Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/06/26)
寝耳に水
5月30日の夜。なかなか寝付けずにいると、Eメールを受信した携帯電話が明かりを灯した。ベッドに入ってから携帯電話をチェックするのは最悪の習慣であるため、普段なら無視している。しかしその日は眠れず、つい魔が差してしまった。
「ミシックチャンピオンシップ」。タイトルにはそう記されていた。おそらく、ミシックチャンピオンシップ・バルセロナ2019への招待を確認するメールだろう。(なかには重要でないものも含まれているが)有益な情報満載の知らせだ。照明のまぶしさに徐々に目が慣れてきて、タイトルに目を凝らしてみた。「ミシックチャンピオンシップ・ラスベガス2019」。
バルセロナに関するメールではないと気付くのに、数秒かかった。そこに記されていたのは、数週間前の予選で権利を獲得できなかったミシックチャンピオンシップであり、6月21日にラスベガスで開催されるものだった。
「招待を受けますか?」ーーーEメールにはそう綴られていた。
思いがけない出来事に、私は30分以上ベッドで横になっていたのではないだろうか。そして、初めてMTGアリーナで開催されるミシックチャンピオンシップに参加したかったことを思い出した。そう思ってからはベッドに戻ることなど考えられなかった。私は起き上がり、パソコンの前に座り、航空券を予約していた。
赤単の調整
調整の時間はあまり残されていなかった。デッキリストは6月12日までに提出せねばならず、直前になるまで招待されている事実を口外できなかったのだ。ミシックチャンピオンシップ予選以来、スタンダードに触っていなかったが、再び手に取る時がやってきた。
ミシックチャンピオンシップ予選では5色《戦慄衆の指揮》を使用したが、今回はすぐに選択肢から外した。
Took a new approach of the Ramp archetype this week and got to Mythic in two days. Total record for the deck is 38-6! White offers better payoff for the Ramp (So many Turn 5-6 Finale for X=10) and better removal against cheap creatures. Still splashing for Krasis of course! pic.twitter.com/Qy8Pxxb9Fv
— Fabrizio Anteri (@Anteri_F) 2019年6月5日
「今週はランプの新たな形を試したところ、2日間でミシックへ到達しました。デッキの総合成績は38-6です!白を足すことによって、マナ加速先のカードも軽量クリーチャーへの除去も質があがります(5ターン目、6ターン目に(X)=10の《栄光の終焉》を唱えられたことも多々ありました)。当然この構築でも《ハイドロイド混成体》をタッチしていますよ!」
数週間前までは立ち位置が良かったが、メタゲームが急速に変化するため、使うに値しないほどになってしまったのだ。丁度その頃、ファブリツィオ・アンテリ/Fabrizio AnteriがTwitter上でバントランプを投稿していた。私もそのデッキを手に取り、しばらく気に入って使っていたのだが、弱点に気づく結果となってしまった。ここでは深く言及しないが、簡単に言えば「好きになれなかった」のだ。
エスパーカラーのデッキが台頭してきたため、コントロール型であれ、《第1管区の勇士》入りのミッドレンジ型であれ、参加者の多くがエスパーカラーのデッキを使うであろうと考えた。これらに相性の悪いデッキは選択したくないところだ(お察しだろうが、バントランプはエスパーカラーとの相性が良くないのが気に入らなかった)。
その他に使い込んでいたのは赤単だけだった。以前から好きだったデッキではあったが、最新のデッキリストや、新しいアーキタイプとのマッチアップを調べなければならなかった。過去数週間に書かれたあらゆる記事を精読し、そこで得た学びをMTGアリーナで試すことにした。
赤単はほぼすべてのデッキに対して強かったが、対戦結果を記録したスプレッドシートによればエスパーとの相性は散々なものであり、振出しに戻るかと思えた。
エスパーとの相性を改善する手段はないのだろうか?
サイドボードへの疑義
大半の記事では、サイドボードの《無頼な扇動者、ティボルト》や《再燃するフェニックス》を投入することや、投入すべき理由について書かれていた。
《無頼な扇動者、ティボルト》
毎回サイドインしてみたものの、記事の売り文句ほどのものではなかった。《無頼な扇動者、ティボルト》はゲームへの影響力がごくわずかであり、一握りの状況でしか有効でない。
ライフを回復するデッキの多くは《無頼な扇動者、ティボルト》を容易に対処できるため、ゲーム展開に寄与しない呪文のために3ターン目を丸々消費したくはないのだ。エスパーはデビルトークンを難なく処理し、ライフを回復しようとするころには《無頼な扇動者、ティボルト》を退場させていることだろう。
《野茂み歩き》を使うデッキも相手に回したくない。仮に《無頼な扇動者、ティボルト》でライフ回復を阻止できたとしても、《野茂み歩き》があまりにも大きくなってしまえばピンチに陥る。特に後手の場合、《野茂み歩き》を除去できなければ、《無頼な扇動者、ティボルト》が着地する前に《翡翠光のレインジャー》によって6点回復されてしまう。そうなれば、このプレインズウォーカーに立場はない。
おすすめしない理由をさらに連ねることはできるが、結局同じところに行きつく。《無頼な扇動者、ティボルト》はサイドボードに入れない方が良い。定番のデッキリストでは3枚採用されていたため、サイドボードの枠に大きな余裕を作ることができた。
《再燃するフェニックス》
一般的なリストでは《再燃するフェニックス》が2枚採用されている。私はなぜ採用されているのか理解に苦しんだ。サイドボードガイドではほぼすべての相手にサイドインされる。エスパー、グルール、イゼットフェニックス、ときには白ウィニーにも。疑問は深まるばかりだ。《再燃するフェニックス》の除去耐性が強いメタゲームもあっただろうが、現在は処理に困るデッキはひとつとしてない。
赤を含むデッキには《溶岩コイル》が3~4枚採用されているし、白のデッキには《議事会の裁き》が、コントロールにはテフェリー2種に加えて《灯の燼滅》がある。土地が20枚の赤単で4マナも費やすのなら、もっとインパクトの大きいことをするべきだ(《実験の狂乱》あたりだろうか)。《再燃するフェニックス》への投資では元が取れない。
というわけであっさりと、エスパーとの相性を改善する枠をさらに2つ作ることができた。
長期戦を目指して
参加者はメインデッキをミラー用に調整してくるだろうと確信していた。そうなれば、アグレッシブなデッキが活躍するチャンスはある。コントロールが全体除去を4枚、あるいはそれ以上採用していなければ、1ゲーム目は比較的戦いやすいものになるだろう。
エスパーは《ケイヤの怒り》や《肉儀場の叫び》を合わせて3枚、多くても4枚しか採用しないだろうと予想した。デッキが公開されるのならケアするのも容易だ。ただ、サイドボードから赤単対策のカードとともに追加の全体除去を1~2枚サイドインされると、アグレッシブな戦術をとるデッキは苦境に立たされるだろう。
エスパーとのマッチはロングゲームになると想定し、サイドボードに《宝物の地図》を3枚採用することにした。エスパー戦は長期戦になり、リソースの削り合いになることが多い。《宝物の地図》の「占術」は不要な土地・呪文を何度も弾き、《実験の狂乱》や《火による戦い》や《凶兆艦隊の向こう見ず》などのキーカードにたどり着きやすくなる(《火による戦い》はグルールや4/4以上のサイズを使うあらゆるデッキ相手に投入され、《宝物の地図》があれば「キッカー」も断然しやすくなる)。
ロングゲームで勝つ術を模索していると、《凶兆艦隊の向こう見ず》はたったの1枚で求めている条件をすべて満たしてくれることに気が付いた。手札破壊だけでなく、《黎明をもたらす者ライラ》に対する除去も確保できる。ゲームが長引けば、大抵は相手の墓地から《思考消去》や《灯の燼滅》を唱えられるだろう。《凶兆艦隊の向こう見ず》は(イゼットフェニックスだけでなく)コントロール相手にも有効であり、4枚フルで投入したいと思うようになった。
《宝物の地図》は《実験の狂乱》との相性も抜群だ。かつては赤単のサイドボードとして採用されていたが、昨今では全く見かけなくなった。そこで思い出してもらいたいのだが、《宝物の地図》は《実験の狂乱》でめくれた2枚目の土地をライブラリーの底へ送ってくれる魅力がある。《炎の職工、チャンドラ》も同じ役割を果たせるが、《宝物の地図》はたったの2マナであり、除去耐性も高い。
アグレッシブな戦術を用いてくる相手には、コントロールデッキとして立ち回る。目に映るすべての脅威を排除する勢いだ。そのため、白ウィニー相手にも《宝物の地図》をサイドインする(グルール相手も同様にした方が良い)。不要なカードを弾きつつ、有利な立場を作ることができるだろう。
デッキリストとサイドボードガイド
デッキリスト
ミシックチャンピオンシップ・ラスベガス2019で使用したデッキがこれだ。
サイドボードガイド
本番で採用したサイドボードプランを紹介しよう。
白単/ボロス/アゾリウス アグロ
対 白単/ボロス/アゾリウス アグロ
エスパーヒーロー
対 エスパーヒーロー
エスパーコントロール
対 エスパーコントロール
グルール
対 グルール
赤単
対 赤単
イゼットフェニックス
対 イゼットフェニックス
シミックネクサス
対 シミックネクサス
お気づきの通り、《宝物の地図》は頻繁にサイドインする。リソース勝負になる相手にはほぼ間違いなく入れるのだ。エスパーヒーロー戦では、《宝物の地図》を奪う《人質取り》に気をつける必要がある。できれば除去を用意しておきたいところだ。
《遁走する蒸気族》は、相手が簡単に対処できたり、全体除去で盤面を流してくるなら、大抵はサイドアウトしてしまう。《ケイヤの怒り》を使ってくる相手と戦う場合、盤面に重点を置きすぎないようにしよう。
赤単でサイドボーディングする際は、以下の質問を投げかける。
ミシックチャンピオンシップ本番
Day1
初日の対戦は以下の通りとなった。
1日目 | |||
---|---|---|---|
Round 1 | Audrey Zoschak | 赤単 | 2-0 |
Round 2 | リー・シー・ティエン | アゾリウスアグロ | 0-2 |
Round 3 | Andrew Elenbogen | ボロスアグロ | 2-0 |
Round 4 | Matt Nass | エスパーコントロール | 2-0 |
Round 5 | Eric Oresik | バントランプ | 2-0 |
Round 6 | 八十岡 翔太 | エスパーコントロール | 1-2 |
Round 7 | ルイス・サルヴァット | エスパーコントロール | 2-0 |
Round 8 | クリスティアン・ハウク | 白単 | 2-1 |
The washed up HoFs will be back for day two of #mythicchampionshipIII ! pic.twitter.com/Znc0oK9Yh0
— Raphael Levy (@raphlevymtg) 2019年6月22日
「往年の殿堂がミシックチャンピオンシップの2日目に戻ってきた!」
MPLを勝ち抜いた4人に加え、初日でトップ12に入ったプレイヤーが2日目に進出した(6勝のプレイヤー全員と、タイブレイカーで上位の5-3のプレイヤー数人が入った)。
Day2 (ダブルエリミネーション)
2日目 | |||
---|---|---|---|
Round 9 | 佐藤 レイ | ボロスアグロ | 2-1 |
Round 10 | Jean-Emmanuel Depraz | イゼットフェニックス | 1-2 |
Round 11 | ジョン・ロルフ | エスパーコントロール | 1-2 |
大会を去ることになった11回戦は、悲痛な試合であった。戦略は見事に機能していたものの、ライブラリーを30枚近く掘り進めても《実験の狂乱》が見つからず、デッキが応えてくれなかったのだ。この試合だけを見て《宝物の地図》の評価を下すことなく、ぜひ自らの手で使ってみて欲しい。《宝物の地図》でなくても戦える見込みはなかっただろう。とりあえず試合をご覧いただきたい。私の言っていることがわかるはずだ。
Treasure Map was by far the card that helped me win the most games in the tournament. I’m bummed that it couldn’t find any treasure in my last game against @JRolfMTG, but it’s definitely an auto-include in MonoRed if you want to beat Esper. #MythicChampionshipIII pic.twitter.com/a8n8tTOZjI
— Raphael Levy (@raphlevymtg) 2019年6月22日
「今大会で最も勝利に貢献したのは間違いなく《宝物の地図》だった。残念なのは、最終戦となったジョン・ロルフ/John Rolfとの試合で全く宝物が見つからなかったことだ。とはいえ、エスパーを倒したいなら絶対に赤単に入れるべきカードだね。」
総じて《宝物の地図》は際立って活躍したサイドボードカードだった。エスパーコントロールを使うマット・ナス/Matt Nassとルイス・サルヴァット/LuisSalvattoと戦った際にはこの上なく頼もしかったし、ほとんどのマッチアップでサイドインしていた。
『基本セット2020』のカードリストを詳細に見ていないため、既存の強力な戦術を強化するカードがどれだけあるのかはわからない。だが、新環境が少しでもリソース重視になるならば、私のサイドボードを強くおすすめする。
MTGアリーナによるミシックチャンピオンシップを終えて
About to leave Vegas to get back to my peeps waiting for me at home.
— Raphael Levy (@raphlevymtg) 2019年6月24日
Thanks @MTG_Arena for the opportunity to compete in #MythicChampionshipIII.
Currently finishing up my report that should be up shortly on @hareruyaEnglish.
Thank you everyone for your support 🙏🏻 pic.twitter.com/3oqnakoxz0
「ラスベガスから家で帰りを待ってくれている家族の元に帰るところだ。ミシックチャンピオンシップ・ラスベガス2019で戦うチャンスを与えてくれたMTGアリーナには感謝を。今回の大会レポートも書き終わったところだから、近日中に晴れる屋で公開されるだろう。サポートをしてくれたみなさんもありがとう。」
本大会は素晴らしかった。大会のセットも最高だ。MTGアリーナを競技レベルでプレイするのは初めてのことであり、不安に感じていた。ミスクリックをしてしまう悪夢を見たこともあった。だが、実際にはそのような目に遭うことはなかった。照明が眩しくない部屋でヘッドホンをつけていたため、卓上のミシックチャンピオンシップの10倍は目の前のスクリーンに集中することができていたのだ。
大声で話すプレイヤー、相手がサイドボーディングしている際に目を奪う面白そうな試合。紙のマジックではこのようなものが常につきまとい、集中力を削ぐもので溢れている。長らくの間、自分の集中力と戦ってきたが、ようやく最初から最後まで恥ずかしいプレイを1度もすることなく大会を終えることができたのだ。
「挑戦者」の中で上位4名に入ったため、次回のMTGアリーナによるミシックチャンピオンシップへの招待を獲得した。高額の賞金を手にするチャンスの再来である。後ろ髪を引かれる思いが全くない状態で帰国できたことは大きな自信となった。今後に繋がることを願おう。
次回みなさんにお会いするのは、数週間後に開催される卓上のミシックチャンピオンシップ・バルセロナ2019だ。それまでの間は私のTwitchをお楽しみいただければと思う。放送時間は、毎週月曜・水曜・金曜、日本時間の17時だ。
では、いつも応援ありがとう!