あなたの隣のプレインズウォーカー ~第8回 リリアナ・ヴェスの純情な感情~

若月 繭子

はじめに

こんにちは、若月です。

物語を彩るキャラクター達、彼らが織りなす人間模様。それは普段カードをプレイしているだけではなかなか見えてこない、マジックの大きな魅力の一つです。中でも色恋沙汰が絡むと、そのキャラクターの意外な一面が表れるものです。

例えば、復活要望が絶えないためかとうとう公式に「跡形もなく抹消された」(公式記事「ゴーレムの遺産」より)とまで言われた旧ファイレクシアの支配者にして機械の父、あのヨーグモスだって人間だった頃には人妻(旦那さんはスラン帝国の偉い人)に言い寄られてドギマギしていた事もありました。

「それだけ?」「どうせお粗末な呪文だったんだろうさ。」など辛辣かつ味のある台詞のフレイバーテキストで有名な《熟達の魔術師アーテイ》、この生意気な19歳の若造も、連れて行かれた先の敵要塞でファイレクシアに改造されたエルフ娘(性格はツンデレ)に恋をした時の様子といったら、それはそれは微笑ましいものでした。

そのように、マジックの物語にもそれなりに色恋沙汰があります。そしてプレインズウォーカーで色恋、と言ったらまずこの人が思い浮かぶでしょう。妖艶で狡猾で残酷で、ミステリアスでチャーミングな女性。長らくお待たせ致しました、今回はリリアナ・ヴェスのお話です。

1. リリアナの基本と出自

リリアナ・ヴェスは人間のプレインズウォーカーであり熟練の屍術士です。黒のマナを使用して死者を蘇らせて下僕とし、また生者を堕落させて従わせます。次元の狭間に満ちる混沌よりも深く引き込まれるようなその瞳(byジェイス)、艶のある長い黒髪はまるでその属する色を表すかのよう。自分の魅力を心得ていて、快活で機知に富んで積極的、異性とのちょっと際どい会話もそつなく楽しんでしまいます。

ですがその実は心底自己中心的であり、目的の為ならば手段や犠牲を問いません。リリアナはまさに、「黒の女魔術師」という言葉から思い浮かぶイメージそのままの、男を惑わし破滅させる美しき悪女です。

リリアナ・ヴェスリリアナの愛撫殺し

リリアナが登場している多くのカードイラストで彼女の肌に描かれている特徴的な紋様は、強力な魔法を使用した時に浮かび上がるもので、普段は出ていません。

プレインズウォーカーとして覚醒する前のリリアナについてはウェブコミック「The Raven’s Eye, Part 1」(未訳)にて少しだけ明かされています。その頃からリリアナは今と然程変わらぬ性格でした。裕福で地位のある家に生まれた彼女は自分の評判などは気にもせず、奔放に男遊びをしていたようです。

リリアナにはJosu(ジョス)という名の兄がいて彼をとても慕っていたようでしたが、兄は父親の敵の手によって傷を負い倒れてしまいます。リリアナは兄を癒す為に必要な材料を探しに入った森で、父親の支持者と名乗る奇妙な男に出会います。

その男曰く、リリアナが求める植物の根は敵によって焼き払われたと。男はリリアナへと助力を申し出、リリアナは周囲に止められながらも、その男から貰った薬を兄へと使います。ですが兄は狂気に陥り、その魂は堕落してしまいました。この罪によりリリアナは家を追放されてしまったのでした。

……と、何とも奇妙なストーリーですが、リリアナを追放へと追い込んだその男の正体はわかっていません。少なくとも年代的にニコル・ボーラスではなさそうだ、という程度です。彼はその後もリリアナの背後に影をちらつかせ、何かを目論んでいるようにも思えます。

例えばプレインズウォーカーとしての素質を見込み、覚醒させるのが目的であったのかもしれません(ただしリリアナがどのように覚醒したのかは明かされていません)。

2. デーモン

リリアナを動かしているもの、それは過去に結んだ「デーモンとの契約」です。彼女は実際には百歳を越えているのですが、四体のデーモンと契約を交わしたことにより二十代の若さと力を保っています。プレインズウォーカーとして既に様々な次元を渡り歩くことのできるリリアナが何故そのような契約をしたのか。

それは彼女が「大修復」(【第5回】【第6回】記事参照)の前に生まれた「元・旧世代プレインズウォーカー」であり、大修復によって失ってしまった力と永遠の若さを取り戻すためだったと思われます。第6回記事にも書きましたが、このことは物語上ではなく、クリエイティブ・ディレクターのBrady Dommermuth氏による公式の掲示板での発言という形で明らかにされています。

原文:Here’s a tidbit. Liliana was indeed born long before The Mending, and her planeswalker spark ignited before the Mending, also. Her deal with demons was made afterward, in an attempt to secure more power and longevity for herself.

訳:一つ豆知識を。リリアナは確実に大修復前に生まれ、そのプレインズウォーカーの灯も大修復前に点火しました。彼女のデーモンとの取引はその後に行われ、力と長寿命を確かなものにするためでした。

リリアナの死霊Demonic Tutor

《悪魔の教示者》のDivine vs. Demonic版にてリリアナの背後に描かれているのが彼女と契約したデーモンの一体、コソフェッドです。フレイバーテキストは「リリアナは探し求めていた秘密を知ったが、その代価は彼女の運命に深く刻まれた。」といったところ。そして死霊は彼女の使い魔的存在。何とも恐ろしいじゃないですか。

ここでリリアナ本人のカードを見てみましょう。

《リリアナ・ヴェス》

プレインズウォーカー – リリアナ(Liliana)

[+1]:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを1枚捨てる。

[-2]:あなたのライブラリーからカードを1枚探し、その後あなたのライブラリーを切り直し、そのカードをその一番上に置く。

[-8]:すべての墓地にあるすべてのクリーチャー・カードを、あなたのコントロール下で戦場に出す。

《ヴェールのリリアナ》

プレインズウォーカー – リリアナ(Liliana)

[+1]:各プレイヤーはカードを1枚捨てる。

[-2]:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはクリーチャーを1体生け贄に捧げる。

[-6]:プレイヤー1人を対象とし、そのプレイヤーがコントロールするすべてのパーマネントを2つの束に分ける。そのプレイヤーは束を1つ選び、その束にあるすべてのパーマネントを生け贄に捧げる。

初代《リリアナ・ヴェス》の能力は屍術士的なものだけではなく、いかにも「黒らしい」ものが並んでいます。手札破壊、《吸血の教示者》を思わせるサーチ、リアニメイト。プレインズウォーカーの多くはその個性や専門を表すように、ある一つの分野に特化している能力を持っています。

ジェイスはドローを含む広義の意味でのライブラリー操作、コスは《山》にこだわり、ギデオンは自ら肉弾戦をします。その中でリリアナは「黒」として万能な能力を持っています。フレイバー抜きで考えますと、初のプレインズウォーカー5人のうちの1人として登場したこともあり、「黒らしい」能力にする必要があったのだと思いますが、フレイバー的には黒に列する魔術師としての彼女の優秀さを示している、と解釈できるかもしれません。

一方《ヴェールのリリアナ》はマナコストが軽い=気軽に協力してくれるものの、まるで彼女の残酷さや奔放さを表しているかのごとく、助力を頼むこちらにも痛みを要求し(+1)、また悩ませてきます(-6)。

また-2能力はいわゆる「布告」系のサクリファイス能力ですが、歴代「布告シリーズ」は《悪魔の布告》《残酷な布告》など実に「悪魔悪魔しい」雰囲気を持つカードです(プレイヤーとして実際にそれらのカードを使うとその感じがよくわかりますよね)。イラストも露出度は減少しましたが、むしろこちらの方が色っぽいと思うのは私だけではないと思います。

ところで、「大修復」によって旧世代プレインズウォーカーがどれほど弱体化したのか。これはニコル・ボーラスの例ですが、小説「Alara Unbroken」に記述があります。

(小説「Alara Unbroken」2ページより抜粋、私訳)

忌まわしき「大修復」の影響は彼を打ちひしいだ。彼の全能性はもぎ取られ、精神はぼろぼろになった。彼こそ、真に高齢のドラゴンであった。彼はドミナリアから逃れ、大修復の手が届かぬことを望んだ……だがその影響は彼を捕えた、雷光の後に雷鳴がとどろくほどに確実に。彼は力が枯れてゆくのを感じた。何千年もの知識が漏れ出て消えてしまうのを感じた。初めて、自身の翼の端が破れているのを感じた。

大修復の過程で「プレインズウォーカーの灯」を捧げ、ただの人となったテフェリー(【第5回】記事参照)程ではないにしても、大修復によってリリアナが普通レベルの魔術師、もしくはそれ以下になってしまった事は容易に想像できます。

黒のカラーパイを網羅する万能な《リリアナ・ヴェス》の力は元・旧世代プレインズウォーカーとしての経験や年月によるものでもあるでしょうが、デーモンから与えられたものと解釈した方が自然な気がします。そういえば前述のウェブコミックでは、覚醒前のリリアナは特に魔法的な能力を持っているようには描かれていませんでした(単に描かれていなかっただけかもしれませんが)。

リリアナの肌に浮かび上がる紋様は、契約の証でもあります。今彼女はその契約を後悔し、逃れる方法を探し求めています。その中にはデーモンを倒すという選択肢も含まれていますが、事はそう簡単には運んでくれません。小説「Agents of Artifice」ではジェイスへと自身の心の内を打ち明ける中で、デーモンとの契約についても言及しています。その台詞からは、今となってはその契約をとても後悔している事がわかります。

(小説「Agents of Artifice」ペーパーバック版362ページより抜粋・私訳)

「あいつらが何者なのか、どうして私が応じたのか、それは問題ではないの。私は若かった、愚かだった、そして私は頷いた。それだけ」

「私の魔力と魂を保つために、あいつらが要求してくるものがどんなに恐ろしいか……わからないでしょうね」

ですが契約を破棄したならどうなるのか、リリアナは完全に把握しているのでしょうか。デーモンのものとなっていた魂を取り戻すことはできても、今の彼女が持つ力のうち、デーモンから与えられたものを全て失ってしまうということもありうるでしょう。もちろん、ずっと保ってきた若さも。

それでも契約から逃れるために、そしてその過程で彼女は複数のプレインズウォーカーに接触します。ニコル・ボーラス、テゼレット、ジェイス、そしてガラク。

3. ジェイスとの関係

【第3回の記事】でも紹介しましたが、この2人の間には熱くも切ないロマンスがありました。多少おさらいしますが、ジェイスは多次元間組織「無限連合」から脱走し逃亡生活を送る中、リリアナに出会います。彼女からの積極的なアプローチを受け、二人は深い仲となります。

ですがそれはジェイスを誘惑し、彼にテゼレットを倒させようというリリアナの計画でした。ジェイスは彼女の策略が原因で親友と友人の多くを失い、自身も打ちのめされます。そしてリリアナから全てを告白され、策略に乗せられていたと知った上でテゼレットと戦うことを選び、倒したのでした。

今回はそれをリリアナの生い立ちや立場を踏まえた上で、彼女視点で見てみましょう。

リリアナ・ヴェスジェイス・ベレレン

第2回にも書きましたが、この二人の能力の素晴らしいシナジーといったら。

多くは明かされていませんが、デーモンとの契約から逃れる助けを求め、リリアナはボーラスに接触しました。そして助力の対価として、テゼレットに奪われた無限連合の奪還を請け負います。

リリアナはフリーランスとして無限連合で働きながら情報を収集し、やがて目的のジェイス・ベレレンが連合を脱走した所で彼へと接触します。ジェイスを駆り立ててテゼレットと対決させ、ジェイスを裏で操りつつ連合を手に入れようという算段でした。

そのためにジェイスを実に自然に振り回しつつ誘惑し、恋愛には不慣れ(ジェイス本人談)と知ったならば早速主導権を握り、そしてロマンティックな雰囲気を作り出した所で速やかに既成事実を作ったようです(【第3回記事】参照)。

また連合の追手から逃げる中で窮地に陥るジェイスを献身的に支えますが、それも彼とテゼレットを対決させようとする策略でした。リリアナは、ジェイスに協力するよう見せかけて裏では連合へと彼の居場所を伝え、また彼を追い詰めるべくジェイスと親しい者達を連合に殺害させていたのです。

ですがそこに、リリアナ自身の感情というそれこそ思いもよらぬ妨害が入ります。リリアナは利用していただけのジェイスが傷つき苦しむのを見て、それをいつしか辛く思う自分自身に気付きました。ジェイスと接するうちにリリアナもまた彼に心から惹かれ、本気で恋をしてしまっていたのです。

打算や策略が関わらない時の、リリアナが純粋にジェイスを想い、心配する様はとても素直で切ないものでした。それでもリリアナは、心に何度もよぎる「全てを捨ててジェイスとともに逃げ出したい」という欲求へと素直に従うことはできませんでした。次元を自由に渡り歩き、どこへでも行けるプレインズウォーカーの彼女が、です。デーモンの存在はリリアナへと何よりも暗い影を落としているのです。

小説「Agents of Artifice」の終盤、テゼレットに捕らわれて拷問を受けるジェイスを助けに向かったリリアナは、独房でジェイスと対面し、全てを告白します。自身の本当の年齢についても。

(小説「Agents of Artifice」ペーパーバック版361ページより抜粋・私訳)

「あなたよりも、」リリアナは囁いた。「100歳くらいは年上よ」

そんな筈がない、とジェイスは否定しようとして口を開き、彼女の表情を見て凍りついた。

「どういう……?」

彼はかすれた声で尋ねた。

「大魔道士並みの歳って事……でも君はそんな……」

「いい申し出をしてくれた奴がいたのよ」

自嘲から、彼女の唇はかすかに歪んでいた。

女性として冷静に考えますと、愛する男に「自分は100歳以上年上」なんて告白したくありませんよ。どんな年増だよ、と一瞬で幻滅されたっておかしくないですからね。私はこのシーンからリリアナの「ジェイスへの本気」を見ました。

そのように小説にてリリアナとジェイスが繰り広げる恋愛模様は、最初はとても微笑ましくまた熱く、やがてとても切なく展開します。小説「Agents of Artifice」に描かれているジェイスはとても可愛らしくまた危なっかしくてとにかく放っておけない存在であり、本気になってしまうのもよくわかります。

他にも、リリアナがジェイスと彼の親友カリスト(♂)との仲を詮索する、というシーンもありました。リリアナが腐女子だとかそういうことではなく、二人の仲の良さに彼女がある意味嫉妬した証拠でしょう。

ジェイスを利用しながらも、リリアナは決して彼の傍を離れようとはしませんでした。自分が招いた事ながらジェイスが傷ついた時には手段を選ばず彼を助け、また常に彼を支えていました。

最終的にジェイスはテゼレットと対決して勝利し、無限連合ラヴニカ支部を壊滅させました。ですが彼の帰りを待つリリアナの所には戻って来ませんでした。そしてボーラスは、それを任務の成功とはみなしませんでした。

4. 鎖のヴェール、ガラク、呪い

リリアナとガラクの関係は、主にウェブコミック「ハンターとヴェール」、「ヴェールの呪い」で語られています。

【第4回記事】、ガラク編で書きましたが、リリアナは悪魔コソフェッドに命じられ、オナケ次元の地下墓地へと「鎖のヴェール」として知られる古代のアーティファクトの探索に向かいます。その道すがら偶然《野生語りのガラク》の怒りを買ってしまいます。リリアナは手に入れたヴェールの力を借り、襲ってきたガラクを返り討ちにすると弱体化と腐敗の呪いをかけました。

野生語りのガラクGarruk Relentless

リリアナとガラクが戦う場面はウェブコミック「ハンターとヴェール Part3」にありますが、戦いの中でもガラクを挑発するような「男前ね」「その斧、素敵。すごく男らしい」といった台詞はいかにもリリアナです。

ヴェールの力を実感したリリアナは、それを使用して契約主であるコソフェッドを始末してしまおうと考え、そのデーモンの元へと向かいました。そしてヴェールを渡すことを拒否すると、すぐに戦いが起こりました。リリアナはヴェールを身に着け、コソフェッドをやすやすと打ち倒しました。ですが彼女とデーモンとの契約を示す刺青のような紋様は消えることなく、紋様からは血が流れ出してリリアナは身体を苛む痛みにひどく苦しみだしました。

彼女はオナケ次元へと戻り、ヴェールを知るであろう古の賢者を蘇生させて助力を求めるのですが、その冒涜的な行動は地元の人々の怒りを買い、リリアナは一軒の農家に追い詰められてしまいます。

彼女が蘇らせた男は意味深に彼女のことを本名のVessではなく「Vessel(器)」と呼び、ついにリリアナが苦痛に倒れようとした時に真の姿を明らかにしました。兄ジョスを滅ぼすことになった薬をリリアナへと渡した、「烏の男」と呼ばれるその人。彼は同じ薬を取り出し、リリアナの紋様へと注ぎました。すると黄金の輝きが広がり、彼女は意識を取り戻しました。リリアナは兄の復讐とばかりに烏の男を刺すと、もう一度ヴェールを身に着けてプレインズウォークしました。

ところでリリアナは知らないと思われますが、ガラクはその後ラヴニカへと向かい、リリアナの居場所を教えるようジェイスへと襲いかかりました(【第4回記事】参照)。ジェイスにとってはいい迷惑以外の何物でもなかったでしょう。それにしてもジェイスがまだリリアナの居場所を把握していたことも意味深ですが、ジェイスがリリアナの関係者であること、彼がラヴニカにいることをガラクはどうやって知ったのでしょうか? プレインズウォーカー間の情報網というのは未だ謎です。

5. イニストラード~闇の隆盛

リリアナは次にイニストラードへと向かいました。目的は契約主デーモンの一体であるグリセルブランドとの取引、できればその殺害。ですがグリセルブランドの足取りを追うのは容易ではありませんでした。そのデーモンはイニストラードのどこかにいる、それ以上の情報はなく、リリアナはイニストラード各地を駆けずり回って情報を集めることになります。

実は、グリセルブランドはこの世界の人類の守護天使アヴァシンとの決闘の末、姿を消してしまっていました。真相を知るのはアヴァシン教会の高位の司祭のみであり、彼らには固い緘口令が布かれていました。

リリアナはデーモン崇拝のカルト、スカースダグ教団(《スカースダグの信者》《スカースダグの信者》のそれです)からその情報を入手したらしく、続けてアヴァシン教会の権力者からグリセルブランドの情報を得るべく策を企てます。

狂気の屍術士姉弟、ギサとゲラルフがゾンビの軍勢を率いて首都スレイベンを包囲する中、リリアナは教会の最高幹部《月皇ミケウス》の暗殺を企てるゲラルフに接触します。その一連のエピソードは公式記事「プレビュー記事:《不浄なる者、ミケウス》」で語られています。

どうやらリリアナはゲラルフを掌中に収めたようで、彼はリリアナの事を「特別な人物」「とても魅力的な娘」であると述べています。リリアナはミケウスをゾンビとして蘇らせ、グリセルブランドの居場所を喋らせたのでしょう。わざわざゲラルフに接触するという手段を取るあたりがこれもまた実にリリアナ的です。

不浄なる者、ミケウス

ゲラルフに殺害された後、恐らくリリアナが蘇らせたミケウス。情報を得た後はまたサクっと始末されそうですが。

ですが【前回記事】で述べました通り、グリセルブランドはアヴァシンとともに《獄庫》の中。リリアナとしては獄庫を壊してグリセルブランドを出したい所でしょうし、そしてアヴァシンの創造主ソリン(【前回記事】参照)も次元の守護天使を出してやりたい所……何やら利害が一致していそうな二人の接触はあるのでしょうか。

接触するとしたらリリアナは優男風イケメンのソリンへといつものように色仕掛けをするのか、それとも数少ない自分より年長のプレインズウォーカーとして誘惑という手段には頼らず丁寧に接するのか。そういえば小説「Agents of Artifice」でリリアナは吸血鬼を使役してもいましたが、ゾンビ程に扱いが得意ではないようでした。この二人が出会ったなら、その展開も楽しみな所です。

また公式記事「守護者、魔女、そして天使」によりますと、獄庫をアヴァシン教会の聖遺物として命に代えても護ると誓った《スレイベンの守護者、サリア》がその破壊に関わってくるようです。そして全ての物語は「アヴァシンの帰還」へ……

獄庫イニストラードの君主、ソリンスレイベンの守護者、サリア

グリセルブランドの閉じ込められている銀の牢獄、そして大天使アヴァシンの創造主ソリン、《獄庫》に害をなすものを許しはしないであろうサリア。リリアナとの出会いがあるとすれば、それはどのようなものになるのでしょうか。

6. リリアナの今後

リリアナが主人公のプレインズウォーカー・ノベル「The Curse of the Chain Veil」は元々2010年発売予定だったのものが無期限延期となり、今も発売のアナウンスはありません。ですがその製品説明文から今後の展開の断片を読み解くことができるかもしれません。

(抜粋)

The mercurial necromancer Liliana Vess and psychic sorcerer Jace Beleren are back and ready to challenge the netherworld forces that threaten to tip the delicate balance between life and death.(略)Meanwhile she’s being pursued by that barbarian, but now he’s really angry. Her old friend Jace Beleren is there to help, but even he may not be powerful enough to save Liliana from herself.

(私訳)

気まぐれな屍術士リリアナ・ヴェスと精神魔術士ジェイス・ベレレンは帰還し、生と死の微妙な平衡を傾けようと脅す冥界の勢力へと挑戦すべく備える。(略)その間にもリリアナは心から憤慨している野蛮なプレインズウォーカーに追われている。彼女の昔からの友、ジェイス・ベレレンが助けに入るが、彼でさえもリリアナを彼女自身から救い出せるほどに強くはないかもしれない。

この「生と死の微妙な平衡を傾けようと脅す冥界の勢力」という表現からはどことなくイニストラードの雰囲気を感じます。「野蛮なプレインズウォーカー」は勿論ガラク。ジェイスが恋人ではなく「old friend」と表現されているのが気になりますが、二人はきっといつか再会するのでしょう。リリアナとデーモンの取引や、「契約内容」についての詳細も書かれているかもしれません。発売され、それらが明かされるのを楽しみに待とうじゃないですか。

今やすっかり「元彼」という立場にあるようですが、少なくともジェイスにとってリリアナの関係は完全に終わってはいません。ガラクにリリアナの居場所を教えるよう迫られた時には誤った次元の名を教え、それでいてリリアナへと警告はしませんでした。酷く裏切られ利用された過去があり、今もまだ複雑な想いを抱きながらもジェイスは二人の未来を捨ててはいません。小説「Agents of Artifice」のラスト近くに、様々な事件を経た後でのリリアナへの想いが語られています。

(小説「Agents of Artifice」ペーパーバック版387ページより抜粋・私訳)

彼女を赦すことができようとできまいと、彼女が自分を赦そうと赦すまいと、自分とリリアナはきっともう一度会うのだろう、確実に。彼はその事を知っていた。何千もの世界に、何千もの夜明けに太陽が昇ることを知っているように。

その時が来たら、彼女に応えよう。リリアナを取引から解放する、彼はそう自身へと誓った。どれほど長くかかるかは問題ではない、幾つの次元を捜しまわらねばならないかは問題ではない。怖れ、自暴自棄、そして嘘の下にいる真の彼女の姿を彼は知るだろう。

そして見つけた真の彼女を愛することができたなら、二人は再び始められるかもしれない。

リリアナにとっては、(フィクションではよくある話ですが)今の自分と全く違う存在になってもジェイスは自分を愛してくれるだろうか、という不安もあると思いますが、これを読む限りきっとその心配はいりませんよね。

ですが契約相手のデーモンを全て倒したら、リリアナは一気に実年齢の分まで老化してしまうという可能性も十分ありうるでしょう。素直にジェイスと結ばれてハッピーエンド、という展開にはならない気がするんですよ。新世代プレインズウォーカーにも死者は出る、と傷跡ブロックにて前例ができてしまいましたし。

イニストラード第三エキスパンション「アヴァシンの帰還」の物語でグリセルブランドが倒されたとしても、リリアナの契約主であるデーモンはもう二体残っています。

彼女の物語はきっと、まだまだこの先も続くのでしょう。

(終)