あなたの隣のプレインズウォーカー ~第3回 フードを脱いだジェイス・ベレレン~

若月 繭子

はじめに

こんにちは、若月です。前回記事のラストで「イニストラードで登場するであろう彼女に~」と書いていましたが記事内容を変更させて頂きます。楽しみにして下さっていた方がおりましたら申し訳ありません。

というのも、リリアナ・ヴェスを語るとなるとまずはジェイス・ベレレンについて触れないわけにはいかない、というのが理由です。それにトーナメントを支配し、ついにスタンダードでは禁止されてしまった神ジェイスこと《精神を刻む者、ジェイス》がどんな人物なのか、興味を持っている方は多いのではないでしょうか。というわけで今回はジェイスのお話をさせて下さい。

ジェイスという男性が、《ジェイス・ベレレン》《精神を刻む者、ジェイス》そして、《記憶の熟達者、ジェイス》と、3種類のカードとして背景世界から切り出されたのには、きちんとしたストーリー的裏付けがあります。

1. 都会っ子ジェイス

ジェイス・ベレレン

ところで皆さん、ジェイスという人間はどんな性格だと思っていますか?冷酷な天才?才能を鼻にかける生意気な若造?寡黙な努力家?

彼を主人公とした小説「Agents of Artifice」(2009年1月発売、英語のみ)に描かれていたジェイスの姿は、カードのイメージとはいい意味でかけ離れたものでした。高い知性を持ちながらも内向的でお人好し、どこか天然な所もあります。自分の才能や能力を鼻にかける事は決してありません。思考を読み、伝え、他人の精神へと干渉することができる彼は、その能力ゆえに犯してしまった少年時代の過ちに対して良心の呵責を抱いています。

一方では便利な都会暮らしを好む現代っ子であり、ついでに言うと結構な甘党。小説では何かあるたびに甘い果物を食べたりフルーツティーやフルーツワインを飲んだりしています。

今でこそジェイスはそれなりに成長し、自身が持つ能力との上手な付き合い方を心得たようですが、そこに至るまでには長い物語がありました。

2. 無限連合ラヴニカ支部

平地

小説「Agents of Artifice」の時間軸は大体、アラーラの断片ブロックと同時期と思われます。ラヴニカブロックのストーリーの後にギルドは解体されましたが、その後も一般市民の生活にさほど大きな変化はない、割と平和な時代。ジェイスはラヴニカ次元に住んでいました。そこで彼は結構裕福な生活をしていましたが、その収入源は「富裕層の人物の心を読み、その後ろめたい秘密を手に入れてゆすりを行う」という、決して人には言えないものでした。

ある日の「仕事」の最中、ジェイスは突然何者かが召喚したクリーチャーの襲撃を受けます。ジェイスは刺客の心を読み、そして情報収集の後にラヴニカにおいては名を知られた商業組織「無限連合」へと辿りつきました。無限連合の本当の顔は、次元を股にかけるプレインズウォーカー達の犯罪組織だったのです。

ジェイスは連合の支配者テゼレットからのメッセージを受け取り、彼と面会します。テゼレットは、ジェイスの類稀なる精神魔法の才能を金持ち相手の脅迫などではなく、より大きな事へと役立ててみないかと誘いました。多少の躊躇はありましたがジェイスは同意し、テゼレットの下で働きながら精神魔法を研鑽する訓練を受け始めます。

ただ他人の心をごく近距離から読むだけでなく、まずはより遠く、より大人数へと。そして読む、伝えるだけでなくその記憶を操作することも。テゼレットの指導はとても厳しく、時には理不尽と思える程に過酷なものでした。

3. 「精神を刻む」こと

連合にて、ジェイスは相棒となる人物に出会います。名前はカリスト・ロォカ(Kallist Rhoka、カードには未登場)、プレインズウォーカーではなく剣士にして暗殺者です。偶然の一致か、ジェイスとカリストは傍から見れば兄弟と言ってもいい程にとても良く似た外見をしていました。幾つもの任務を二人でこなしつつ、また互いの魔術や剣術を教え合って二人は信頼を深めて、やがて親友と呼べる間柄となりました。その仲の良さは、恋人同士なのではないかと傍から疑惑を持たれる程でした。

ある任務の最中、ジェイスと連合の仕事仲間である紅蓮術師のプレインズウォーカー、バルトリス(Baltrice、カードには未登場)は取引相手に裏切られて窮地に陥ります。そこでジェイスはバルトリスへと襲いかかった敵の精神を握りしめ、ついには壊すことによって彼を殺してしまいました。それはジェイスにとって、意図的に他者の精神を壊した初めての経験でした。

連合へと戻った後、ジェイスは自分を気遣ってくれるカリストへと心の内を明かすように過去の行いを語りました。いかにして彼が故郷を去ることになったかを。

「他人の心を読む」というジェイスの才能は幼い時期に現れ、彼の親は大いに当惑していました。そのためジェイスはとある魔術師へと預けられ、彼のもとで魔術を学びます。師弟の仲は良好であり、ジェイスは初めて自分の存在が歓迎されていると感じていました。

やがてジェイスは若者らしく、自身の能力を試したいと考えました。彼は師匠の心へと密かに入り、そして自身がプレインズウォーカーであることを知ります。かつて彼はほんの一瞬だけプレインズウォーカーとしての能力を発揮して次元を飛んでいたのですが、それは幻影術の失敗によるものだと師匠はジェイスに説明していたのでした。更に師匠はジェイスの父親へとその事を告げており、二人は共にジェイス自身には秘密にしておくことに同意していたのでした。

まだ血気盛んな少年であったジェイスは心から憤慨し、その怒りを心に溜め込みました。数日後、怒りをこらえきれなくなったジェイスは師匠の精神へと入り込むと、その感情と苦痛を全て一度に解き放ちました。まるで「最終奥義」を使用するように。ジェイスは自身が何をしてしまったのか、最初は自覚していませんでした。ですが最終的に師匠の精神は真っ白に拭い去られてしまいました、呼吸の仕方さえも忘れてしまうまでに。

そしてジェイスは故郷を去りました。更には罪の意識から逃れるために自身の記憶を消し去り、師匠の顔を二度と思いだせないようにしました。

連合で、ジェイスは師匠を殺した時と同じやり方で敵を殺しました。しかも自身の行動を完璧に理解しながら。それはジェイスにとって越えてはならない一線であり、更に彼は「精神を刻む」行為そのものよりも、「その事に罪悪感を覚えなくなってしまった」自身に苦悩するのでした。

精神を刻む者、ジェイス

4. リリアナとの関係

リリアナ・ヴェス

やがてジェイスはテゼレットの横暴さや連合の考えに耐えられなくなり、ついにはカリストを伴って連合から逃亡します。ラヴニカから脱出しようにもプレインズウォーカーでないカリストを置いてはいけず、身を隠しながらも暮らしていこうとする中、二人は美しい屍術士リリアナ・ヴェスと出会いました。彼女は二人に付きまとい、魅惑的で手練れの彼女にジェイスは翻弄されつつ惹かれます。

ジェイス本人曰く、過去に女性経験が無かったわけではないとの事ですが、恋愛に関しては思春期の少年のように不慣れなのでした。積極的にジェイスへと迫るリリアナ、押されながらも悪い気はしないジェイス。ところで【前回の記事】では詳しく書けませんでしたが、ジェイスとリリアナが出会ってしばらく経った頃に、少しドキっとするシーンがあります。

ある日の夕方遅く、いい雰囲気の二人はジェイスが借りているアパートまで戻ってきました。玄関を開けるとジェイスは名残惜しそうにリリアナの手を握り、その日はそこで別れようとします。

「ここでおやすみって言わないと」

ですがそんなジェイスの初心さを理解してかリリアナは彼にキスをすると、

「ここでおはようって言いましょうよ」

そう言って率先して部屋へと入って行きました。ジェイスは彼女を追い、ドアを閉めたのでした。

MtGの対象年齢は13歳以上ということもあってか小説に描写されている場面はここまでですが、著者であるAri Marmell氏が後に公式フォーラムにて質問に答えています。この後二人は共に一夜を過ごしました。互いの想いを確かめ合う、とても情熱的な一夜だったそうです。ジェイスにとってもリリアナにとっても。

このように、MtGのストーリーにはたまに色気のあるエピソードが存在します。大抵は話に味を添えるスパイス程度ですが、稀にキャラクター同士の恋愛模様がストーリーの根幹に関わってきます。未来予知(エキスパンション)ではストーリー中で結ばれたキャラクター同士の子孫がカード化されたこともありました。ストーリーとカードが密接に繋がっているということの一つの例と言えるでしょう。

5. テゼレットとの対決

求道者テゼレット

一方ジェイスが知らぬ所で密かに、そして辛く思いながらも、リリアナはジェイスの居場所を連合へと明かしていました。彼女はまたジェイスへとプレインズウォーカーの持つ可能性や、強大な力を手に入れる道が開かれていることを説きます。ですがジェイスはただテゼレットと連合から自由になることを望んでいるのでした。

ジェイスは逃亡生活の中で捨てばちの行動から自我の危機に陥り、連合の追手によって親友カリストのみならずラヴニカでの数少ない友人達を殺されてしまいます。計り知れない心の傷を受け、彼はようやく重い腰を上げてテゼレットを倒すことを決意します。ですがそれは全て、ジェイスにテゼレットを倒させようというリリアナの策略でした。とはいえリリアナも目的のために誘惑した筈のジェイスへといつしか乙女のように純粋な恋をしてしまい、全てのしがらみを捨てて彼とともに逃げ出したいと何度となく願っていたのも事実でした。

ジェイスとリリアナはテゼレットの隠れ家を強襲しました。ですがその攻撃は失敗に終わり、ジェイスは捕えられてリリアナの不実が明らかになります。監禁されて拷問を受けるジェイスへと彼女は近づき、心から謝るとともに彼女がした事への理解を求めました。

そしてリリアナによって解放されたジェイスは再びテゼレットへと攻撃を仕掛け、一対一の決闘に持ちこみました。かつてカリストが授けてくれた戦闘の技を駆使してテゼレットを追い詰め、ついには彼のエーテリウムの腕を切り落とします。その好機を逃さずにジェイスはテゼレットの精神へと侵入し、それを抹消しました。彼の心が叫びを上げるのを聞いて、どこか不健全な喜びを感じながら。

ジェイスは自分を待っているリリアナの下へと戻らずに去りますが、それでもまだ愛する彼女の為に、自分にできる事ならばいつでも手を差し伸べようと誓いを立てたのでした。

なお最終決戦において、ジェイスはテゼレットを完全に殺してしまうつもりでしたが、彼の精神を完全に壊してしまうのではなく、ほんの僅かに(=手札の枚数程度には)残しました。ある意味自分を導いてくれた師でもあった彼を殺してしまうのは躊躇われたのでしょうか、ともかくジェイスの複雑な良心がテゼレットを生かしておいたことは確かなようです。

6. ジェイスの現在と未来

後にジェイスは、無限連合ラヴニカ支部の支配者として収まりました。《ジェイスの文書管理人》のフレーバーテキストを見ますと、どうやら信頼される上司として上手くやっているようです。もしかして《記憶の熟達者、ジェイス》が5マナと今までのジェイスの中で一番重いのは、連合組織のボスとなってしまったためにあまり軽々と出歩くことができなくなったからでしょうか?

記憶の熟達者、ジェイスジェイスの文書管理人

《ジェイスの文書管理人》フレーバーテキスト:「これは聖なる責務だ。 師ベレレンの信頼こそが、私の永遠の忠誠の源だ。

ご存じの通り、去る6月にスタンダードで《精神を刻む者、ジェイス》が禁止され、基本セット2012で《記憶の熟達者、ジェイス》が登場しました。それを(無理矢理)フレーバーから解釈すると、「今のジェイスは<記憶の熟達者>という姿を自分の意思で選んでいる(=その気になれば神ジェイスにもなれますよ、要するにレガシーやヴィンテージ等では)」ということかもしれません。

ジェイスの物語は様々な登場人物と関わりながら、今もまだ続いています。連合時代から始まるチャンドラとの腐れ縁があり、ニコル・ボーラスからは不思議な程に気に入られています。連合の支配者となってからはテゼレットの部下であったバルトリスを寝取……ではなくて敵対心を持たれていた筈の彼女から熱烈に慕われたり、ゼンディカーではサルカンと遭遇しました。

またリリアナの関係者としてガラクの襲撃にも遭い、更にはギデオンが無限連合を頼ってラヴニカへとやって来るようです(【第一回記事】参照)。これほどまでに多くのプレインズウォーカー達と繋がりを持つキャラクターは他にいません。まさにジェイスこそ多元宇宙の物語の主人公的存在、なのかもしれませんね。イニストラードではリリアナ絡みで何か動きがあるのでしょうか。目を離さずに見守って行きたいと思います。

なお今回の執筆におきましては、MtGWikiのジェイス・ベレレン(ストーリー)の項目(外部リンク)を大いに参考にさせて頂きました。

私自身がそうですが、マジックが持つフレーバーや背景世界を読み解き、はたまたお気に入りのキャラクターを見つけて追いかける、それを楽しむプレイヤーというのも存在します。MtGWikiのこういったキャラクターの項目はどれもそんなプレイヤー、「ヴォーソス」達が腕によりをかけて編集しております。もし見たことがないという方は一度目を通してみて下さい。今までにないマジックの楽しみ方が見つかるかもしれません。

(終)