決勝:林 達哉 (アグロローム) vs. 荒川 友洋 (青黒忍者)
晴れる屋メディアチーム
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By Tsutomu Date
前期のレガシー東海王決定戦は、佐藤 元彦が『モダンホライゾン』の《甦る死滅都市、ホガーク》で強化されたドレッジで、ティムールデルバーを駆る清原 大地を下した。
それはまさに環境の大きな変化を感じさせる大会だった。
その後も研究は進み、『モダンホライゾン』はドレッジのみならず、多くのデッキへ影響を与えるに至る。特に《レンと六番》のカードパワーは高く、ティムールデルバーの進化を促進しただけに留まらず、色を足してでもこのカードの採用を検討させるほどであった。2マナでカードアドバンテージを獲得し、盤面への干渉手段を持ち、フィニッシャーとしても優秀。現在のレガシー環境は《レンと六番》を中心に回っていると言っても過言ではない。
それは現在のレガシープレイヤーのテーマの一つである。
スイスラウンドを3位で通過した林 達哉は、15歳でレガシーを始め、そのプレイ歴は12年を数える。主戦場はレガシーだが、フォーマットを問わずジャンドカラーを好み、幾多もの大会を制してきた猛者だ。昨年の「The Last Sun 2018」でもモダン・レガシーともにジャンドを用いて最終順位29位にまで食い込んでいる。
東海王の座に臨むその姿からは緊張感は見られず、むしろこの状況を楽しんでいるようにすら見える。戦歴からも伺えるが、このような状況を多く経験しているのだろう。
本大会で選んだデッキは「アグロローム」、つまり林は《レンと六番》を使う側のプレイヤーだ。前述の通り、デッキリストにはアグロロームと記載があるが、そのリストにデッキ名を冠する《壌土からの生命》の記載はない。
そう、《レンと六番》採用に伴い、林の調整したアグロロームからはとうとう《壌土からの生命》が抜けてしまっているのだ。他にも、『統率者(2019年度版)』から《エインジーの荒廃者》の導入があり、独自のチューンが施されていることがわかる。
林「今のデッキはMagic Onlineで200戦ぐらいやりましたね」
との言葉から、自らのデッキへの自信と信頼を感じさせる。
一方、荒川 友洋は、スイスラウンドを4位で通過。レガシーのプレイ歴は2年と古参の林に対しては若手に感じるが、マジック自体のプレイ歴は8年と負けてはいない。前期のレガシー東海王決定戦でTOP8を入賞しており、名古屋のレガシー大会でも上位入賞の常連だ。
しかし驚くべきは林からの一言。
林「彼、ハヤタツ(林の愛称)キラーなんですよ。対戦成績は0-8ぐらいじゃないかな」
荒川と林は大会でもよくマッチングされるという。その成績は大幅に荒川が勝ち越しているそうで、その言葉にはにかむ荒川だが大きく否定することはなく、どうやら表現に大きな誇張はないようだ。
使用デッキは「青黒忍者」。荒川は《レンと六番》に抗う道を選んだ。
目立つアーキタイプではないが、フェア、アンフェアどちらのデッキに対してもしっかりと立ち回ることができ、極端に不利なデッキはない。少数派ゆえに対戦相手からは対処法がわかりづらいという利点もあり、現在のメタゲームでは相当いい位置にいるようだ。
荒川は多くのデッキを使いこなす。「スゥルタイ忍者」から「チェコパイル(4色レオヴォルド)」、「グリクシスコントロール」、「白青石鍛冶」、「カナディアンスレッショルド」と、遍歴を重ねている。一つのデッキを習熟することが多いレガシー環境において稀有な存在だ。
荒川「もともと忍者デッキは好きでしたが、エターナル・ウィークエンド2019で入賞していたものを見てからはこれ(青黒忍者)です」
と、環境の分析とデッキ選択に慧眼を見せる。
昨今の東海レガシー界で、躍進が著しいチームがある。
「TEAM四日市レガシー」、通称「四レガ」。
東海でレガシーの大会があれば、メンバーの姿が必ず上位に見られる。その規模、実力ともに東海では誰もが知る存在である。本大会でもTOP8はなんと8人中5人が「四レガ」勢。もちろん、決勝まで駒を進めた2人もまた「四レガ」所属のプレイヤーである。
林「四レガに入ったのは3、4か月前だったかな。四レガ神決定戦に出るために入れて貰いました(笑)」
荒川「私はレガシーを始めた時から四レガでしたね」
2人はチームメンバーであることはもちろん、それ以前からともに練習・調整するほどの間柄だったという。
林「初めて当たったのはチェコパイル(4色レオヴォルド)のミラーマッチだったかな。あの頃の荒川さんはミスるから可愛かったなあ」
と過去形で語る林。
まだレガシーに慣れない荒川のプレイを後で見ながら、試合後にプレイの分岐点について話し合うことも多かったそうだ。それもあってか、荒川はメキメキと実力を付け、今や「ハヤタツキラー」の異名を持つに至るのは、前述した通りだ。
荒川「忍者側からすると、《虚空の杯》を出されるとつらいですね」
林「あと、ブロッカーが大きいデッキはきついでしょ。特に《聖遺の騎士》はきついはず」
荒川「きついですね」
林「アグロロームが有利なマッチかと思ってたんだけど、《巧妙な潜入者》、これがきつい。タフネス3は焼けないんだよね」
と試合前から感想戦かのように、自らのデッキの弱点を明かしていく2人。
今さら隠したところで仕方がないということか、もしくはこの決勝戦すらも成長の場と捉えているのか。まるで練習会の一場面を切り取ったかのような光景の中、第8期レガシー東海王決定戦、決勝戦が開幕した。
先手を選択した林は妨害手段が豊富な以下の7枚をキープした。
一方の荒川は1マリガン後に、
から、《墓忍び》をボトムに送ってキープ。こちらは攻勢のプランがはっきりしているハンドだ。
ファーストアクションは後手の荒川。《改良式鋳造所》からの《羽ばたき飛行機械》で、なんと1ターン目に4/4の構築物の生成を約束させる。
林は返しのターンで初手から抱えていた《虚空の杯》のうちの1枚をまずはX=1でプレイ。荒川への致命傷となりうるこの1枚だが、これを荒川は《意志の力》を温存し、そのまま通す。
荒川のデッキはレガシーの青いデッキの例に漏れず、《渦まく知識》《思案》を始めとして、軽量な1マナスペルを多く採用しており、60枚中19枚が1マナという構成。デッキの1/3、実にスペルの半数近くが無効化されたことになる。
ターンが返った荒川は慌てることなく生成した構築物で攻撃し、《悪意の大梟》を追加しドローを進めていく。
林は《不毛の大地》で荒川の《Underground Sea》を破壊し青マナを縛ると、続いて2枚目の《虚空の杯》を今度はX=0でプレイ。一貫して荒川のキャストを阻害するプランだ。
0マナ、1マナを封じられた荒川だが、構わず構築物と《悪意の大梟》でアタック。後者は《罰する火》で対処されるが、4点のクロックが確実に林を追い詰めていく。
ターンが返った林はその構築物に対処すべく《ヴェールのリリアナ》を呼び出すが、これはクロックを維持したい荒川が通すわけもなく温存していた《意志の力》でカウンターされる。
荒川は構築物での攻撃を続け、《悪意の大梟》を追加。
林は《漁る軟泥》を用意するが、構築物を止めるサイズには至らず、空中からの《悪意の大梟》の攻撃を止めることもできない。
荒川は淡々と攻撃を続ける。構築物と《悪意の大梟》のアタックから、遂には《悪意の大梟》を忍術で《巧妙な潜入者》に変え、忍者デッキの本領を発揮していく。
終始圧力をかけ続ける荒川の攻勢に対し、支えきることができない林は次のゲームに進むことを選択した。
林 0-1 荒川
2人のプレイはとても速く、まるで互いにデッキの挙動が完璧にわかっているかのようだった。
荒川「ハンドが強かったので淀みなく動けた感じはありましたね」
林「よくできてるんですよ、あのデッキ。さあてどうしようかな」
互いの土地に対しクリティカルな干渉を行うカードを投入し、除去カードの種類を変えていくサイドボーディング。これも互いのサイドボードから投入するカードを理解した上での施策なのだろう。
再び林が先手。先手1ターン目に《虚空の杯》X=1のプレイができる上に、後続も含まれている申し分のないハンドをキープ。
対する荒川は、林のムーブに対して1マナのドロー強化からプランを作っていくハンドで、こちらもキープ。
林は初手からのプラン通り、《Badlands》、《モックス・ダイアモンド》プレイからの《虚空の杯》X=1。これがカウンターされずに通ると、林は祈るように「負けてくれー!」と一言。
林の言葉通り、値千金の《虚空の杯》は、実に荒川の初手3枚を無効化したのだ。さらに返ってきたターンに《レンと六番》をプレイすると、先ほど《モックス・ダイアモンド》で捨てた《沼》を回収してターンを返す。まさにアグロロームのベストムーブと言っていいだろう。
荒川は土地を続けてプレイし、林の後続の《闇の腹心》を《暴君の嘲笑》で除去。さらに《基本に帰れ》で抵抗するが《レンと六番》を更地にコントロールする上に、《モックス・ダイアモンド》と《沼》を擁する林はどこ吹く風。
マウントを崩さない林は《聖遺の騎士》を召喚すると、《レンと六番》の忠誠度を上げていき、2つの方向からの勝利を目指していく。そして林は虎の子である《エインジーの荒廃者》を場に出す。
荒川は林のエンドに《瞬唱の魔道士》で《暴君の嘲笑》をフラッシュバックしその《エインジーの荒廃者》を破壊。苦しい盤面ながらもひとつひとつ脅威を取り除いていく。
続いて《瞬唱の魔道士》を《レンと六番》に差し向け、6まで上がっていた忠誠度を4まで落とす。
そして「ハンド1枚?」と林に確認すると《改良式鋳造所》をプレイ、《虚空の杯》の誘発を確認して墓地に落としていく。
ターンが返ってきた林は、《レンと六番》の[-1]能力で《瞬唱の魔道士》を除去。2枚目の《エインジーの荒廃者》をプレイし優位を崩さない。
このまま林が圧倒するかと思いきや、荒川は自ターンに墓地の枚数を素早く確認すると、《墓忍び》をプレイ!前のターンにあえて《改良式鋳造所》を墓地に落としたのは、この目論見があったためだ。これには林も思わず
林「《グルマグのアンコウ》よりやべえよ!これ」
と漏らす。
5/5飛行は林の攻勢を止め、《レンと六番》に肉薄する影響力を持つ。
これまで常にノータイムでプレイしていた林だが、小考すると2/2の《聖遺の騎士》と《エインジーの荒廃者》でアタック。まずは《エインジーの荒廃者》の能力でハンドを捨てて3ドローすると、ブロック前にたった今引いてきた《暗殺者の戦利品》を《墓忍び》に。これは《意志の力》され、《エインジーの荒廃者》はブロックされて討ち取られる。
そして荒川は《墓忍び》を悩みの種であった《レンと六番》に対して攻撃、ようやく落とすことに成功する。これで盤面はやや荒川に傾いたか。
林としては《墓忍び》への回答か、ダメージレースを優位にするクロックを追加したいところだ。
しかしここで林が繰り出してくるのは《窒息》!
盤面への干渉こそできないが、荒川の青マナが全て縛られる強力な対青カード。ここまで冷静なプレイを続けていた荒川もこれを無視することができない。
荒川「チョーク、チョークるしい(超苦しい)」
という言葉が思わず出てしまう。
ここからはダメージレースになるとみたか、林は荒川のエンドに《聖遺の騎士》の能力で《Savannah》を生贄に捧げると、《森》を場に出して4/4に。さらには《平穏な茂み》をサイクリングして5/5に。そして自ターンで《育成泥炭地》をプレイし即生贄に捧げ、一気に6/6と《墓忍び》を超えるサイズまで成長させると、そのままアタック。
荒川も負けじと《墓忍び》で3度目となるアタック。ここでの互いのライフはというと、林は7、荒川は10まで落ち込んでおり、ともに2回のアタックで決着となる局面だ。
慎重にならざるを得ない両者、林はアタック前に「ちょっと考えます」と墓地を確認すると、まずは《聖遺の騎士》でアタック。互いの斬り合いを思わせる動きだが、第2メイン・フェイズに移るとアタックを否定する《イス卿の迷路》をプレイ。《墓忍び》の攻撃を受ける体制を作ることに成功する。
ターンを返さざるを得ない荒川に対し、林は《聖遺の騎士》アタック。荒川は《墓忍び》でチャンプブロックせざるを得ない。
ここで回答がなければラストターンとなる荒川、アップキープに《汚染された三角州》で《冠雪の島》をサーチ。
林「いやな感じだなー、あのフェッチの切り方は」
荒川「確率を上げてるだけですよ」
しかし荒川の入魂のドローは解決策を引くに至らなかった。
荒川「はい、負けです」
勝負はGame 3に持ち越されることに。
林 1-1 荒川
林「《虚空の杯》X=1で終わったと思ったんですけどね。全然終わってくれないんですよ」
優位な序盤の流れからも、容易に勝たせてくれないことを思わず愚痴る林。
林のサイドボーディング:変更なし
これが最後となるサイドボーディング。手の内がわかっているようでも、まだまだ検討の余地があるようだ。互いに思考を巡らすと、先に林は「ノーチェンジで!」 と強く宣言。
林「僕は(Game 2のサイドボーディングプランは)間違っていないと思いました!」
と決意を見せたと思いきや、
林「いや、やっぱり1枚だけ変えます……めちゃくちゃ入れたくないなこれ……」
と悩んだ後に
林「やっぱノーチェンで!」
最後のゲームに臨む上でも、場を和ませ明朗快活なキャラクターは揺るがない。
一方の荒川は慣れた様子でその振る舞いに笑みを向けながら、後手となったことで微調整を行う。
初の荒川の先手。マナ基盤も序盤の動きも申し分ない初手だ。
一方林はやや土地が多いが、《レンと六番》と除去があり悪くはない初手。
最後のゲームの第1ターン目は、荒川の《思案》で始まった。
林「多分《意志の力》探してますよ」
荒川「おおまかにはそうですかね。まあなんとも言えませんね」
と慣れた調子で返す荒川は、続いて《羽ばたき飛行機械》をプレイしてエンド。
対する林は「ちょっと考えるね」と言って《新緑の地下墓地》を出してターンを返す。
荒川はメインで《虹色の眺望》から《冠雪の沼》を持ってくると、《羽ばたき飛行機械》でアタック。忍術でその姿を《虎の影、百合子》に変え、そのまま戦闘ダメージを与えると、荒川はトップのカードを公開し…そこで公開されたのはなんと《墓忍び》!
《虎の影、百合子》の戦闘ダメージと合わせ、林のライフを一挙に9点も奪っていく。そして《羽ばたき飛行機械》を出し直すと、次の忍者を匂わせる。
このムーブにはたまらない表情を見せる林は、再度《新緑の地下墓地》をプレイ、そして動きはない。
荒川は再びの《思案》後、《虎の影、百合子》で再度アタック。これに対し林はフェッチランドを2枚起動し《虎の影、百合子》に《突然の衰微》。
スタックでこちらもとフェッチランドを起動する荒川。そこにさらにスタックする林は《活性の力》をピッチでプレイ(追加コストは《レンと六番》)。荒川の手札に《否定の力》があることを想定し、3マナでのプレイをさせずに《羽ばたき飛行機械》を破壊するプレイだ。これは解決され、戦闘後に荒川は手札から《改良式鋳造所》をプレイし、ターンを返す。
ターンの返ってきた林は、《吹きさらしの荒野》から《虚空の杯》をX=1でエンド。
荒川は慌てずサイドインしていた《仕組まれた爆薬》をX=0でプレイし、《虚空の杯》に対抗する。 林はクロックとして《聖遺の騎士》を追加し圧力をかけていくが、ターン終了時に荒川は《仕組まれた爆薬》を起動し、「紛争」を達成しつつ《致命的な一押し》を《聖遺の騎士》に。これで盤面は再び更地へ。
自分のターンが返ってきた荒川は、2ターン目にその姿を見せていた《墓忍び》をプレイ。林のライフはすでに《虎の影、百合子》から受けたダメージとフェッチランドの起動を重ねたため、7まで落ち込んでいる。早急な対処ができなければ、そのままゲームエンドとなる1枚だ。
回答を見出さなければならない林は《育成泥炭地》をプレイして即ドローに変換する。除去を引くには至らなかったが、《Taiga》から《レンと六番》を呼び出し、[+1]能力で《育成泥炭地》を回収する。次ターンにさらにドローへと変えることはできるが、間に合うか。
荒川は林のエンドに《改良式鋳造所》で1/1の霊気装置を生成する。これでクロックは6点となり、林のライフを1点まで追い詰めることができる計算だ。
荒川はそのまま《墓忍び》と霊気装置でアタックし、霊気装置を《巧妙な潜入者》に変える。1点のダメージが2点に増えることで、これで丁度7点のダメージとなる。
果たして林に対抗手段はあるのか。
しかし林はこの状況を見て大きくうなずくと、新たな東海王に祝福の笑顔を向けた。
林 1-2 荒川
決勝戦が終わった後も、席を離れることなく2人のやり取りは続いている。
林「荒川さんだけは斬れんなー!」
荒川「《虚空の杯》はX=0の方が刺さることもありそうですね」
林「Game 1は《虚空の杯》X=0、その後X=1なら勝ってたかも。《暗殺者の戦利品》を4/4に撃ちたくなかったところで殴り殺されちゃったんだよなぁ」
サイドボードを見せ合いながら、ゲームプランやサイドボーディングを検討しあう2人。これまでもこのような場面は多く繰り広げられていたのだろう。決勝の場でも常に高めあう2人の、今後の活躍を期待したい。
『第8期レガシー東海王』の称号を手に入れたのは、荒川 友洋!おめでとう!