ロンドンマリガンとネオブランド

Piotr Glogowski

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/05/27)

はじめに

ミシックチャンピオンシップ・ロンドン2019が幕を閉じましたね。ミシックチャンピオンシップ・バルセロナ2019に先立ってロンドンマリガンの本採用が決まるかどうかは不明ですが、Magic Online上では『灯争大戦』とロンドンマリガンの共存したタイミングが少しだけありました。当時Magic Onlineをプレイしていた方なら、このデッキをよくご存知でしょう。

「今日の成績は16-9、最終的にこういったリストに落ち着きました。ですが、勝った試合の多くは1~2ターンで終わっていますし、マッチを通して土地を1枚しか置くことしかできなかったかわいそうな相手もいました。このデッキが競技レベルで戦える、というのはちょっと気味が悪いですね。」

アロサウルス乗り新生化グリセルブランド
滋養の群れ猿人の指導霊稲妻の嵐

このデッキの目標は、《アロサウルス乗り》《新生化》《異界の進化》で生け贄に捧げ、《グリセルブランド》をかなりの前倒しで召喚することです。ここからの勝ち方は、以前から存在していた《御霊の復讐》デッキ/グリショールブランドとアドグレイスから一部借用しています。まず、嫌気がさすほど高マナの緑のクリーチャーをコストにして《滋養の群れ》を連打し、ライブラリーのカードをすべてドローします。そして《猿人の指導霊》で赤マナを生み出し、《稲妻の嵐》で相手に致死量のダメージを与えるのです。

このデッキが『灯争大戦』から手に入れたカードは《新生化》だけです。以前から存在可能なデッキでしたが、コンボパーツの2種類ともに互換性のあるカードが揃い、8枚体制にできるようになりました。しかも《新生化》はたったの2マナなので、1ターンキルや2ターンキルをやってのけます。心配になってしまうほどですね。

ロンドンマリガンに対する見解

まずはロンドンマリガンについて少しお話しましょう。

アリ・ラックス/Ari Lax素晴らしいブログ記事を投稿し、ロンドンマリガンへの考察・見解を示しました。しばらくの間、私はロンドンマリガンがマジック全体にとって好ましいものだろうというスタンスでした。しかし今では、モダン以下での環境でロンドンマリガンが適用されることに懐疑的になったのです。

弧光のフェニックスサリアの副官

ロンドンマリガンを批判する人の多くは、新ルールによって競争力のバランスが崩れてしまうことを危惧しているようです。つまり、ドレッジやトロンなどを筆頭に、非常に限られたリソースからでも勝てる直線的な戦術を強化してしまうのではないか、というわけです。

当初からこの主張は弱いように感じていました。私の経験や他のプレイヤーの動向、ミシックチャンピオンシップ・ロンドンでのメタゲームブレイクダウン、様々な裏話。そういったものから判断するに、彼らの主張は理に適っていないと思ったのです。

ロンドンではトロンが一番人気のデッキでしたが、勝率は芳しくありませんでした。2、3番目に多かったデッキはイゼットフェニックスと5色人間であり、いずれも非常に堅実なデッキでありながら、新マリガンルールの恩恵を特別大きく享受できるデッキではないという認識をされていました

アリがブログで指摘していたように、マリガンをするたびにカードが1枚減るシステムである以上、どうあがいてもリソースが5枚と7枚の戦いになる、というのが真実です。そのマッチアップにおいてカードアドバンテージが重要ならば、7枚から5枚のカードを多少慎重に選んだところで、2枚もリソースが少ない状態でゲームを開始したプレイヤーが劇的に状況を改善できるとは思えません。

ロンドンマリガンにより得られる恩恵はマリガンをしたプレイヤーに対等なゲームをさせることではなく、認知的な側面にあります。フェアなマジックという前提のもとにわかりやすく言うなら、2枚目の土地を置けずに負けることはなくなっても、呪文を少し唱えたうえで負けるようになるだけなのです。

洞察のランタン練達飛行機械職人、サイグルマグのアンコウ

その一方で失ったものは、ゲーム内のニュアンスや目新しさです。私がモダンで経験した中で最も美しく面白かった試合は、不格好なものでした。頭をひねらせ、今までに考えもしなかった方法で勝たなければならなかったのです。

1ターン目に《外科的摘出》《罠の橋》を追放されたら、《洞察のランタン》によるロックで相手にクリーチャーを一切引かせないようにする。アイアンワークスを回しているとき、こちらは《自然の要求》をサイドインしなかったものの、《石のような静寂》を貼ったせいで自らの初動が遅れた5色人間に《練達飛行機械職人、サイ》で勝ってしまう。相手の《虚空の力線》を前にして、「探査」なしの7マナで唱えた《グルマグのアンコウ》でライフを削りきる。これらは極端な例かもしれませんが、ロンドンマリガンの適用下ではこのような状況に巡り合うこともほとんどなくなってしまうでしょう。

一般的にゲームが同じような展開になってしまうのは、特にモダン以下の環境では残念なことだと思っています。ゲームの展開が限られていき、予想できるようになる……そんなことがかなりの頻度で起きてしまい、結局はそのゲームでの体験が貧相になってしまうだけなのです。

ベナリア史遁走する蒸気族ドミナリアの英雄、テフェリー

ミシックインビテーショナルの際も似たような不満が噴出していました。MTGアリーナの1本勝負では、事故が起きないように初手に補正がかかる仕様になっています。それに白単ウィニーや赤単、エスパーコントロールの動きの性質があいまって、ゲームを介して得られる経験が極度に似通ったものになり、もはやあまり面白味を感じなくなってしまったプレイヤーもいたのです。私もその一人でした。まさかこのような気持ちになるだなんて考えもしませんでしたが、実際にそのような状況になってしまっているのです。

私がマジックやモダンを愛している理由は、ゲームが驚くほど複雑であり、互いのプレイヤーがドローしうるカードにより新たな展開が無限に起こりうるからなのです。この余地を減らしてしまえば、ゲームへの興味も非常に減ってしまうというものです。こういった理由から、ロンドンマリガンを広く適用することがマジックにとって本当に良いことなのかは大いに疑問が残ります

ネオブランドについて

新生化

では、ここまでの議論を踏まえて《新生化》デッキ(ネオブランド)はどのような立ち位置になるのでしょうか?

直観的には、ロンドンマリガンを悪用できるであろうデッキの1つです。ネオブランドの狙いは、大抵1~3ターンキルが可能な初手でゲームを開始することですから、危険視されても仕方ないでしょう。ただ、そこまでシンプルな話ではありません。というのも、《アロサウルス乗り》は緑のカードを2枚も必要とし、手札に大きな負担がかかるため、マリガンで手札を5枚にするのは非常に危険なのです。加えて、ネオブランドは高火力なものの守りが薄い「ガラスの大砲」であるため、1枚でも妨害カードや対策カードが相手の7枚の初手にあると、期待される勝率は大幅に下がってしまいます。

アロサウルス乗り翻弄する魔道士

《アロサウルス乗り》は常に手札を3枚消費しますから、対策カードを難なく対処できる方法があまりないのです。ロンドンマリガンは相手にも適用されるため、5色人間を使用する相手が2マナまで到達してしまえば、絶望的な《翻弄する魔道士》を突きつけてくる可能性は非常に高いわけですね。他のアーキタイプに比べ、ネオブランドは間違いなくロンドンマリガンの恩恵を受けますが、巷で言われているほどではありません。しかし同時に、ロンドンマリガン適用下で活躍したデッキがバンクーバーマリガンで使い物にならなくなる、ということもあり得ないでしょう。

御霊の復讐悟った達人、ナーセット

とはいえ、諸々の事情を考慮してみた結果、当初はまた冗談めいた「ガラスの大砲」デッキを掴んでしまったのだと思っていました(《御霊の復讐》と《悟った達人、ナーセット》を使ったデッキのように)。ですが、まるで別物だと気づくまでそう時間はかからなかったのです。最初の数ターンで勝ってしまうことが多く、少々不安を覚えるほどでした

妨害されなかった場合、このデッキは《グリセルブランド》を早々に展開する手段にあまりにも長けているのです。ドレッジやトロン、アミュレットタイタンのように、ネオブランドにスピードでも勝てなければ、序盤の妨害もできないデッキにとっては、特定の対策カードを積んでいない限り悲惨な相性となりますね。《新生化》コンボは妨害されやすいため、競技シーンでの勝率は40%ほどに過ぎないだろうと思います。ですが、このようなデッキがモダンで許されるのかという疑問には非常に興味をそそられます

ゴブリンの放火砲

グリショールブランドは2ターンキルの可能性がありながらも、長年モダンで禁止されていません。理由は色々とありますが、実際の勝率が芳しくないため問題とされてこなかったのです。レガシーで言うところのベルチャーのような存在ですね。

ネオブランドは1、2ターンキルの頻度がロンドンマリガン、バンクーバーマリガンのどちらでも少々高すぎる可能性はありますが、一日中Twitterで話題になった割にはMagic Onlineで結果が出ていないので、禁止すべきかは悩ましいところです。「持っているか持っていないか」というゲームになれば面白さを損なってしまうため、環境のルールに反するようなカードに何らかのアクションを起こすことが正しい選択になる日が来るのかもしれません。

デッキリスト

とはいえ、Magic Onlineで「ガラスの大砲」を撃ちたい人もいるでしょうから、おすすめのリストをご紹介しましょう。

メインデッキ

《野生の朗詠者》《魔力変》

野生の朗詠者魔力変

《野生の朗詠者》を採用しているのは、《猿人の指導霊》のマナを《新生化》に必要なマナへと変換するためであり、《召喚士の契約》でサーチすることも可能です。1ターンキルを狙える手札で重要な存在となりうるカードですね。素引きした場合でも、2ターン目の《異界の進化》に向けてマナ加速できたり、《絡み森の大長》のマナを保管できたりします。

《魔力変》も見苦しくはありますが、《猿人の指導霊》の赤マナを《新生化》に必要なマナへと変換できます。また、土地をすべてタップしてしまった後に《研究室の偏執狂》を唱える際にも《魔力変》は役立ちますが、もしかしたら2枚目はカットしても良いかもしれません。このデッキにおいては《猿人の指導霊》よりも《Elvish Spirit Guide》の方がありがたかったでしょうね。

《造反者の解放》

造反者の解放

《造反者の解放》《アロサウルス乗り》のコストにできる緑のカードであり、1ターン目の《絡み森の大長》によるマナを「サイクリング」に使うこともできます。このようにデッキとの方向性が噛み合いながらも、唯一ネオブランドに有効なパーマネント、《墓掘りの檻》への解答にもなります。

《絡み森の大長》

絡み森の大長

バンクーバーマリガンへの回帰で最も被害を被る1枚ですね。このカードのマナ加速は、1ターン目の《異界の進化》には届かず、2ターン目には消失してしまうため、不器用なマナ加速になりがちです。このデッキを使う理由は理不尽なブン回りにありますから、《絡み森の大長》を抜いてしまうのは賢明ではないでしょう。7マナの緑のカードというだけで、仮にテキストに何も書いていないとしてもこのデッキでは十分役に立ちますね。

勝ち筋となるカード

稲妻の嵐有毒の蘇生否定の契約

メインデッキの勝ち筋となるカードは、間違いなく1枚だけで十分で、それも《稲妻の嵐》がベストではないかと思います。素引きした《アロサウルス乗り》《新生化》《グリセルブランド》にした後、ターンを相手に渡し、必要に応じてインスタントタイミングでコンボをスタートさせる……という選択肢を《稲妻の嵐》であれば確保できるのです。

手札破壊で落とされた勝ち筋を再利用できるカードは多く存在していますが、その中でも《有毒の蘇生》は緑であり、かつ《滋養の群れ》を回収して更なるドローにつなげることもできるため、デッキ構築が最も歪まない1枚です。

また、《否定の契約》をメインに1枚採用するのが良いと思います。打ち消し呪文に対抗できるので、相手がこちらの勝ち筋のカードへ介入するのを防げますからね。相手が《ドビンの拒否権》《滋養の群れ》など、《稲妻の嵐》を無効化する手段を採用している場合には、《研究室の偏執狂》《稲妻の嵐》を入れ替えたり、または単純に勝ち手段を増量します。

グリセルブランド

7/7や8/8の飛行・絆魂クリーチャーに手を焼くデッキも多いですから、《召喚士の契約》《アロサウルス乗り》をサーチしていなければ焦る必要はありません。ただターンを返し、相手が脅威となるカードをスタックに積んできたら《グリセルブランド》の効果でドローし始めればよいのです。

《選択》《手練》

血清の幻視手練

青のキャントリップ呪文は2、3ターンキルの安定性を高めますが、あまり引きすぎてしまうと《アロサウルス乗り》《絡み森の大長》との相性の悪さが際立ってしまいます。適正な採用枚数を見極めるのは少し骨が折れますが、4~5枚でおおよそ問題ないという印象です。また、サイドアウトしやすい数少ないカードでもあります。

追加のライフ回復手段

コーリスの子促進サムトの疾走

追加の《滋養の群れ》として《コーリスの子》《促進》《サムトの疾走》といったカードを採用したリストもあるようです。速攻を与える呪文は《グリセルブランド》の攻撃によって7点以上のライフを回復するため、実質的に7枚ドローに換算できます。ですが、《グリセルブランド》を一旦戦場に出した後のコンボを安定させるカードに枠を割く余裕はないように思えます。どうしても気になるというのなら、まずは《有毒の蘇生》の追加を検討した方が良いでしょう。

サイドボード

サイドボードには多種多様な対策カードを詰め込んでいます。必要性が明らかでないなら、サイドインする必要はありません。

対 打ち消し戦略

防御の光網否定の契約

相手が打ち消し呪文を使ってくる場合、《防御の光網》をサイドインし、《否定の契約》も2枚体制にします。最近の青白コントロールは《ドビンの拒否権》を使用しているため、《否定の契約》だけでは上手くいきません。ありがたいことに、《防御の光網》《絡み森の大長》のマナを無駄なく使えますね。

対 5色人間

仕組まれた爆薬猿術急速混成

5色人間との対戦は苦戦を強いられるでしょうし、《翻弄する魔道士》にロックされないよう《仕組まれた爆薬》《急速混成》《猿術》を投入する必要性があります。

対 グリクシス《死の影》

神聖の力線虚空の杯

グリクシス《死の影》に対してコンボを決められる確率は相当低いです。《神聖の力線》と、1ターン目の《虚空の杯》(X)=1でのイージーウィンを目指しましょう

サイドアウトとなる候補

造反者の解放否定の契約魔力変野生の朗詠者

サイドアウトする候補となるカードは、青のキャントリップ呪文、(相手が確実に《墓掘りの檻》を入れてこないのなら)《造反者の解放》《否定の契約》《魔力変》(抜くとしても1枚)だけです。《野生の朗詠者》も抜く可能性はありますね。

おわりに

というわけで、デッキについておおよそ解説し終わりました。《グリセルブランド》を出してからの動きは、やや考える必要があります。というのも、《稲妻の嵐》がライブラリーの底から5枚辺りにあると困るので、《有毒の蘇生》《魔力変》《血清の幻視》《召喚士の契約》といったカードを使ってライブラリーの枚数を調整し、7の倍数になるようにしなければならないからです。

ただ、その点を除けばマッチの勝敗に関与できる要素はあまりありません。マリガンをする、叩きつける、相手が「持っていたら」だいたい投了する。逆にコンボが決まった場合、「かわいそうな相手だなあ。さて、何のデッキを使っていたのだろう?」と不思議に思うことでしょう。相手は土地を1枚置いただけですからね。

いずれにせよ、このデッキを介して得られる経験はいくらか常軌を逸しています。ご興味があれば、回してみてはいかがでしょうか。

ではまた次回。

kanister (Twitter / Twitch)

この記事内で掲載されたカード

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Piotr Glogowski マジック・オンライン上でkanisterとしてその名を轟かせ、Twitchの配信者としても人気を博す若きポーランドの雄。 2017-2018シーズンにはその才能を一気に開花させ、プロツアー『イクサラン』でトップ8を入賞すると続くワールド・マジック・カップ2017でも準優勝を記録。 その後もコンスタントに結果を残し、プラチナ・レベル・プロとしてHareruya Prosに加入した。 Piotr Glogowskiの記事はこちら