『イコリア:巨獣の棲処』で人間デッキを作ろう

Dmitriy Butakov

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2020/4/14)

『イコリア:巨獣の棲処』で構築する人間デッキ

みなさんごきげんよう。

『イコリア:巨獣の棲処』の全カードリストが公開された。部族テーマに加えて、《ベナリアの軍司令》の跡を継ぐ《ドラニスのクードロ将軍》が収録されたことから、私は人間の部族デッキを作る気になっている。この記事では、『イコリア:巨獣の棲処』から人間デッキで使えそうなものに目を通し、いくつかデッキを構築してみたいと思う

新セットからの新戦力

《ドラニスのクードロ将軍》

ドラニスのクードロ将軍

悪くないマナレシオに有用な3つの能力がついている。これは強そうだ。まず、ウィニータイプのデッキは《栄光の頌歌》効果から大きな恩恵を受けられる。

2つ目の能力は《大釜の使い魔》《魔女のかまど》のコンボを妨害することは難しいだろうが、それでも有効な使い道はあるだろう。たとえば、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《死の飢えのタイタン、クロクサ》といった巨人たちや《鎖を解かれしもの、ポルクラノス》の「脱出」を妨害、《エルズペス、死に打ち勝つ》《伝承の収集者、タミヨウ》で再利用するカードを追放、《炎の騎兵》の死亡時の火力を下げるといった具合だ。大したことないように思えるかもしれないが、能力の誘発にコストがかからないことを忘れてはならない。

3つ目の能力も可能性を感じる。新環境では肉付きの良いクリーチャーがあふれていることだろう。《夢さらい》の攻撃を防ぐこともできる。確かにその代償は大きいかもしれないが、2体の人間クリーチャーに比べれば5点ダメージ+5点回復+1ドローの方が高くつくこともあるだろう。《ドラニスのクードロ将軍》は自身を生け贄に捧げることができるため、まずは4枚採用から始めてみたい

《ラバブリンクの冒険者》

ラバブリンクの冒険者

《真の名の宿敵》をスタンダードで再現するとすれば、おそらくこれぐらいが限度だろう。現環境のスゥルタイコントロールの呪文はほぼすべてが偶数のマナコストであり、ジェスカイファイアーズの呪文は《予見のスフィンクス》以外が奇数のマナコストであるが、新環境の蓋を開けてみないとこのカードの評価はしがたい。理論上は非常に手堅いカードであるが、そのポテンシャルは問答無用の全体除去(《空の粉砕》《時の一掃》《ケイヤの怒り》など)がどれだけ流行するかによって決まるだろう

《将軍の執行官》

将軍の執行官

現スタンダードには破壊不能を付与する価値がある伝説の人間クリーチャーは4体いる。《ドラニスのクードロ将軍》《災いの歌姫、ジュディス》《軍勢の切先、タージク》《高名な弁護士、トミク》だ(《無傷のハクトス》も伝説の人間だが、彼は自分自身を守れる)。これら全てを同居させることはまずないだろうが、そのうちの1体でも《神の怒り》効果に耐性をつけられるのであれば、《将軍の執行官》は人間デッキに居場所を見つけられるかもしれない。2つ目の能力も、おまけにしては素晴らしいものだ。

《夢の巣のルールス》

夢の巣のルールス

「相棒」という能力は一旦わきに置いておこう。ウィニーデッキではメインデッキで使う価値があるかもしれないからだ。基本的に展開したウィニークリーチャーたちは対処されるものだが、1ターンに一度とはいえ、本来のマナコストだけで墓地から復活させられる点に可能性を感じる。あまり過度な期待はできないが、いつか試してみたいカードだ。

《光明の繁殖蛾》

光明の繁殖蛾

人間のようなデッキでは4マナ域を多く採用する余裕はないため、《光明の繁殖蛾》のライバルは多い。個人的に評価が高いのは《復讐に燃えた血王、ソリン》《太陽の宿敵、エルズペス》である。この2種はサイドボードに限らずメインデッキでも優秀だ。

《不吉な戦術》

不吉な戦術

我々は単にクリーチャーを破壊するだけでは足りない世界に生きている。《不吉な戦術》はインスタントタイミングでありながら2マナで非常に強力な効果を持っており、デメリットはごくわずかしかない

《無情な行動》

無情な行動

白黒の構成にするならば《不吉な戦術》を優先させたい《無情な行動》も優れた除去であり、対処できないクリーチャーはそう多くないだろうが、追放できるかが重要だ。


さて、ここまでは『イコリア:巨獣の棲処』から注目したいカードに言及してきた。しかし、前環境までのカードプールにいた人間クリーチャー、特に採用に値するものはそこまで多くない。ここからはその再評価を手短に行うとしよう。

既存のカードの再評価

1マナ域

最初にお断りしておくが、どれだけ甘く見ても、検討に値する1マナ域はどれも平均的なものばかりだ。しかし、この枠は必要悪である。人間のメインカラーは白であるから、ほかの色の1マナ域には言及しない。

《追われる証人》

追われる証人

現時点の人間部族デッキにおいて最強の1マナ域だと思われる。単体では至って平凡であるが、その能力はいくつかのシナジーを形成するだけでなく、全体除去を使われても小型のトークンを戦場に残す。

《巨人落とし》/《法ルーンの執行官》

巨人落とし法ルーンの執行官

有用なクリーチャーたちだ。土地の枚数が少ないデッキなら起動コストの小さい《法ルーンの執行官》に軍配が上がるが、ミッドレンジならば《巨人落とし》の方が良いだろう。

《尊い騎士》

尊い騎士

死亡時に+1/+1カウンターを残す《サバンナ・ライオン》だが、その能力はわざわざ対象先を採用するほどのものではない。1マナ域の候補のなかでは最も評価が低い。現代は『アルファ版』『ベータ版』『アンリミテッド・エディション』の環境ではないのだ。通常の1マナ域よりもパワーが1高いだけでは物足りない。

《ハズダーの司法官》

ハズダーの司法官

《追われる証人》と全く同じで、突出した存在ではないが、少なくともトークンを生成していれば本体が破壊されたとしても損をすることはない。ただし、どちらも生成するトークンが人間でない点は気に留めておこう

2マナ域

《徴税人》

徴税人

大したクリーチャーではないが、フラッシュ系やコントロール系に強い。その能力は起動型能力にも及ぶ。《大釜の使い魔》《魔女のかまど》のコンボは自分のターンだけにしていただこう。

《義賊》

義賊

単なる速攻クリーチャーである。その能力が誘発することもあるだろうが、土地がめくれる場合もある。過度な期待はしないほうが良いだろう。このデッキは赤単ではないのだ。

《速太刀の擁護者》

速太刀の擁護者

まさにチームで戦うカードだ。十分なサポートがあれば獣と化すが、1人では非常に脆い。また、展開したいターンは2ターン目に限られる。

《高名な弁護士、トミク》

高名な弁護士、トミク

優れたマナレシオに加えて飛行という回避能力がついているが、一見わかりづらいおまけが2つ付属している。まず、伝説であること。《将軍の執行官》で破壊不能を付与できる。そして、土地を対象にさせない能力。《世界を揺るがす者、ニッサ》は土地をクリーチャー化できなくなる。

《真夜中の騎士団》

真夜中の騎士団

このカードの評価はいまだに悩ましい。トップデッキ勝負になったときに差をつけるカードではあるのだが、それ以前のタイミングではどちらのモードも賞賛できるものではないのだ。

3マナ域

《軍勢の切先、タージク》

軍勢の切先、タージク

《軍勢の切先、タージク》は単なる速攻の「教導」クリーチャーではない。《轟音のクラリオン》から他のクリーチャーを守り、《波乱の悪魔》や赤単のゲームプランに干渉できる。

《災いの歌姫、ジュディス》

災いの歌姫、ジュディス

(黒)(赤)というマナコストを払えるのであれば、素晴らしい選択肢となるだろう。全体強化+除去+全体除去へのカウンターパンチの3つの役割がある。伝説ではあるが、メリットの方が大きい。

《疫病造り師》

疫病造り師

ラクドスサクリファイスが隆盛しており、今はこのカードの時代ではない。しかし、環境が移り変わればプレイアブルになることだろう。

『イコリア:巨獣の棲処』を使ったデッキリスト

では、組み上げられそうな人間デッキを実際に形にしてみよう。

第1案 : 白単ウィニー型

まず思いついたのは古き良き白単ウィニーであったが、『イコリア:巨獣の棲処』からの強化は少ない。1~2マナ域を並べたのちに、《ドラニスのクードロ将軍》 + 《敬慕されるロクソドン》で強化する動きは依然として強力だが、《ベナリアの軍司令》の不在を嘆くカードは多い。

《ハズダーの司法官》《追われる証人》《急報》などの兵士トークンや《敬慕されるロクソドン》《ドラニスのクードロ将軍》の全体強化の恩恵を受けられず、デッキのマナカーブは《静寂の神殿》によるタップインで崩されてしまう。私の考えが間違っていることを願いたいところだが、ウィニー型は人間デッキの最善な形ではないだろう。次へ進もう。

第2案 : “真の名”型

屈辱ラバブリンクの冒険者疫病造り師ロークスワイン城

これはどちらかといえばミッドレンジ型だ。現環境で強そうな《屈辱》を使える。”真の名の宿敵もどき”がメタゲームにかみ合っているかはまだ説明が難しいが、未来を感じるカードである。実際のメタゲームが固まるまで待つとしよう。

この構築で活躍しそうなもう1体の人間が《疫病造り師》である。このデッキを使うとすれば、サイドボードに何枚か採用することになるはずだ。《ロークスワイン城》はリスクある採用であるが、《復讐に燃えた血王、ソリン》によるライフ回復がそれを肯定してくれるだろう。

最終案 : 伝説型

人間デッキは攻め手に回ることを想定しているため、ライフ損失があるショックランドで3色のマナベースを構築することが比較的容易である。『イコリア:巨獣の棲処』のトライランド(《サヴァイのトライオーム》)はあまり好きになれないが、まずは試してみることにしよう。

将軍の執行官速太刀の擁護者太陽の宿敵、エルズペス

人間デッキの調整はこの構成から始めてみたいと考えている。これまでの2つの案にはない甘美なシナジーがいくつかあるのだ。

尊い騎士ハズダーの司法官癒し手の鷹

気がかりなのは、1マナ域の質の低さだ。《ハズダーの司法官》の枠には《尊い騎士》の方が良いかもしれない。仮に部族テーマでないとすれば、《癒し手の鷹》も視野に入るが、部族シナジーを無視するのは惜しい。

正義の模範、オレリア復讐に燃えた血王、ソリン無傷のハクトス

《正義の模範、オレリア》の採用には確信が持てないが、『ラヴニカのギルド』が導入されたスタンダード期において何度か使った経験からすれば、ゲームを高速で決められる力がある。このデッキの試運転で期待外れだった場合は、《復讐に燃えた血王、ソリン》が取って代わることになるだろう。《無傷のハクトス》も候補に挙がる。攻撃的であるし、伝説で、回避能力も備わっている。しかし私としてはコインを投げるのはマッチの開始時だけで十分だ。

火刃の芸術家

候補に挙がるカードといえば、仮に(黒)(赤)を要求しないのなら《義賊》の枠に《火刃の芸術家》を間違いなく採用しただろう。しかし、白の1マナ域を展開しつつ、2ターン目に《火刃の芸術家》を展開するには、その動きを実現できる8枚しかない土地(《神無き祭殿》《聖なる鋳造所》)を1ターン目に置かなければならない。そこまでリスクを負う必要があるかはわからないが、《火刃の芸術家》が速攻を持つ人間であり、トークンを上手く活用し、《災いの歌姫、ジュディス》と相性が良いことは確かである。

完全+間隙

《完全/間隙》も目を留めるべきカードである。クリーチャーを強化する効果は、マナを余すことなく使うことに長けており、ブロッカーを押しのけることができる。もう一方のマナコストが重くなった《稲妻のらせん》は中盤戦以降で出番が回ってくるだろう。

おわりに

今回は人間部族デッキをご紹介した。『イコリア:巨獣の棲処』が発売されたら、この記事で取り扱ったデッキをいち早く使おうと思っている

ここまで読んでいただきありがとう。みなさんのご武運を祈る。

ではオンラインで会おう。

ドミトリー・ブタコフ (Twitter)

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Dmitriy Butakov ロシアのプレイヤー。Magic Onlineを主戦場としており、オンラインプレイヤーの中で最強を決める大会である2012 Magic Online Championshipで優勝、翌年の2013 Magic Online Championshipでもトップ4に入賞して注目を浴びる。 2018年には2017 Magic Online Championshipで2度目の優勝を果たし、名実ともにMagic Online上で最強のプレイヤーとして堂々たる実績を残すと同時に、優勝の特典でプラチナレベル・プロとなる。こうした実績が認められ、2018年3月にHareruya Prosへと加入した。 Dmitriy Butakovの記事はこちら