マジックに理由なきプレイなし~ルーカスの奇妙な経験~

Lucas Berthoud

Lucas Berthoud

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2020/3/5)

油断は禁物

相手を過小評価することは、現実世界でもマジックにおいても決して賢明なことではありません。相手がキーカードを気軽に使ってきたり、一見すると不可解な手札をキープしてきたりしたときは、単なるミスでない可能性を考慮し、自分の有利に働くようにその情報を利用すべきです。

構築においては、筋書き通りに展開するマッチアップがなかには存在します。この傾向が強まった要因は、ロンドンマリガンが導入されたこと(弱い手札をキープすることがほぼない)、スイスラウンドにおいてもデッキ公開制が採用されていることです(プレイヤーは1ゲーム目から必要とされることを正確に把握できるだけでなく、相手の重要なサイドボードテクニックをも知り得る)。

マジック界が完全に把握しきれないほどこれらの変更による影響は大きく、デッキ構築やサイドボーディング、デッキ選択にまで変化が出ています

予期

めったに話題にあがることはありませんが、こういった変更は相手の手札内容の予測のしやすさにも影響を及ぼしています。いくつかのカードは特定のマッチアップにおいて特殊な役割を果たすため、それらが唱えられたタイミング、または唱えられなかったタイミングいかんによって対戦相手の手札を予測することができるのです。

空民の助言

この記事では2つのアドバイスを提示します。奇妙な状況に遭遇したときに自分自身へ疑問を投げかけることで、相手の手札を今までよりも正確に予測できるようになるでしょう。

今回ご紹介する相手を読むためのアドバイスは、相手の挙動を参照したりするようなものではありません。ゲームそのものに関連するものです。お気づきのとおり、そのマッチアップの戦い方を両者の視点から熟知していることが求められます。ここでもハードワークすることが競技マジックにおける成功を占っているわけですね。

これからお話する具体例はいずれも決勝戦での出来事であり、ドラマチックな雰囲気も加わってきます。事実、相手の手札を読めたかどうかで優勝トロフィーを持って帰るのか、あるいはマルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalhoのような想いで会場を去るのかが決まりました。

1.「なぜ相手はキーとなるカードを気軽に使ったのだろう?」

例 その1 : グレーター・ゴイフ 対 トリコロール (2007年)

私の史上最高のプレイングを例にとりましょう。この記事はこの話題を持ち出すための名目だろうと思った方、あながち間違いではありません。これは2007年にデッキ公開制のもとで行われたブラジル選手権決勝での出来事です。

私が使用していたのは、齋藤 友晴がデザインしたグレーター・ゴイフ。相手のデッキは、津村 健志が使用したことで広く知れ渡ったトリコロールでした。

このマッチアップの一般的なゲーム展開は、序盤でライフを削ることに長けたグレーター・ゴイフに対し、トリコロールがブロッカーやライフ回復呪文で徐々にゲームを安定させていくというものでした。

大いなるガルガドン怒りの穴蔵、スカルグ

グレーター・ゴイフが終盤で唯一勝てるとすれば、《大いなるガルガドン》《怒りの穴蔵、スカルグ》のコンボでした。トリコロールの除去は全てソーサリータイミングであったため、速攻とトランプルを持ったアタッカーを用意することが非常に効果的だったのです。しかし、このコンボにも決定的に刺さるカードが1枚だけありました。《差し戻し》です。

差し戻し

《大いなるガルガドン》《差し戻し》を使うことは、実質的に打ち消しているのと同じでした。再び「待機」させてから唱えるにはあまりにも時間がかかってしまうからです。通常であれば、その間にトリコロールがゲームに決着をつけてしまいます。

このような事情があるため、トリコロールのプレイヤーは《差し戻し》を手札に温存し、緊急事態を除いてはコンボより前のタイミングで使わないというのが自然な考え方です。この定石に従ってプレイすれば、トリコロール側は非常に有利に戦えるマッチアップでした。

実際のゲーム展開

ところが、決勝戦では相手があまりにも早い段階で《差し戻し》を使ってきました。プレッシャーが大きくかかっていたわけでもなければ、貴重な時間を稼ぐようなタイミングでもありませんでした。

神聖なる泉稲妻のらせん

もうひとつ気になったのは、《差し戻し》以降に相手は毎ターン土地をセットしているだけでなく、唱える呪文が不足している様子もなかったことです。ゲーム展開をスムーズにするために《差し戻し》をプレイしたわけではないとすれば、なぜ相手はこんなにも早々と唱えてきたのでしょう?

当時の私がこんなにも頭を悩ませたのは、相手がこのマッチアップの戦い方に精通した強豪だと知っていたからでした。ミスするなんてことがあり得るでしょうか?仮にミスだとすれば、《大いなるガルガドン》をいち早く唱え、相手が《差し戻し》をもう1枚引き込むチャンスを与えないようにすべきでしょう。

差し戻し

それでも脳内ではありとあらゆる警報ベルが鳴り響いていましたが、突如としてあることがひらめきました。相手が《差し戻し》をこんなにも気軽に使ったということは、手札に2枚目がある可能性が高いのではないかと。もしこの推理が合っているとすれば、正しいプレイは当初の発想と正反対のこと、つまり《大いなるガルガドン》の展開を遅らせることです。

そう思い立ってからは、手札に存在するであろう2枚目の《差し戻し》を使わせることが主たる狙いになっていきました。《大いなるガルガドン》を実際に引き込んだときも、来るべき時を待って「待機」させませんでした。

火葬

そしてゲームのてん末はどうなったか。戦闘前メインフェイズに土地を置いて呪文を何度か唱え、マナを自ら少し減らしました。そして攻撃を宣言した後、ブロッカーをどけようと《火葬》を使い、残るアンタップ状態の土地が《山》1枚だけの状況にしました。つまり、相手が《差し戻し》を持っているとすれば、それを有効活用できる完璧な機会を自ら差し出したのです。相手は長時間に渡って真剣に考えた末、《火葬》《差し戻し》を使うという判断を下しました。

大いなるガルガドン

そして私は残る《山》を使って《大いなるガルガドン》を「待機」させ、1ターン後にそのクリーチャーでとどめを刺しました


面白いものです。もし相手が1枚目の《差し戻し》を唱えていなかったら、私は《差し戻し》が手札に1枚もない可能性を真剣に考え、《大いなるガルガドン》を早めに「待機」させる危険を冒していたことでしょう。しかし相手がすぐに《差し戻し》を使ってしまったがゆえに、手札にない可能性よりも2枚目がある可能性を高く見積もる結果となったのです。

心理的打撃

今回の例のような状況で実に興味深いのは、心理戦への影響です。もし《差し戻し》を手札に2枚持っているのがあなただったら、手札を見透かされないように1枚目すら使わないように一層の注意を払うべきでしょうか?

1枚目を使うとしても、土地をあえてセットせずに、土地を引き込むために使わざるを得なかったように見せかけるべきでしょうか?反対にあなたが《大いなるガルガドン》側のプレイヤーだったとしたら、相手が単純にミスで1枚目を使ってしまった可能性をどれほどであると見積もりますか?

差し戻し差し戻し

キーとなるカードを不可解なタイミングで相手が使ってきたら、手札に2枚目がある可能性がある。これがこの例を通じて学ぶべき教訓です。相手がそのカードを使うであろう理由を絞り込めれば、その分だけ2枚目があるという推理が正しい可能性が高まります。別の理由を排除できないか、細心の注意を払っておきましょう。

キーカードが除去や打ち消しである場合、プレッシャーが大きいために早期に使った可能性が考えられます。相手がどれほどのプレッシャーを受けていたかを見積もるようにしましょう。これはリミテッドにおいても非常に有用な考え方です。対象を幅広くとれる除去をボムレア用に温存せず、序盤に使ってきた場合ですね。

脅威がキーとなるカードである場合は、マナを無駄なく使うために早めに唱えたのかもしれません。その前後に唱えた呪文を考慮し、マナ効率の観点から唱えたのかを判断すると良いでしょう。

2.「なぜ相手はこの手札をキープしたのだろう?」

例 その2 : ケシスコンボ 対 スケープシフトコンボ (2019年)

ロンドンマリガンの適用下では、強豪プレイヤーが平凡な7枚の手札をキープすることはほぼあり得ません

隠された手、ケシス風景の変容

今回は2019年のとある決勝を例に挙げます。《隠された手、ケシス》コンボと《風景の変容》コンボの対決です。このマッチアップではケシスコンボが有利だろうというのが大勢の意見でした。事実、両者が平均的な手札をキープすれば、ケシスコンボが圧倒することでしょう。

迂回路不可解な終焉

しかし、このマッチアップに熟達したプレイヤーであれば、スケープシフトがサイドボーディング後に勝てる限定的な状況が2つあることを知っています。ひとつは複数のマナ加速呪文から《風景の変容》を決める高速の展開、もうひとつは《不可解な終焉》《拘留代理人》で相手のコンボ成立を遅らせる展開です。以降ではこの2つを念頭に置いてください

実際のゲーム展開

決勝戦の3ゲーム目、スケープシフトのプレイヤーは7枚をキープしましたが、マナ加速呪文を4ターン目まで一切唱えませんでした。ケシスコンボのプレイヤーは素晴らしい手札を握っていましたが、プレイするカードに関して難しい判断を迫られていました。

隠された手、ケシス時を解す者、テフェリー伝承の収集者、タミヨウ

すぐに《隠された手、ケシス》を展開し、いち早くコンボに向かうべきか?あるいはプレインズウォーカーを唱えて長期戦を目指し、《隠された手、ケシス》はコンボが成立するターンまで温存すべきか?

マナ加速呪文の不足につけこみ、早期の決着を目指すのがケシスコンボのプレイヤーの直観的な反応だと思います。たいていのマッチアップではおおよそこの考え方で間違いないでしょう(相手が序盤のプレイをしてこなかったということは、土地が並んだ後に強力な呪文を唱えてくるはずであり、決着を急ぐべきです)。

実際、これが1ゲーム目であったり、相手がマリガンをしていたなら、《迂回路》をトップデッキされるリスクをケアした方が良かったでしょう。ですが、サイドボーディング後、しかも相手が7枚の手札をキープしている状況です。急いでコンボに向かうのはミスだと私は思います。

不可解な終焉拘留代理人

先ほどお伝えしたように、テストプレイの経験から判断したところでは、スケープシフトが勝てるのは限定された2つの状況だけです。相手が序盤にマナ加速してこないのであれば、相手の手札にはクリーチャー除去が満載であるという強力なシグナルだと捉えてよいでしょう。そうでなければ、おそらくマリガンしているはずですからね。

決勝戦が実際にどうなったかと言いますと、《隠された手、ケシス》が唱えられ、あっさりと除去されました。確か2体目のクリーチャーも同様に処理されていたはずです。その後、ケシスコンボのプレイヤーは相手よりも先にコンボを決めることに必死になっていました。


もし《隠された手、ケシス》ではなくプレインズウォーカーを戦場に送り込んでいたら、その能力を起動する機会が増え、より多くのカードにアクセスしていたことでしょう。そうなれば、1ターンの間にコンボを成立させる状況を作り出し、ソーサリータイミングの除去にクリーチャーをさらすこともなかったはずです。

あるいは《拘留代理人》を除去する《暗殺者の戦利品》を手札に加えていたかもしれません。プレインズウォーカーをエサに《拘留代理人》を釣りだし、《隠された手、ケシス》を守れていた可能性もあるでしょう。

悲劇的教訓

教訓。ロンドンマリガンがある世界では、7枚をキープした相手は非常に強力な動きができるという強力なシグナルと捉えて良いでしょう。我々はそれ相応の対応をしなければなりません。先ほどの具体例のように、1~2つの限定された方法でしか勝てない一方的なマッチアップにおいて、この読みが正しい確率は高まります

反対に、消耗戦、妨害や手札破壊の応酬となる試合などでは、この読みが正しい確率は下がります。このような場合、リソースの必要性が高く、マリガンをしない根拠になり得るからです。

例 その3 : マルドゥ機体ミラー (2017年)

最後の例で取りあげるのも決勝戦です。プロツアー『霊気紛争』の第5ゲームにスポットを当てます。

対戦相手はマルシオ・カルヴァリョ。彼はマリガンをしていたため、手札の強さを基準にキープしたという明確なシグナルは得られなかったものの、必要とあらばダブルマリガンすら正しいことがあり得るマッチアップでしたから、1種のシグナルであることに変わりはありませんでした。

白状しますが、当時はロンドンマリガンが存在しない時代でした。ですが、2007年のブラジル選手権のプレイングを記事の冒頭に持ってくるような人間が、プロツアー決勝のプレイングを語る機会を逃すと思いますか?そろそろ私の人となりがお分かりになったでしょう。

実際のゲーム展開

ピア・ナラースレイベンの検査官霊気拠点

ゲーム展開ですが、マルシオは《ピア・ナラー》《スレイベンの検査官》を介してアドバンテージを稼いでいましたが、それよりも強力な動きをしてこないというのは見逃せない事実でした。たとえば、《キランの真意号》やその他の2マナ域を唱えたり、4ターン目に《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を展開したり、あるいはこちらの《キランの真意号》へ素早く《グレムリン解放》で対応するなどの動きをしてこないのです。

もうひとつ気がかりだったのが、彼の黒マナ源が《霊気拠点》しかないこと。ここで私は頭を悩ませました。彼にそのような手札をキープさせるカードがあるとすれば、それはどんなものだろうかと。

グレムリン解放

このような思考をもとに、私は慎重に判断を下しました。《グレムリン解放》を早々と使えば、ソプター・トークンを排除して《経験豊富な操縦者》の攻撃を通す、あるいはチャンプブロックの機会を与えないようにできます。

そうすれば多大なプレッシャーをかけられるだけでなく、このマッチアップにおいて勝因になりやすいテンポを大きく稼ぐことができます。ですが、彼が1枚しかない《領事の旗艦、スカイソブリン》を持っていたら負け得ることに気づいたのです。

領事の旗艦、スカイソブリン

この時点で彼が《領事の旗艦、スカイソブリン》を持っている確率はどれほどだったのでしょうか。脳内の計算ではそこまで高くないはずです。しかし、これまでに彼がプレイしてきたカードがこのマッチアップにおいて平均以下のものばかりであるという事情を考慮したらどうでしょう?《領事の旗艦、スカイソブリン》が手札にあったからこそ彼はキープしたという考えはかなり現実的であるように思えました。

こうして私は《グレムリン解放》を唱えないという考えを強めていったのです。その1ターン後、彼は《領事の旗艦、スカイソブリン》を唱え、グレムリンは解放され、返しのターンに彼は投了を宣言しました。

正直に言いますと、お互いの手札から判断するに、あのゲームはどっちにしても私の有利でした。あのとき私がすべきことは負けないようにすることだったのです。潜在的なミスを回避できたことを誇りに思いますし、相手が手札をキープした理由に思考を巡らせたからこそ勝てたのだと思います。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

ルーカス・エスペル・ベルサウド (Twitter / Twitch)

この記事内で掲載されたカード

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Lucas Berthoud

Lucas Berthoud ルーカス・エスペル・ベルサウドはブラジルの古豪。プロツアー『霊気紛争』では決勝戦で友人のマルシオ・カルヴァリョを下し、スタンダードラウンドを12-0という圧倒的な成績で王座についた。翌年にはマルシオたちとHareruya Latinを結成し、チームシリーズで決勝戦に進む快挙を達成。その後も好成績を残し続け、2019年にはマジック・プロ・リーグに選出された。 Lucas Berthoudの記事はこちら