Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/4/15)
(編集者注:この記事は『イコリア:巨獣の棲処』の全カードリストが公開される前に執筆されたものです)
はじめに
記事を執筆している段階では、『イコリア:巨獣の棲処』のカードは半数近く公開されています。そろそろリミテッドで使えそうな戦略を検討し、環境を考察するタイミングがやってきたでしょう。
今回の記事では個別のカードをひとつひとつ言及することはせず、『イコリア:巨獣の棲処』に存在するキーワード能力や実現可能なアーキタイプにスポットライトを当てます。キーワード能力、コモン、アーキタイプを象徴するカードなど、リミテッド環境の姿かたちを推測できるものに注目していきましょう。
『イコリア:巨獣の棲処』のキーワード能力
「サイクリング」
「サイクリング」が帰ってきました!このキーワード能力があるリミテッド環境は、マナフラッドとマナスクリューの機会を減らしやすいことから、コミュニティに大いに愛されてきました。ところで、「サイクリング」は環境にどのような影響をもたらすのでしょうか?
まず、土地の総枚数に変化が生まれます。攻撃的なデッキにおいては通常よりも土地の枚数を少なめにすることが一般的です。呪文ばかりを引いてしまった場合に「サイクリング」することができますからね。
また、「サイクリング」をしたときに効果を発揮するカードが多く見られます。「サイクリング」デッキは、ゲームに甚大な影響を与える「サイクリング」関連のカードをドラフト中に引き当てたときに魅力的な選択肢となります(『アモンケット』のときの《ドレイクの安息地》を思い出してください)。なぜなら、デッキ内のそのほかのカードが、よりインパクトの大きいカードを探す手段として機能するからです。
シールドにおいては、「サイクリング」があるので普段以上にレアを使いたくなります。欲張りなマナベースやレアのフィニッシャーに頼ったコントロールデッキは、通常のセットよりもはるかに安定するでしょう。ドラフトとは違い、アグレッシブなデッキが一般的ではありませんから、最初の数ターンを「サイクリング」に費やしたとしても大きくとがめられることはないはずです。
「変容」
リミテッドにおける「変容」への第一印象は、この環境では除去が重宝されるだろうということです。裏を返せば、おそらくこのセットにはマナコストが軽くて効率的な除去がそう多くないということでもあります。
環境初期においては、「変容」したクリーチャーを除去して1対複数交換をしようと、普段よりも除去を温存するプレイヤーが多いことでしょう。また、「変容」クリーチャーを通常のクリーチャーとして唱えて、除去をケアしたり盤面のアタッカーを増やしたりするのではなく、「変容」させることに固執してしまう罠にかかってしまうプレイヤーも少なくないはずです。
「変容」はパワー/タフネスを向上させつつ疑似的に速攻を付与できます。そのため、《駐屯地の猫》のように能力を持った低マナ域のカードは「変容」させて速攻で攻撃するには最高の存在です。環境に「変容」があることで、通常であれば利点をまったく見いだせない軽量のクリーチャーに大きな価値が生まれるのです。ほかの例でたとえるのならば、クリーチャーを強化するエンチャントが多い環境で低マナのクリーチャーの価値が上がるようなものです。
「キーワード・カウンター」
「キーワード・カウンター」の導入により、このセットにおける除去の価値はさらに高まっています。カウンターを置くカードの多くはそれを置くクリーチャーをプレイヤーに選ばせるだけでなく、そのクリーチャーの選択がゲーム展開を大きく分岐させていくため、この環境ではプレイヤーの判断が明暗を分けることでしょう。コンバットトリックは一時的にしか効果が持続しないのが一般的ですが、今回はクリーチャーにカウンターが置かれます。
相手がコンバットトリックを匂わせる攻撃をしかけてきたときは、飛行やトランプルのカウンターが置かれても気にならないクリーチャーをブロックするのが直観的には良さそうだと考えています。
「相棒」
「相棒」カードは10種類あり、全てレアで収録されています。レアというのはドラフト環境に大きな影響を与えることが少ないものですが、このセットにはレアが53種類あり、各卓で「相棒」の平均枚数は3~4枚になる計算なので、お目にかかる機会は多いでしょう。
「相棒」をドラフトしたりパックから出てほしいと期待したりする戦略が理想的だとは言いませんが、ドラフトを始める前に全10種の「相棒」カードの効果を把握しておくことを強く推奨します。ドラフト中に1~2枚ほど流れてくる展開は十分に現実的であり、2パック目で「相棒」カードを引いたときに備えて1パック目の12~15手目を”弱いカード”のピックに使うことは最悪のシナリオではないからです。もっとも、「相棒」カードはメインデッキに入れることもできますから、4手目以降に流れてくる確率は高くないと思われます。
環境初期のカギを握るのは
メカニズムとこれまでに公開されたカードから察するに、少なくとも環境初期ではアグレッシブな戦略や低いマナカーブのデッキが成功を収めるでしょう。
「変容」は除去を温存させることを推奨し、「サイクリング」はマナコストの重い呪文が多く入った遅めのデッキを作り出します。プレイヤーたちがまだ適応できていない環境初期において、アグレッシブなデッキはそのどちらも咎めることでしょう。また、「サイクリング」をデッキに多めに含めることで、土地の枚数を減らせる環境でもあります。
この環境のコンバットトリックは極めて強力に見えますが、ほとんどが3マナ以上です。これらのコンバットトリックを活かすために、軽量のクリーチャーをドラフトしたいと考えています。コンバットトリックはアグレッシブではないデッキが多く採用するものではないですから、基本的に遅めの順手まで回ってくることでしょう。
この戦術を用いるうえで特に過小評価されていると思うのは《踏み穴のクレーター》です。「サイクリング」があるため決して腐ることはなく、盤面を広げてダメージを通した後、速攻を付与してアタッカーを追加したり、任意のクリーチャーに付与できるトランプルによってぎこちないブロックを強制させたりできます。カード1枚と土地1枚を消費するとしても非常に強力なエンチャントでしょう。
各色で過小評価されているコモン
過小評価されているカードの強みは、遅めの順手まで卓を一周する確率が高く、ドラフト中に安心してデッキの構想に組み込めることにあります。1手目で取るようなカードではありませんが、適切なデッキであれば活躍できるポテンシャルのあるカードたちです。
白:《駐屯地の猫》
1マナ域であり”弱体化した”《宿命の旅人》ですが、環境によって評価を見直すべきでしょう。「変容」やコストに生け贄を要求する呪文を用いるのであれば、《駐屯地の猫》は序盤のクリーチャーとして及第点の存在になるはずです。
青:《捕獲球》
ほかのセットでも頻繁に見かける呪文ですが、今回はいつも以上に有用だと考えています。というのも、この環境に存在するメカニズムを考慮すると、除去の価値が普段よりも高いからです。また、瞬速は「サイクリング」と相性が抜群で、相手のターンにマナを構えつつ「サイクリング」か《捕獲球》かを選べます。
黒:《野生肉の密猟者》
コモンにしては役割が多いです。サクり台になるだけでなく、ライフレースを有利に進める手段となります。このカードと「変容」に関連して面白いシナジーもあります。クリーチャーを「変容」コストで唱え、それに対応して対象となったクリーチャーを生け贄に捧げれば、「変容」コストで通常のクリーチャーとして戦場に出すことができ、本来よりもいくらか軽く唱えることができるのです。
赤:《一時的な連帯》
この呪文を1マナで唱えられる機会は限られるでしょう(威迫は攻撃的な能力ですので、この呪文を軸にした構成は不可能ではありません)しかし、「変容」を使った大型クリーチャーを育成してきたり、「サイクリング」を経由してボムレアに頼ったりするデッキに対して《一時的な連帯》は大活躍してくれるはずです。
緑:《万能のブラッシュワグ》
「変容」だけでなく、余ったマナの使い道が欲しい攻撃的な構成と相性が良いです。余剰のマナを注ぎ込めるコモンがこのセットには「サイクリング」を除いてごくわずかしかないように見えます。この予測が当たっているとすれば、このカードを1~2枚採用しておくと非常に便利でしょう。
おわりに
公開されていないカードはまだ半分あります。ほかにどんなカードが収録されているのか楽しみです。このセットのドラフトは、「変容」や「相棒」を軸にした風変わりな戦略が多く存在する楽しい環境となることでしょう。
2マナ域をピックすること。これだけは忘れないでください。
ジェイソン・チャン(Twitter)