はじめに
こんにちは、寒くなってきましたね。若月です。
これ単なる雑談なのですが、寒くなってくると私は2006年の晩秋、『時のらせん』の物語を読んだ頃を思い出します。それ以前のラヴニカや神河やミラディンではなく、その後のローウィンでもはたまた最近のセットでもなく時のらせんを。
久しぶりのドミナリア次元、過去いくつもの大災害を生き延びたプレインズウォーカー達。何かとてつもなく大きなことが起ころうとしている、という気配……。荒廃したドミナリアの寒々とした雰囲気が現実の季節と合わさって、何だかとても印象深いものとして記憶に残っています。
雑談終わり。今回はダイジェスト編が先日完結した『エルドレインの王権』をまとめます。重要な場面はいくつかカードで見えていましたが、一体何が起こってどうなったのでしょうか?
1. ウィルとローアン
この2人が『エルドレインの王権』の主人公です。まずはその物語を途中までですがざっくり説明しましょう。
エルドレイン世界、その5つの王国を統べる王がある時失踪してしまいました。その長子の双子ローアン・ケンリスとウィル・ケンリスは、父を探す探索へと真冬の只中に旅立ちました。
2人は仲間たちと共に《ヴァントレス城》へ赴き、その秘宝である《魔法の鏡》から父の手がかりを手に入れます。それは1体の大鹿でした。
そして《ギャレンブリグ城》の《グレートヘンジ》を通って、危険極まりない僻境の奥深くへ入りました。そこでは遠い昔に人の王国と袂を分かったエルフ達が、伝説に云われる恐るべき冬至の狩猟に赴こうとしていました。その標的は、あの大鹿。魔法の鏡に映されていた、父の行方の手がかりです。
謎の異邦人オーコと呪われた狩人ガラクとの遭遇を経て、双子はその大鹿こそが父であると気づきます。オーコはそれをエルフに狩らせて、王国と僻境との間に戦争を起こそうとしているのでした。果たして双子は父を救えるのでしょうか?
続きは今回記事のこの先で。さてそんなウィル&ローアンの初出は、双頭巨人戦特化の特殊セット『バトルボンド』です。「双子が揃ってプレインズウォーカー」という設定が当時話題になりました(なお『基本セット2019』以前)。
プレインズウォーカー略歴ページ:ローアン&ウィル・ケンリスより引用
謎めいた双子のプレインズウォーカー「ローアンとウィル」がどこの出身で、何のために「武勇の場」へ挑むのか、誰も知りません。しかし彼らと対峙した者はすぐに理解することでしょう。お互いの力を高め合う彼らの能力は、決して侮れるものではないと。
これは『バトルボンド』当時に発表された2人の設定です。「謎めいた双子のプレインズウォーカー」という以上の情報はほとんどありませんでした。この他に、私は現物を所持していないのですが、「Magic: The Gathering – 2019 Wall Calendar」に掲載の情報によれば「2人でひとつの灯を共有している」のだそうです。
これもなかなか謎ですよ。「プレインズウォーカーの灯」が実際どういうものかは『灯争大戦』で描かれました。見た目は人魂のような、純粋な魔法エネルギーの塊です(《古呪》によって実体化した姿、なのかもしれませんが)。ひとつのそれを2人で共有しているとは一体?いや深く追求はしませんけど。
そして『エルドレインの王権』で2人の出自が明らかになりました。エルドレイン次元のアーデンベイル城に住まうケンリス王の長子……君たち王子様と王女様だったのか!!
いや割とびっくりしましたよ。小説を読むと18歳。若いな!2人とも年齢相応の瑞々しい活力と好奇心に溢れた、前途有望な若者です。まっすぐな正義感と純粋な感性に従って突き進む様は読んでいて眩しく、そしてマジックでは珍しくきょうだい仲が良いんです!
ほらーウルザとミシュラとかギサとゲラルフとかウギンとボーラスとかマジックの兄弟姉妹って仲悪いのが目立つから……。でもこの2人は双子であり親友であり競争相手として、絶妙な距離感で互いへの信頼に満ちています。だいたいローアンが先走ってウィルがそれを止めるという役割分担なのですが、その主な手段が「ウィルがローアンの足を踏みつける」。小説を読んでいるとこれが何度も出てきて笑いました。
で、プレインズウォーカー・カードとして登場している2人ですが、話中にプレインズウォーカーらしい、例えば多元宇宙の存在を知っているような描写は全くありませんでした。オーコとガラクにも遭遇しますが、ウィルがガラクに対して、本人にもそれが何なのかわからない共感めいたものを抱く程度で。
小説「Throne of Eldraine: The Wildered Quest」チャプター12より訳
ガラクはよろめき、腐敗がうねると身を悶えさせた。「だがあいつは。あのプレインズウォーカーは」
「プレインズウォーカー?」 ウィルは両手を挙げたまま尋ねた。
話中では、ガラクとのこんなやり取りがありました。ウィルは「プレインズウォーカー」が何なのかを知らないのです。実際、2人が覚醒するのは物語の最後の最後、全ての決着がついた後でした。つまり『エルドレインの王権』は、ローアン&ウィルの初出である『バトルボンド』よりも過去の物語だということがわかります。
■双子の秘密
そんなローアンとウィルはとても暖かい家庭に育ちました。両親は仲睦まじく、愛すべき妹と弟もいます。それでも物語を読み進めると、双子が生まれた時に「何かあったらしい」ことが次第にわかってきます。
小説「Throne of Eldraine: The Wildered Quest」チャプター2より訳
ローアンはうつむき、怒りが引いていった。ローアンとウィルが生まれた時の悲劇について、どれほど遠回しであっても母は滅多に触れることはない。自分が知る以上に、母は狼狽していたに違いないのだ。
同・チャプター5より訳
ウィルがそれに何か思うことがあるわけではないが、自分とローアンの実母は自分達が生まれてすぐに僻境で殺害された、その事実を忘れたことはなかった。
リンデン女王は双子の実母ではない、ということは割と序盤に明かされます。けれどいわゆる「童話の継母」ではなく、実子と同じ厳しさと愛情を持って接しており、ローアンとウィルもそれを心からわかっています。ほぼ何も知らない実母のことを考えるだけで、どこか後ろめたさを感じるほどに。そして物語が進むと、2人は「魔女の呪いを受けている」らしいと判明します。
同・チャプター7より訳
「君から魔女の呪いの匂いがするね」深く息を吸ってその女性は言った。「かすかで奇妙、アーデンベイルの魔法に重なってる。会ったことあったっけ?」
「どうしてそう思われるんですか」 ローアンはその女性の出しゃばる態度も、失礼な物言いも気に入らなかった。「魔女と関わったことなんてありません」
「そうかもしれないけど、呪いは私の専門なんだ。子供の頃に私もひとつ受けてる。興味深いよ。君たち2人はそんなに似てないけど、人生を分かち合ってるみたいにすごく深いところで繋がってる。双子、それも両方とも呪われてる!凄いね! 君たちのこと、もっと教えてくれる?」
その呪いが何なのか、どんな影響を持っているのかは語られません。エルドレインでの魔女はいわゆる「童話の魔女」。人々に害をもたらす邪悪な魔法使いです。心から信頼する両親が、何か重要なことを自分たちへと秘密にしていた。それは双子の心に影を投げかけます。
そして物語の終盤にて、鹿に変身させられたケンリス王は矢を受けて死亡してしまうのですが、それによって魔法が解けて人の姿へと戻ります。そこで、リンデン女王の口から双子へと出生の真相が明かされました。
同・チャプター16より訳
「あなたがたのお父様をこの森で見つけたあの日、彼は桶を井戸へと運んでいました。私の顔も、私の名前もわかりませんでした。だから私は彼に口付けをしました。真に愛していたからです。玉座への探索を遅らせようとも、長く行方不明だった彼を見つけるために。彼自身か、その何かを。ただ知りたかったのです」
記憶が追いかけてくると、女王は口を閉じた。
「その口付けに彼は正気を取り戻しました。そして思い出したのです、1年間を魔女の下僕として過ごしていたことを。運んでいた桶には、彼自身の幼子の血が満たされていました。ローアン、ウィル、その魔女があなた方を産んだのです。魔女は、延命の秘薬の材料のためだけに子供を欲したのです。私が見つけた時には、あなた方はもう失血で死んでいました。魔女はそれを井戸に溜めて、不死の泉のように飲むつもりだったのです」
「死んで……死んでいた、って……?」ウィルはかすれ声で言った。額に汗が浮いた。両手を見つめる視界が揺らいだ。生きた人間の手。訓練でできたタコ、扉を閉じる時に挟んでわずかに曲がった右の小指。
ローアンは言葉なく、両の拳を口に押し付け、生きた母と死んだ父を見つめていた。
「5つの騎士号を得るまでには、少なくとも一度は死に目に遭います。探索する獣はそれを知っていました。探索する獣だけがそれを振るう者を蘇生させる剣を鋳造できます。その探索に選ばれた者には、ひとつの命が与えられる。私は自分の剣の命を用いて、あなたがたを蘇生しました」
これは……。『エルドレインの王権』のモチーフのひとつ、アーサー王伝説を多少かじっていればすぐ心当たりに辿り着くかと思います。王の不義の子、つまりモルドレッドか!!いや驚きました、両親の愛情を受けてまっすぐに育ったこの2人がよりによってそこなの!!
まあリンデン女王からして、上に書いた通り「童話の継母」とは真っ向から異なっているのですけれど。そういう「古くから知られるお約束」を踏襲しつつ全く異なるように仕上げてくる、そんな作風なのかもしれませんね。モルドレッドは最終的にアーサー王の王国を終焉に向かわせるのですが、ローアンとウィルはそうでないといいなあ。
また、「この2人は姉弟なのか兄妹なのか」という疑問がずっとあったのですが、小説でも明かされていませんでした。上記のような出生であるため、実際話中でもわからないのかもしれませんね。
2. オーコ
まあトーナメント的な話はここではしない。
カード能力を見れば一目瞭然、今回の黒幕オーコ。実を言うと小説が出たのはカードプレビューが始まる前だったため、鹿が手がかりって言われても鹿?なんで鹿……って感じでした。オーコがケンリス王を大鹿に変えてしまったために王国は混乱に陥るのですが、そもそも彼はなぜそんなことをしたのでしょうか?
『エルドレインの王権』プレインズウォーカーデッキ説明書より引用
オーコはカリスマ的で自惚れの強いフェアリーのプレインズウォーカーです。自分自身でも他人でも、姿形を変える力を持っています。この力があれば騙すことも操ることも簡単です。専制を嫌い、偽善的な権威の面目を潰すことが大好きです。オーコの悪ふざけには、犠牲者も大笑いせざるを得ないでしょう。死んでしまっていなければ、ですが。
悪ふざけ。イエス、悪ふざけ。オーコは特にエルドレインに縁があるわけではありません。物語冒頭ではこの世界の名前すら知らないとありました。この次元にいたのも、ガラクに遭遇したのも恐らくは偶然でしょう。
小説「Throne of Eldraine: The Wildered Quest」チャプター1より訳
「さあ、この暗い荒野から離れよう。君と私とで、規則でがんじがらめの暴君を転覆して、もっともらしいペテン師と気取った詐欺師の本性を暴いて、偽善を露わにしてやろう。もし何人かのプレインズウォーカーが邪魔をするというなら、死に目に遭うだろうね。それは自業自得というものだよ」
自由奔放な心と卓絶した変身能力を持って生まれたオーコでしたが、彼の出身次元でそれは秩序を乱すものとして好まれませんでした。捕らえられてその力を抑え込まれそうになったところで、彼のプレインズウォーカーの灯が点火しました。以来、オーコは支配者階級というものを嫌いながら、社会秩序を偽善と感じて悪ふざけを仕掛けています。そしてエルドレイン次元にて、王国と僻境の微妙なバランスを知ったオーコは、それを崩してみたくなったのだと思います。
人の国の王を鹿に変え、それをエルフ達に狩らせる。そうすれば両者の間に戦争が起きる……というのが狙い。狙った理由は「悪ふざけ」。マジックの物語には色々な悪役がいますが、オーコはその中でもなかなかないタイプでした。自分の欲求から世界の秩序を崩す、という点ではゼナゴスが近いのかもしれない。ダイジェスト版最終回を読んで頂ければわかる通り、最終的にオーコは逃走しました。エルドレイン次元に戻ってくることも(少なくともしばらくは)ないんじゃないかな。
3. ガラク
さてようやく詳しく書けますよー。このカードを出しつつももう呪われていないのですけどね。本当おめでとう、長かったよ。
■『灯争大戦』欠席の件
前回少し書きましたが、ガラクが『灯争大戦』に行かずエルドレイン次元にいた理由について小説にそれらしい描写がありました。そのまま訳しましょう。
小説「Throne of Eldraine: The Wildered Quest」チャプター12より訳
「そうです。僕たちの父親が失踪したのは、オーコに鹿へと変えられたからです。父を取り戻したいんです、狩られて殺されてしまう前に。そうやって、オーコは大戦(原文:a war)を起こそうとしているんです」
「大戦」狩人は自身の肩に触れ、熱を持つ体に指がかすめてひるんだ。「あれが言っていた、隠れていろと。大戦に連れて行かれないために」 低い声だった。
「オーコが、隠れていろと?」ウィルが尋ねた。狩人はかぶりを振り、怒りに顎をこわばらせ、粗く息をついた。「オーコではない。思い出せない。思い出したい」
これです。あえて「War」という単語を使用しているあたり、War of the Sparkを意識しているのかな……と。ボーラスは、プレインズウォーカー狩人であるガラクがラヴニカに来ないよう根回しをしていました。暗示か何かをかけてガラクを遠ざけておいたのかな、と想像できます。
《次元間の標》はプレインズウォーカーを強制的にラヴニカへ連れて行くものというわけではなく、頑張れば抵抗できるようでした(ある程度プレインズウォークに熟達している必要はありそうですが)。またラヴニカ次元を知っている者にとっては、それがラヴニカからの呼び出しであることもわかったようです。ガラクは都市世界ラヴニカを嫌っているため、行こうという気も起きなかったかもしれませんね。
■ヴェールの呪い
『エルドレインの王権』のある意味最大のトピック「ガラクの呪いが解けた」。カードでも「注目のストーリー」のひとつです。とはいえこのセットのカードを一通り見渡してもどのように呪いが解けるのかはわからず、物語の方で明らかになりました。このアーティファクトです。
『エルドレインの王権』には有色の伝説アーティファクト・サイクルが存在します。各宮廷の秘宝であり、それぞれが掲げる美徳の体現。ですが黒の宮廷ロークスワインの秘宝《永遠の大釜》は失われて久しく、多くの騎士がそれを探し求めては命を落としてきました。
公式記事「プレインズウォーカーのためのエルドレイン案内」より引用
永遠の大釜は、認めた者に永遠の命を与え、死者を蘇らせる力を持つ巨大な石の釜であると言われています。それらの説は他の四宮廷の秘宝について知られている事実や、ロークスワインの邪術師が振るう生と死の魔術から矛盾はないとされています。ですが結局のところ、それらの話は立証できていません。永遠の大釜が何世代にもわたって失われているためです。
物語では、僻境の川の中に永遠の大釜は隠れていました。ガラクは呪いで弱りながらも怪物と戦い、川に落ちてしまいます。それを助けようとウィルも川へ飛び込み、獲物を見つけて寄ってくるマーフォークを排除し、息の限界が近い中でガラクを引き上げ……たと思いきや、その身体を放り込んだ先は、川の中に隠れていた大釜でした。そして大釜の魔法が脈打つごとにガラクの呪いは吸収され、やがて完全に癒されました。ロークスワインが掲げる美徳は「執念」。何としてもガラクを助けたいというウィルの不屈の意志を、大釜は認めたのだと思います。
《永遠の大釜》のカード能力はリアニメイト。まあ、これが呪いを解くというのはカードを見てもわかりませんよね。小説では「その呪いが何かはともかく、もっと強い魔法に、もしくは少なくともそれを吸収しようという力に接触したということ」と説明されていました。何にせよ大釜は《鎖のヴェール》の呪いに打ち勝つ強力なアーティファクト、ということなのでしょう。
■ガラクの今後
呪いは解け、オーコは逃走しました。ケンリス王は人間の姿へと戻り(詳しくは後述)、そして双子はプレインズウォーカーに覚醒して何処かへ旅立っていきました(これも後述)。元々エルドレイン次元やその人々としがらみがあるわけではないガラクも、完全に自由になりました。そんな彼はこれからどうするのでしょうか?
小説「Throne of Eldraine: The Wildered Quest」チャプター17より訳
それでも、ガラクはオーコの首をひねってやりたいと、満足の一撃で首を落としてやりたいと思いながらも、自身の心はもはや呪いに駆り立てられてはいなかった。あの腐敗に突き動かされてはいなかった。そのため、オーコを追わなかった。彼は待った。なぜなら、王と女王が我が子を心配する様子が、辛いほどに自身の父を思い出させたために。
前回にも書きましたが、ガラクは死んだ父との思い出やその教えをとても大切にしています。呪いが解ける以前も、双子が父親を慕う思いに共感していました。彼らが見せてくれた家族愛と、救ってもらった恩、そして呪いという暗い束縛からの解放。それらはガラクが今後の動向を決めるに十分な出来事でした。
同・チャプター17より訳
あの2人の若者はたった今、多元宇宙へ飛び立っていった。何が起こったのか、自分たちが何処にいるのか、その全てが何を意味するのか知るよしもないのだろう。
「俺は呪いから解き放たれた」 ガラクはそう言い、伝承魔道士がそれはオーコの呪文のことだと解釈するよう願った。彼女は鎖のヴェールも、イニストラードも、多元宇宙も知ることはないのだ。「俺は行きたいところへどこへでも行ける。だから、アルジェナス・ケンリスとリンデン・ケンリス、約束しよう。2人を追いかけて、見守ると」
「なぜそのような?」
わずかな疑念とともに崇王が尋ねた。そしてこの謎めいた狩人を打ち負かせるかどうか、それともその申し出を素直に受け入れるかどうかを見積もった。
リンデンはガラクを澄んだ目と正直な心で見つめ、王の返答を待った。
「あの2人が俺を助けてくれた。だから俺もそうするつもりだ」
何せ物語に登場してからほとんどの期間を呪われた状態で過ごしていたため、「素の」ガラクについてたくさんの情報があるとは言えません。それでもこの描写からは、控えめながらも確かな優しさと義理堅さが伝わってくるかと思います。
キャラクター的にもカード的にも、ガラクはベテランのプレインズウォーカーです。新米たちを見守ってくれる先輩プレインズウォーカーという立場になるのだとしたら、凄くいいエンディングだと思いません?
4. その他
■ケンリス王はどうやって元の姿に戻ったの?
《ケンリスの変身》と《王冠泥棒、オーコ》を見れば、「オーコがケンリス王を鹿に変えた」ことがわかるかと思います。その先、王はどうなったのかが示されているカードが《めでたしめでたし》です。人間の姿に戻り、女王と共に居城アーデンベイルに帰還した王の姿が描かれています。つまりハッピーエンドで終わったのはわかりますが、一体どうやって?
上のウィルとローアンの項目で書きましたが、リンデン女王は双子の出生の秘密を明かしました。その続きです。女王は1本の剣を手にして言いました。それはかつて王が双子の実母である魔女を殺害した後、井戸へ放り込まれたものでした。
小説「Throne of Eldraine: The Wildered Quest」チャプター16より訳
「5つの騎士号を得るまでには、少なくとも一度は死に目に遭います。探索する獣はそれを知っていました。探索する獣だけがそれを振るう者を蘇生させる剣を鋳造できます。その探索に選ばれた者には、ひとつの命が与えられる。私は自分の剣の命を用いて、あなたがたを蘇生しました」
(略)
「彼は魔女の獲物となる以前、探索の最中に命を落としてはいませんでした。つまり、この剣の内には命があるのです。今、それを与えましょう」
つまりケンリス王は、《探索する獣》に与えられた祝福の剣の力で蘇生したのでした。こちらもガラクの解呪同様、カードを見てもわからない展開ですね。それどころかカードになっていない。まあそういうこともあります。
そして生き返った王へと、ローアンは感激するのではなく怒り狂いました。自分たちの出生についての真実を教えてくれなかった。それは私たちを信頼していない証拠であり、ただ自分たちの名誉を守りたかっただけだろう、と。そして、熱くなったローアンを止めようとウィルが彼女の腕に触れた瞬間、不思議なことが起こりました。
同・チャプター16より訳
きらめく稲妻の奔流がローアンの腕から上がり、その身体の奥深くへ織り込まれ、眩しく輝いた。ウィルの身体の奥深くに冷気がうねり、外に出て、稲妻に届いて混じり合った。光と氷が弾け、被さり、貫いた。
抗えないほど強い嵐に掴まれ、ウィルとローアンは静かな夜明けと燃え殻の匂いから運び去られていった。まるで足元で、もしくは頭上で扉が開いたかのようで、2人は上へ、外へ落ち、全く見知らぬ場所へ引かれていった、彼は瞬時に恐怖とともに理解した、その先は王国でも僻境でもないのだと。彼が知る、愛する全てから不可解なほどに遠い場所なのだと。
世界が消え去る前に聞いたのは、ガラクの低い口笛と響く声だった。「これは予想外だ」
これがウィルとローアンの、プレインズウォーカーとしての覚醒になります。ガラクの台詞がいい味を出していますね。王と女王はしばし困惑しますが、2人は何らかの魔法を用いて旅立ったのだと解釈し、やがて帰ってくることを期待してアーデンベイルへ戻っていきました。
割と余談ですが、ローアンの怒りには色々と考えさせられました。私にも子供がいます(11歳の男の子です)。知ったなら衝撃を受けるであろう事実があるとして、それを黙っているのではなく、受け止めて乗り越えていけるだろうと信じて明かすのも、子供への信頼であり愛なのかな……と。
■エルドラージは関係あったの?
「Throne of Eldraine/エルドレインの王権」。このタイトルが発表された時に不安を覚えた人も多かったかと思います。Eldraine/エルドレインとEldrazi/エルドラージ。どうにも似ている……ボーラスという巨悪が去ったことだし……?もしかして浸食されてしまったイニストラード次元のように、この童話世界も大変なことになってしまうのでは、もしくはエルドラージの起源か何かと関係あるのでは……と。公式からは繰り返し「関係ない」という説明がされていましたが、それでも不安を拭いきれない人はいたのではないでしょうか。
で、どうだったのか。全てのカードを見てもエルドラージ的なものはありませんよね。そして断言しますが、小説にもその気配は一切ありませんでした。これについては完全に杞憂ということでいいかと思います。
5. Forsakenへ至れ
最後に、話はがらりと変わりますが。
この先には2019年11月12日発売の書籍「War of the Spark: Forsaken」を資料とする「ネタバレ」が含まれていることをご了承下さい。
先日発売されました『灯争大戦』の続編小説「War of the Spark: Forsaken」。まだ発売からあまり日が経っていないので詳しいことは書きませんが、ともあれこれだけ読んでくれないか。
小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター4より訳
「確か、デートの約束をしてたよな」
「そうです、船長。ブリキ通りで、コーヒーと本屋へ」
「お前は回想録が好きだったよな、面白い生き方をした奴らの」
「はい。ヴラスカさんは歴史書ですよね」
「そうだ」
2人は歩きだした。
しばし、2人は黙ったままでいた。一緒にいることがただ嬉しかった。ヴラスカは何かに思い悩んでいるとジェイスにはわかった。けれど彼女は何も言わず、そのため彼も詮索しないことにした――精神魔法でも他の手段でも。ヴラスカには秘密がある。けれどそれが何であろうと、自分が抱えるそれよりも大きいなどということは、そして真に恐ろしいなどということはありえないのだから。
そう、2人はイクサランの約束を忘れていませんでした。そして……?
(終)