はじめに
《アクロスの古参兵、タラニカ》 フレイバーテキスト
「キテオンが我々全員をずっと見守ってくれていると思いたい。」
……その能力は!フレイバーテキストは!そして後ろに映っているのは!!!
こんにちは、若月です。今年もよろしくお願いいたします。
案の定『テーロス還魂記』のカードにこれでもかってほどやられています。世界観好き的には良すぎるだろこのセット……ですがまだちょっと記事の構成がまとまっていないので、今は『灯争大戦』とその続編Forsaken(小説)の話をさせて下さい。
ボーラスという巨悪がいなくなった一方、その部下であるテゼレットは逃げ延びました。テゼレットについて初めて本格的に取り上げた第49回(掲載:2016年10月)では、『アラーラの断片』ブロックまでの彼を追ったのですが、続きを書く機会を逸したまま3年以上が過ぎてしまいました。この連載ではよくある話です。
ですが、そろそろ『灯争大戦』から先の話をしていくには、この間のブランクも埋めなければなと。テゼレットというキャラクターも歴史が長く、踏まえておきたいことはたくさんありますしね。
……などと思って書いていましたら、またも長くなりすぎてしまいました。申し訳ないですが分割します。今回はその後のテゼレットを追いかけて、次回では『灯争大戦』の続編小説におけるラル・ザレックとの対決の顛末を解説します!
1. 策謀のエージェント
とはいえ、まずはテゼレットという人物のプロフィールをもう一度簡単に説明しましょうか。
ニコル・ボーラスの手下は数多く存在しますが、その中でも最も出番の多いキャラクターがテゼレットでしょう。初登場はかなり早く、2008年10月発売の『アラーラの断片』。青単のプレインズウォーカーとしては《ジェイス・ベレレン》に続いて2人目です。半ば金属の身体にドレッドヘアーはかなりメタルな雰囲気がありますよね。深い知性と熟達の技を武器にして、慎重かつ狡猾に暗躍するキャラクターです。一方で知識や力を強烈に渇望しており、それが衝動的かつ横暴な振る舞いに繋がることもままあります。
テゼレットの出身はアラーラ次元のエスパー断片。そこは魔道士が絶対的な力を持つ世界です。テゼレットは貧しい生まれでありながら強烈な上昇志向を持ち、魔法金属エーテリウムの製法を学ぶために魔道士会「カルモット求道団」に入門しました。ですが、その製法が記されていると言われる「エーテリウム写本」を求めて宝物庫に侵入した際、全てが欺瞞だったと知ります――そこには何も記されていなかったのです。
テゼレットは衛兵に発見され、知ってはならないことを知ってしまったとして殺されかけた時、彼の「プレインズウォーカーの灯」が点灯したのでした。傷ついた身体で彼は隣の断片-グリクシスへ飛ばされ、そこであのドラゴン、ニコル・ボーラスに遭遇しました。
テゼレットは服従と引き換えに力を約束されてボーラスの手下となりましたが、決して心から喜んで従っているわけではありませんでした。彼は後に、ボーラスが所有する多次元間犯罪組織「無限連合」を乗っ取ります。そしてある時ラヴニカにて、1人の精神魔道士を部下として引き入れました。今のような多元宇宙の英雄になるずっと以前、まだ後ろ暗い人生を送っていた頃のジェイス・ベレレンです。この付近からのストーリーは、小説「Agents of Artifice」にて語られています。
テゼレットは結構な時間と労力をかけてジェイスを鍛え上げました。人の心を読み、操り、あるいは消し去る精神魔道士はとても貴重かつ有用な存在でした。一方のジェイスは無限連合の一員として働きながらも、次第にテゼレットの横暴さに反感を募らせるようになっていきました。
ある時テゼレットは遂に、とある次元でのボーラスとの交渉にジェイスを連れ出しました。ですがジェイスの精神魔法はボーラスのそれに到底敵わず、さらに交渉は決裂します。テゼレットはジェイスを激しく責め立て、ほどなくしてジェイスは連合を離反しました。そして共に逃走した親友カリストの死をきっかけに、彼は本気でテゼレットに立ち向かうことを決意します……実はそのジェイスの背後では、リリアナ・ヴェスが糸を引いていました。彼女は連合を取り戻すという任務をボーラスから課せられていたのです。
ジェイスはリリアナと共にテゼレットの秘密基地へと突入し、直接戦闘でテゼレットを打ち負かすと、その精神をほぼ完全に消し去りました(この時のジェイスこそが《精神を刻む者、ジェイス》だと言われています)。ですがテゼレットは死んだわけではなく、ボーラスによってその身体を回収されて再生されました。
2. 金属の試練
そしてその続きが、テゼレット主人公小説「Test of Metal」(発行:2010年10月)になります。ボーラスの手によって復活したテゼレットは、一つの任務を与えられました。それは、魔法金属エーテリウムの起源を知るとされるスフィンクス、クルーシウスを探し出すこと。テゼレットは故郷エスパーへと向かい、そしてジェイスやリリアナも無関係ではいられない……というような物語です。テゼレットの生まれや過去についても多くが明かされています。
ただこの小説の内容は、その後のストーリーで語られた展開によって多くが覆されています。例えばこの「Test of Metal」内でジェイスとリリアナはテゼレットに再会しています。ですがMagic Storyカラデシュ編「かの闘技場にて」まで、ジェイスはテゼレットが生きていることを知りませんでした。
おまけに「Test of Metal」は、前作「Agents of Artifice」で死んだとされていたキャラクターが生きていたり(明確に死亡が確認されていなかったため、らしいのですが)、一部キャラクターの性格や言動があまりにもイメージからかけ離れていたりすることから、公式でもファンの間でも、テゼレットの過去以外については扱いが微妙なことになっています。
そういった矛盾の原因の一つとして、無期延期になった小説「The Curse of the Chain Veil」(第88回で少し触れました)の内容を踏まえているため、という説もあります。確かに「Test of Metal」のリリアナはヴェールを持っていない、少なくとも持っているという描写はないのですよね。
けれどそれでも、紹介したいものが一つあります。「Test of Metal」にて、ボーラスはテゼレットが逆らうことがないように「監視役」をその脳内に埋め込みました。精神体のようなもので実体はなく、その声はテゼレットにしか聞こえません。名前は「Doctor Jest」。ドクター・ジェスト、通称ドク。これが「ボーラスから付けられた監視役」のイメージに全く似合わず、うざいくらいに陽気でお喋りで馴れ馴れしい輩なのです。テゼレットはドクの存在を仕方なく受け入れますが、次第に1人と1体は凸凹コンビのようになり、共に何度も危機をくぐり抜けていきます。それはテゼレットにとっても決して悪くない経験だったようでした。そのため物語終盤にて、いつしかドクの存在が消えていたことに気付いたテゼレットがどう反応したかといいますと。
小説「Test of Metal」P.301-302より訳
ドクは長いこと黙っていた。バルトリスに別れを告げて以来、だろうか。それは意味することは定かでなく、だが不意の、かつ驚くほどの不安に身を掴まれた気がした。あいつが消えたのかもしれない、その考えは凍り付いた鼻水のように喉元に固まった。
「ドク?」
返答はなかった。
「冗談はよせ。お前は寡黙な奴じゃないだろう」 そうは言ったが、すでに真実はわかっていた。感じることができた。
その真実はナイフのように感じられた。胃袋と心臓の間のどこかに留まって、一息ごとに突き刺してくるようだった。
“隠れし者”は無感情に私を見た。「脳内の声に話しているのか」
骨に火がついたように、私の内に怒りが点った。「あいつはただの声ではない! そのような忌まわしい妄想などではない、あいつは――」
私はそれに続く言葉を詰まらせた。馬鹿げていた。ありえそうになかった。ありえなかった。
ありえないはずだった。
だが、それを言わねばならなかった。あいつにはそれほどの恩義があった。
「あいつは私の友だ」
目頭が熱くなり、視界が揺れた。私はかぶりを振って、目をそらした。こんな感情を抱く理由はわからず、とはいえ私は決して真実を否定したことはなかった。「私の、唯一の友だ」現実感を求めるわけではない。それが現実というだけだった。
(略)
「あいつを好んでいたわけではない。だが……悪くはなかった。腐りきった輩と思いきやそうではなかった。一度ならず実際に私を助けてくれた。あいつがいなければ、ここに辿り着くこともなかった。そして、常にいてくれた。あいつの存在が当たり前になっていた。説明するのは……難しいが。私に力を振りかざしてきた者のうち、あいつだけは私にとって悪くない扱いをしてくれた」
こんなに「人間的」なテゼレットは後にも先にもありません。貴方にもそんなふうに感じる心があったなんてな……と私はじーんとしたのを覚えています。 とはいえこの後ドクは戻ってきて、テゼレットをミラディン次元(現:新ファイレクシア)へと向かわせました。
ですが『ミラディンの傷跡』ブロックの物語、そのテゼレットにドクがくっついているような様子は全くありませんでした。それでも、例え正史でなくなったとしても、私はこの2人が忘れられないのです。
3. 金属世界の工作員
次の任務はミラディン。内通者らしき人物の手引きを受け、テゼレットは《核の占い師、ジン=ギタクシアス》が支配する青派閥へと入り込みました。
額には隷属の証としてボーラスの角を模した模様が刻まれ、そしてボーラスの配下となったことで色に黒が加わりました。とはいえ元々白青黒のエスパー断片出身、また黒らしい野心を持つキャラクターですので違和感はありません。
そして歴代テゼレットでも、トーナメントで最も華々しく活躍したのがこの彼ですよね。普通でしたらここで当時のデッキを取り上げて解説するところなのでしょうが、私にそのスキルはないので気になる人はMtGWikiなどで調べてください。
テゼレットの目的はこの次元におけるファイレクシアの隆盛を監視し、ボーラスへと報告すること。ですが彼は次第に、この世界でのし上がろうという野心を抱くようになります。
《水銀の噴出》 フレイバーテキスト
「ファイレクシア人は根性がある。 賢いというわけではないようだが。」 ――テゼレット
《脊柱の飛行機械》 フレイバーテキスト
「崇高な設計が不愉快な完成品になったことにも価値はある。」 ――テゼレット
《倦怠の宝珠》 フレイバーテキスト
「ファイレクシアは確かに危険だが、奴らの技術革新の中には賞賛を否めないものもある。」 ――テゼレット
「金属の世界」でも、エスパーとはまた異なる様相のミラディン。『ミラディンの傷跡』ブロックの各種フレイバーテキストを読むに、テゼレットはファイレクシアに触れてその長所短所を認めましたが、感銘を受けたり心酔したりするまでには至らなかったとわかります。また、入り込むにあたって彼はファイレクシアの油に汚染されないよう予防接種的なものを受けていました。実のところ「プレインズウォーカーはファイレクシアの油の影響を受けない」らしいのですが、話中ではあまり知られていないのでしょうかね。
さて、そんなテゼレットはミラディン世界の創造主カーンを探すプレインズウォーカー3人へと接触し、ファイレクシアの油に耐性を持つ現地民の少女《シルヴォクののけ者、メリーラ》を託しました。この時の出会いが「デュエルデッキ:エルズペスVSテゼレット」。とはいえこの2人は別に戦ってはおらず、ちょっと緊張感のある遭遇、くらいでした。後のVSキオーラといい、なんでエルズペスは実際に戦っていないデュエルデッキなんだろうか。
なお、この時のテゼレットは3人に対して敵対的な態度は全く見せず、胡散臭い目で見られるのを受け流しながらファイレクシアの情報を与え、道案内をしていました。その後はファイレクシアの幹部である《裏切り者グリッサ》と戦ったことがわかっていますが、対決の勝敗は定かではありません。少なくともテゼレットは生きていますが、グリッサがどうなったのかはわかっていません。
4. ヘッドジャッジの次元橋
新ファイレクシアでテゼレットがどれほどの力や地位を得ていたのかははっきりしませんが、どこかで再びボーラスに呼び戻され、次なる任務へと向かわされたことは確かです。アーティファクト技術にて繁栄するまた別の次元、カラデシュへ。
書籍「The Art of Magic: The Gathering – Kaladesh」P.182より訳
テゼレットはアラーラ次元出身、衝動的で力に飢えたプレインズウォーカーです。アーティファクトを鋳造し操る術に長けているため、カラデシュには完璧に馴染みます。彼はその技術を用いて自らの肉体を魔法金属エーテリウムで強化しています――それはアラーラ次元の産物、ある種の形態の霊気が吹き込まれた金属です。最も明白なものはテゼレットの右腕で、完全にエーテリウムで作られており、赤く輝くエネルギーで満ちています。胴体と両脚もまた中空のエーテリウムですが、そういった魔法的強化が珍しい世界で行動する際に隠すのは容易です。
私はプレインズウォーカーがその次元に合わせて衣装替えをするというのが大好きなのですが、カラデシュ衣装のテゼレットも普段の彼とずいぶん趣が違って良いなあと思っています。
エーテリウムの身体はテゼレットにとって、自らの達成の証です。だからこそ普段はそれを誇示するように腕と腹部を露出させていますが、エーテリウムの存在しないカラデシュでは長袖の分厚い衣服でそれらを隠し、せいぜい右肘から上を時折見せる程度です。そうすれば見た目は「金属の義手」、それ自体はカラデシュに存在しないわけではありませんからね。
それと割と余談なのですが、カラデシュ次元のテゼレットについて、とあるカードを見て驚いたことがあります。
「歯が綺麗になってる!」
そこなの?と思われますよね。いやもちろん理由はあるんですよ。ミラディンの傷跡小説での、こんな描写を覚えていたので。
小説「Scars of Mirrodin: The Quest for Karn」チャプター8より訳
テゼレットが両目を閉じると、その光は簡単に消えた。彼は笑みを浮かべ、欠けて茶色い歯の列を見せた。腕の眩しさにその汚れが際立っていた。自分にそのような腕があるなら歯も似合ったものが欲しくなるだろうに、ヴェンセールはそう思った。
性格や気質に問題はあるかもしれませんが、テゼレットは基本的に有能な工作員です。潜入先に溶け込むために必要な努力は厭いません。文明の発達した世界に入り込むために、歯も綺麗にしたのでしょうかね。想像するとちょっと微笑ましくなります。
さて、テゼレットがボーラスから具体的にどのような指示を受けてカラデシュに向かったのかは不明です。それでも、少なくとも「役立つ発明品を手に入れてくること」があったのは確かでしょう。テゼレットは現地政府である領事府へ入り込むと、そのアーティファクト技術と知識をもって速やかにのし上がり、華々しい「発明博覧会」の審判長の座に就きました。
《気宇壮大》 フレイバーテキスト
「テゼレット審判長は博覧会の発明品すべてを自分で確かめるらしいんだ。だから目立つ物を作ったんだ。」 ――バハダールの工匠、ジェバニー
第49回でも触れましたが、この肩書き「審判長(原文:head judge)」が発表された時はとても盛り上がりました。ヘッドジャッジて、それマジックプレイヤー誰も勝てないやつじゃん。それにしても偉くなったなテゼレット……と。《ボーラスの工作員、テゼレット》の強さを多くの人が覚えていたこともあってか、このテゼレットの再登場(5年ぶりでした)は驚きと喜びとともに迎えられていました。
そして、高い地位に就いたというのもあるのでしょうが、カラデシュ次元との相性がとても良かったのか、このブロックでのテゼレットは見るからに生き生きとしています(こう書いておいて何ですが、生物よりも金属と機械を尊ぶテゼレットに「生き生きとしている」は誉め言葉にならないかもね)。テゼレットから見たカラデシュ次元の評価もかなり高めです。
《パラドックス装置》 フレイバーテキスト
「この卓越した装置を一目見たとき、カラデシュには専心する価値があると確信したのだ。予想通り、ここでの日々は極上の成果をもたらした。」 ――テゼレット
極上の成果。それが具体的に何なのかは、この連載では何度も言及してきました。
発明博覧会の閉会に伴い、テゼレットはその展示品全てを没収させました。一番の目的は発明家ラシュミの作品、「空間を越えて物質を転送する」装置です。元は《逆説的な結果》に映っているように小型でしたが、テゼレットはラシュミを監禁して大規模なもの――その名も《次元橋》を作らせました。
ちなみにその様子が語られたのがMagic Story「躍進」なのですが、ここでテゼレットの横暴さを初めて目にして驚いた人も多かったかと思います。空間を越えて物質を転送する……かつて多元宇宙のそこかしこに「次元間ポータル」が存在しました。プレインズウォーカーでなくとも次元を渡れる、もしくは物体を運べる装置です。ファイレクシアがドミナリア次元を本格的に侵攻した際には、空に無数の《次元の門》が開いて艦隊がなだれ込みました。
ですがそれらは全て、「大修復」に伴う世界法則の変化によって機能を停止してしまいました。それが再び、同じようなものが開発されてしまった。そのような装置が悪しき者の手に渡ったならどうなるかは考えるまでもありません。
《次元橋》の存在を知ったゲートウォッチは何としてもテゼレットを止めるべく奮闘し、最終的にはリリアナ・ヴェスがテゼレットを打ち負かすとギデオン・ジュラとチャンドラ・ナラーが次元橋を破壊しました。テゼレットは逃走しましたが、その際にぬかりなく次元橋の核部分を持ち出していました。後に、彼はそれを自らの身体へと組み込みました。
《機械と共に》 フレイバーテキスト
「次元橋を私の中へと移植したとき、プレインズウォーカーの灯が私の身体を越えて燃え上がるのを感じたのだ。多元宇宙は私の遊び道具だった。あれは……最高の気分だった。」――テゼレット
5. War of the 番外カード
公式記事:ステンドグラスに描かれたプレインズウォーカーたち。そして、2019年3月に公開された『灯争大戦』のティザー映像、プレインズウォーカーのステンドグラス36枚。その様相に圧倒されながらも「テゼレットがいない」ことを訝しんだ人は多かったのではないでしょうか。
ボーラスの野望にとってのキーアイテム、《次元橋》を担うはずのテゼレットがいないとは一体……確かにこいつは心からボーラスに従っているわけではない、きっと何かあるぞ……というように。
と、そんな懸念は「BOXプロモの番外カードとして収録」と発表されると吹き飛んだのですが。事実テゼレットは『灯争大戦』のメイン舞台ラヴニカにはおらず、アモンケット次元で自らの役割に勤しんでいました。だから番外扱いだったってことなのかな?『灯争大戦』のプレインズウォーカーは本人のカードの他にもその名を関する別カードが収録されているのですが(《ウギンの召喚体》《テヨの光盾》など)、テゼレットにはそれがありませんし。
テゼレットはその身に埋め込んだ次元橋をもって、アモンケットからラヴニカへと戦慄衆を送り込む役割を担いました。詳細は第79回に書きましたが、ダク・フェイデン、オブ・ニクシリス、カーン、サムトがそれを止める任務に挑みました。4人はまさにその次元橋をくぐってアモンケットに突入、すぐにテゼレットを発見して打ち倒すことに成功しました。
見た目のにぎやかさが際立つこの「次元橋カルテット」ですが、アーティファクトをガンメタするダクとカーン、屈強な戦闘要員ニクシリス、同じく戦闘要員かつ案内役の現地人サムト。極めて理にかなった面子で構成されているのがわかります。テゼレットの胸にあるポータルが壊されたことにより、永遠衆を送り込んでいた次元橋も自壊しました。カーン達はテゼレットに迫りますが、テゼレットは余裕ある態度で敗北を認め、ボーラスを倒してくれることを願ってプレインズウォークで逃走したのでした。
その箇所の訳を第79回にも紹介しましたが再度。
小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター41より訳
だがテゼレットは彼らを称えた。「プレインズウォーカー達よ、いい仕事をしてくれた。あのドラゴンにとっては大きな痛手となるだろう」
カーンは顔をしかめた。「嘘ぶるのはやめなさい。あなたは敗北の瀬戸際にいるのです」
「信じてくれないかね、私は心から喜んでいるのだよ。ボーラスに逆らいたくはない。身のほどは知っているし、あれがもたらす危険がわかっていないような愚か者でもない。だが君達があのドラゴンを塵と帰してくれることを心から願っている」
「なぜです?」
「あれさえ消えれば、私を脅かす力を持つ者はいなくなる。言った通り、身のほどは知っている。そしてここにいる意味も特にないということを」
テゼレットは笑い声をあげ、そして迅速なサムトすら反応できないうちに、プレインズウォークでどこかの次元へと逃げ去った。
『灯争大戦』におけるテゼレットの出番はここまでです。そしてテゼレットが願ったように、ニコル・ボーラスは倒されました。それは、テゼレットというこれまではまた別の力によって押さえつけられていた邪悪な存在が多元宇宙へと解き放たれたことを意味しました。侵略を受けたラヴニカのギルドマスターやかつてボーラス側にいたプレインズウォーカーは、それを熟知していました。
Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――結末の灰燼」より引用
そして、火想者様が結論を告げた。「ラル・ザレックはすでにテゼレット追跡に合意した。ヴラスカよ、過去の罪状の償いとして、我らはドビン・バーンの追跡を命ずる。そしてケイヤ、全ギルドはリリアナ・ヴェスの暗殺をそなたに依頼するものである」
テゼレット、ドビン、リリアナ。かくして、ボーラスの部下として動いていたこの3人の追跡が、『灯争大戦』の続編小説「War of the Spark: Forsaken」の軸となっていきます。
6. 以下続きます
大体は過去にも書いた内容のおさらいだったのですが、それでもこんなに長くなってしまいました。
果たしてラルによるテゼレット追跡はどのような顛末になったのでしょうか?次回もすでに書き上がっています。掲載まで少々お待ち下さい。
(続く)