとなるカードや解答を探すデッキが多いですしね。《覆いを割く者、ナーセット》はそのようなデッキをシャットアウトする力が備わっています。《稲妻》1枚で除去されてしまわないように、《覆いを割く者、ナーセット》の能力を起動しない状況も十分に考えられます。

ヴェンディリオン三人衆ガイアー岬の療養所一日のやり直し

また、特定の解答を探す用途でも活躍してくれます。4枚も掘り下げられるのは決して悪くないですし、2回能力を起動できれば8枚も掘り下げられますからね。さらに、《ヴェンディリオン三人衆》《ガイアー岬の療養所》《一日のやり直し》と合わせて採用すれば、常在型能力を悪用できます。

《はぐれ影魔道士、ダブリエル》

はぐれ影魔道士、ダブリエル

長い間、8Rackはモダンでマイナーなデッキであり続けています。その原因としては、勝ち筋となるカードを引けず手札破壊呪文だけを引いてしまう、あるいはその逆のパターンが起きてしまうからなのでしょう。手札破壊呪文と《拷問台》効果のカードをバランス良くドローできたときに真価を発揮するデッキなのです。

《はぐれ影魔道士、ダブリエル》は、その起動型能力と常在型能力によって、8Rackが必要とする2つの要素を兼ね備えているため、すんなりと採用できます。手札を破壊するだけでなく、9枚目の《拷問台》効果としても機能し、相手のライフを削っていくのです(9枚目と表記したのは、《はぐれ影魔道士、ダブリエル》は戦場に1枚しか出せないからです)。

《戦慄衆の秘儀術師》

戦慄衆の秘儀術師

勝利につながる2マナのカードはモダンで貴重な存在ですが、《戦慄衆の秘儀術師》はそのカテゴリーに属するのではないでしょうか。強力な1マナ呪文(《思考囲い》《コジレックの審問》《致命的な一押し》《稲妻》など)を「フラッシュバック」し、使い回せるのです。

ジャンドやマルドゥパイロマンサーが最も上手く活用できると思います(マルドゥパイロマンサーでは《騒乱の歓楽者》と相性が良くないですけどね) 。これらのアーキタイプは手札破壊呪文によって相手の除去を捨てさせ、除去によって《戦慄衆の秘儀術師》の攻撃を通すことができますからね。

《約束の終焉》

約束の終焉

《弧光のフェニックス》とだけ言えばお分かりいただけるでしょう。《約束の終焉》(X)=1で唱えるだけで、《弧光のフェニックス》が墓地から蘇るのです。

《約束の終焉》が登場したため、今後はソーサリーとインスタントの比を1:1にした方が良いかもしれません。ミシックチャンピオンシップ・ロンドン2019ではハビエル・ドミンゲス/JavierDominguezがイゼットフェニックスでトップ8に入賞しましたが、おそらく彼のデッキリストが今後のトレンドになるでしょう。相手ターンにマナを構えるよりも手札に加えるカードの判断を完璧に行いたいという狙いから、彼は《選択》ではなく《手練》を採用していました。非常に合理的です。ただ、彼のデッキリストを参考にした場合、1マナ域ではインスタントよりもソーサリーの枚数の方が多くなりそうですね。

その一方で、イゼットフェニックスでは《約束の終焉》を息切れ防止のカードとして採用し、3ターン目に唱えないことの方が多くなるのかもしれません。インスタントとソーサリーの適切な比率や《約束の終焉》の採用枚数は、時間が経てば答えが出るでしょう

《猪の祟神、イルハグ》

猪の祟神、イルハグ

注目すべき点は2つだと思います。

さて、これらの特徴をどう活かせば良いのでしょうか?そう、《御霊の復讐》です。

御霊の復讐

最近グリショールブランドは鳴りを潜めている印象がありますが、これは弱点である《外科的摘出》がメインデッキから採用されることが増えてきたからでしょう。

1ターン目の《信仰無き物あさり》で捨てられた《猪の祟神、イルハグ》は身代わりとして優秀ですね。相手が《猪の祟神、イルハグ》《外科的摘出》してきても、こちらのデッキ内には《グリセルブランド》が残っているため、コンボの可能性を残しておけるのです。《グリセルブランド》が追放されるようなことがあっても、《猪の祟神、イルハグ》から《世界棘のワーム》を出せば容易に21点を叩き込めます。

《猪の祟神、イルハグ》の登場により、グリショールブランドは勝ち筋が増え、1ターン目の《信仰無き物あさり》から2ターン目に勝利しやすくなったため、デッキにいくらか安定性がもたらされるのではないでしょうか。

《ドビンの拒否権》

ドビンの拒否権

青白コントロールのミラーマッチを想像してみてください。先手5ターン目に《払拭》を構えて《精神を刻む者、ジェイス》を出せるような状況。おそらくあなたは勝っただろうと、たかをくくるのではないでしょうか。『灯争大戦』が発売される前であれば、あなたの考えは正しかったかもしれません。しかし、今や《ドビンの拒否権》がどんな打ち消し合戦も支配するようになったのです。軽量で打ち消されない打ち消し呪文は、環境の常識を覆してしまう力を秘めています。

ただ、従来の「先に仕掛けた方が負ける」という戦略を推し進めてしまいそうな点は好みませんね。他方で、2マナだけ残しておけば確実にキーとなる呪文を打ち消せるので、マナを使いやすくなったという側面もあります。シンプルな呪文であっても、特定のマッチアップのゲーム展開に変化を与えることもあるので、今後どうなっていくのか非常に楽しみですね。

《新生化》

新生化

今モダンで最もアツいカードですね。ここまで2ターンキルが安定するデッキは、初のモダンプロツアーであるプロツアー・フィラデルフィア2011後の大きな禁止改訂以降なかったのではないでしょうか。

《新生化》《アロサウルス乗り》を生け贄に捧げ、《グリセルブランド》を戦場に出すことでコンボがスタートします。《召喚士の契約》《異界の進化》は、追加の《アロサウルス乗り》《新生化》として機能するので、ロンドンマリガンの適用下で極度に安定するデッキなのです。現行のバンクーバーマリガンでも常識外れの強さを持つかは不明ですが、何の下準備もなしに2枚のカードで2ターンキルできるのですから、モダンの前提を覆してしまうかもしれません

《時を解す者、テフェリー》

時を解す者、テフェリー

《時を解す者、テフェリー》の常在型能力は、いかなる打ち消し戦略にも圧倒的な強さを誇ります。《貴族の教主》から2ターン目に着地させる動きは、バントスピリットが青系のコントロールデッキに強くなる一因となるかもしれません

また、《呪文捕らえ》ともコンボを形成します。《時を解す者、テフェリー》《呪文捕らえ》をバウンスし、《時を解す者、テフェリー》が場に残っていれば、相手は《呪文捕らえ》で追放されていた呪文を唱えられないのです。こちらは確定で打ち消せるカードが手札に戻ることになるため、それ以降も何度も何度もこの動きを繰り返せるわけですね。

《夢を引き裂く者、アショク》

夢を引き裂く者、アショク

常在型能力はフェッチランドやサーチ効果を一切許しません。前評判通りにアミュレットタイタンが強力なのであれば、《夢を引き裂く者、アショク》が対策カードになるでしょう。《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》デッキにも有効ですね。

[-1]能力は墓地を追放すると共に、使いきれば相手のライブラリーを20枚も削れるため勝ち手段としても優秀です。《夢を引き裂く者、アショク》を使うデッキとして真っ先に思いつくのは、青黒ライブラリーアウトではないでしょうか。墓地戦略に弱いという弱点をカバーできますし、忠誠度能力もゲームプランと噛み合っています。

《崇高な工匠、サヒーリ》

崇高な工匠、サヒーリ

《崇高な工匠、サヒーリ》は3マナになった《若き紅蓮術士》ですが、相手にクリーチャーがいなければ、より除去しづらいものになっています。間違いなく相性が良いのは、キャントリップ呪文をふんだんに採用した青系のデッキです。しかし、マルドゥパイロマンサーのようなデッキも手札破壊や除去で《崇高な工匠、サヒーリ》を守りつつカードアドバンテージを獲得できるので、上手く運用できる可能性があります。

《爆発域》

爆発域

無色デッキ向けの1枚ですね。特にトロンは土地を探しやすいですし、《爆発域》にカウンターを載せやすいデッキですから、シルバーバレットとして使いやすそうです。《森の占術》《古きものの活性》など、土地を探す呪文しか引かない……という場合でも、《減衰球》を上手に対処するのに最適なカードですね。

無色のエルドラージでも3~4枚採用されるかもしれません。採用しているパーマネントのほとんどが相手のものよりマナコストが高いので、《爆発域》の能力を起動しても巻き添えをあまり食らいませんからね。また、ドレッジ《壌土からの生命》《爆発域》を使い回せるため、《墓掘りの檻》を対処しやすくなります。

まとめ

さて、モダンで使われる可能性があるカードを紹介してきました。『灯争大戦』のカードパワーは非常に高いと思いますよ。今回紹介したプレインズウォーカーたちは3マナかかり、モダンで使うにはハードルが高いのですが……一度盤面に出てしまえば、常在型能力がかなりの影響を与えてくれるでしょう。

大いなる創造者、カーン人知を超えるもの、ウギン爆発域

今回最も収穫が多かったアーキタイプはトロンではないでしょうか。私が懸念しているのは、ロンドンマリガンが本採用された場合、トロンが環境にダメージを与えすぎてしまう可能性です。短期戦でも長期戦でも強く、完全に対策するのも難しいですからね。

他方、《新生化》はモダンの「3ターン目確定で勝負を決めるようなコンボは認めない」というルールに抵触しているため、禁止の危険があります。私は禁止自体あまり好きではないんですけどね。もう少し様子を見て、このデッキの行く末を見守る必要があるでしょう。

6月には『モダンホライゾン』が発売されます。通常のスタンダードのセットよりも、環境全体に与える影響は多少なりとも大きいだろうとかなり期待していますね。ミシックチャンピオンシップ・バルセロナ2019は『モダンホライゾン』参入後のモダンで開催されます。間違いなくデッキビルダーにとって天国のような環境になるでしょう。

ではまた次回。

リー・シー・ティエン Twitter / Twitch

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Lee Shi Tian リー・シー・ティエンは香港出身のスーパースター。プロツアートップ8が5回、グランプリトップ8が10回 (内優勝1回) と凄まじい戦績を誇り、特にモダンフォーマットを得意とするプレイヤー。 リーは偉大なプレイヤーとしてのみならず、アジア圏のコミュニティの育成に尽力した人物としても広く知られており、彼とそのチームメイトである "チームミントカード" の面々はプロシーンで次々と好成績を残し続けた。 プレイヤーとして、そしてコミュニティリーダーとしての功績が世界中で高く評価され、2018年にマジック・プロツアー殿堂入りを果たす。 Lee Shi Tianの記事はこちら