あなたの隣のプレインズウォーカー 第81回 ダク・フェイデンの『灯争大戦』

若月 繭子

この先には2019年4月23日発売の書籍「War of the Spark: Ravnica」(もしくは「灯争小説」と表記します)を資料とする「ネタバレ」が含まれていることをご了承下さい。

こんにちは、若月です。

最近は喋りたいことが多すぎて、ほとんど週刊隣のプレインズウォーカーになってますね。今回は『灯争大戦』における死亡者の1人、ダク・フェイデンについて語ります。様々な意味で不遇な彼、その活躍と記録をここに残しておきます。

ところで、お気づきの人もいるかと思いますが、連載バナーを変更してもらいました。こう……遺影だらけになってしまって切なかったんですよ……。

『灯争大戦』関連過去記事一覧

1. ダクのこれまで

ダク・フェイデン

フィオーラ次元出身のイケメン伊達男にして盗賊のプレインズウォーカー、ダク・フェイデン。この連載で最初に彼を取り上げたのは、もう5年前のことです。当時刊行されていたコミックで初登場し、また彼の故郷が舞台になるというということで、『コンスピラシー』にてカード化されました。その当時までの物語については、第23回に書いています。

ダクは盗賊ということで、盗み(本人は「借りるだけ」と言い張っていますが)をしては騒動に巻き込まれています。そもそもダクは、その色である赤青に相応しく好奇心が旺盛で、また欲をかいてつい無茶をしてしまうところがあります。プレインズウォーカーとして覚醒した経緯は、「悪党に喧嘩を売って殺されかけた」というものですし、トレードマークのような赤い右腕も、「盗みを行って捕まり、その刑罰(というか拷問)を受けた」ことによるもの。ダクが登場しているカードはそれほど多くありませんが、彼のそんな懲りない手癖がちょっとわかるのがこちらです。

工匠の呪詛

《工匠の呪詛》フレイバーテキスト

「見つけない方がいい財宝だってある。盗むなどもってのほかだ。」――ダク・フェイデン

よほどひどい目に遭ったんだろうなあ。

そんなダクは、長年の仇敵を倒した(第23回参照)後、ある時ボロス軍へ盗みに入りました。ですが、元々の目的である宝石を手に入れようとしたところで見つかってしまい、近くに置いてあった鞄を適当に掴んで逃走します。その中に入っていた篭手が、またどうやらいわく付きの物品でした。ダクがそのサイコメトリー能力(対象の物体に込められた記憶を読み取る)を試すと、見えたのはテーロス次元。どうやらそこに篭手のもう片方があるらしく、すぐにダクは旅立ちました。

花崗岩の凝視船壊しのクラーケン

なんとか船に乗せてもらい、船酔いに苦しみながらもサイコメトリーで見えた島へ連れて行ってもらいます。しかし、ようやく辿り着いた洞窟でゴルゴンに襲われたり、必死に篭手の片方を手に入れて帰路につくも、《船壊しのクラーケン》に襲われたりと、やはり散々な目に遭い続けました。

そしてダクは、しばしテーロスに滞在してその篭手を解析するのですが、次第に妙な悪夢と夢遊病のような症状に悩まされるようになります。彼はどうしてか、謎めいたプレインズウォーカーに目をつけられてしまったようなのでした。

悪夢の織り手、アショク強迫

現地で遭遇した魔術師の女性エイザ/Athaによると、それは悪夢使いアショクの仕業であり、ダクは彼女の村を襲ったものと同じ「眠りの呪い」をかけられたようなのです。それを解く手掛かりを求め、ダクは死の国へ続くと言われる洞窟へ向かいました。

……というところでコミックの刊行が止まってしまい、ダクとアショクの顛末は分からずじまいでした。後に『エターナルマスターズ』にて《ダク・フェイデン》が再録されても進展はなく、さらに『コンスピラシー:王位争奪』が発売してもダクの出番はなく、音沙汰のないまま数年の時が流れていきました……。

2. ダク再び

そして平成も終わろうという頃に公開された、あまりにドラマティックな『灯争大戦』トレイラー。

そこに映っていたのはなんと、永遠衆にやられるダク!!??すでにプレインズウォーカー36人のステンドグラスは公開されており、「いないのに何で?」、「ていうかこれ死んじゃうの?」と騒然となりました。さらにダクは、『灯争大戦』の小説においてメインキャラクターの1人である、とも発表されて疑問が増すばかり。けどそこはいつも通り、マローが説明してくれていました。セット発売後の記事になりますが引用します。

公式記事「こぼれ話:『灯争大戦』」より引用

ダクが物語上で重要な役割を演じるということに気がついた時点では、もうカードを入れ替えるのには遅すぎた。

(略)

また、ステンドグラスの動画の作業も始まっていて、さらなる問題を引き起こす可能性も充分にあった。(皮肉なことに、予告動画はもっと後だったので、ダクを入れることは可能だった。)一言で言えば、ダクはあまりにも遅く追加されたので、セットに入れることはできなかったのだ。

つまり、『基本セット2019』でのウギンと同じく、物語の大筋が確定した頃にはもうカードを入れる余裕はなかったと。これは常に難しい問題ですねえ。それもよりによって今回とは……まあ、私はそれを追求するよりもダクの活躍を語るよ。

そしてこれも描写の順は前後しますが、『灯争大戦』小説版にダクがどうやってテーロスでの件を終わらせてきたのかが少しだけ書かれていたので、抜粋します。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター45より訳

ダクは以前、クラーケンと戦えるほどの凄まじい力を秘めた篭手を所持していた。それは眠りの呪いを解くために手放し、そしてその取引から得たものは何もなかった。こうして再び戦いの場に放り込まれた今、何よりもまたあの篭手が手元にあればと願った。

同・チャプター54より訳

斃(たお)れていないプレインズウォーカーはギルドの戦士達と共に、無言の戦慄衆と交戦していた。混沌があった。真の混沌が。ラーボスと死者たちがアショクの眠りの呪いを解くまで、ダクが被っていた悪夢のように。

魂の守護者、ラーボス

この人か。ラーボスは、現世と死の国を隔てる川の渡し守である《通行の神、エイスリオス》の神託者です。この人や死者と取引をして眠りの呪いを解き、またそのために件の篭手を手放したということらしいです。コミックが続いていれば詳しい内容もわかったのでしょうけどね。ちなみにアショクの方はといいますと、こちらはこちらで上記のダクの回想に名前が出ているのみで、本人は一切登場していませんでした。どういうことなの……。

画像タイトル

さて、ダクは『灯争大戦』小説での「語り手役」の1人です。他の多くのプレインズウォーカーと同じく、《次元間の標》に呼ばれる形でラヴニカへやって来ました。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター9より訳

紫色の煙の中、ダク・フェイデンは手ぶらで、苛立って、そして地面から4フィート離れてラヴニカへと現れた。

「畜生!」 不恰好に落下してダクは叫んだ。同じことがこれまで何度あったか、数えることすらやめていた。他のプレインズウォーカーについてはあまり知らないが、空中に出現して無様に落下したことがあると認めた者はいなかった。もちろん、ダク自身も認めたことはなかった。つまり、あらゆるプレインズウォーカーが経験している可能性はあるということだ。

これは『灯争大戦』の小説におけるダクの登場シーンです。絶妙にかっこわるいのが微笑ましい。地上4フィート=約1.2メートル、怪我はしなくとも痛い落下距離だ。ダクにとってラヴニカは、故郷の次くらいには馴染みのある世界です。その世界が、なにやら強力な魔法でプレインズウォーカーを呼んでいるとあっては、気にならないはずがありません。そして盗賊らしく屋根の上に登ったところで、ラヴニカにあるはずのない様々なものを目撃したのでした。第10管区広場に鎮座するピラミッドと彫像、世界の外へ開いた穴、そしてそこから現れるゾンビの軍勢を。

ボーラスの城塞次元橋戦慄衆の侵略

ダクは逃げ隠れしつつ状況を観察します。ゾンビの軍勢が市民を無差別に襲っている。果敢に戦う者もいる。そして別世界の神々が、セレズニアの大樹ヴィトゥ=ガジーを引き裂き、ボロス軍の空中戦艦パルヘリオンⅡは撤退しようしていました。自分もさっさとここから立ち去った方がいい、そう思ったところで、突然聞こえてきた騒音がダクの興味を引きました。グルールの軍勢、そしてそれを率いる者は。

ボーラスの壊乱者、ドムリ

ダクはドムリのことを知っていました。プレインズウォーカーだということも、そして喧嘩っ早い若者であり、未熟ながらもギルド内で影響力を持ちたがっていたということも。

今、ドムリは明らかに先頭に立って仲間を率いている。一体何があったのか?疑問に思ってその様子を見ていると、ドムリ達は城塞へ一直線に向かっていきます。魔法でその声を聞いてみると、なんとドムリはボーラスを仲間のように認識している。ダクにとってラヴニカは故郷でこそありませんが、とても愛着のある世界です。即座にドムリの愚かな物言いに対して怒りが燃え上がりましたが、そこで何かが起こっていることに気付いて足を止めました。

魂の占者灯の収穫

以下、この2枚の場面です。少しむごいかもしれませんので、読んでも大丈夫という方だけクリックで表示して下さい。

ありえない、プレインズウォーカーの灯を奪うなどと。ダクは心底恐怖し、これは自分の手に余る状況だと判断してプレインズウォークを試みました――そして、できないと気付くだけでした。

不滅の太陽

そしてジェイスからプレインズウォーカーの呼び出しがかかると、ダクも会議の場に顔を出します。ですが、そこにはギルドのお偉いさんもいました。上の方で「ボロス軍へ盗みに入った」と書いたように、ダクは脛に疵を持つ身です。案の定、見つかってしまいました。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター32より訳

ダクに対するギデオンの直観は当たっていた。オレリアがダクを発見したかと思うと、不機嫌な声を上げながら向かっていった。

「この泥棒、厚かましくも顔を出すなどとは――」

ギデオンはその肩に手を置いて囁いた。「今はその時ではありません」

オレリアは怒りを飲み込み、頷いた。

正義の模範、オレリア

オレリアが現実主義な性格で&ギデオンがいてよかったな。そして会議で現状と問題が提示されると、ダクは次元橋封鎖作戦に名乗り出ました。ラヴニカからプレインズウォークはできなくとも、次元橋でアモンケットまで行けばそちら側からから逃げられる、というのが一番の理由でした。とはいえそれだけではなく、ダク自身様々なアーティファクトを扱えることや、愛着のあるラヴニカのために力になりたいというのも確かでした。

大いなる創造者、カーン憎悪に歪む者、オブ・ニクシリス暴君潰し、サムト

この作戦の詳細は、第79回で書きましたのでそちらをご覧下さい。なんといっても、まずメンバーのビジュアルが面白いですから。ダクの同行者がこの屈強な3人ですよ。

そして任務を完了し、彼なりに戦うためにラヴニカへ戻ってきたダク。ですが、まもなく不滅の太陽停止ミッションの方も成功し、再び次元渡りが可能となりました。それはとても良いことだったのですが。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター45より訳

そして、それは起こった。

ラヴニカへ帰還した時からずっと、次元渡りを防ぐ魔法の圧迫感があった。心のどこかで彼はそれを喜んでいた。自分は勇敢でありたかった。留まり、戦うような者でありたかった。そして不滅の太陽があるからこそ、その件について選択肢はないのだった。だが、不意に彼はそれを感じた。太陽を切る作戦が成功したに違いない。いつでもこの地を離れられる。実際、そこかしこで他のプレインズウォーカーがそうしている様子が見えた。

多くのプレインズウォーカーが脱出し、そのためラヴニカ側の戦力が減少。永遠衆は押し返し、ギデオンはペガサスの上で撤退を叫びました。ダクも、やはりこの世界を離れたいという誘惑にかられます。自分は結局のところただの盗賊だ。オブ・ニクシリスのような奴でなくとも、ここから脱出した方がいいと判断した者が大勢いる。自分がそうしない意味は果たしてあるのか?

心揺れたその時、ダクは《放浪者》の戦いぶりを目撃します。その真白のプレインズウォーカーは2体の永遠衆に挟まれ、プレインズウォークで脱出しました。賢い選択……と思いきや、その直後に敵の背後に現れて素早くその2体を剣の一振りで始末しました。

放浪者放浪者の一撃

ダクはその動きに心から感銘を受けます。そして、自分もそうしようと決意しました。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター45より訳

もし窮地に陥っても、俺は逃げられる――そしてすぐ後に戻って来られる。ほんの数秒後にでなくとも、やがては。もしくは、戻って来なくたっていい。窮地に陥ったら、逃げればいい――そして戻ってくるかどうかを考えればいい。けれど今は、俺はここに留まって戦おう。

結局のところ、ダク・フェイデンは窮地において逃げるようなプレインズウォーカーになることを拒んだのだ。自分はただの盗賊であり英雄ではないかもしれない。それでも、逃げずに戦うことを選んだ盗賊だということだ……

3. ダクの結末

……というダクの目論見でしたが、最終決戦前。ボーラスを逃がさないために不滅の太陽は再起動されることになります。それはダクも事前に把握していました。

Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――結末の灰燼」(『灯争大戦』第6話)より引用

「なあ。確かに俺はこの議題の一員じゃない。それでも2ジノ賭けよう、誰だってこんなこと、二度とごめんだ。もしボーラスが逃げたなら、また同じことを全員でやらなきゃいけなくなる。俺はこの大男に賛成だ」そしてジュラ氏へと頷いた。「何にせよ、今日全てが終わる」

逃げることはできない、それを知りながらダクもまた最終決戦において地上軍に加わりました。そこでは、ありとあらゆるギルドが肩を並べて戦っていました。ラヴニカの歴史上、誰も見たことのなかった光景です。これは伝説的な戦い、そして自分もその中にいるのだとダクは実感します。

規律の絆間に合わせの大隊ゴブリンの突撃隊連帯

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター54より訳

永遠衆を磁化させながら、ダクはディミーアの暗殺者とラクドスの信者が共に永遠衆の密集軍を崩す様子を目撃した。これは誰も見たことのなかった戦い――歴史にも伝説にもなかったような。そしてダク自身もここに、その中にいた。

自分はこの先落ち着いて家族を持つような人物とはあまり思わなかったが、動けなくなった永遠衆の目を突き刺しながら、ダクは思いを巡らせた。いつの日か、老いた膝に何人かの孫を乗せて、この壮大な物語を聞かせてやれるだろうかと――そして爺さんもそこにいたんだぞ、と。

ダクよ、それはいけない、死亡フラグだ。そして戦いの高揚の中、あまりに前に進み過ぎてしまったダクの目の前に永遠衆が迫りますが、そこで背後から彼を掴んで引き戻す力強い手がありました。背中を守ってくれていたカーンです。ダクは肩越しに振り返り、微笑もうとしました……が。

以下、ドムリの場面と同じく、読んでも大丈夫という方だけクリックで表示して下さい。

……これがダクの最期になります。エイザ/Athaは上でも書いたテーロスにて出会った魔術師の女性、シファ・グレント/Sifa Grentはダクの故郷の街を滅ぼした宿敵。マーシュ/Marshは学友であり、ダクと共に悪漢に喧嘩を売った際に殺されてしまいました。最後のマリエル/Marielは、故郷の今は亡き想い人。ダクは、エイザ以外の全員の死に様を目撃しています(つまり物語が続かなかっただけでエイザもそうなのかもしれない)。そしてこの描写は、彼自身もそこに加わるということ……。

イケメンで女性にもてて、けど決して超人でも英雄でもなくて、むしろ小物っぽくて、いつも散々な目に遭いながらも力と勇気を振り絞って、最後にはどうにか勝利する。ダクはそんな、どこか親近感のあるプレインズウォーカーでした。前回にも書きましたが、私はいつか通常セットでフィオーラ次元に行って、そこでダクの物語を読みたかったんですよね。Mythic Edition版のように、《高層都市パリアノ》を背景にして颯爽と立つダクを……けれど今やそれは、叶わない願いになってしまいました。

ダク・フェイデン

(終)

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若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら