Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/10/04)
モダンで通用するポテンシャル
『エルドレインの王権』の発売から間もなくして、《王冠泥棒、オーコ》は自身がスタンダードでトップクラスのカードであることを証明しました。一般的に《金のガチョウ》やその他の「食物」カード、あるいはアーティファクトシナジーとともに運用され、《オーコ》は環境に強烈なインパクトを与える存在となっています。2つ目の能力が忠誠度を上げるため、適切なサポートをすれば3/3のクリーチャーを繰り返し生成することが可能です。同時に、3/3のクリーチャーを上回る脅威も大鹿に変身させて無力化できます。
《オーコ》がスタンダードですぐに活躍したことから、モダンでも通用するのではないかと考えるようになりました。それに、モダンであればスタンダードとは異なるサポートカードを使うことができるのです。Magic Online上の多くのプレイヤーたちはこの事実にすでに気づいているようですが、《オーコ》のサポート役に求めるべきは、戦場に出た時点でアドバンテージをもたらすアーティファクトやクリーチャーです。
幸い、『モダンホライゾン』は素晴らしい2つのツール、すなわち《アーカムの天測儀》と《氷牙のコアトル》を生み出しています。今後モダンで《オーコ》を使用するほとんどのデッキは、2種のいずれか、あるいは両方を採用し、他のサポートカードを少し足すような形になるのではないでしょうか。
モダンで《オーコ》を使いたくなるもうひとつの理由は、毎ターン生成される食物トークンでライフを回復できることです。スタンダードでは『エルドレインの王権』発売の少し前まで存在したバーンスタイルの赤単が衰退し、《災厄の行進》を中心に構築する方向性へシフトしています。盤面に継続的な高ダメージ源があるため、食物トークンのようなライフ回復は以前ほど効果的ではありません。
しかし、モダンでは事情が異なります。実際、記事を執筆している時点ではモダンの一番人気はバーンです。バーンが《オーコ》を乗り越えることもときにはあるでしょうが、2~3ターン目に着地し、忠誠度を6まで引き上げ、ゲームが終わるまで毎ターン食物トークンを作っていくのですから、バーンに勝てる確率は高いはずです。
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デッキリストをご紹介する前に、最後に《オーコ》の3つ目の能力に触れておきましょう。実をいうと、[+5]能力は少々残念だと思っています。コントロールを入れ替えて嬉しいクリーチャーがいることもあるでしょうが、そのような展開はあまり起きないはずです。そもそも、《オーコ》が戦場にいて、奪われる可能性がある優秀なクリーチャーが手札にいる場合、相手は[-5]能力を使われる展開を認識しているはずです。したがって、相手はそのクリーチャーを唱えないことでしょう。
しかし、[-5]能力が個人的に残念だと思っている大きな理由は他にあります。もし[-5]能力を使わず、コントロールを奪いたいクリーチャーや相手にコントロールを渡したいパーマネントに[+1]能力を使用すれば、[-5]能力を使用したときと比較して《オーコ》の忠誠度は[6]も差が生まれます。プレインズウォーカーを主に戦闘で対処しようとする世界では、忠誠度6の差は見捨てるには大きすぎます。ですから、食物トークンと何らかのクリーチャーをトレードしようするときは、このことを念頭に置くようにしてください。それでも[-5]能力を使いたいのだとすれば、大鹿にしてもほとんど意味がない《教区の勇者》などの+1/+1カウンターが置かれたクリーチャーを対処したい場合でしょう。
バントカラー
バントカンパニー
先ほどもお伝えしましたが、《オーコ》は登場してすぐにモダンにも姿を見せました。彼が使えるようになった最初のModern Challengeでは、UBERMIKEYBが《オーコ》を組み入れたバントカンパニーでトップ8に入賞しています。
《オーコ》の居場所を見つけるにあたり、バントカンパニーは手始めに試すデッキとして適しています。大鹿へのグレードアップを検討する価値があるクリーチャーが多くいますし、盤面を作っていくデッキならば相手の厄介なパーマネントに《オーコ》の能力を使う機会を増やせるのです。《殴打頭蓋》は3/3となった相手のクリーチャーを上回るだけでなく、細菌トークンを大鹿にすれば7/7の絆魂・警戒のクリーチャーとなって盤面を支配できます。
さらに、《オーコ》は《呪文捕らえ》と独特なシナジーがあります。呪文を追放した《呪文捕らえ》を大鹿にすると、戦場を離れたときに相手がその呪文を再び唱えられるという能力を失うのです。ただし、《拘留代理人》は同様のシナジーがありません。追放効果と戦場に戻す効果がひとつの誘発型能力に含まれているからです。
バント石鍛冶
個人的な意見ですが、バントカンパニーの《集合した中隊》があまり好きではありません。その点、バント石鍛冶は《集合した中隊》を取り除いている形が多いように思います。先日、ケルヴィン・チュウ/Kelvin Chewが自身の記事にてオリジナルのバント石鍛冶の構成を紹介していました。ここでは、彼のリストに《オーコ》や『エルドレインの王権』の新カードを使用したものをご覧にいれましょう。
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- バント石鍛冶デッキガイド
- Kelvin Chew
《オーコ》は《聖トラフトの霊》と全く同じ役割ではないですが、能動的な枠として試してみるのは一定の説得力があるでしょう。また、《否定の力》に必要な青のカードの枚数も変化しません。
その他の変更点ですが、《時を解す者、テフェリー》1枚は《厚かましい借り手》に、《ルーンの与え手》1枚は《むかしむかし》にしました。モダン、特にバント石鍛冶のようなフェアなデッキでの《むかしむかし》の扱い方はまだ明らかではありません。今のところわかっているのは、1枚挿しだと7枚の初手に来る確率が11.66%であり、初手以外のタイミングではインスタントであることを利用し、《氷牙のコアトル》や《呪文捕らえ》などを構えているように装えるということです。元のデッキリストには《ガヴォニーの居住区》がありましたが、《ムーアランドの憑依地》と入れ替えました。《オーコ》の能力や装備品の対象となるクリーチャーを増やしたいという意図です。
ウルザ
今現在、多様な形がある《最高工匠卿、ウルザ》デッキがモダン最強だと思う方は多いはずです。《湖に潜む者、エムリー》がウルザデッキ向けのカードであるのは明らかであり、《ジェスカイの隆盛》や《パラドックス装置》とのコンボさえ成立させました。そして、《オーコ》もウルザデッキの多くに採用されてもおかしくないと思っています。どれだけ低く見積もっても、サイドボードには入るでしょう。
これほどウルザデッキが隆盛している一因は、ほぼすべての型に無限コンボが搭載されていることにあります。それだけでなく、相手に大きなプレッシャーをかけられるため、フェアなゲームでも非常に強いのです。《オーコ》はサイドボード後のプランに噛み合っています。《アーカムの天測儀》や重複したモックス、ソプタートークンを大鹿に変え、目ざわりなパーマネントへの解答になります。たとえば、《石のような静寂》や《大いなる創造者、カーン》と対面した場合、能力が起動できなくなったアーティファクトを3/3の脅威へと変貌させますし、あるいは単純に《溜め込み屋のアウフ》の能力を奪うことにも使えるのです。
ウルザデッキの多くは、バーン対策としてサイドボードに《機を見た援軍》や《嵐の乗り切り》を採用することが一般的です。《オーコ》は同様にバーン対策になりつつ、その他のマッチアップでも使える汎用性を持つカードとなるでしょう。
モダンリーグにおいて、すでに《オーコ》はウルザデッキで使われています。ここでは、Magic OnlineのグラインダーであるPascal3000のデッキリストを例にあげましょう。
逆説ウルザ
1 《冠雪の森》
1 《冠雪の沼》
1 《繁殖池》
1 《湿った墓》
4 《霧深い雨林》
4 《虹色の眺望》
2 《冠水樹林帯》
-土地 (18)- 4 《極楽鳥》
3 《湖に潜む者、エムリー》
2 《練達飛行機械職人、サイ》
4 《最高工匠卿、ウルザ》
-クリーチャー (13)-
1 《運命のきずな》
4 《永遠溢れの杯》
4 《ミシュラのガラクタ》
4 《オパールのモックス》
3 《仕組まれた爆薬》
1 《モックス・アンバー》
4 《アーカムの天測儀》
1 《魔法の井戸》
2 《崇高な工匠、サヒーリ》
1 《王冠泥棒、オーコ》
-呪文 (29)-
2 《思考囲い》
2 《嵐の乗り切り》
2 《金属の叱責》
2 《王冠泥棒、オーコ》
1 《不屈の追跡者》
1 《暗殺者の戦利品》
1 《集団的蛮行》
1 《ゴルガリの女王、ヴラスカ》
-サイドボード (15)-
上記のデッキリストに非常に似通ったウルザデッキは他にもあり、それらは《オーコ》をメインデッキに1枚、サイドボードに追加で1~2枚確保しています。分散させて採用するのは合理的ですが、《オーコ》は遅めのゲーム展開に向いているため、サイドボードだけのカードになってもおかしくないでしょう。
どちらかと言えば、ソプターコンボ型の方が採用する機会が増えると思っています。ウルザソプターの方が遅めのゲーム展開を若干得意としているからです。また、ソプター型は《罠の橋》がありますから、相手に3/3のクリーチャーを与えたとしても無力化できる魅力があります。
ソプターコンボ型もリーグで5-0したデッキリストをご紹介しましょう。
ウルザソプター
1 《冠雪の森》
1 《冠雪の沼》
1 《繁殖池》
1 《湿った墓》
4 《霧深い雨林》
4 《汚染された三角州》
2 《産業の塔》
1 《発明博覧会》
-土地 (19)- 4 《湖に潜む者、エムリー》
4 《最高工匠卿、ウルザ》
-クリーチャー (8)-
3 《発明品の唸り》
4 《ミシュラのガラクタ》
4 《オパールのモックス》
2 《モックス・アンバー》
1 《トーモッドの墓所》
1 《溶接の壺》
4 《アーカムの天測儀》
2 《魔法の井戸》
1 《真髄の針》
4 《飛行機械の鋳造所》
2 《弱者の剣》
1 《黄金の卵》
1 《罠の橋》
1 《王冠泥棒、オーコ》
-呪文 (33)-
2 《儀礼的拒否》
2 《思考囲い》
2 《集団的蛮行》
2 《夢を引き裂く者、アショク》
2 《ボーラスの工作員、テゼレット》
1 《致命的な一押し》
1 《王冠泥棒、オーコ》
-サイドボード (15)-
この型は1ゲーム目でのミッドレンジプランを本格的に採用し始めました。先日、サム・ブラック/Sam Blackは現在のウルザデッキがかつての《出産の殻》デッキを彷彿とさせると発言していました。確かにその通りだと思います。両者は数枚ずつ採用したカードをサーチする手段を持ち、コンボの脅威をちらつかせながらミッドレンジとして立ち回ります。また、新たに登場した強力なカードを取り入れることが多く、セットが発売されるたびに強化されていくのです。ことウルザデッキは全ての色にアクセスできるのが一般的ですから、強力なカードのほぼすべてが採用の検討に値するものになります。
ティムール / スゥルタイ
当然ですが、《オーコ》はティムールやスゥルタイに居場所を見つける可能性があります。ただ、完成度の高いティムールやスゥルタイは現在のモダンにはあまりありません。今後活躍するデッキが出てくるとすれば、《アーカムの天測儀》や《氷牙のコアトル》が入っているでしょうから、依然として《オーコ》も合うデッキとなるはずです。
スゥルタイプレインズウォーカー
このアーキタイプでも、『エルドレインの王権』発売の初週にモダンリーグで5-0したプレイヤーがいました。
2 《冠雪の森》
1 《冠雪の島》
2 《草むした墓》
1 《湿った墓》
4 《虹色の眺望》
4 《新緑の地下墓地》
1 《霧深い雨林》
4 《廃墟の地》
-土地 (22)- 4 《氷牙のコアトル》
4 《タルモゴイフ》
-クリーチャー (8)-
4 《思考囲い》
3 《コジレックの審問》
4 《楽園の拡散》
4 《アーカムの天測儀》
4 《ヴェールのリリアナ》
3 《王冠泥棒、オーコ》
4 《大いなる創造者、カーン》
-呪文 (30)-
事前に予想していた形とは異なるスゥルタイでしたが、カードパワーが高いものを結集させた構成になっています。《オパールのモックス》の採用率が高い現環境であれば《大いなる創造者、カーン》は納得の採用です。他にもコンボ対策に手札破壊を用意しており、《オーコ》はバーン対策になります。
[+1]能力の対象となるカードが少ないため、3/3のクリーチャーを展開するには基本的に[+2]能力の食物トークンに頼ることになるでしょう。ですが、妨害が豊富なデッキですから、理にかなった運用方法だと思います。どちらかと言えば、このデッキは《オーコ》がサポートなしでも通用する力があることを証明したかったのでしょう。プレッシャーを生み出せる3マナのプレインズウォーカーというだけで十分だろうということですね。
ティムールプレインズウォーカー
《オーコ》を使ったティムールミッドレンジはいまだに見たことがありませんが、このカラーの弱点を補う可能性があると考えています。ティムールはかねてから大型クリーチャーの対処に難を抱えていましたが、[+1]能力で3/3に変身させれば《稲妻》で除去したり、《タルモゴイフ》でサイズを上回ることができます。さらに、食物トークンによるライフ回復は、フェッチランドを使い回す展開になりやすい《レンと六番》にとってありがたい存在です。《オーコ》を採用したティムールを使うなら、まずはこのような形でどうでしょうか。
1 《冠雪の森》
1 《冠雪の山》
2 《蒸気孔》
1 《繁殖池》
1 《踏み鳴らされる地》
1 《神秘の聖域》
4 《霧深い雨林》
4 《沸騰する小湖》
1 《虹色の眺望》
1 《焦熱島嶼域》
1 《孤立した砂州》
-土地 (22)- 4 《氷牙のコアトル》
3 《瞬唱の魔道士》
3 《タルモゴイフ》
-クリーチャー (10)-
4 《血清の幻視》
2 《雪崩し》
2 《呪文嵌め》
2 《否定の力》
2 《謎めいた命令》
4 《アーカムの天測儀》
3 《レンと六番》
3 《王冠泥棒、オーコ》
2 《精神を刻む者、ジェイス》
-呪文 (28)-
2 《古えの遺恨》
2 《軽蔑的な一撃》
2 《血染めの月》
2 《神々の憤怒》
2 《夢を引き裂く者、アショク》
1 《高原の狩りの達人》
1 《アイレンクラッグの紅蓮術師》
1 《否定の力》
-サイドボード (15)-
先ほどと同様に、このデッキも大鹿に変身させることに特化させたデッキではありません。ただ、《瞬唱の魔道士》がいるため、スゥルタイよりも効果の対象は幾分か多いです。とはいえ、このティムールも《オーコ》単体でのゲームの支配力に期待しています。
他にも新カードとして《神秘の聖域》を採用しています。終盤にフェッチランドからサーチしてインスタント/ソーサリーをライブラリートップに戻せますし、さらにゲームが進めば《謎めいた命令》でバウンスして使い回すことも可能です。サイドボードには《アイレンクラッグの紅蓮術師》を試しています。期待通りの働きはしないかもしれませんが、このデッキには豊富なキャントリップ効果・《精神を刻む者、ジェイス》・《レンと六番》で回収できる《孤立した砂州》がありますから、《アイレンクラッグの紅蓮術師》の能力が繰り返し使えるだけの素材はあります。
オーコの行く末
ここまで見てきたように、《オーコ》はすでにある程度の結果を出しているようです。新カードが発売されたころは誰もがその可能性を模索します。仮にその新カードのせいで勝率が下がったとしても、続けていくことでいずれ勝てるようになるでしょう。ただ、《オーコ》はモダンで通用するカードとしてひと際存在感を放っています。
僕がとても気になっているのは、《オーコ》、もっと言えば[+1]能力がどうやってデザインされたのかです。《猿術》や《内にいる獣》のような効果は歴史的にニッチな存在でした。ですから、この能力がゲームを歪め過ぎることはないだろうという直観も理解できます。ただ、毎ターン[+1]能力を使い、マナを他の用途にあてて《オーコ》を盤面に維持できるとなると、驚くほど強力な能力になってしまったのです。
《オーコ》は今後もモダンで定期的に活躍を見せるカードとなるでしょう。ですが、採用枚数が減ってもおかしくないと思っています。場合によっては、どんなデッキにおいても75枚中1枚に収まるかもしれません。スタンダードでは《オーコ》のカードパワーは抜きん出ていて、重ね引くことが肯定されるのは、通常「1枚が盤面に残っている=有利な状況」の図式が成り立つからです。
しかし、モダンで同じ図式が成り立つ確率は低いでしょう。強力なカードがあふれるモダンでは《オーコ》も強力なカードの1枚に過ぎないからです。さらに、《オーコ》の強さの大部分は選択肢の多さにあり、モダンではそういった類のカードは伝統的にサイドボードへ移されてきました。1ゲーム目はできるだけ一直線でパワフルな動きにしようという考えです。とはいえ、《オーコ》がメインボードに採用されるほど純粋に強力な可能性も捨てきれないでしょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。《オーコ》の上手い使い方が見つかったらぜひTwitter(@JacobNagro)で教えてくださいね。
ジェイコブ・ナグロ (Twitter)