(編集者注:この記事は3月14日(土)のMTGアリーナ2020年ミシック予選前に書かれたものです。)
Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/3/18)
ミシック予選に臨む
みなさんこんにちは!ペトル・ソフーレク/Petr Sochurekです。
現在MTGアリーナで行われるミシック予選を4時間後に控えた状況ですが、本番のデッキリストと流行のデッキに対するサイドボードプランをシェアしようと思い立ちました。執筆している段階ではどんな結果になるのか想像もつきません。みなさんが読んでいるこの記事が、多額の賞金が懸かったミシックインビテーショナルに出場するプレイヤーが書いたものになる可能性もあるでしょうし、0勝2敗でドロップするしがないプレイヤーが書いたものになる可能性もあるでしょう。しかしいずれにしても、綿密に調整を重ね、素晴らしいデッキリストに仕上がったことは確かです。
この75枚が環境でベストの75枚だと断言するつもりはありません。環境にあるデッキをひとつ残らず試して、すべてを知りつくし、完璧に近しいデッキリストにたどり着くのは極めて困難なことです。試験的に回したほかのデッキが(あるいは打ち負かしたほかのデッキが)自分のデッキよりもパフォーマンスが低かったことを理由に、「自分のデッキこそがベストである」と思ってしまう人は少なくありませんが、仮にその自分のデッキも使い始めたばかりだったとしたらそのデッキにも「ベストデッキではない」という評価を下していたことでしょう。
最初は目に入らないような細かな違いは、一見ささいなものだとしても、実際はゲームの結果に大きな影響を与えるのです。
新環境はバントランプから
プレイヤーズツアー・名古屋2020までは主にリミテッドとパイオニアに専心していましたが、休暇を少しだけとると、僕が最も得意し新鮮で研究のしがいがあるスタンダードにすぐに着手したくなりました。
最初はどのデッキを使うか悩みました。Magic Onlineの成績上位者のデッキリストやMTGGoldfishを眺めるという古典的な方法を使っても満足できるものはなく、Twitterに投稿されているものもせいぜい平凡な出来のものばかり。
そんな状況が変わったのは、今最もアクティブな配信者の1人であるCrokeyzの「バントランプ」を見たときでした。最初に見たときはデタラメにカードを詰め込んだだけで洗練されていないと思ったのですが、現環境に存在する最強のミッドレンジ用のカードをほぼすべて使用していたのです。ミッドレンジは僕が好みとするスタイルであり、このデッキに興味をそそられました。
僕は普段から、相手の解答をかいくぐって攻める能動的な戦略を使うプレイヤーではありません。むしろその反対です。リソースを交換して強力なカードで締めくくる。そんなデッキを組み上げることが昔から好きでした。幸い、適切な構築とプレイングが備わっていれば、僕の好みな戦略がスタンダードで最も支配的なものになりやすいのです。
このような戦略を苦手とする人が多い理由は、デッキ内の一つひとつのカードの重要性が極めて高いからです。たとえば攻撃的なデッキにおいては1枚1枚のカードの重要性は下がります。最適な構成でなくとも、極端に言えばマナカーブ通りに動いてライフを0にできればいいわけですからね。しかし、コントロールやミッドレンジにおいては、メタゲームに噛み合っていない解答が1枚デッキにあるだけで敗北に直結するのです。
Daily bant update: up to 31 lands, think I might be going crazy pic.twitter.com/mEbJy8qCdZ
— Petr Sochůrek (@PetrKikac) March 4, 2020
デイリーバント更新:土地を31枚にまで増量、自分でもヤバイかなって思う。
Crokeyzのデッキリストを回していると、間もなくしてデッキに若干の支障が出始めました。あるときから主にミラーマッチ、スゥルタイミッドレンジ、ティムールアドベンチャー、赤単ばかりと当たるようになっていったのです。これらのデッキにとってはマナ加速から展開される《夢さらい》の対処が現実的ではないため、土地31枚(!)に加えてマナ加速呪文と《夢さらい》を詰め込んだ構成を作り上げました。
《基本に帰れ》
この構成が機能した期間はわずかでした。メタゲームが劇的に変化、多くのプレイヤーが新たなラクドスサクリファイスを手に取り始めたのです。単に新しいデッキが出てきただけというわけではありませんでした。その使用者の膨れ方は凄まじく、ほかのデッキはそれに適応したため、これまでのランププランがもはや通用しなくなっていました。
また、デッキ全体が1枚のキーカードを軸にしたプランで成り立っているため、相手がメインデッキから《神秘の論争》を搭載したティムール再生をプレイしている状況では、破滅へのチケットを手にしているようなものです。だからといってバントランプを切り捨てるべきではありませんが、基本に帰る必要があるように感じたのは確かでした。
ミシック予選のデッキリスト
これが今現在のデッキリストになります。
2 《島》
2 《森》
4 《繁殖池》
4 《神聖なる泉》
4 《寺院の庭》
4 《寓話の小道》
3 《神秘の神殿》
2 《啓蒙の神殿》
2 《豊潤の神殿》
-土地 (29)- 3 《ハイドロイド混成体》
3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
2 《夢さらい》
-クリーチャー (8)-
3 《霊気の疾風》
1 《ドビンの拒否権》
2 《空の粉砕》
3 《エルズペス、死に打ち勝つ》
4 《時を解す者、テフェリー》
1 《覆いを割く者、ナーセット》
2 《伝承の収集者、タミヨウ》
3 《世界を揺るがす者、ニッサ》
-呪文 (23)-
メインデッキのカード選択
バントランプにしては見慣れないカードが多いと思いますので、そこにたどり着くまでの経緯をご説明しましょう。まずは、このデッキの核(変更してはならないもの)からです。
デッキの核
これらのデッキの核となるカードはなにがあっても入れるべきでしょう。なかでも《成長のらせん》はベストカードです。バントカラーでは低マナ域の選択肢が数少ないですし、《成長のらせん》が引けているのと引けていないのとでは天と地の差があります。メインデッキに《霊気の疾風》を3枚入れているのも、低マナ域が手薄だからです。
軽い呪文の選択には長らく苦しめられ、《樹上の草食獣》も《楽園のドルイド》も試しましたが、いずれも弱すぎました。この2種のカードが弱かった原因は、バントランプが《自然の怒りのタイタン、ウーロ》と《成長のらせん》を有効活用するために大量の土地(現在は29枚)を必要としていることにあります。土地の枚数が多い場合、「終盤戦を強く戦う力」と「強力なトップデッキをする力」がデッキに備わっていないとマナフラッドに陥ってしまうのです。
ここで仮に、《楽園のドルイド》や《樹上の草食獣》を投入するとどうなるか説明しましょう。(《楽園のドルイド》の構成では土地の枚数を削るため)土地が潤沢に引けずに、《成長のらせん》と《自然の怒りのタイタン、ウーロ》が弱体化したり、土地があればそれをセットするだけでマナが伸びるのに、なぜ2マナ払って《楽園のドルイド》をプレイしなければならないのかと頭を抱えたりする展開が起こります。さらには、終盤戦にパワフルなカードを十分に引き込めないなどの弱い展開が頻繁に起きてしまうのです。
そんななかで《霊気の疾風》は見事な解決策となりました。昨今のデッキの多くは赤か緑を含んでおり、腐ることはめったにありませんし、ゲームへのインパクトも十分なものです(赤でも緑でもない相手との対戦では、自分の《世界を揺るがす者、ニッサ》や《ハイドロイド混成体》をバウンスする使い道があります)。引いたときに弱いという印象はなく、除去などに対応して《ハイドロイド混成体》をバウンスすることになる展開も少なくありません。
《世界を揺るがす者、ニッサ》が3枚なのは違和感があるかもしれません。しばらくは4枚にしていたのですが、動きが鈍くなってしまう場面が多かったのです。環境のデッキには《神秘の論争》《霊気の疾風》《否認》があり、《世界を揺るがす者、ニッサ》を2~3枚引くと基本的に相手にとって都合の良いプレイをせざるを得ないのです。
3枚にした理由はそれだけではありません。バントランプは一般的なデッキよりも実質的なカードの枠が少なく、実際にゲームに影響をもたらすカードの数が限られています(土地29枚、《成長のらせん》、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》などで枠が埋められている)。《エルズペス、死に打ち勝つ》《空の粉砕》《覆いを割く者、ナーセット》《ドビンの拒否権》などの特定の問題を解決するカードの枠を設ける必要があるなかで、これら1枚の代わりに4枚目の《世界を揺るがす者、ニッサ》を採用していては、デッキがやや重たくなるばかりか、動きがワンパターンになってしまいます。
実際、手札にカードを山のように抱えていても《世界を揺るがす者、ニッサ》があるばかりで、相手の行動に対してなす術がないということが何度かありました。このデッキは《伝承の収集者、タミヨウ》などの手札補充カードでライブラリーを深く掘り進める力があり、どんなカードでも望めばアクセスできることが多いのです。そのため、1枚しかない《ドビンの拒否権》が取るに足らないささいなものに見えたとしても、実際には大きな影響をもたらします。
1ゲームにライブラリーのおよそ35枚を確認することは珍しくなく、ゲームを通して打ち消しなどの特異な呪文にアクセスできる可能性があるかどうかが勝敗を分けかねません。ましてや、状況次第では《伝承の収集者、タミヨウ》で回収することもあるのです。
《夢さらい》の2枚目を《ハイドロイド混成体》の4枚目にするかは悩みどころですが、予想するメタゲームによるところが大きいでしょう。ですが、ここまで解説してきたように、ライブラリーを掘り進められるデッキにおいては選択肢が広い方が好ましいと思います。
《寓話の小道》4枚含めた土地29枚
膨大なゲーム数を重ねていくと、土地の適正枚数が29枚であるとほぼ確信しました。構築が適正であれば、マナフラッドする、あるいは上述のような必要とするカードが採用されてないという事態はあまり起きません。しかし、土地がなければどうしようもありません。このデッキはマナに飢えていますし、数多くの占術土地をもってすれば《ハイドロイド混成体》や《夢さらい》を引き込めます。ですから、土地を豊富に採用することが正しい選択だと考えています。
《寓話の小道》を4枚採用しないデッキリストが多いようですが、僕には理解できません。3色土地で、アンタップインして、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》と《伝承の収集者、タミヨウ》とシナジーがある。すごくないですか?
サイドボードのカード選択
アーティファクト/エンチャント対策 0枚
サイドボードに不足しているのはアーティファクト対策(とエンチャント対策)ですが、ティムールアドベンチャーはラクドスサクリファイスと相性が悪いことから数を減らしていますし、バントランプがもともと苦手としている相手なので《秋の騎士》を数枚サイドボードに入れたところで大差はないでしょう。今は0枚にしていますが、僕が間違っている可能性はあるでしょうね。
軽量除去 8枚
現環境では《ガラスの棺》と《敬虔な命令》をフル投入して良いと考えています。軽量の除去と終盤戦のパワーカードを組み合わせたゲームプランはラクドスサクリファイスにも赤単にも見事に機能しており、4枚ずつ採用したことは大正解でした。
《神秘の論争》 4枚
ある時期においては《ドビンの拒否権》1枚と《神秘の論争》3枚に散らしていましたが、今では《神秘の論争》4枚で統一した方が良いと考えています。《ドビンの拒否権》の方が”やや”優れているマッチアップがいくつかあるのは確かなのですが、《神秘の論争》が優れているマッチアップでは、この呪文の方が《ドビンの拒否権》よりも”はるかに”優れているのです。打ち消し呪文をそこまで多く必要としないため、《ドビンの拒否権》を1枚追加するのはサイドボードの枠を無駄にしているように思えます。インパクト不足ですね。
カードアドバンテージ源
これは僕が作るミッドレンジのデッキリストで頻繁に確認できる様式です。サイドボードにおよそ2~3枚のアドバンテージカードを投入することがよくあります。
なぜこのような構成にするかといいますと、メインデッキにアドバンテージをもたらすカードを好き放題に入れるわけにはいかないからです。そんなことをしてしまえば、デッキに入れておく必要のあるカードの枠がなくなり、ドローを連鎖させるだけでなんの脱出口も見つけられずに負けてしまうでしょう。しかしサイドボーディング後であれば、一般的にゲームは遅く長いものになりますし、把握した相手のデッキ情報をもとに構成を調整できます。つまり、アドバンテージカードを増量することに計り知れない価値が発生するのです。
サイドボードガイド
お待たせしました!みなさんにとって待望のコンテンツ、サイドボードガイドをお届けします。
あらかじめお断りしておきますが、デッキリストというのは使用者によって異なるものであり、小さな違いが大きな違いになることも考えられます。毎回同じようにサイドボーディングすることはほぼありません。これからご紹介するサイドボードガイドは、一般的な構成に対する一般的な戦い方を示すにすぎません。
ティムール再生
vs. ティムール再生
サイドインされる《義賊》が煩わしいこともありますが、その点を除けば2ゲーム目以降は簡単に戦えるでしょう。相手の勝ち筋は、こちらの手札に高マナ域の呪文が重なっている隙にマナ差をつけてテンポで圧倒することですが、僕の構成であれば軽量の妨害が豊富にありますし、ティムール再生に有効な《覆いを割く者、ナーセット》や《時を解す者、テフェリー》もいます。
コントロールとも呼べる相手に対して《伝承の収集者、タミヨウ》や《世界を揺るがす者、ニッサ》をサイドアウトするのは変に思うかもしれませんが、マナコストの重いカードは打ち消され、さらには返しのターンで《荒野の再生》を設置される隙ができてしまうので、《ハイドロイド混成体》以外はそれほど必要ありません。
赤単
vs. 赤単
最初は《時を解す者、テフェリー》をサイドアウトしていたのですが、《リムロックの騎士》などのクリーチャー強化呪文や《エンバレスの宝剣》に対して効果抜群であり、《鍛冶で鍛えられしアナックス》などのマナコストが重いクリーチャーをバウンスすることもできます。2ゲーム目以降は軽い呪文を増やしますので、土地は1~2枚減らした方が良いでしょう。
ミラーマッチ
vs. ミラーマッチ
《神秘の論争》が4枚も必要なのかは不確かですが、終盤戦でも《ハイドロイド混成体》を打ち消す役割がありますし、痛烈に刺さるタイミングもありますので、4枚入れるべきだと考えています。
ティムールアドベンチャー
vs. ティムールアドベンチャー
打ち消し呪文は少なくとも数枚入れておくべきでしょう。終盤戦に《願いのフェイ》で手札に加わった《集団強制》を止めたり、《僻境への脱出》を打ち消したりするのに必要になります。
こちらが勝つゲームというのは、相手が《幸運のクローバー》を引いていないゲームです。つまり、非常に厳しいマッチアップだと言えます。カギを握るのは大型の飛行クリーチャーです。ティムールアドベンチャーは《夢さらい》やサイズの大きな《ハイドロイド混成体》の対処に難を抱えているため、こちらはこの2種を軸にしたゲームプランを立てていきましょう。
ラクドスサクリファイス
vs. ラクドスサクリファイス
ラクドスサクリファイスは持久力の高いデッキですから、1対1交換の除去を多く投入することに違和感を覚えるかもしれません。ですが、相手がアドバンテージを得ることなど大して重要ではないのです。ゲームが長引けば《夢さらい》《ハイドロイド混成体》《伝承の収集者、タミヨウ》《エルズペス、死に打ち勝つ》といったあまりにも強力なカードが機能し始めるため、いずれ勝つのはこちらです。ですから、序盤で大きく後れを取らないようにすることが重要です。
ジェスカイファイアーズ
vs. ジェスカイファイアーズ
《覆いを割く者、ナーセット》は先手では有効かもしれませんが、サイドボーディング後の小型クリーチャープランにはやや脆いです。
スゥルタイミッドレンジ
vs. スゥルタイミッドレンジ
《世界を揺るがす者、ニッサ》と《戦争の犠牲》を持つ相手に《霊気の疾風》を抜くのは妙に思うかもしれませんが、手札破壊が多い相手には大幅に弱体化してしまう呪文です。それにお互いに消耗するロングゲームになりやすいため、相手の強力なカードを1ターン遅らせたところでなんの解決にもなりません。
アゾリウスコントロール
vs. アゾリウスコントロール
理想を言えば2枚目の《夢さらい》をサイドアウトしたいところです。《空の粉砕》にも打ち消しにも弱いですからね。ですがこれよりも優れたカードがサイドボードにはありません。ただ、アゾリウスコントロールの人気は衰えてきていますから、さほど気にすることはないと思いますし、どっちにしても非常に相性の良いマッチアップです。
さいごに
今回の内容は以上になります。バントランプはデッキパワーが高く、使っていて楽しいデッキです。ぜひお試しください!
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ではまた次回お会いしましょう。