あなたの隣のプレインズウォーカー ~第127回 新ファイレクシアの現状2022 その1~

若月 繭子

新ファイレクシアについておさらいしよう

こんにちは、ご無沙汰しておりました。若月です。結局ずいぶんと間があいてしまいました。

時間のねじれ

しばらくこの連載を休んでいましたが、書きたかったことはたくさんあります。なかでも『団結のドミナリア』が来る前に、なんとしてもこれをまとめておきたかった。そうです、昨今いっそう気配が濃くなってきた新ファイレクシアについて、『カルドハイム』から現在までに出た情報をおさらいします。

1. ファイレクシア再始動

2010-2011年『ミラディンの傷跡』ブロックは、侵略者であるファイレクシアの勝利というバッドエンドで幕を閉じました。

戦争報告

《戦争報告》フレイバーテキスト

下僕のエトゥの二百六十三通目の報告には「確かです、陛下。圧倒的です、陛下」とだけ書かれていた。これがミラディン=ファイレクシア戦争の終結を告げた。

つまり、そのうち新ファイレクシアに帰還し、この世界を奪還する物語が繰り広げられるのだろう……というのが大方の予想でした。しかし、それから実に10年近く、物語はファイレクシアから離れて進行します。

ゼンディカー次元の封印から解き放たれた、世界を食らう無の巨怪エルドラージ。全盛期の力を取り戻そうと目論む、最古の巨悪ニコル・ボーラス。多元宇宙に危機をもたらす脅威ふたつが(一応)対処されました。そして2021年初頭……

『カルドハイム』メインストーリー第1話「旅人たち」より引用

それは体高十二フィート、あるいはもっと高いだろうか。身体は生々しい肉色をしていた。両肩にはまだら模様の毛皮が生え、様々に異なる色がうねっていた。熊に埋もれていた腕は長く力強く、その先端には湾曲した恐ろしい鉤爪が生えていた。胸からは細長い腕がもう二本伸び、鉤爪の手が蜘蛛のように悶えていた。何もかもが異質、だが最も異質なのはその頭部だった。頭蓋骨のようなその顔面は剃刀のように鋭い牙と尖って広がる枝角で囲まれ、それらはインガのランタンの光を受けて、骨の色でありながら金属のように輝いていた。

巨怪な略奪者、ヴォリンクレックス

何でお前がここにいる!!!!!

『カルドハイム』にて突然、新ファイレクシアのキャラクターであるヴォリンクレックスが再登場して騒然となりました。神々と極光の次元に何の前触れもなく現れた明らかな異物。

たしかにエルドラージとボーラスが対処され、残るはファイレクシアだと言われていました。『灯争大戦』の後、カーンはいよいよ対ファイレクシアに本腰を入れるとも語られています。ですが、ファイレクシアのほうから外に出てくることを予想していた人は少なかったのではないでしょうか。

私も「それはないだろう」と思っていました。なんせファイレクシア人はプレインズウォーカーの灯を持てませんし、現在プレインズウォーカー以外で次元を渡る唯一の手段である《次元橋》は有機体を運べないのですから。

さらに、新ファイレクシアにもキャラクターは大勢います。そのなかでも、このヴォリンクレックスがほかの次元で再登場というのも驚きでした。新ファイレクシアは白・青・黒・赤・緑の5色に勢力が分かれており、ヴォリンクレックスは緑の勢力「悪意の大群」の法務官(支配者)です。緑という色の一面である弱肉強食を、ファイレクシアらしい残虐な形で体現しています。

飢餓の声、ヴォリンクレックス法務官の相談

法務官には個性豊かな人物がそろっています。ただ、新ファイレクシアを支配していると言われる白派閥のエリシュ・ノーンや、ほかの派閥と相容れず孤立を貫いている赤派閥のウラブラスクに比べて、ヴォリンクレックスはあまり話題に上がらないほうでした。

それが『カルドハイム』で物語の中心人物として、いやそれだけでなく「ファイレクシア人が他次元で目撃された」という多元宇宙を揺るがす事実を示すものとして大いに話題になった。これはある意味感慨深かったです。

公式記事「カルドハイムの伝説たち」より引用

ヴォリンクレックスがカルドハイムへ到来した理由は現在のところ不明ですが、その目的が極悪であるのは間違いありません。彼が次元を渡った手段もまた謎です。ヴォリンクレックスの有機組織はその旅の間に破壊され、金属と骨が残るのみでした。残骸の匂いを嗅ぎにきた雄鹿の肉を用いて彼は新たな身体を創造すると、ヴォリンクレックスはゆっくりと森の食物連鎖を上り、満足のいく姿を手に入れました。

ヴォリンクレックスは『カルドハイム』のメインストーリー第1話から登場、主人公であるケイヤと戦いますがこのときは逃走します。

樹の神、エシカ星界の霊薬

以降はティボルトが関わりをほのめかす程度で物語には出てきませんでしたが、最終話のエピローグにて再登場。《樹の神、エシカ》から世界樹の樹液を強奪すると、ポータルらしきものを通って去っていきました。どうやら目的は「世界樹の樹液を手に入れる」だったようです。これはカルドハイムの神々にさまざまな力を与える《星界の霊薬》の原材料。

では、プレインズウォーカーではないはずの彼がカルドハイムに渡った手段は?そもそもカルドハイムについてどうやって知ったのか?いろいろと謎は残ったままでした。

そして「ファイレクシア人がほかの次元で確認された」ことは当然、物語内でも大事件だったようです。ケイヤはファイレクシア人を(存在を知っていたとしても)見たことがなかったのか、ファイレクシアに思い当たったような様子はありませんでした。それでも、ゲートウォッチの同僚であるテフェリーに報告や相談はしたのでしょう。後に『イニストラード:真紅の契り』最終話にて、テフェリーはアーリンへと「何かが迫りつつある」と警告しています。

『イニストラード:真紅の契り』メインストーリー第5話「死が我らを分かつまで」より引用

「その脅威がいかに深刻か、私は誰よりも知っている。ファイレクシアという名の脅威だ。もしも奇妙な黒い油か、肉体と機械が混じり合った存在を見かけたなら……何かしら奇妙なものを見かけたなら、私たちの誰かに知らせて欲しい。この旅の間に何か手掛かりが見つかるかもしれないと思っていたのだが、何事もなくてそれはそれで良かった。この鍵は役に立ってくれるだろう」

『イニストラード:真夜中の狩り』『イニストラード:真紅の契り』では、人狼として生きるアーリンの苦悩と決意が、そしてソリンの鬱屈からの脱出と敬愛する祖父との決別が、「永遠の夜」という危機を対処する戦いとともに描かれました。それらは綺麗に収束しましたが、テフェリーがほのめかしたファイレクシアの脅威は「やはり近々来るのか……」と思わずにはいられないものでした。

2. ジン=ギタクシアス in 神河

当世

前回から実時間で17年、物語時間で1200年を経て大きく様変わりした神河。物語では早々に言及された「金属の腕の男」の存在もあり、この次元の急速な発展にはファイレクシアが関わっているのでは?という予想もあったようです。そんな予想がされること自体、多くのプレイヤーがファイレクシアをはっきりと意識し始めている証拠だったのでしょう。

ただ、公式記事「神河史譚:当世」によれば、霜剣山市の職人やサイバ未来派の科学者によって技術革新がもたらされたのであって、この件にファイレクシアは関係なかったようです……この件には。

『神河:輝ける世界』メインストーリー第2話「嘘と約束とネオンの輝き」より引用

巨大な影が今一度動き、光の中に入ってきた。見たこともない怪物が現れ、魁渡は息を止めた。輝く金属の身体、鉤爪の両腕に曲がった背。むき出しの肋骨と棘のある脊柱は金属細工のようだった。恐ろしい顔面と口は鳥に似ているもののあらゆる箇所が尖り、そのずらりと並ぶ長く平らな歯を見た魁渡は、倉庫の外にいながらも後ずさった。

発展の暴君、ジン=ギタクシアス

うわあああいたあああああ!!!!!

『神河:輝ける世界』に登場したファイレクシアンはジン=ギタクシアス青の派閥「発展の動力源」の法務官であり、いわゆる科学者系・頭脳派系の幹部です。当時の物語ではあまり目立ってはいませんでしたが、カードはなかなか印象深いものでした(そもそも『ミラディンの傷跡』ブロック当時はまだストーリーのウェブ連載がなく、刊行された小説でも法務官5人はまったく登場していなかったのですが)。

核の占い師、ジン=ギタクシアスギタクシア派の調査血清の幻視

本人も強烈な能力ですが、それ以上に有名なのが“ギタ調”こと《ギタクシア派の調査》ですね。2022年7月現在モダン・レガシー・パウパーで禁止、ヴィンテージで制限というとんでもないカード。また『モダンマスターズ 2017年版』の《血清の幻視》にもギタクシアスが描かれています。

《血清の幻視》フレイバーテキスト

かつて、血清はミラディンのちらつき蛾から採取されて霊感の幻視をもたらしていた。現在の血清はファイレクシアの墨蛾から採取されて完成の幻視をもたらす。

肉体の裏切者、テゼレット

そして金属の腕の男ことテゼレット。一発でわかるこの特徴は優秀だ。『灯争大戦』にてニコル・ボーラスが敗北し、その下僕であったテゼレットは晴れて自由の身となっていました。

その後の動向ははっきりしていませんでしたが(続編の小説ではラザーヴと共謀していましたが、この話の扱いがどうなっているのか今のところよくわからない)、やはりといいますか旧知のファイレクシアと組んでいました。かつてボーラスの手下を務めていたころ、テゼレットは命令を受けて新ファイレクシア(厳密にはまだミラディン次元を完全に掌握する前でしたが)へと出向していたのでした。

書籍「The Art of Magic: The Gathering – War of the Spark」P.48より訳

ボーラスの工作員としての(テゼレットの)最初の任務は、ファイレクシアの奇妙な機械生命体による侵略を受けているミラディン次元を訪れることだった。彼はファイレクシアの拡大を監視してその進行状況を報告するよう、またファイレクシアの勢力が単一の指導者もとに結束するのを防ぐよう指示されていた。

漆月魁渡魁渡の追跡

さて、『神河:輝ける世界』の主人公である《漆月魁渡》は、失踪した幼馴染である《放浪皇》の行方を探す中でその手がかりであるテゼレットに、そしてギタクシアスに遭遇します。彼らはサイバ未来派(主として空民で構成される科学者集団)の一部と組み、神河の神を実験体とした怪しい研究を行っていました。

なお、サイバ未来派のほうは(少なくとも、その一員である《現実の設計者、タメシ》は)、ギタクシアス曰く「望ンデ関与シテイタ」そうです。脅されていた可能性ももちろんありますが、彼らはときに一線を踏み越えるような研究を行っていると噂されています。ファイレクシアの技術力に魅せられてしまったのでしょうか……。

『神河:輝ける世界』の伝説たちより引用

魂なき生物であるファイレクシアンは、プレインズウォーカーの力を先天的に獲得することはできない。別の法務官であるエリシュ・ノーンは多元宇宙を掌握するため、プレインズウォーカーをファイレクシアンに変える方法を探すようジン=ギタクシアスに課した。利己的なプレインズウォーカーであるテゼレットの助力を得て、ジン=ギタクシアスは神河を訪れた。ふたつの領域が重なり合うこの次元の性質が、その研究の参考になると彼は信じていた。その実験は成功し、彼はムーンフォークのプレインズウォーカー、タミヨウを最初のファイレクシアン・プレインズウォーカーへと変えた。

ギタクシアスが神河を訪れた目的は「プレインズウォーカーをファイレクシア化する方法を探すこと」。魁渡は同じ神河出身のプレインズウォーカーであるタミヨウとともに研究室へと押し入った際にそれを知らされます。ふたりは《放浪皇》の助けもあってギタクシアスに重傷を負わせますが、続く皇宮での戦いにおいて、一瞬の隙にタミヨウはテゼレットにさらわれてしまいました。そして彼女は新ファイレクシアへと連れ去られ……

完成化した賢者、タミヨウ

「プレインズウォーカーはファイレクシアの油に免疫を持つ」という認識は広く知られていたため、メインストーリー最終話のエピローグはファイレクシアの恐ろしさを知らしめる衝撃的なものでした。タミヨウ、初登場から長い時を経てようやく地元で取り上げられたと思ったらこんなことになるとは……。

この「プレインズウォーカーのファイレクシア化」というのはどうことなのか。これはマローが「私の専門ではなく、詳細は間違っているかもしれないが」と前置きした上で説明してくれていました。大まかに訳します。

ファイレクシア人は魂を持たないためにプレインズウォーカーの灯を保持できない。灯を保持するためには魂が必要なのだ。同じ理由で、ほかのいくつかのクリーチャー・タイプもプレインズウォーカーになることはできない(カーンのように例外はある)。

大修復以前のプレインズウォーカーは、その姿形を自由に制御できる能力によってファイレクシア化への耐性を持っていた。これは大修復以後のプレインズウォーカーにはあてはまらない。

ファイレクシア人は多元宇宙を認識している。大修復以前、彼らはポータルを用いて次元間を移動していた。だが大修復はそれらのポータルを閉ざした(私が知る限り唯一の例外は《次元橋》だ――それでもこれは生きたものを運ぶことができない)。

ある者をファイレクシア化することはその魂を取り除くことであり、つまり次元を渡るというプレインズウォーカーの能力を奪ってしまうことを意味する。プレインズウォーカーとは次元を渡る存在である。従ってプレインズウォーカーをファイレクシア化するというのはファイレクシアの問題の解決策ではなかった。

ジン=ギタクシアスは神河にて精霊を研究し、ファイレクシアにとって価値ある情報をそれらが保持しているかもしれないと信じるようになった。やがてジン=ギタクシアスは、魂/灯を取り除くことなくプレインズウォーカーを完成させる方法を見出した。

ファイレクシアは日々進歩しています。つまりはもうプレインズウォーカーだからといって安心はできないということでしょう。この結末には「この先も誰かが完成化させられるのだろうか」と戦々恐々とさせられました。これからは、お気に入りのプレインズウォーカーがファイレクシアに堕ちるかもしれない、という怖れが常につきまとうのです……。

ちなみに『神河:輝ける世界』のメインストーリーは1日1話のハイペースで掲載されていまして、日本語版の掲載時間は日本時間の正午。最終話にてタミヨウは完成化してしまったのですが、日本語記事の掲載よりも数時間前に公式動画でカードが公開されており、「どういうこと!?」と混乱と驚きが巻き起こりました。それがあったからなのか、次の『ニューカペナの街角』のストーリーは本国と完全同時掲載になっています。閑話休題。

話がそれたついでにもうひとつ。『神河:輝ける世界』のジン=ギタクシアスは登場だけでなくその格好もまた話題になりました。元から腰巻きらしきものを身につけていましたが、今回のそれは明らかに着物だな!?

発展の暴君、ジン=ギタクシアス発展の暴君、ジン=ギタクシアス

荒波文だ。ショーケース版では屋根の上で月見をしているのか、ともかく明らかにネオ神河をエンジョイしておられる。どこか笑っているような口元の形状のせいもありまして楽しそうです。

3. 「ファイレクシアン」の適用

これも取り上げておきましょう。『カルドハイム』のヴォリンクレックスから新設されたクリーチャー・タイプ、「ファイレクシアン」。2021年6月の『モダンホライゾン2』発売に合わせ、過去のファイレクシア関係クリーチャーにも適用されました。これが物語に何か影響するわけではないと思いますが、ファイレクシアの再始動とあいまって結構なニュースでした。詳細は第116回で解説しています。

スカージの使い魔骨砕き

ファイレクシアン、あるいはファイレクシア人。彼らは肉体と金属が融合した異形の怪物であり、「もともとファイレクシアで生まれた(作られた)存在」と「後天的にファイレクシア化された存在」の両方が含まれます。こうして定義されたことによって、スリヴァーやエルドラージのようにマジック独自の種族として、そしてひとつの脅威としての存在感がはっきりしたように思えます。

その一方、ゲーム上ではクリーチャー・タイプ対策が刺さるようになってしまったのですが。疫病をまくファイレクシアンが疫病にやられる……

仕組まれた疫病疫病を仕組むもの

こうして晴れて(?)ファイレクシアンとなったカードは実に200枚以上。ほとんどはまだデータ上で変更されたのみですが、統率者や特殊セット系の再録によって紙で実際に印刷されるファイレクシアンも少しずつ増えています。

かき鳴らし鳥ファイレクシアの破棄者進化の爪、エズーリ

このなかでもエズーリはもともと、『ミラディンの傷跡』ブロックの物語にてファイレクシアへの抵抗勢力のひとりとして登場していました。ですが当時その結末はわからず、それから4年後の『統率者(2015年版)』にてこの姿ですよ。当時すでに『新たなるファイレクシア』からはそれなりに経っていたこともあって「幕間でそういうことする!?」と話題になりました。この連載でもだいぶ昔、第39回にて取り上げています。

ちなみに緑青エズーリは『ダブルマスターズ2022』以前にもジャッジ報奨として再録されていましたが、そちらに「ファイレクシアン」のタイプは入っていませんでした。同じジャッジ報奨のファイレクシアン、《ヨーグモスの息子、ケリク》も同様に。

ヨーグモスの息子、ケリク進化の爪、エズーリ

当時は「なんで入ってないんだろう」と疑問でした。「Phyrexian」は文字数が多いのでスペースの問題だろうか、と私は思いました。実際、ファイレクシアンのカード実物を見るとどれもタイプ欄が結構ぎっちぎち。単に印刷が間に合わなかったんでしょうかね。

4. 続きます。

というところですでに結構な長さになってしまいましたので、一旦ここで切ります。そうか、普通に連載続けていれば毎月何かしら取り上げていただろうけど、一気に書こうとすると物量が多くなるんだな。次回も原稿は書き上がっていますので、掲載まで少々お待ちください。

異端の法務官、ウラブラスク

(続く)

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若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら