Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/01/17)
なぜ吸血鬼なのか
みなさんごきげんよう。
禁止の嵐が去り、ウィザーズはとうとうパイオニアのメタゲームをある程度固定化し、”フェア”なものへとすることに成功した(私見では、現状でほかに禁止すべきものはない)。
今回取り上げるデッキは黒単吸血鬼だ。かつては黒単アグロや黒単信心の亜種としてみなされることが多かったデッキであるが、このデッキはそのどちらでもない。確かにアグロプランを遂行することもあるが、基本的にはミッドレンジデッキであり、単色のため「信心」を用いるのは既定事項とでも言うべきだろう。
直近の禁止告知まではパイオニアをあまりプレイしてこなかったが、ようやく環境の波が穏やかになったようだし、マジックフェストに向けた調整を始めることができるだろう。本番直前になってデッキを変える恐怖に、もう怯えなくて済むのだ。
ではまずは、なぜ吸血鬼なのかを説明しよう。これには2つの理由がある。
部族デッキは採用できるカードが限定される。そこで、ここではその大半を見ていくことにしよう。私なりの取捨選択の理由について解説していく。
メインデッキの採用候補
土地
《変わり谷》
最強の吸血鬼はこのデッキに見事に噛み合っている。《変わり谷》の強さは周知の事実だが、そのほかにも《傲慢な血王、ソリン》と抜群の相性を誇る。全体除去に巻き込まれないクリーチャーに+1/+1カウンターをおけるだけでなく、2つ目の[+1]能力の生け贄要員にもなるのだ。さらには《薄暮の勇者》の能力で参照する吸血鬼の数を増加させられる。
《ロークスワイン城》
黒のアグロデッキならたいていは強力な土地だが、絆魂があるこのデッキでも活躍する。コントロールと戦う際には心強い味方となってくれるだろう。
《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》
黒単への理解が求められるカードだ。当初はなぜ2枚採用されているのかわからなかったが、この土地があると1ターン目に《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》をおき(場合によっては1マナ域展開)、2ターン目に《変わり谷》をセットして《才気ある霊基体》(あるいは1マナ域を2枚)をプレイ、3ターン目に土地をおいて1マナ域を展開して《変わり谷》で攻撃という動きができる。この一連の動きを何度か実現しそこなったことで、2枚採用されていることに合点がいった。
《ニクスの祭殿、ニクソス》
上述のとおり黒への「信心」がデッキのメインテーマではないが、マナコストに(黒)(黒)が含まれているカードが多いなら、このシステムを利用するのは自然なことだ。適正枚数は1枚だろう。
1マナ域
《思考囲い》
アグロだろうとミッドレンジだろうと、黒のデッキなら確実に4枚だ。
《致命的な一押し》
フェッチランドがなければ最上級の除去とはならず、肝心なときに対処できないクリーチャーも環境にはいるが、それでも4枚採用に値する強さを持つ。
《漆黒軍の騎士》
吸血鬼でない黒単アグロでも使われるほどのカード。言うまでもなく、吸血鬼では最高の1マナ域である。
2マナ域
《才気ある霊基体》
2マナ域のクリーチャーたちは、主に多様なゲームプランをまとめあげる仲立ち役である。その役割を見事に果たしているのが《才気ある霊基体》だ。攻撃にも守備にも貢献し、「信心」を捧げ、《傲慢な血王、ソリン》と《薄暮の勇者》に必要な吸血鬼でもあるのだ。
《薄暮軍団の盲信者》
《悪意の大梟》と《アーカムの天測儀》の中間に位置づけられるようなカード。最初は疑問が残るクリーチャーだったが、今はフル投入したいと思えるようになった。(貧弱なステータスであるとはいえ)2マナでキャントリップ付きの吸血鬼ならば軽量のクリーチャーとして不満はない。しかも後続としてプレイした《傲慢な血王、ソリン》で強化すれば脅威にもなり得る。
《流城の死刑囚》
このクリーチャーを採用した構築もあるが、私は好きになれない。経験上、クリーチャーを並べて殴りかかるよりもリソース勝負で勝つ方が圧倒的に多いからだ。《変わり谷》と合わされば一定のプレッシャーをかけられるが、「マッドネス」や墓地シナジーがなければ気軽に手札のカードは捨てられないだろう。《精神病棟の訪問者》や《誓いを立てた吸血鬼》など、2マナの吸血鬼はほかにも多く存在するが、ここでは言及しない。《流城の死刑囚》を採用する気はないし、ほかのクリーチャーはさらに質が落ちるものだからだ。
《闇の掌握》
あらゆる2マナの除去を試した結果、ずっと《闇の掌握》を採用し続けるプレイヤーの気持ちがわかるようになった。サイドボード寄りのカードではあるが、《ゲトの裏切り者、カリタス》《悪ふざけの名人、ランクル》《騒乱の落とし子》《栄光をもたらすもの》が多くいる環境であればメインデッキに数枚投入されてもおかしくない。
3マナ域
《傲慢な血王、ソリン》
このデッキの顔。すべての能力が驚くほど強力である。
《残忍な騎士》
汎用性が非常に高く、5マナ以上のクリーチャーを対処する数少ない手段。この呪文で除去したいプレインズウォーカーは《ドミナリアの英雄、テフェリー》ぐらいだろう。《反逆の先導者、チャンドラ》も問題になり得るカードではあるが、通常は[-3]能力を使わせられるため、彼女を退場させる手段には困らないだろう。残念ながら《残忍な騎士》自身は吸血鬼ではないが、デッキの戦略には噛み合っている。3ターン目にクリーチャーとして唱える選択肢も忘れないようにしたい。
《最後の望み、リリアナ》
ときおりメインデッキに採用されているのを見かけるが、彼女の能力が活躍する相手は限定されており、そのほかのデッキにはかなり弱いものとなってしまう。入れるならサイドボードになるだろう。
《マラキールの解放者、ドラーナ》
評価は低い。クリーチャーとしてのサイズも、戦闘ダメージを与えたときの能力も物足らないし、戦場に出たときの能力もない。
4マナ域
《ゲトの裏切り者、カリタス》
《ゲトの裏切り者、カリタス》にとって向かい風なのは、環境にはタフネス4を対処できる除去が多いことだ。とはいえ対アグロでは強力であり、1体でもクリーチャーを自身の糧にできればダメージレースはほぼ不可能、除去することは非常に困難(黒以外のデッキは実質不可能)になるだろう。
5マナ域
《薄暮の勇者》
深く解説するまでもないだろう。このカードと《傲慢な血王、ソリン》がいるからこそ、吸血鬼というデッキが成立している。
《アスフォデルの灰色商人》
《ニクスの祭殿、ニクソス》と同じだ。「信心」というシステムが使えるのに使わない理由があるだろうか。《アスフォデルの灰色商人》は常に素晴らしいというわけではないが、たたみかけて攻撃できるし、こう着した盤面を打開してくれる。数枚入れたいカードだ。
現在のメインデッキ
現在使用しているデッキリストをご紹介しよう。
4 《ロークスワイン城》
2 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》
4 《変わり谷》
1 《ニクスの祭殿、ニクソス》
-土地 (25)- 4 《漆黒軍の騎士》
4 《薄暮軍団の盲信者》
4 《才気ある霊基体》
3 《残忍な騎士》
2 《ゲトの裏切り者、カリタス》
4 《薄暮の勇者》
2 《アスフォデルの灰色商人》
-クリーチャー (23)-
結果を出したデッキリストを安易に変えるつもりはないが、1~2枚の《アスフォデルの灰色商人》を《闇の掌握》と入れ替えるべきかもしれない。
サイドボードの採用候補
《害悪な掌握》
効果の対象になるカードは多い。緑のプレインズウォーカー、《ドミナリアの英雄、テフェリー》、《探索する獣》、《恋煩いの野獣》、そのほかの緑のクリーチャー。数枚なら採用しても良いだろう。
《ドリルビット》
《強迫》をサイドインするような相手であれば、「絢爛」の条件達成には困らないはずだ。それに対ランプには《ドリルビット》の方が好ましい。
《虚空の力線》
墓地戦略のデッキは少なくとも2つ存在する(イゼットフェニックスとドレッジ)。《魂剥ぎ》がどれだけ成功するかはわからないが、《虚空の力線》はロータスストーム相手にサイドインし、《時を越えた探索》を唱えづらくしても悪くない(サイドアウトするカードが見つけやすいマッチでもある)。
《悪ふざけの名人、ランクル》
呪禁オーラ、コントロール、ランプに対して優れたサイドボードカードであるだけでなく、サイドアウトしたいカードがある場合に入れ替わるクリーチャーとしても有用である。
《減衰球》
サイドボードに数枚採用されている構築もあるが、このカードをどんな相手に対して使用するのかよくわからない。ロータスストームを封じることはできるが、サイドボード後はすでに相性が改善されている。
《肉儀場の叫び》
黒単アグロに極めて有効だが、それは《最後の望み、リリアナ》も同様である。とはいえ、数枚採用した方が良いこともあるだろう。
現在のサイドボード
今現在のサイドボードの構成はこのようなものにしてある。
デッキリスト
4 《ロークスワイン城》
2 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》
4 《変わり谷》
1 《ニクスの祭殿、ニクソス》
-土地 (25)- 4 《漆黒軍の騎士》
4 《薄暮軍団の盲信者》
4 《才気ある霊基体》
3 《残忍な騎士》
2 《ゲトの裏切り者、カリタス》
4 《薄暮の勇者》
2 《アスフォデルの灰色商人》
-クリーチャー (23)-
3 《虚空の力線》
2 《悪ふざけの名人、ランクル》
2 《闇の掌握》
2 《ドリルビット》
2 《最後の望み、リリアナ》
1 《ゲトの血の長、カリタス》
-サイドボード (15)-
デッキそのものについては、知っておくべきシナジー・テクニックはさほど多くない。理にかなっていないと思うかもしれないが、《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》は上述の理由からできるだけ早くセットしよう。
《砕骨の巨人》や《残忍な騎士》の「出来事」に対応して、《致命的な一押し》で自分のクリーチャーを対象にとれば、立ち消えさせることができる。「出来事」呪文の適正な対象をなくすことで立ち消えさせれば、本体のクリーチャーを後々対処しなくて済むのだ。
《残忍な騎士》と言えば、このカードが3マナのクリーチャーであり、3ターン目に脅威としてプレイすることが正しいこともあるので覚えておこう。
サイドボードガイド
赤単
赤単へのサイドボードプランは完成をみていない。赤単はミッドレンジもであるため、正しい戦略を見つけるのは本当に難しい。
対 赤単
黒単アグロ
対 黒単アグロ (先手)
対 黒単アグロ (後手)
緑単ランプ
対 緑単ランプ
青白コントロール
対 青白コントロール
イゼットフェニックス
対 イゼットフェニックス
ロータスストーム
対 ロータスストーム
《魂剥ぎ》
対 《魂剥ぎ》
タッチ白の可能性
《ヴィズコーパの血男爵》を採用したり、サイドボードの選択肢を広くしたりするために白をタッチした構築も存在する。しかし、タッチするだけの価値があるのかは疑問が残る。赤単が勢力を強めたことで、《ヴィズコーパの血男爵》は《反逆の先導者、チャンドラ》や《栄光をもたらすもの》に除去されやすくなってしまっている。
黒単アグロ戦においても、マナコストを支払って《ヴィズコーパの血男爵》を出しても《悪ふざけの名人、ランクル》/《騒乱の落とし子》の問題は解決できない。仮に《傲慢な血王、ソリン》の能力で3ターン目に吸血鬼を展開できる状況なら、《ゲトの裏切り者、カリタス》や《薄暮の勇者》で事足りるはずだ。
白タッチで広がったサイドボードの選択肢にはたとえば《安らかなる眠り》があるが、これは《虚空の力線》と役割が重複している。《敬虔な命令》は良さそうだが、タッチに値するサイドボードカードはもっと強力なものでなければならない。
さいごに
この記事の執筆時点(1月9日)では、現状の構成に非常に満足できている。プレイヤーズツアーに持ち込む可能性を真剣に考えているほどだ。
今回もお付き合いいただきありがとう。楽しんでいただけたなら幸いだ。何か疑問があれば、遠慮なくMagic OnlineやTwitterで尋ねて欲しい。
では名古屋でお会いしよう。
ドミトリー・ブタコフ (Twitter)