Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/05/05)
デッキ構築の常識
「このカードをデッキに入れたいんだけど、代わりに何を抜いたら良いと思う?」
「ピン挿しするなら、あっちよりこっちが良いかな?」
最後の1枚の枠を作る。これは昔からあらゆるプレイヤーの頭を悩ませてきた問題です。私たちはデッキを作るとき、一貫性があり、安定していて、パワフルなカードを満載したデッキにしたいと願うものですが、どうすれば最後の1枠を”こっちとあっち”のどちらにするか判断できるのでしょう?ときには、最後の1枠の選択があまりにも難しく、世界最高峰のプレイヤーたちでさえもすべてを採用することを選び、60枚を超えたデッキを登録してきました。そしてこういった選択にはコミュニティから懐疑的な反応が投げかけられることもありました。
しかし、60枚を超えるデッキは誤りなのでしょうか?誤りというよりも、そもそも定石から外れる理由や動機がなかったと私は思っています。しかしもしデッキの枚数を少しばかり増やすことで初手が8枚になり、カードアドバンテージ源を内蔵した構成になり、手堅いフィニッシャーが手に入るとしたら?
もうお察しがついたでしょう。《空を放浪するもの、ヨーリオン》が登場したことで我々は今後”60枚ルール”を破り続けていくと思います。
『イコリア:巨獣の棲処』に収録された「相棒」というメカニズムは、デッキ構築方法・プレイング全般の全く新たな原動力となりました。攻撃的なデッキはマナカーブを極端に低くして《夢の巣のルールス》を利用しようとしていますし、奇数のマナ域を飛び越せるランプデッキは《深海の破滅、ジャイルーダ》という報酬が常に用意されています。
一方で、奇数のマナコストだけでまとめた奇妙なデッキは《獲物貫き、オボシュ》を使えます。デッキの中核を担うカードに必ずアクセスできるのは素晴らしいことですが、「相棒」を使うにはデッキ構成への厳しい条件をクリアせねばなりません。
では、《空を放浪するもの、ヨーリオン》をほかの「相棒」と一線を画している要素とは何なのでしょうか?それは指定のマナ域からカードを選ぶ必要がなく、ただ優秀なカードを20枚追加するだけで良いことにあります。
スタンダード:ヨーリオンアゾリウスコントロール
では《空を放浪するもの、ヨーリオン》はどのように使われているのか。スタンダードの一般的なアゾリウスコントロールを見てみましょう。
6 《平地》
4 《神聖なる泉》
4 《寓話の小道》
4 《啓蒙の神殿》
2 《アーデンベイル城》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (32)- 4 《夢さらい》
-クリーチャー (4)-
4 《吸収》
4 《意味の渇望》
3 《神秘の論争》
4 《空の粉砕》
4 《海の神のお告げ》
4 《メレティス誕生》
4 《エルズペス、死に打ち勝つ》
2 《サメ台風》
4 《ガラスの棺》
4 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《時を解す者、テフェリー》
-呪文 (44)-
このデッキを流し読みするだけだとしたら、《空を放浪するもの、ヨーリオン》なしのバージョンとの違いに気づきもしないでしょう。必要なカードはきちんとすべて入っていますし、それどころか実に幅広いカードが選択されていますからね。《空を放浪するもの、ヨーリオン》の能力はあらゆるミッドレンジやコントロールが必要としているものでしょう。土地と呪文のバランスが適正でゲームが長引きさえすれば、アドバンテージをも供給してくれるフィニッシャーに確実にアクセスできるようになるからです。
その「明滅」能力で《海の神のお告げ》を追放してドローを円滑にしたり、プレインズウォーカーの忠誠度能力を再利用したり、《ガラスの棺》でより良い対象を取ったりできる状況を作り出すのはそう難しくありません。
こういった周知の利点以外にも、《空を放浪するもの、ヨーリオン》は対戦相手に通常とは異なるプレイングを要求します。コントロールデッキに対する一般的なお決まりごとは、除去をサイドアウトして打ち消し呪文や手札破壊を増量することですが、《空を放浪するもの、ヨーリオン》は相手にやりづらい状況を生み出します。
たとえば、《空を放浪するもの、ヨーリオン》への解答としてサイドボードの《反逆の行動》しかないラクドスサクリファイスを使っているとしましょう。みなさんならサイドインしますか?もしサイドインした《反逆の行動》が初手に来たとすれば、序盤からプレッシャーをかけるリソースが不足して《反逆の行動》を上手く使える状況を作り出しづらくなるため、ゲーム開始時からディスアドバンテージを負うことになります。
とすればシンプルに《強迫》や《ドリルビット》をサイドインしますか?それも良いですね、手札が空にさせられた相手は《空を放浪するもの、ヨーリオン》を叩きつけ、《覆いを割く者、ナーセット》の忠誠度をリセットし、《海の神のお告げ》も再利用する。これで手札はまた満タンです。このように《空を放浪するもの、ヨーリオン》を含むコントロールデッキへのサイドボーディングは、従来に比べると一層難しくなっていることがわかります。
《空を放浪するもの、ヨーリオン》は攻撃的なデッキのサイドボーディングを困難にする一方で、コントロールミラーの在り方も変えました。コントロールミラーは長く消耗する戦いであり、その多くはライブラリーアウトによって決まります。腕の立つプレイヤーというのは、ミラーマッチを戦闘ダメージで勝つことが実質的に不可能な場合、ライブラリーを念頭に置いてデッキを構築し、ゲームプランを立てます。
想像してみてください。《空を放浪するもの、ヨーリオン》のないアゾリウスコントロールで、《空を放浪するもの、ヨーリオン》のあるアゾリウスコントロールと戦うことを。頑張ってライブラリーが20枚も多い相手に勝ちましょう。
パイオニア:ヨーリオンオルゾフスタックス
ではほかのフォーマットではどうなのでしょう?20枚も追加するとデッキの安定性がなくなり、カードプールが広く、速く、直線的なフォーマットでは戦えなくなるのでしょうか?どうやらそうではないようです。Magic Onlineで先日開催されたPioneer Super Qualifierの決勝は、《空を放浪するもの、ヨーリオン》を搭載した白単タッチ青信心のミラーマッチだったのです!
しかし、私が本当に注目したのは、6位に入賞していたhodortimebabyのオルゾフスタックスでした。
5 《沼》
4 《神無き祭殿》
4 《コイロスの洞窟》
4 《孤立した礼拝堂》
4 《乱脈な気孔》
1 《静寂の神殿》
2 《ロークスワイン城》
1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》
-土地 (31)- 4 《スレイベンの検査官》
2 《残忍な騎士》
-クリーチャー (6)-
私はスタンダードでオルゾフスタックスを使っている時期が少しだけありましたから、このデッキが持つ美しさがよくわかります。オルゾフスタックスは以前からパイオニアに存在していましたが、《空を放浪するもの、ヨーリオン》はこのデッキがTier1になるために必要なものかもしれません。
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以前までは《予言された壊滅》を引き込めないときに苦戦を強いられていましたが、《空を放浪するもの、ヨーリオン》はこの問題を解決しています。戦場に出たときに効果を誘発するエンチャントを「明滅」することで継続的にアドバンテージを獲得できるようにしたのです。
このデッキリストを見たとき、《予言された壊滅》は”おとり”だと思わざるを得ませんでした。このデッキのベストカードはどう見ても《悪魔の契約》なのです。《悪魔の契約》はカード情報が公開された当時に大きな注目を集めましたが、ようやく活躍の場所を見つけられたかもしれません!
《悪魔の契約》と《空を放浪するもの、ヨーリオン》のコンビから最大限のアドバンテージを獲得した場合、「ゲームに敗北する」効果が解決する前に16点ダメージ(《空を放浪するもの、ヨーリオン》の攻撃2回+《悪魔の契約》の4点ダメージ2回)、8点回復、手札を4枚捨てさせ、4枚ドローできます。
もしも相手がショックランドや《思考囲い》でダメージを少し受けていれば、この2枚はほかのカードの手を借りることなく勝利できる2枚コンボとなるのです。《悪魔の契約》と《空を放浪するもの、ヨーリオン》はそれほど強力な組み合わせであり、パイオニアの《真実を覆すもの》コンボに取って代わっても私は驚きません。
おかしな話ですが、《空を放浪するもの、ヨーリオン》がいる世界では《悪魔の契約》の能力を何度か解決して「敗北する効果」を待つことはできず、《悪魔の契約》に対処できるカードを引き込んだのならカードアドバンテージを損してでもすぐさま対処せざるを得ないのです。
モダン
モダンのようにさらにカードプールの広いフォーマットにも《空を放浪するもの、ヨーリオン》の居場所はあるのでしょうか?
実をいうと、この「相棒」に助けを求めているデッキはすでに存在しています。それがエバート・モートン/Evart Moughonやガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifのヨーリオン《魂寄せ》デッキです。
ヨーリオン《魂寄せ》
2 《冠雪の島》
1 《冠雪の山》
1 《冠雪の平地》
2 《繁殖池》
2 《踏み鳴らされる地》
1 《神聖なる泉》
1 《寺院の庭》
1 《聖なる鋳造所》
4 《虹色の眺望》
4 《吹きさらしの荒野》
4 《樹木茂る山麓》
3 《霧深い雨林》
-土地 (29)- 4 《極楽鳥》
4 《貴族の教主》
4 《とぐろ巻きの巫女》
4 《氷牙のコアトル》
4 《花の壁》
4 《永遠の証人》
4 《魂寄せ》
1 《秋の騎士》
4 《なだれ乗り》
2 《修復の天使》
1 《高原の狩りの達人》
1 《造物の学者、ヴェンセール》
1 《酸のスライム》
1 《鏡割りのキキジキ》
-クリーチャー (39)-
1 《ブレンタンの炉の世話人》
1 《溜め込み屋のアウフ》
1 《アゾリウスの造反者、ラヴィニア》
1 《イクスリッドの看守》
1 《エイヴンの思考検閲者》
1 《拘留代理人》
1 《弁論の幻霊》
1 《土覆いのシャーマン》
1 《月の大魔術師》
1 《スラーグ牙》
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン》
-サイドボード (15)-
アドバンテージ好きなみなさん、《魂寄せ》デッキが大幅に強化されましたよ!このデッキは「戦場に出たときにアドバンテージを稼ぐカード」で固められてさえいれば良いため、《空を放浪するもの、ヨーリオン》のためにデッキを20枚増やすことはそう難しくありません。
《空を放浪するもの、ヨーリオン》は戦場に出たときに効果を誘発するカードと組み合わせたほうが良いのは今や周知の事実だと思いますが、では対戦相手に使われる場合はどのように立ち向かえば良いのでしょう?フェアデッキはきっと苦しめられるはずです。以前はただ《魂寄せ》を盤面に居座らせないようにし、時間を稼げば問題ありませんでした。しかし《空を放浪するもの、ヨーリオン》が加わったこのデッキに対しては、どんな新しいゲームプランを用意すればよいのでしょうか?
《空を放浪するもの、ヨーリオン》が着地する前に展開されたクリーチャーを1体も残さずに除去しますか?そのプランをとるなら、4/5の飛行クリーチャーである《空を放浪するもの、ヨーリオン》はどうやって対処しましょう?それともアドバンテージ源となるクリーチャーを手札に補充するのを許してから《空を放浪するもの、ヨーリオン》を除去しますか?
《空を放浪するもの、ヨーリオン》を使おうと《魂寄せ》デッキを選ぶのは自然であるように思います。戦場に出たときにアドバンテージを獲得するクリーチャーが多くいるからというのもありますが、何よりもデッキを円滑に動かせるようにマナクリーチャーが豊富に採用されているためです。
《空を放浪するもの、ヨーリオン》のカードパワーは極めて高いですが、「明滅」する価値のあるパーマネントを並べつつ、何らかのサポートもなしにコレを展開しようとするのはモダンでは現実的ではなく、何としても避けたい展開です(そう、アゾリウスコントロールのことです)。
幸いにも、膨大なマナを生むことに長けているのは《最高工匠卿、ウルザ》と優秀なアーティファクトのコンビも同様のようです。
ヨーリオンウーロザ
2 《冠雪の森》
2 《繁殖池》
2 《蒸気孔》
3 《神秘の聖域》
4 《霧深い雨林》
4 《沸騰する小湖》
3 《溢れかえる岸辺》
2 《汚染された三角州》
1 《孤立した砂州》
-土地 (29)- 4 《金のガチョウ》
4 《氷牙のコアトル》
4 《湖に潜む者、エムリー》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
4 《最高工匠卿、ウルザ》
-クリーチャー (20)-
1 《剥奪》
3 《金属の叱責》
4 《謎めいた命令》
2 《豊かな成長》
4 《仕組まれた爆薬》
4 《ミシュラのガラクタ》
1 《モックス・アンバー》
4 《アーカムの天測儀》
2 《上天の呪文爆弾》
2 《ひっかき爪》
-呪文 (31)-
《オパールのモックス》の禁止は《最高工匠卿、ウルザ》デッキを弱体化させたかもしれませんが、ベストデッキに返り咲くには《空を放浪するもの、ヨーリオン》がカギとなる可能性があります。
《最高工匠卿、ウルザ》を展開し、5つのアーティファクトをタップして《空を放浪するもの、ヨーリオン》を送り出し、《最高工匠卿、ウルザ》とアーティファクトを「明滅」したうえで、打ち消し呪文を構える。この動きは本当に恐ろしいと思います。
おわりに
『イコリア:巨獣の棲処』の発売からまだ間もなく、我々はフォーマットをまたいで活躍する《空を放浪するもの、ヨーリオン》の無限の可能性を垣間見たに過ぎません。
ただ、ひとつ確かなことがあります。それは《空を放浪するもの、ヨーリオン》がミッドレンジとコントロールのデッキ構築を変えるということです。これからは《空を放浪するもの、ヨーリオン》の存在をあらかじめ意識し、対抗できるゲームプランを用意しておく必要があります。
もしもご自身で《空を放浪するもの、ヨーリオン》抜きの素直なコントロールを使うときには、相手のデッキボックスが20枚多く入るものでないことを祈りましょう。
ジョー・ソー (Twitter)