思考プロセスの分析

Allen Wu

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/07/31)

はじめに

過去に学ぶ

興味深いことに、マジックが上手い人ほど薄情だったり愚かである確率は下がります。これは偶然ではありませんし、マジックの上達が人を親切にしたり賢くするからでもありません。有害なマインドセットや欠陥のある考え方を捨てきれない人が、ミシックチャンピオンシップ予選やグランプリレベルの大会で必ず行き詰まるからなのです。

個人的な話になりますが、私がプレイヤーとして最も成長したのは、テーブルトップのマジックをやめ、Magic Onlineに専念し始めたときのことでした。Magic Onlineでは尊敬するプレイヤーや、私が賛同しないといけないと感じる井の中の蛙もいませんでした。ただあるのは、私とスクリーンと、チケットの収支だけなのです。そしてついに、私は人生で最初3回のプロツアーをMagic Onlineのプロツアー予選で実現することになりました。

再集中

昨今のマジックのコンテンツは、詳細な部分に特化し過ぎており、マジックに対する姿勢・見方・プロセスを疎かにしています。この記事では、私にとって役立ったアイディアや考え方をご紹介しましょう。

選択肢、不確実さ、結果

良い判断が悪い結果をもたらすこともあれば、悪い判断が良い結果をもたらすこともあります。相手の4枚挿しのカードを意識したプレイをしていたら1枚挿しのカードに負けることもありますし、4枚挿しのカードを意識しないことで1枚挿しのカードに打ち勝つこともあるのです。結末はどうあれ、理論的に考えれば前者は良い判断であり、後者は悪い判断だと言い切れるでしょう。

実際には、マジックはもっと複雑です。ですが、だからこそプロセスが重要になります。良い判断をするには選択肢不確実さ結果の3つを明確に区別する必要があります。そして、悪い判断を省みる際には3つのどの軸で間違えたのかを考えるのです。

先ほどの例では、選択肢はわかりやすいものでした。1枚挿しを無視して4枚挿しに勝つか、4枚挿しを無視して1枚挿しに勝つか、です。ですが、実際のマジックのゲームでは、このようにすべての選択肢を把握するのは非常に大変です。

私の友人であるジェイコブ・ナグロ/Jacob Nagroが、土地を置くべきか、置くとしてもいつ置くべきかという記事を2000文字も使って書いています。単純にベストなプレイを考えていなかったためにベストなプレイができなかったのであれば、それは「選択肢を把握できていなかった」という失敗です。私自身も最も陥りやすいミスであり、手なりでプレイしてしまったこと、ベストなプレイを見過ごしてしまったことが原因となって引き起こされます。

では、序盤の相手の手札に1枚挿しのカードがあり、4枚挿しのカードはないということが読み取れたにも関わらず、そのヒントを見落としてしまっていた場合はどうでしょうか?あるいは、相手の身振りから手札を知ることができたはずなのに、それを見逃してしまっていたらどうでしょう?このような場合は、直面している不確実さ、この例で言えば「相手が1枚挿しを持っている確率と、4枚挿しを持っている確率」を確かめるチャンスを見逃した、という失敗になります。

前提条件がなければ、4枚挿しを持っている確率は1枚挿しの4倍であり、いずれも持っていない確率はいずれかを持っている確率を上回ります。しかし、ゲームの経過とともに蓄積された情報によって、みなさんの判断が変わる可能性がありますし、そうあるべきです。

ですが、ここは明確に区別する必要があります。誤った状況の理解とはいえ、与えられた情報の中でベストな選択肢を正しく識別できたのであれば、それは行動ではなく、認知に起因する失敗です。1枚挿しを無視して負けた場合、悪い判断をしてしまった可能性は大いにあります。ですが、悪い判断をしたと決めつけるには、相手が4枚挿しよりも1枚挿しを持っている確率が間違いなく高いことを認知できていた必要があるのです。

最後に、相手がいずれのカードも持っていなかった場合、100%の確率で勝てるという簡易的なケースを想定します。しかし、いずれのカードも持っていない確率は95%、4枚挿しのカードを持っている確率は4%、1枚挿しのカードを持っている確率は1%です。4枚挿しのカードを意識したプレイを取り、実際には相手の手札にいずれもない場合、敗北する確率は5%とします。この条件下であれば、4枚挿しのカードは1枚挿しよりも4倍の確率で手札にありますが、4枚挿しのカードを無視したプレイが正しいと考えられます。この場合は、各選択肢から導かれる結果を適切に見積もれなかった、という失敗です。

マジックでは悪い判断につながる要素が多く存在しています。将来に同じミスをしないようにするには、自分が犯した失敗がどの類のものなのかを正しく認識することが重要なのです。

なるようになる

自然のままに

判断に関してこのようにアプローチすることで、自然と受けられる恩恵があります。それは、コントロールできない要素、つまり不確実さを分離できることです。土地が2枚の初手をキープしたとして、3枚目の土地を引けるかどうかはプレイヤーがコントロールできるものではありません。大会を通じて何回マリガンをするのか、何回ダイスロールに勝てるのかも介入の余地がないのです。問題にまつわる不確実さを正しく把握する必要はありますが、その実現には関与できません。自分がコントロールできないものに苛立ち、時間やエネルギーを費やすぐらいならば、コントロールできるものにそのリソースを割いた方が良いでしょう。

誇張

優位宣言

近頃、私が敏感に反応してしまうのは、誇張表現です。マジックプレイヤーたるもの、このような言い回しを良く見聞きすることでしょう。「デッキAはデッキBに圧倒的に有利」「このマッチアップは人生で一度足りとも負けたことがない」「デッキCは使うべきじゃない」などなど。基本的にこういった主張は意味を持ちません。マジックにおいて必要なサンプル数からすれば、個人の経験は統計的に有意ではないからです。

また、現代マジックのカードパワーは高く、マナトラブルが深刻な影響をもたらすため、プレイヤーがデッキを上手く扱えてさえいれば、65:35よりも一方的な相性になることはほとんどありません(65:35でさえ滅多にないでしょう)。自分のためにも、一緒に調整をする人のためにも、誇張や個人的なエピソードに頼るべきではありません。相性が良いと考える理由を正確に言語化し、自らの主張を高い精度で説明するために数字を用いる方が、よっぽど有意義なのです。

以前に何度か友人ともどかしい会話を交わしたことがあります。友人曰く、「デッキAはデッキBをコテンパンにやっつけられる」というのです。しかし、長い時間をかけて議論をしてみると、友人は55:45の相性のつもりだったことが判明しました。明瞭にすることが大変なのは間違いはないでしょう。ですが、それがやらなくていい理由にはならないのです。

ファスト&スロー

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン/Daniel Kahnemanは、著書『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』にて「人間には2つの思考システムがある」と語っています。システム1は速く、自動的で、私たちが十分に認知をするよりも先に脳内で機能する仕組み、つまり直感によるところが大きいものです。システム1が担う役割は、瞬間的な判断、慣れ親しんだ問題の解決、そして私たちに息継ぎをする余裕を与えることです。対して、システム2は遅く、注意力を要し、意図的なものです。前頭葉で行われる思考であり、人間と動物を分ける要素でもあります。会話の中で「考える」と言った場合、通常はシステム2を指していると言えるでしょう。

どちらのシステムにも長所と短所があります。

システム1の長所

判断のひとつひとつを先ほどの例のように徹底的に分析しようとすれば、私たちは頭が痛くなってしまうでしょう。一度システム2で判断したら、以降はそれを既定の結論としてシステム1で処理します。ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasは、自分の直観を信じるようになってから大きく成長した記事で述べています。私たちは意識的に情報を取るに足らないと判断したり無視したりしますが、そのような情報もシステム1は把握しています。

直観

マルコム・グラッドウェル/Malcolm Gladwellの著書『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』から、1つエピソードをご紹介しましょう。美術史家や美術館の館長はその像が贋作であることが“わかった”のですが、誰一人としてなぜそう判断したのかを説明できませんでした。徹底的な科学調査が行われたにも関わらず、像の身元は判明しないままでしたが、館長たちは少なくとも像の出所に偽りがあることを理解していたのです。グラッドウェルは、軍事演習から離婚予想まで、さまざまなシステム1の奇跡を紹介しています。

システム1の短所

蜘蛛による摂食

ところが、システム1は最古の認知システムに由来するものであり、それが原因で誤った判断をすることがあるのです。たとえば、私たちは誰しもが本能的に熊やサメ、蜘蛛を恐怖の対象として捉えます。これらの生き物が数千年前の人間にとって脅威の象徴だったからです。ところが今日では、蚊・ハエ・ゴキブリなどの害虫を駆除してくれる蜘蛛は、危険どころか無害、益虫とされる傾向にあります。また、サメは船や海水の汚れから身を守るために海岸には寄り付きません。こういった恐怖は私たちの奥底まで染み付いてしまっていますが、理にかなったものではないのです。

時にはシステム2を用いて、時代遅れの本能に待ったをかけ、正しい判断を下すようにすべきでしょう。蜘蛛を殺生するのではなく、家の外に出したり、そっとしておくのです。

システム2の長所、短所

対して、システム2は悠長でストレスが溜まりますが、完全なコントロール下に置くことができます。システム2で判断をした場合、私たちは明瞭さを持って後悔のないように動けるのです。

認識のはかり

明瞭に考えるために重要なのは、一方のシステムを排してもう一方のシステムだけを使うことではありません。自分がどちらのシステムを使って思考したのかを意識的に認識するようにし、そのシステムの欠陥に気づくことが大切なのです。結果が出ないときにネガティブな感情が顔を出したり、あるいは軽率な行動を取りたくなった際には、システム1の仕業なのだと認識しましょう。複雑な盤面に圧倒され、訳もなく特定のプレイに走りたくなったら、システム2にも解けない問題があるのだと受け入れるのです。

謙虚

ロナルド・ライト/Ronald Wrightは著書『暴走する文明―「進歩の罠」に落ちた人類のゆくえ』にて、ジョン・スタインベック/John Steinbeckの言葉を引用しています。「社会主義は決してアメリカに根付かなかった。貧困層は自分自身を搾取されているプロレタリアートではなく、一時的に困難な状況にいる百万長者であると認識しているからだ。」

全く同じではありませんが、ミシックチャンピオンシップ予選でイカサマを働くプレイヤーも自分自身を一時的に困難な状況にいるミシックチャンピオンシップのチャンピオンだと思っているのではないかと思います。どんなマジックの記事にも、ライターの粗を探してコメント欄に残す人は例外なくいますし、そういったプレイヤーがフライデーナイトマジックで思ったほど勝てなかった場合、ドラフトデッキにレアを忍ばせることは想像に難くありません。

謙虚

競技プレイヤーとして活動していく中で最も有用だった特性は、謙虚さでした。誰しもそうであるように、私自身も自分が他人より優れていると思ったり、それを表に出してしまいがちですが、慢心した瞬間から、間違いなく進歩は止まります。私は必ずしも読んだ記事に賛同するわけでもないですし、盲目的に信じることが盲目的に拒絶するよりも優れたポリシーだと言うつもりもありません。ですが、自分が間違っている可能性を考慮に入れた方が、結果的に自分の考えを正しやすいのです。

さいごに

私の根幹をなす主義の中には、「信念は有用でこそ価値がある」というものがあります。この記事で取り上げた考え方はどれも私には有用なものばかりでした。みなさんにとってもそうであることを願っています。もちろん強要するつもりはないですけどね。

ここまで読んでいただきありがとうございました。また次回。

アレン・ウー (Twitter)

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Allen Wu アメリカ出身のプロプレイヤー。狭き門といわれるMagic Onlineでのプロツアー予選を幾度となく突破しているアメリカの強豪。グランプリ・アルバカーキ2016の優勝でその名を馳せた後、Wizards of the Coast社のプレイ・デザイン・チームに加入し、マジック開発に携わる。プレイヤーに復帰後、2018年8月に開催されたマジック25周年記念プロツアーでベン・ハル、グレゴリー・オレンジと共に優勝。さらなる研鑽を積むべく、チームメイトたちと共にHareruya Prosに加入した。 Allen Wuの記事はこちら