あなたの隣のプレインズウォーカー ~第39回 あなたの隣のコマンダー2015~

若月 繭子

若月 繭子


 だがそして見たのは、ああ、神々と異形――



※画像は【守るべき約束】より引用させていただきました。


 どうするのこれ……

 こんにちは、若月です。年越しを前にして来ちゃったよ、あのペテン師が……。昨年末の『タルキール覇王譚』→『運命再編』の流れは非常に熱かったですが今年もストーリーの熱さは負けず、ただし絶望風味。一体ここからどうやって『ゲートウォッチの誓い』のわりと平穏そうな絵に辿り着くのか。私も知らない。

 それはそれとして、予告通りに今回は『統率者(2015年版)』のお話です。それぞれの統率者や彼らの世界について、懐かしいものも馴染みあるものもまとめて色々お届けします。ていうか、もはやこの連載タイトルの「プレインズウォーカー」とは一体。もうちょっと柔軟性のあるタイトルにしておけば良かったかなーと今さらになって思っています。



1. 対抗色の歴史

 今年で4セット目となる『統率者』シリーズ。毎回異なる色の組み合わせで発売されており、楔3色(2011年)→弧3色(2013年)→単色(2014年)ときて今年は対抗2色が登場しました。

 「対抗色の組み合わせは強い」

 昔からよく言われてきた言葉です。色の性質的な弱点を補い合うこと、そしてマナベース的に運用が比較的難しい傾向にある分、対抗色のカードには強いものが多いというイメージがあり、実際に強力なものも多数存在します。

 「対抗色は強い」というイメージを決定的なものにしたエキスパンションは、何といっても『アポカリプス』でしょう。それまでにも「プロスブルーム(カダベラスドレイン)」のキーカード《資源の浪費》《死体の花》のようにトーナメント史に名を残したものもありますが、何せ対抗色カードの存在そのものが割と珍しいものでした。『アポカリプス』では初めて対抗色が大体的にフィーチャーされており、多くの対抗色カードがトーナメントで活躍しました。


予言の稲妻破滅的な行為名誉回復


 2015年の今もスタンダードで使用されている「対抗色ダメージランド」も、この『アポカリプス』出身です。

 マローも言っていましたが、初期のマジックはかなり友好色に偏っていました。初めてマルチカラーが登場したのは『レジェンド』ですが、ここでは友好2色と弧3色(今で言うところの断片カラー)の組み合わせのみで、対抗2色のカードは存在しませんでした。対抗色のカードはそのまもなく後、『ザ・ダーク』にて登場しますが、黒緑の《森の暗き中心》1枚のみでした。ちなみに『ザ・ダーク』の多色カードは計3枚あり、もう2枚は黒赤の《Marsh Goblins》と赤緑の《Scarwood Goblins》です。


森の暗き中心


 マジック初の対抗色カードがこちら。後に『ラヴニカ:ギルドの都』にて、ゴルガリにぴったりということで《深き闇のエルフ》と共に再録されていました。

 そして対抗色の伝説クリーチャーとなると今も少なく、ラヴニカのギルドマスターやテーロスの神々といった「2色サイクル」がそのほとんどを占めています。青赤・赤白・緑青に至っては旧ラヴニカブロックでようやく初登場、『レジェンド』にて「伝説クリーチャー」というものが登場してから実に11年以上が経過してからのことでした。


2色の「伝説のクリーチャー」の枚数(『統率者(2015年版)』以前)
白青
青黒
黒赤
赤緑
緑白
25
22
22
20
22
白黒
青赤
黒緑
赤白
緑青
8
7
11
11
6


 検索して思わず「少なっ!」とか叫んじゃったよ。

 というわけでこれから『統率者(2015年版)』の新入り10人について書いて行きますが、今回一番困ったのは、「情報量が違いすぎる」ことでした。昨年の統率者プレインズウォーカー5人は結構均等に書けたのですが、今年の10人は全くの新顔もいれば過去のストーリーでの豊富な情報があるキャラクターもいまして、どうしてもここで取り扱う量にも差があることをご了承下さい。



2. 新顔組

 統率者セットは全く新しい世界を「チラ見せ」してくれる良い機会でもあります。まずはそんな完全新規(たぶん)の2枚から。また、個々のキャラクターについての情報は主に公式ウェブサイトの『統率者(2015年版)』製品ページを参考にさせていただいております。



《変容する炎、アルジュン》


変容する炎、アルジュン


 ……顔濃いなあ、というのが第一印象でした(ごめん)

 アルジュンは初の「赤入りスフィンクス」です。『統率者(2015年版)』以前にスフィンクスは35枚存在しましたが、全てエスパーカラー内に収まっていました。それだけにこのアルジュンは全く新しい次元のスフィンクスのような気がします。公式ウェブサイトには「知る者も少ない多元宇宙の片隅にて~」とあるのでメジャーな世界ではないのかもしれませんね。


《無慈悲なる天使、アンヤ》


無慈悲なる天使、アンヤ


 「昼が、戦が、そして命が免れぬ終わりに近づくとき、アンヤは死のごとき優雅さをもって戦場に舞い上がり、敵の弱点から力を引き出して彼らを死へと急き立てる」(製品紹介より)えらいかっこいいぞ。赤白の天使の例に漏れず、赤の情熱をもって白の正義を遂行するらしいアンヤ。赤白の天使は『ラヴニカ:ギルドの都』が初出、そしてその通りラヴニカに多く存在しますが(全8枚中4枚)、アンヤの出身次元は今のところわかりません。ラヴニカならラヴニカと書かれていると思うので違いそう。

 統率者シリーズやプレインチェイスといった特殊セットで登場した新次元、それが後に大々的に取り上げられる、というパターンは実のところ結構あります。例えば記憶に新しい『マジック・オリジン』、ジェイスの故郷は「ヴリン/Vryn」という聞き慣れない次元であることが明かされましたが、これは『プレインチェイス2012』にて登場していました。

 また、昨年発売された『コンスピラシー』の舞台は「フィオーラ/Fiora」という新登場の次元でしたが、それよりも半年程早くに発売された『統率者2013』収録の《電位式の天才、シドリ》はそのフィオーラ出身のキャラクターであり、公式記事にてその世界についてもわずかにほのめかされていました。




 というわけでこのアルジュンとアンヤも、覚えておくと今後何かあるかも?



3. 少し懐かしい世界で

 様々な世界を再訪するのも統率者セットの醍醐味です。新キャラであっても「ああ、ここか!」と懐かしく、嬉しく思えるような顔ぶれがあります。



《ネル・トース族のメーレン》


ネル・トース族のメーレンネル・トースの災い魔


 黒緑デッキの顔はジャンド出身のシャーマン娘でした。ねえ、経験カウンター組でも頭一つ抜けて強くない? 何で手札に加えられるの?

 メーレンはジャンド生まれ、シャーマンの素質を見せながらもその力は実のところグリクシスの屍術に寄ったものでした。自身の力を年長者達へと示す儀式の最中にそれが明らかとなり、メーレンは異端として追放されてしまいます。彼女はそれでも生き延び、やがてグリクシスへと辿り着いて屍術を学び、そして自分を追放した氏族への復讐のためジャンドに戻ってきました。

 新規カード《ネル・トースの災い魔》はメーレンが従えるドラゴンゾンビ。かっちぇえなあこれ。ジャンドにおいてドラゴンは食物連鎖の頂点に立つ存在、これを使役する彼女の力がわかります。ちなみに氏族名「ネル・トース」はアラーラブロックにて、フレイバーテキストのみですが出ていました。


傷跡の地のトリナクス病的な花


《傷跡の地のトリナクス》フレイバーテキスト
「ジャンドで生きる方法は一つしかない。より強い何かに殺されるまで、弱いものを食いものにしていくのだ。」
――ネル・トース族のジョルシュ


《病的な花》フレイバーテキスト
「私は呪われたものから我が庭を造る。」
――ネル・トース族のジョルシュ


 公式記事「ジャンドの全ての石塚が」にてこのメーレンの物語と、《衝合》を経て一つとなったアラーラ世界の現状が描かれていました。舞台は旧ジャンドと旧グリクシス。物理的に繋がったため、隣の断片へ歩いて行くことすら可能なようです。旧断片はもはや「アラーラ世界でも特定の弧3色が濃い地域」のようなものと考えても良いのかもしれません。

 今のところ「回帰」こそしていないながらも、アラーラ世界からは新カードが時々やって来ます。


浄火の戦術家、デリーヴィーエーテリウム角の魔術師断片無き工作員


 強ジェネラルとして有名な《浄火の戦術家、デリーヴィー》は製品情報によれば色そのままにバントのエイヴン。《エーテリウム角の魔術師》はエスパーにいなかったミノタウルスがエーテリウムを身につけ、《断片無き工作員》は青緑という色ながらもアーティファクト・クリーチャー。カード名の通り断片を越えて活動をする何らかの工作員なのでしょう。基本は友好3色、なおかつその範疇を超えて「融合した世界」も表現できる。今もアラーラは楽しい世界だと思います。



《イロアスの信奉者、カレムネ》


イロアスの信奉者、カレムネカレムネの隊長


 カテゴリ分けの都合上ここに入れましたけれど、テーロスは「懐かし」くもないかな。

 カレムネは力と栄光を求める戦士として《勝利の神、イロアス》を信奉する、それ自体はテーロス世界では決して珍しくはない存在です。とはいえ彼女の種族、巨人がどの程度神を信仰しているのかはこれまでも記述がないのでわからないのですが。サイズ的な問題で他と絡ませ辛いのか、いまいちメインストーリーに絡んでこない巨人という種族。マイナーって訳でもないんですけどねえ。


百手巨人天を支える者永遠の炎のタイタン


 テーロスの巨人達はむしろ「ギリシャ神話が元ネタのクリーチャー」が目立ちますよね。

 「2色小神」十柱が揃っているためか、ラヴニカ程ではないにしても2色が違和感なく存在するテーロス。イロアス神はその中でもテーロス世界三大都市国家の一つ、アクロスの主神であることからか結構存在感のある神です。武勇や肉体的能力を尊ぶ者がその信者となり、アクロスでは毎年夏の盛りに「イロアスの競技会」、我々の次元で言うところのオリンピックが開催されています。

 そういえば《勝利の神、イロアス》《殺戮の神、モーギス》は双子なのですが、見た目は全く違うじゃないですか。


勝利の神、イロアス殺戮の神、モーギス双子神の指図


 ケンタウルスとミノタウルスの双子? って思いますよね。よく見るとイロアス神の下半身は馬ではなく牛です。つまり双子の両方とも半分人で半分牛ってことらしい。なんかこうテーロスブロックは色々と面白い話を逃して来てしまったので、隙あらばこうやって言及していきたい……ってカレムネの話ではなくほとんどイロアス神の話になってしまった。



《大蛇の大魔導師、かせ斗》


大蛇の大魔導師、かせ斗


 神河だーーー!! 『アヴァシンの帰還』(2012年5月)&『プレインチェイス2012』(同・6月)以来3年ぶりの神河新キャラですよ!!


月の賢者タミヨウ静刃の鬼逆嶋の学徒


 世界観の人気は高いながら、あまりに独特なこともあってか「回帰」の気配がなかなか見えない神河。そして神河ブロックの物語は数千年前の出来事とされており、「現代神河」がどうなっているのかはわずかしか語られていません。小説「Future Sight」や「Agents of Artifice」(ジェイス小説)に少々ですが描写があり、また上に挙げたカードから建造物や住人の衣装の雰囲気に大きな変化はないように見えることから、少なくともミラディン→ファイレクシアのような次元規模の劇的な変化は起こっていなさそうです。いつか神河ブロックの詳しい話もしたいなあ。

 かせ斗のクリーチャー・タイプは「蛇・ウィザード」ですが、見ての通り直立しており四本の腕を持っています。蛇は蛇でも「大蛇人(おろちびと)」という知的種族。神河世界には独特の知的種族がいくつも存在します。大蛇人以外にも色ごとに狐人(白)、空民(青)、鼠人(黒)、悪忌(赤)。クリーチャー・タイプは(空民以外は)他の次元のそれと同一ながら、二足歩行をして言語を操り、それぞれが独自の文化を育んでいます。


八ツ尾半曇り鏡のメロク鬼の下僕、墨目鏡割りのキキジキ


 蛇人は蛇人でもタルキールブロックで出てきたナーガとはまた別、むしろこちらが先です。

 公式記事「一連の幸運:神河世界のデザイン」(翻訳ウェブアーカイブ版はこちら、ただし画像は見られません)によれば、「四本腕の蛇」というアイデアは神河ブロックのコンセプトアートに携わった日本人アーティスト、一徳氏によるものなんだそうです。


巻物の君、あざみ潮の星、京河御霊の復讐


 一徳氏のカードはこのあたりが有名ですね。

 少し話がそれました。

 かせ斗は《清められし者、せし郎》の子孫。大蛇人は他の知的種族とはあまり関わりを持たず、樹海地方にて独自の文化を育んできました。ですが神河ブロックで語られる「神の乱」によってそれも変わらざるを得なくなります。せし郎は人間の僧に接触し、その知啓を学んだ最初の大蛇人でした。


清められし者、せし郎せし郎の息子、そう介せし郎の娘、さ千


 せし郎一族。神河ブロック小説にはせし郎本人は顔を見せていませんでしたが、《せし郎の息子、そう介》《せし郎の娘、さ千》は登場し、主人公である《梅澤俊郎》と少し関わっていました。

 ところで神河ブロック時代、大蛇人の名は「せし郎」「そう介」「さ千」等々、全てサ行から始まっていました。これは「蛇が立てるシューシュー音をイメージしたもの」なのだとか。ですが、かせ斗は違いますね。数千年の時が経ち、他種族とも接するようになった大蛇人は命名法則も変わったのかもしれません。そして神河ブロックで多色カードは極めて稀、相当特別な存在でした(3セット計641枚中2枚)。そんな世界から多色クリーチャーが参戦、そして「蛇・ウィザード」というクリーチャー・タイプの組み合わせは、かせ斗が初です(シャーマンでしたらたくさんいました)。

 前述の通り、せし郎の世代から人間と関わりを持ち始めたらしき大蛇人。それから数千年が経ってもなお、それが偉業として伝わっており尊敬を集めている。確かな変化がありながらも、神河という世界はきっと平和に存在し続けているのでしょう。《大蛇の大魔導師、かせ斗》のカードはそんなことを語ってくれている気がします……あーそうそう、神河の蛇といえばこれは書いておきたい。


桜族の長老


 神河ブロックの蛇で最も使われたのは間違いなくこのカードでしょう。戦闘ダメージスタックルールがあった当時はものすごく嫌らしかったんですよ。こっちの《サバンナ・ライオン》と相打ちついでに土地持ってくるのやめてくれませんかね!



4. 変わらない場所

 2色と言えば何といってもラヴニカ。『統率者2015』には新規・再録合わせて15枚の伝説クリーチャーが収録されていますが、うち新規3枚・再録4枚の計7枚を送り込んできました。


《幽霊議員カルロフ》


幽霊議員カルロフ


 突然ですがちょっと個人的な話を。

 ラヴニカへの回帰ブロック時代、「ギルドを選べ!」という企画がありました。私達プレイヤーがそれぞれ「所属ギルド」を選ぶというもので、好みのギルドに入るも良し、「ギルド診断」を受けて自分の性格に合ったギルドに入るも良し。私は特に贔屓のギルドというのはなかったので診断を受けてみたところ、結果はオルゾフ。前作では主人公ポジだったし扱いも良かったしそれなら、とオルゾフを選びました。そうなると愛着が湧いてくるもので、今年の統率者セットが対抗2色と知った時には「じゃあオルゾフのカード来るな!」とわくわくしました。ん~実にオルゾフ、でも「また幽霊議員か!」と思ったのは確かですごめんなさい。

 閑話休題。「カルロフ」は家名です。オルゾフ組でも重鎮の一族であり、旧ラヴニカブロック主人公の一人、テイサのフルネームもテイサ・カルロフ。オルゾフ組の大ボスが「幽霊議員オブゼダート」なのですが、それはオルゾフの過去の総統や重鎮の幽霊の集合体から成っています。時々入れ替わりもあるらしく、《オルゾヴァの幽霊議員》《幽霊議員オブゼダート》は基本的に同一の存在ながらメンバーは多少違うのだそうです。カルロフはそのオブゼダートを構成する一人。言ってみれば「ソロデビュー」ですかね。《幽霊議員オブゼダート》の中央後方にはどうもカルロフらしき幽霊がいます。


オルゾヴァの幽霊議員幽霊議員オブゼダート


 そしてカルロフの孫娘である《幽霊の特使、テイサ》も再録され、一緒に公式記事を貰っていました。テイサの反逆、そしてオブゼダートの強欲さが描かれた「一族の値打ち」。何とこの物語、『ドラゴンの迷路』プレビュー記事の続編も兼ねているという。これ原文掲載2013年4月よ!2年半越しの続きて!! 「どうなったんかなー」とぼんやりと気になってはいたので嬉しかったですけどね。弁護士としてのテイサや従者スラルのグラッグ兄弟、伯父様と要所要所に旧ラヴニカブロック小説を踏まえた描写があってニヤリとさせられました。

 ボロス軍の《軍勢の刃、タージク》の助力を得てオブゼダートへの反逆を企てていたテイサ、ついに行動に移りますがその企ては察知されていました。オブゼダートの聖域に侵入したもののそれは実は誘い込まれていたことが発覚し、タージクは囚われ、テイサはラヴニカで法の力を振るうために必要な弁護士の地位を剥奪されてしまいました。


幽霊の特使、テイサ


 この話で何より衝撃だったのがテイサの実年齢112歳。とは言ってもラヴニカ人の年齢はよくわからないんですよね。一年の長さが短い説もありますし、オルゾフなら金で若さも寿命も割とどうにかなりそうですし。アーティストKarla Ortiz氏によればテイサのアート指定は「洗練された、策士の、魅力的かつ冷酷な30代女性」。つまり少なくとも外見は30代ってことですか。タージクも気になりますが、あの人破壊不能持ってるからまあ大丈夫っしょ。

 と、気になる引きで終わりましたが、次にラヴニカが語られるのはいつになるんでしょうね。『イニストラードを覆う影』にジェイスが登場するようですが、ゼンディカーから一旦ラヴニカに戻って準備をするタイミングがあればあるいは? 複数の世界を扱うマジック背景世界を追うには「気長に待つ」ことも時に大切。



《イズマグナスのミジックス》


イズマグナスのミジックスミジックスの熟達


 このカード名、ちょっとわかりにくいかもしれませんが「ミジックス」が個人名、「イズマグナス」はイゼット団内の役職名です。

公式記事「プレインズウォーカーのための『ラヴニカへの回帰』案内 その2」より引用
ニヴ=ミゼットの個人的廷臣を務める下僕達はイズムンディという名で知られている。ニヴ=ミゼットはこの廷臣達を用いて策謀をめぐらせ、またここから外の世界の出来事を随時把握している。イズムンディの構成員のなかでも特に力のあるのがイズマグナスである。構成員は通常5名から7名で、そのうち数人は素性が秘密となっている。


 ミジックスは当初研究者の助手や随員といった役割でイゼット団に入り、ですがすぐに知性と能力を発揮してギルド内での地位を駆け上がり、イズマグナスという最高階級に就きました。ゴブリンがそこまで!? とも思いますが、そもそも「イゼット団に入れる」時点で彼女が既に高い能力を持っていたことがわかります。《ラル・ザレック》もイゼット団に入るまで苦労をしたと公式記事で明かしていました。

 またミジックス以前にも、ラヴニカの「賢いゴブリン」は過去数人登場していました。類稀な統率力と機転で暗黒街にて権力を手にした《群衆の親分、クレンコ》、爆発物の専門家である《破砕団の兄弟》。ラヴニカへの回帰ブロックの公式記事「最後の日」には「名門校に通うゴブリン女子生徒」なんてキャラも登場していました。ラヴニカでは「賢いゴブリン」は珍しいにしても、稀というわけでもないのかもしれません。


群衆の親分、クレンコ破砕団の兄弟


 ミジックスは「イゼット団のキャラクター」ということで割とすんなりとその環境や素性が想像できますが、実は少し以前の公式記事「電光虫プロジェクト」(2015年5月掲載)に名前だけ出ていました。


公式記事「電光虫プロジェクト」より引用
「多少の時間はかかりました。ですがミジックスと私とで貴方の探知呪文を測定し、効果範囲を改良できました」


 これダレッティと同じパターンだ! 記事に何気なく名前だけ出ていたキャラが後にカードでも登場することは時々ある、とは書いてきましたがまたやられたー。



《クロールの死の僧侶、マジレク》


クロールの死の僧侶、マジレク


 クロール。聞き慣れない名前ですがラヴニカ在住、多くがゴルガリ団に所属する昆虫種族です。登場したのはラヴニカへの回帰ブロックから。ゴルガリといえばゾンビやエルフのイメージが強いですが、昆虫もギルドの大切な要素。ギルドマスターのジャラド(そういえば再録されていますね)も昆虫使いです……でした? 生前の話です。


クロールの戦士


《クロールの戦士》フレイバーテキスト
昆虫型生物であるクロールは地下のトンネルに潜んでいる。多くはゴルガリ団に忠誠を誓っているが、なかには独自の神秘的な階級体系に従う者もいる。


 実はこれまでに登場したクロールはこの一体だけでして、マジレクが史上二体目。まあほら、ラヴニカは種族が多いからねえ。オデッセイ・オンスロートブロックに登場したドミナリアの昆虫種族ナントゥーコに雰囲気は近いでしょうか。「伝説の昆虫」としても《ジラ・エリアン》《ナントゥーコの最長老スリス》に続く三体目です。

 そしてここまでゴルガリっぽく書いてきて何ですが、統率者黒緑デッキの説明書によればマジレクはゴルガリ団に所属してはおらず、独自の階級制度の中で高い地位を得ているのだとか。ってラヴニカで2色カードになっておいて「でもギルドに所属していない」って言われなきゃわからんわ! ああ、第20.5回に書いた「ラヴニカへの回帰ブロックでのジェイスは白青も考えられたものの、アゾリウスと深く関係するという印象を与えかねないことを怖れた」というのを読んだときは「そうかな?」と思いましたが、目の前にこうして実例を出されて納得しました。

 というように新キャラも相変わらずのラヴニカらしさ満点でした。思えば『ギルド門侵犯』の物語クライマックス、ニヴ=ミゼットの「迷路レース開催宣言」を読んだときには「ああ、ラヴニカ世界が壊れたり滅びたりすることはないな」と、どこか妙な安心感を抱きました。根本的には変わることのない、いつも賑やかな都市世界ですね。

 ラヴニカといえば、新規カード《ギルドパクトの印章》。「ギルドシンボルが円を描いて並んでいる」という構図に《ギルドのタブレット》を思い出しますが、これは物語的に中々注目のカードです。比較してみましょう。


ギルドパクトの印章ギルドのタブレット


《ギルドパクトの印章》フレイバーテキスト
「私はギルド同士が剣を持って街路で争うより、政権の場で言葉を尽くして論争することを望む。」
――ジェイス・ベレレン


《ギルドのタブレット》フレイバーテキスト
アゾリウスは自分達のシンボルを一番上にするために途方もない出資をしたと噂されている。


 公式記事でも割としっかり描かれてはいましたが、改めてジェイスは真摯かつ誠実に職務と向き合っているんだなあ(今ゼンディカーへ行ってるけど)、と安心しました。これはギルドパクト庁舎の広間の床の模様とかなんでしょうかね。ギルドの並びは「タブレット」と同じですが、「印章」の方は平面に描かれており、なおかつ全てのギルドシンボルが中央を向いています。「タブレット」とは違って全てのギルドを公平に、優劣を感じさせないように。製作者のそんな気遣いがわかる描かれ方だと感じました。



5. 人間性を捧げて

 思えば第29回《狂乱のサルカン》絡みで書きました……マジックの物語では時折キャラクターが「悪堕ち」する、と。今回の統率者プレビュー初日には、背景世界好きプレイヤーが「心をえぐられていた」様子がそこかしこで見られました。今年の統率者セットが突きつけてきた残酷な結末。かくいう私も名前を見てPC前で崩れ落ちた(NO誇張)、その二人です。



《蘇りしダクソス》


蘇りしダクソスダクソスの苦悩


 そうだけど! 物語中で死んでしまって、変わり果てた姿で帰ってきたのだけれど!! それは知ってたけど!! でもこうしてその姿を実際に見せられたら、前回記事ラストみたいに慟哭するしかないじゃん!!!


メレティスのダクソス


 点数で見たマナ・コストとP/T以外に生前の面影が全くないところが切ない。むしろそこに面影があることが切ない。白黒のゾンビはとても少なく、これまでは《腐肉戦士》《静月の騎兵》《潮の虚ろの漕ぎ手》のわずか3枚が存在するだけでした。ゾンビは基本的に「不浄の術で動く死体」、神聖の色である白が入るというのは極めて珍しい事例であるようです。

 ダクソスはエルズペスの恋人です。幼い頃にテーロス次元を一度訪れた彼女と出会い、そしてテーロスブロックの物語、《世界を喰らう者、ポルクラノス》との戦いを経て再会を果たしました。それから共に日々を過ごし、苦難を乗り越え、心(と身体)を通わせるも彼は《歓楽者ゼナゴス》が神の座へと昇る策略の中、エルズペスに殺されてしまいます。彼女はダクソスの仇を討つべくニクスを目指し、エレボスの試練を乗り越えてゼナゴスを倒し、自らの命と引き換えにダクソスを蘇らせることを願い、ですが生者の世界へと戻ってきたのは面影のない「蘇りし者」だった……というのがテーロスブロック小説「Godsend」の結末でした。

 愛し合う二人が悲劇の結末を迎えるというのは過去の物語にも割とありました。いずれ書くと思いますが特にウェザーライト・サーガ内にはたくさんありました。むしろ無事にエンディングを迎えた恋人同士の何と少ないことか。それでも……それでもねえ、過去何度も見てきたからって平気なわけじゃないよ? 堪えるよ? すっげえ堪えるよ?


アスフォデルの灰色商人殺人王、ティマレット


 テーロス世界のゾンビ、「蘇りし者/Returned」はゾンビとは言っても他の世界のそれとはだいぶ異なる存在です。彼らは死の国から現世へと戻るために残酷な取引を行います。それは自己を失うこと……彼らは名前や過去を忘れ、顔を失い、その代わりに黄金の仮面を身に着けて戻ってきます。テーロスブロック小説「Godsend」でしばしば見せてくれた彼の屈託のない笑顔は、エルズペスが安らぎと慣れない戸惑いを覚えた笑顔はもう見られない。テーロス期の公式記事「アスフォデル」にはこうありました。「彼ら(蘇りし者)は蘇るほどに生を愛していたというのに、その愛を持ったまま戻っては来られない」……心を締め付けられるほど切なく、そして的確です。

 公式ウェブサイトで背景ストーリーが展開されるようになり、誰でも気軽に現行のストーリーとキャラクターを把握できるようになったのは割と最近、タルキールブロックからです。ダクソスはテーロスブロックの物語においてエルズペスと深く関わり、彼女を動かしたキャラクターでありながら、活躍が小説内のみだったこともあってかその重要性はあまり知られていません。ですがこんな悲惨な姿になってしまったとはいえ、こうして再びカード化されてフィーチャーされたのは、それはせめて良かったのかな……。

 あと、「何の経験カウンターだよ!」とリアルに声が出たことを白状しておきます。※経験カウンターを得るのはプレイヤーです



《進化の爪、エズーリ》


進化の爪、エズーリエズーリの捕食


 ダクソスがあの姿になってしまったというのは物語の時点で明かされていましたが、こっちは今回初耳よ!? グリッサといい、ミラディンのキャラは幕間で悪堕ちする伝統でもあるの……ってそういえばこの連載でエズーリについて言及したことなかった! ごめん!!

 傷跡ブロックの小説でプレインズウォーカー達と関わる数少ないキャラだというのに、過去数度傷跡ブロックストーリーを扱ってきたというのにエズーリさん名前すら出していなかった。正直すまんかった。傷跡ブロックには計13体の伝説クリーチャーが収録されていますが、メインストーリーといいますかプレインズウォーカー達に直接関わったキャラクターは限られています。《裏切り者グリッサ》《大霊堂の王、ゲス》《シルヴォクののけ者、メリーラ》そしてこの《背教の主導者、エズーリ》。何だ黒緑に固まっているんだなあ。


背教の主導者、エズーリ


 エズーリは外見以外に面影が一切ない……こっちも切ない。ちなみに元の綺麗なエズーリさんは昨年(『統率者2014』)再録されていました。傷跡ブロックのエズーリについては、そして彼がこの姿になってしまった経緯は《エズーリの捕食》プレビュー記事にてわかりやすく説明されていました。

 旧エズーリのカード名にある「背教」とはエズーリが率いていた反乱軍です。当初は(旧ミラディンブロックの物語での敵であった)ヴィダルケンへの、そして後にファイレクシアへの。ミラディン抵抗勢力内で大きな影響力を持ちつつあった彼でしたが、次元の創造主カーンを探すヴェンセール達と出会った際、彼らが連れていた《シルヴォクののけ者、メリーラ》を、彼女が持つファイレクシアの油への抵抗力と治癒力を手に入れようとしました。プレインズウォーカー達はメリーラを連れて逃れ、そしてエズーリの結末はわかっていませんでした、これまでは。

 ですが今回その先が明らかとなりました。まもなくファイレクシアに屈したミラディンにて、エズーリもまた囚われ、《核の占い師、ジン=ギタクシアス》率いる青の派閥「発展の動力源」によって「完成」させられ、ファイレクシアの一員となった……それが今回のエズーリです。


核の占い師、ジン=ギタクシアスギタクシア派の調査詐欺師の総督


 色毎に5つの派閥に分かれている新ファイレクシア。「悪堕ち」とは言うけれど黒が入ったわけではない、というのは何か新鮮ですね。

 ダクソスはどこをどう切っても悲しそうなのですが、エズーリは少なくとも本人がエンジョイしてる感じ……だからまだいいのかな……《エズーリの捕食》のいい笑顔よ。でも緑青デッキを眺めていて思ったのですが、エズーリさんファイレクシア青派閥に入れられたはずがなんかこうシミックに馴染んでいませんか。今回ギルドマスターもいますよ。


首席議長ゼガーナ実験体とぐろ巻きの巫女


「シ ミ ッ ク へ よ う こ そ」


 「進化」とは。もしもファイレクシアとラヴニカが衝突したら、性質の合うギルドに各派閥が吸収されて何事もなく都市世界が続くのではなかろうか、そんなことまでも思いました。※個人の感想です



6. 今年もありがとうございました

 月イチ連載のこの記事、今年の更新は今回がラストとなります。思えば『運命再編』のサルカンの熱い決意から始まった2015年のマジック背景ストーリー、追って追って今はゼンディカー。これが掲載される12月上旬、冒頭にも書きましたけどいやー大変なことになってますね。《連結面晶体構造》は早々と破壊され、コジレックまでも参戦。チャンドラも来ましたけれど無理だろこれ……というのが正直な感想。タルキールはとても綺麗なエンディングを迎えましたが果たしてゼンディカーは、そしてイニストラードは。来年も目を離さず追っていきましょう。

 それでは、少し早いですが良いお年を!!
(終)



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