Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/05/27)
不遇の発明家
『灯争大戦』はすでにモダンに大きな影響を与えていますね。先日の私の記事では、モダンで《大いなる創造者、カーン》を最大限に利用する方法について掘り下げましたが、実際にその実力が立証されつつあるようです。また、それ以外にも《覆いを割く者、ナーセット》や《時を解す者、テフェリー》、《爆発域》は幾度となくモダンで使われています。
ところが、私が期待を寄せながらも、思ったほど活躍を見せていないカードがあります。《崇高な工匠、サヒーリ》です。
天才の居場所を探して
《崇高な工匠、サヒーリ》の情報が公開されると、プレイヤーたちはその常在型能力の強さにすぐ気づきました。《若き紅蓮術士》よりも1マナ重いですが、「クリーチャーでない呪文」で誘発するのは明確な利点です。2/1のクリーチャーではなく、忠誠度が5のプレインズウォーカーであることがデメリットになる場面もあるでしょうが、同時にメリットにもなり得ます。
《崇高な工匠、サヒーリ》の常在型能力は確実に強力ですが、デッキを構築している際、彼女を使うのであればその忠誠度能力も活用したいという思いがありました。その実現を図るため、まずは《大祖始の遺産》や《ミシュラのガラクタ》といった軽量のキャントリップ付きアーティファクトを試すことにしたのです。
この手のカードは常在型能力と相性が良いだけでなく、忠誠度能力によって霊気装置トークンやその他のアーティファクトでコピーすれば、キャントリップへと変換できます。キャントリップ付きアーティファクトを採用した構築を試してみたところ、アドバンテージを稼ぐことには長けていましたが、私がモダンで目指しているパワフルさは感じられませんでした。
ブレインストーミングしていく中で、《崇高な工匠、サヒーリ》の忠誠度能力に関連した面白いことを発見しました。アーティファクトが別のアーティファクトやクリーチャーのコピーになる場合、コピー前に配置されている蓄積カウンターなどを保ったままでコピー先になれるのです。
そこで私が閃いたのは、たったの1マナで蓄積カウンターが6つも置かれる《うねりの結節》を用いて《崇高な工匠、サヒーリ》を悪用することでした。モダンをやり込んできたため、マイナーではあるものの《うねりの結節》を使ったデッキが存在していることは知っていました。
私が知っていたのは《罠の橋》や《虚空の杯》を使ったプリズン系のデッキであり、最終的に《金線の賢者》と4マナ以上生み出せる《霊体のヤギ角》で無限マナを生成し、《歩行バリスタ》で勝利するのです。このデッキのコミュニティでは、「ダイスファクトリー」と呼ぶことが多いようですね。ところが少し調べてみると、プリズン以外にも多くの構築があることがわかりました。
調査の一環としてわかったのですが、《崇高な工匠、サヒーリ》の可能性に言及する人はほとんどいませんでした。おそらく試してみた人は誰もいなかったのではないでしょうか。他方で、《大いなる創造者、カーン》はダイスファクトリーのほぼあらゆる構築で使用されており、評価も上々なものが大半を占めていました。
私が《崇高な工匠、サヒーリ》の可能性を話題に出してみると、《パラドックス装置》を使った構築で試し始めたプレイヤーがおり、すぐに《崇高な工匠、サヒーリ》を採用する考えに納得がいったようでした。とうとう私も自分で試してみることにし、まずは以下のデッキリストで始めました。
4 《論議を呼ぶ計画》
2 《テゼレットの計略》
4 《霊体のヤギ角》
4 《永遠溢れの杯》
4 《オパールのモックス》
4 《うねりの結節》
1 《別世界の大地図》
2 《パラドックス装置》
3 《崇高な工匠、サヒーリ》
2 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《大いなる創造者、カーン》
-呪文 (38)-
2 《ギラプールの霊気格子》
1 《歩行バリスタ》
1 《練達飛行機械職人、サイ》
1 《仕組まれた爆薬》
1 《トーモッドの墓所》
1 《液鋼の塗膜》
1 《罠の橋》
1 《パラドックス装置》
1 《マイコシンスの格子》
1 《次元の門》
-サイドボード (15)-
最初に参加したリーグでは4-1を達成。青系のコントロールに4回、ホロウワンに1回当たりましたね。手ごたえは確かであったものの、まず気になったのは《パラドックス装置》の要素がそこまで重要ではなかった点です。このデッキで鍵を握るのは、蓄積カウンター関連のカードと、それらの《崇高な工匠、サヒーリ》との相互作用なのです。
デッキ解説
核となるカード
ダイスファクトリーの核となる部分は以下のカード+土地18枚から成立しています。
核となるパーツはマナを生み出すエンジンであり、ある程度互換性があります。必要となるのは、《うねりの結節》か《地核搾り》のいずれか、そしてそれらのカードで蓄積カウンターを悪用するための《永遠溢れの杯》か《霊体のヤギ角》です。《古きものの活性》は不足しているパーツを探し出す役割を担います。
そして、今や《崇高な工匠、サヒーリ》も核となるパーツの一員に加わったと確信しています。《うねりの結節》を《永遠溢れの杯》や《霊体のヤギ角》のコピーにすれば、早々に大量のマナへとアクセスできるのです。
実例を挙げてみますと、手札に《オパールのモックス》、《うねりの結節》、《永遠溢れの杯》(あるいは《霊体のヤギ角》)、《崇高な工匠、サヒーリ》、土地2枚があれば2ターン目に6マナも生成できます。《オパールのモックス》がない場合でも、3枚目の土地が置ければ3ターン目には6マナに到達しますね。
さらに重要なのは、このデッキの大半は「クリーチャーでない呪文」で占められているため、《崇高な工匠、サヒーリ》の常在型能力がとても強力なことです。
Turn Twogin, the Ineffable pic.twitter.com/p8cuGatlT5
— Jacob Nagro (@JacobNagro) 2019年5月14日
「《人知を超えるもの、2ターン目ウギン》。」
もっとシンプルに3ターン目に6マナに到達する方法もあります。2ターン目に《地核搾り》と《永遠溢れの杯》(あるいは《霊体のヤギ角》)が揃うと、土地さえ順調に伸びていれば《地核搾り》を生け贄に捧げることで3ターン目に6マナまで伸びるのです。この動きの利点は他にもあり、《地核搾り》が除去されそうになっても生け贄に捧げてしまえば、まるで除去を回避しつつマナ加速する《桜族の長老》のような効果を得ることができます。
上記の初動を鑑みると、このデッキにとって6マナはマジックナンバーなのかもしれません。残念なことに《永遠溢れの杯》がコンボパーツの1種なので、マナ加速先のカードは無色でなければいけませんが、無色ならば《古きものの活性》で手札に加えることができるため、デメリットばかりというわけでもありません。
では、核となる部分と矛盾しないマナ加速先のカードとしては何がベストなのでしょうか?面白いことに、ここでも『灯争大戦』のカードになってしまうのですが……《大いなる創造者、カーン》こそがベストだと強く確信しています。
6マナまで伸びれば《大いなる創造者、カーン》は様々なマッチアップで豊富な選択肢を用意できますが、マナがさらに伸びれば、その効力がどんどん大きくなっていく点も見逃せません。また、ベストな手札がこなくとも、たったの4マナでプレイできるのも魅力的です。
ここまで調整を重ねてきて思ったのですが、《大いなる創造者、カーン》はしばらくモダンを象徴する1枚になるでしょうね。高速でマナ加速できるデッキ、トロンやアミュレットタイタン、そしてこのダイスファクトリーなどは《大いなる創造者、カーン》の採用をぜひとも検討すべきです。
デッキリストのアップデート
ここまでの議論を踏まえて、核となるカードは以下のカード+土地18枚にアップデートされました。
これでメインデッキに残る枠は10~11枚であり、サイドボードは《大いなる創造者、カーン》の[-2]能力で手札に加えられるものや、その他サイドインする必要がありそうなものを入れることになりますね。ここからのダイスファクトリーの構築方法は実に多岐に渡ると考えられます。
先ほどのデッキリストのように《パラドックス装置》やドロー/ドロー操作呪文を採用すると、最速で勝てる可能性は上がるでしょうが、《パラドックス装置》が単体で機能しないため、追加のリソースが必要になります。そのため、妨害に弱くなってしまうのです。このデッキを使った結果、追加のマナ加速先のカードは2~3枚ほどで良く、その他はドロー/ドロー操作呪文や妨害できるカードで良いと感じています。最近私が使用したリストをひとつのサンプルとして示しておきましょう。
4 《霊体のヤギ角》
4 《永遠溢れの杯》
4 《オパールのモックス》
4 《大祖始の遺産》
4 《うねりの結節》
4 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《崇高な工匠、サヒーリ》
4 《大いなる創造者、カーン》
2 《人知を超えるもの、ウギン》
-呪文 (38)-
2 《自然の要求》
2 《鞭打ち炎》
1 《ワームとぐろエンジン》
1 《トーモッドの墓所》
1 《仕組まれた爆薬》
1 《真髄の針》
1 《減衰球》
1 《液鋼の塗膜》
1 《罠の橋》
1 《テフェリーの細工箱》
1 《マイコシンスの格子》
-サイドボード (15)-
追加のマナ加速先のカードとしては、《人知を超えるもの、ウギン》が有力な選択肢のひとつだという結論になりました。前倒しで展開できれば単体でも非常に強く、《覆いを割く者、ナーセット》で手札に加えることもでき、《崇高な工匠、サヒーリ》の能力を誘発させ、そして生存した状態でターンが返ってくれば、常在型能力の力で《大いなる創造者、カーン》と《マイコシンスの格子》のコンボをたったの6マナで完成させてしまうのです。《人知を超えるもの、ウギン》を唱えられたのなら、おそらく6マナは使える状況にあるでしょうからね。
《人知を超えるもの、ウギン》と《パラドックス装置》以外のフィニッシャーの選択肢には、《ワームとぐろエンジン》や《ウルザの後継、カーン》が考えられました。どちらにも多くの長所がありますが、特筆すべき点は《崇高な工匠、サヒーリ》の忠誠度能力によって、召喚酔いしていないアーティファクトを《ワームとぐろエンジン》や《ウルザの後継、カーン》が生成した構築物トークンのコピーにすることで相手に大ダメージを与えられることでしょう。
《覆いを割く者、ナーセット》、あるいは《崇高な工匠、サヒーリ》以外の青の呪文は、必ずしもデッキに必要なカードではありません。《覆いを割く者、ナーセット》は試してみたい新カードである、という理由だけで採用していますが、ライブラリーを掘り進めることができる追加のカードとして気に入っていますね。というのも、ほぼすべてのゲームで《大いなる創造者、カーン》を引き込みたいと思っているので、デッキを掘り進められることは重要なのです。
また、《覆いを割く者、ナーセット》は《ガイアー岬の療養所》や《テフェリーの細工箱》と組み合わせると素敵なロックを決めることができますし、ドローを繰り返すようなデッキにとっては非常に厄介な存在になり得ます。さらに、プレインズウォーカーは概して《崇高な工匠、サヒーリ》の常在型能力と相性が良く、このデッキであればブロッカーを大量に用意することができます。
《大祖始の遺産》はただ、一般に好まれる「サイクリング」付きアーティファクトとして機能していました。特定のマッチアップでは墓地対策となって非常に魅力的なのですが、それ以外では価値がありません。そのため、墓地対策を重視しないのであれば、《ミシュラのガラクタ》や《彩色の星》がおすすめです。同様に《崇高な工匠、サヒーリ》と相性が良いうえに、はるかに効果的なシナジーを形成できることでしょう。
マナベースも奥深いものとなっています。私は《崇高な工匠、サヒーリ》に必要な色マナを出せる土地が13~14枚、無色土地が4~5枚の構成にしています。
《ダークスティールの城塞》は《オパールのモックス》と相性が良いのですが、他の無色土地の効果の方が優れていましたね。さらに、《ダークスティールの城塞》は《石のような静寂》や相手の《大いなる創造者、カーン》といったカードへの負け筋を増やしてしまいます。
《爆発域》には驚かされるばかりでした。ダイスファクトリーは長期戦でマナが溢れてしまうことが多いのですが、ゲーム展開を少しでも遅れさせれば、そのマナを有効に使えるようになるのです。また、《石のような静寂》や相手の《大いなる創造者、カーン》への解答にもなりますね。さらに、《論議を呼ぶ計画》や《テゼレットの計略》を採用した構築であれば、このカードをより有効に運用できます。というのも、「増殖」によって、まだ猶予があると考えていた相手の意表を突くことができるからです。
《崇高な工匠、サヒーリ》以外の青の呪文を採用しなければ(《テゼレットの計略》は残してもいいかもしれませんが)、青マナ源の代わりに赤マナ源を入れられるため、《燃え柳の木立ち》を採用できるようになります。ダイスファクトリーは相手をロックして勝つことが多いため、《燃え柳の木立ち》によるライフ回復が裏目になることはほとんどありません。むしろ《死の影》デッキへの対策となるぐらいです。
ダイスファクトリーの今後
さらに調整を重ね、私は《粗石の魔道士》を試しています。《うねりの結節》や蓄積カウンターを置く先となるカードをサーチできるだけでなく、《仕組まれた爆薬》や《虚空の杯》、《大祖始の遺産》といった便利なカードにアクセスできるのです。
特に《虚空の杯》はダイスファクトリーに噛み合ったカードです。《虚空の杯》のカウンターを増やしていけば、相手のマナカーブに沿った動きを妨害できますし、通常では考えられないような数のカウンターを置くこともできるため、特定のデッキにとっては鬱陶しいカードになるでしょう。しかし、ダイスファクトリーに採用されているカードのマナコストは分散しているため、やや扱いづらい側面もあります。ですから《大いなる創造者、カーン》から手札に加えるサイドカードとしてか、あるいは《粗石の魔道士》や《トレイリア西部》と共にメインデッキに入れるカードとして考えるのが良いのではないでしょうか。
また、相手もこちらに対し《虚空の杯》を使ってくるというのは面白い点です。《うねりの結節》や《地核搾り》は相手のアーティファクトも対象に取れるので、《虚空の杯》や《霊気の薬瓶》と対面した際には思い出してみて下さい。
同様に、《仕組まれた爆薬》の採用にも大賛成ですね。おそらくメインデッキの構成はもっと煮詰めるべきなのでしょう。《アカデミーの廃墟》も無色土地の枠に1枚入れたいところですね。《仕組まれた爆薬》も蓄積カウンターの数を操作できるため、ある程度はプレインズウォーカーコントロールのように立ち回ることも可能です。
また、《崇高な工匠、サヒーリ》と合わせたテクニックもあります。《地核搾り》や《うねりの結節》で霊気装置トークンなどに蓄積カウンターを置いたうえで《仕組まれた爆薬》のコピーにすると、コピー元となった《仕組まれた爆薬》を戦場に残しつつ盤面のコントロールができるのです。
まとめ
ダイスファクトリーの核となるコンセプトを一番上手く使う方法もまだ見えてきませんし、デッキの評価に確信が持てるほどプレイしたわけでもありませんが、モダンに必要なパワフルさがあることには間違いありません。《古きものの活性》と《オパールのモックス》を使うデッキですから、早々に決着をつけるだけのポテンシャルを持っているのです。
《パラドックス装置》の構築をアイアンワークスと比較する人が多いようですが、私は決してかつてのアイアンワークスほどには強力でないと考えています。墓地対策を意に介さないという面はありますが、それでも《削剥》や《古えの遺恨》のようなカードへの耐性が大きく低下してしまっています。
また、ダイスファクトリーに対して非常に有効な常在型能力を持つ《大いなる創造者、カーン》がモダンで多く採用されているのも大きな懸念点です。幸いにもダイスファクトリーは《崇高な工匠、サヒーリ》や《人知を超えるもの、ウギン》、《ワームとぐろエンジン》といったフィニッシャーによってある程度盤面にクリーチャーを展開できるようになっています。ここまでの調整で《大いなる創造者、カーン》と対面する機会は幾度とありましたが、数ターンに渡ってクリーチャーで攻撃し、退場させられることが多かったですね。
今後もこのデッキの調整をしていこうと思いますし、他のプレイヤーがどのような調整を施していくのかも楽しみですね。大量のマナからフィニッシャーを展開するというのはすでにトロンが得意とするところですが、ダイスファクトリーは大きく異なる角度からそれを実現しようとするデッキなのです。《減衰球》や《廃墟の地》の採用率が高いような環境では、おそらくダイスファクトリーの方が上手くやれるのではないでしょうか。
何か質問のある方、《崇高な工匠、サヒーリ》と《うねりの結節》を用いた素敵なデッキリストをご存知の方は、お気軽に私のTwitter( @jacobnagro)までどうぞ。
では、今回も読んでいただきありがとうございました!またお会いしましょう!
ジェイコブ・ナグロ