Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/11/07)
回るメタゲーム
昨今、マジックのコミュニティは《死者の原野》禁止後のスタンダード環境に不穏な空気を感じ取っている。ゴロスデッキがいた当時のもうひとつのベストデッキ(《金のガチョウ》、《王冠泥棒、オーコ》、《世界を揺るがす者、ニッサ》、《ハイドロイド混成体》パッケージ)が禁止前よりも圧倒的な支配力を示しているんだ。
でも、僕はこの現状に一筋の光を見出している。今回は《王冠泥棒、オーコ》だけが勝つための選択肢ではないことを示していきたい。現環境で好ましくないと感じているのは、オーコデッキがマナ加速からプレインズウォーカーを展開し、こちらはそのプレインズウォーカーを即座に対処しなければ積み重なるアドバンテージを前に巻き返しが難しくなってしまうことだ。
とはいえ、一般的にスタンダードは移り変わりが激しいフォーマットだ。ある時点でベストデッキであっても、その立場を守り続けることは難しい。プレイヤーたちが意識を強めるからだ。ライバルに差をつけるコツは、大勢のプレイヤーが使用するデッキの一歩先を行くことにある。
例を挙げよう。《死者の原野》が禁止になったことで、残るベストデッキはバントフードとシミックフードになった。多くのプレイヤーがこの事実に気づき、《害悪な掌握》と《ゴルガリの女王、ヴラスカ》をメインデッキに入れるためにシミックに黒を足したスゥルタイを選択し始めた。
しかし、スゥルタイが一番人気のデッキとなると、ライバルに差をつける道はおおよそ2つに分かれた。ひとつは原点に立ち返り、《害悪な掌握》の被害が少ないデッキを選択すること(ティムール再生、ラクドスサクリファイス、アゾリウスコントロール)。もうひとつは、スゥルタイフードのメタゲームをさらに推し進めて、メインデッキに《夏の帳》を入れることだ。
Veil main is even more correct than 《害悪な掌握》. 16/16 MCQ qualifying decks are hit by Veil.
— crokeyz (@crokeyz) October 29, 2019
Been testing 2 Veil/4 Grasp and holding Top 10 most of the day. Beginning to think 3/3 split may be correct.
This is madness.https://t.co/TYtSfhB6Pd@ArenaDecklists pic.twitter.com/IcpwQx0yIl
《夏の帳》が刺さるデッキが増え、メインデッキに搭載するスゥルタイフードが登場
《害悪な掌握》と《夏の帳》をメインデッキに搭載したデッキが成功を収めているのであれば、オーコ・ニッサ・ハイドロイドのパッケージにパワーが及ばないとしても、この2種の色対策カードが刺さらない戦術が出てきてもおかしくない(実際、最近になってMagic Onlineでラクドス騎士を見かけるようになった)。
色対策を回避するデッキが出てくるとどうなるだろうか?そう、最初のメタゲームに戻る!メタゲームがどんどん発展していくと、第1週のデッキを狩るデッキが数を減らすタイミングがやってきて、再び第1週のデッキが息を吹き返し始めるんだ。今回のケースであれば、テンポを重視したシミックフードが該当するね。
ここからは、最近結果を出したリストから僕が気に入っているものをメタゲームの発展に合わせて紹介していこう。
メタゲーム:ステージ1
ステージ1のデッキとして選んだのは、八十岡 翔太がマジック・プロリーグ(MPL)のパールディビジョンを優勝したときに使用したシミックフードだ。
見ての通り、スゥルタイフードと類似点が多いデッキだから、このリストとスゥルタイとで勝率に大きな差はないはずだ。このデッキは、(《害悪な掌握》がメインデッキに増えてきたことを受けて)ラクドスサクリファイスのようなマイナーな戦略を選択するプレイヤーがいることを見越して選択したのだろう。シミックならばマナベースによるライフの損失がスゥルタイよりも抑えられるため、騎士やグルールと戦ううえで有利に働く。
もうひとつ指摘しておきたいのは、《夏の帳》は呪文を対象にとった《霊気の疾風》を無力化できないということだ。この場合の《霊気の疾風》は呪文を打ち消すわけではないからね。
メタゲーム:ステージ2
ステージ2は、シミックに黒を足して《害悪な掌握》や《ゴルガリの女王、ヴラスカ》を搭載した段階だ。今回のパールディビジョンに参加したMPLプレイヤーたちに人気だったデッキでもある。
ここではマシュー・ナス/Matthew Nassとパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Pauro Vitor Damo da Rosaが使用したリストを取り上げた。このリストの良いところはミラーマッチを想定して調整されている点で、《呪われた狩人、ガラク》ではなく《害悪な掌握》が効かない《戦慄衆の将軍、リリアナ》をフィニッシャー枠に据えている。さらには、相手が《戦慄衆の将軍、リリアナ》を使ってくることを見越して、サイドボードに《暗殺者の戦利品》さえ入っている。
デッキ単体でみれば、このデッキが環境で最強の戦略だろうと思っている。どれだけ意識されようが、スゥルタイの勝率が低下するのは想像しづらい。パールディビジョンはシミックフードが制したものの、黒を足すことがフードミラーで多少の有利につながるはずだ。
メタゲーム:ステージ3
ステージ3では、先日のミシックチャンピオンシップ予選(MCQ)で特に気に入ったデッキを2つ紹介しよう。
ティムール再生
ひとつ目は、友人であるマティアス・レヴェラット/Matias Leverattoが使用したもので、あと1勝で本選の権利を得るところまで迫った。
アグロに対してやや脆い戦略ではあるものの、オーコが支配する環境では赤単や騎士、グルールといったデッキは数多くない。《害悪な掌握》が相手のメインデッキに入っていることで、より有利に戦えるのがティムール再生だ。
しかし、ステージ1で紹介した八十岡のシミックフードはかなり厄介な存在だ。《荒野の再生》の効果が誘発する前に《厚かましい借り手》でバウンスされ、さらに《世界を揺るがす者、ニッサ》を出されてしまうとほぼ巻き返せなくなる。
ラクドスサクリファイス
続いては、MCQでミシックチャンピオンシップ VIIの権利を獲得したアントニーノ・デ・ロサ/Antonino De Rosaのデッキだ。
自分でも少し使用してみたところ、回ったときの動きは凄まじく、面白いデッキだと感じた(主に《初子さらい》と《忘れられた神々の僧侶》のコンボ)。だけど、シナジーに偏重しているデッキだから、まとまりがない動きになってしまうこともたまにある。
《魔女のかまど》と《大釜の使い魔》のコンボは非常に強く、そこに《真夜中の死神》や《波乱の悪魔》が加われば恐ろしいことになる。ときおり過度なマナスクリューになることがあるものの、1~2枚の《魔女のかまど》と《大釜の使い魔》があれば、ブロックと生け贄を繰り返して相手のライフを削りきることもあり得る。僕が考える最強の初手は、《大釜の使い魔》1枚、《魔女のかまど》4枚、土地2枚かな。こんな初手が来たらまず負けないと思うよ。
ゴルガリアドベンチャー
最後にもうひとつだけ紹介したいデッキがある。今年、挑戦者として際立った活躍をしているクリス・カヴァルテク/Chris Kvartekが(再び!)MCQを通過したときに使用したデッキだ。
6 《森》
4 《草むした墓》
1 《寓話の小道》
4 《疾病の神殿》
2 《ロークスワイン城》
-土地 (24)- 4 《エッジウォールの亭主》
4 《穢れ沼の騎士》
3 《楽園のドルイド》
2 《真夜中の騎士団》
4 《恋煩いの野獣》
4 《残忍な騎士》
3 《悪ふざけの名人、ランクル》
1 《虐殺少女》
-クリーチャー (25)-
このゴルガリアドベンチャーは《害悪な掌握》による被害を抑えるようにデザインされている(《探索する獣》や《アーク弓のレインジャー、ビビアン》は不採用。どちらも非常に強いが、よりマナコストが軽い《害悪な掌握》で除去されてしまううえに、1:1交換に持ち込まれる可能性がある)。
4マナの枠には《悪ふざけの名人、ランクル》が代わりに採用されている。自分自身も4枚搭載している《害悪な掌握》が必要ない相手には、《悪ふざけの名人、ランクル》の効果で手札から捨てられるようになっている(生け贄に捧げさせる効果も、《恋煩いの野獣》が生成した人間トークンと相手のクリーチャーとを交換できる点で有効だ)。2枚採用された《戦慄衆の将軍、リリアナ》にも注目だ。スゥルタイフードと戦ううえで極めて強力なフィニッシャーであり、相手はなかなか対処できない。
グランプリ結果に見るスタンダードの未来
グランプリ・リヨンとグランプリ・名古屋の結果を見てみると、オーコデッキがかなり支配的だったようだ。
リヨンのトップ8には、バントフードを使用したプレイヤーが2人入賞した。いずれもメインデッキに《集団強制》を3枚、サイドボードに《夏の帳》対策である《時を解す者、テフェリー》を採用していて、そのうちの1人であるアントワーヌ・ラガルド/Antoine Lagardeは優勝を手にした。他のオーコデッキよりも終盤戦を強くしようという面白いアプローチだ。
6 《島》
4 《繁殖池》
2 《神秘の神殿》
2 《総動員地区》
-土地 (25)- 4 《金のガチョウ》
4 《楽園のドルイド》
4 《ハイドロイド混成体》
4 《厚かましい借り手》
4 《意地悪な狼》
-クリーチャー (20)-
一方の名古屋では、熊谷 陸がシミックフードで栄光を勝ち取っていた。《集団強制》で終盤戦を強化するのではなく、4枚の《厚かましい借り手》によってテンポで戦うことに特化していて、先ほど紹介した八十岡 翔太のリストに近しいものになっている。
今日はここまでになる。おすすめのデッキやそうでないデッキを明確に示すことはなかったけど、絶対の答えがないのは良いことだと思う。確かにスゥルタイフードは強力だ。でも、対抗する手立てが全くないわけではないし、プレイヤーたちの目の敵にされていれば、有利をつけようとする他の戦術が出てきてメタゲームに多様性が出てくるだろう。
セバスティアン・ポッツォ (Twitter)