Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/6/12)
はじめに
みなさんこんにちは。新たなスタンダード環境がやってきましたね。記事の投稿は久しぶりになりますが、またこうして自分の思考をまとめられることを嬉しく思います。前回の記事は半年以上前で、そのときはボローニャのレガシーグランプリでの素晴らしい経験を取り上げました。
そう、グランプリですよ、みなさんグランプリのこと覚えてますか?随分と昔のことに思えますね。とても寂しいです。プレイヤー、大会、マジックの試合をするために着席する興奮感。そのどれもが恋しい気持ちです。懐かしんでいたら1日が潰せそうなほどですね。
ですが、今までよりも明るい未来が待っていることを僕は信じています。明けない夜はありません。2021年の競技マジックに期待しましょう。楽観的に、希望を持っていきましょう。
今回の記事では、禁止告知、スタンダードの新環境、第1週のプレイヤーズツアー予想について僕なりの考えを示していきます。僕はというと、調整時間を多くし、第1週の結果に対応したいという考えから、第2週に参加するつもりでいます。
興味深いのは、どの回のプレイヤーズツアーに参加するかというのも戦略のひとつになっていることです。みなさんなら、第1週のプレイヤーズツアーに新しいデッキを持ち込んで相手の虚を突きたいと考えますか?それとも第1週の結果が出るまで待ってから動きたいですか?どの日付が参加者がもっとも多くなるのでしょう?逆に1番少なくなる日付は?
この場を少し借りて、この困難な時期にあっても契約選手たちを支えてくれるスポンサーに感謝したいと思います。選手やユーザーを最優先に考える素晴らしい企業を代表する選手である誇らしさやありがたさは筆舌に尽くしがたいです。
禁止告知
まずは禁止告知についての私見をお話しましょう。総合的に見て、ウィザーズは素晴らしい仕事をしたと思っています。《裏切りの工作員》の禁止は同時に2つのパワフルなパートナー(《軍団のまとめ役、ウィノータ》と《銅纏いののけ者、ルーカ》)を弱体化させるため、賢明な措置です。《裏切りの工作員》そのものは極端に強いカードではありませんが、クリーチャーであることが悪用のしやすさにつながっていました。
《創案の火》の禁止は必然だったでしょう。マナの踏み倒しは昔から問題を引き起こしており、このカードも例外ではありません。
《創案の火》はインスタントタイミングでの動きを封じますが、これはゲームの意思決定の幅を狭めるものです。何らかの理由があって我々はマジックをプレイしていますが、多くのプレイヤーにとってはインスタントタイミングでのやりとりがその大きな理由のひとつのはずです。個人的には《創案の火》が追放されてよかったと思います。
相棒のルール変更について
新ルール
各ゲーム中に1度だけ、あなたはソーサリーを唱えられるとき(あなたのメイン・フェイズの間でスタックが空であるとき) に(3)を支払うことでサイドボードからあなたの相棒をあなたの手札に加えることができる。これは特別な処理であり、起動型能力ではない。
「相棒」の能力を下方修正したのは非常に歓迎できることですし、ゲームを面白くし続けるには必要なことだったでしょう。このメカニズムはほぼすべてのフォーマットを瞬く間に支配しました。このメカニズムの実装自体が誤りであったことは誰の目にも明らかだったはずです。
いくつかの「相棒」はその制約と比較してカードの質が明らかに高いものでした。各「相棒」に3マナ追加するダメージは深刻で、特定の「相棒」のためにデッキを特化させるべきかどうかを悩まなければいけない状況になっています。
かといって、3マナの追加は「相棒」メカニズムを競技プレイから完全に追放するほどのものではありません。マナ加速あるいはロングゲームを狙うゲームプランを持つデッキならばパワーカードである《空を放浪するもの、ヨーリオン》、”強化版《グレイブディガー》“である《深海の破滅、ジャイルーダ》といった「相棒」をこれからも使う可能性が残ります。
そのため、《夢の巣のルールス》やそのライバルである「相棒」が多くの競技レベルのデッキに当然のように採用されるここ数か月とは異なり、再びデッキ構築の段階で意思決定をする必要が出てきました。
デザインミスを妥当な制約と必要な禁止でリカバリーしたウィザーズの対応はよかったと思います。素晴らしい変更です。プレイヤーたちが愛情を育んできた、あるいは投資したカードを禁止しなくてはならないのは常に心苦しいことですが、全体の利益のためにぐっとこらえ、大多数のプレイヤーをなだめることもときには必要です。
僕としては環境の変化をどんなときも歓迎しています。愛するフォーマットであるスタンダードは特にそうですね。禁止告知や新セットのリリースのあとの新鮮な香りは僕のテンションを上げてくれます。少し変な言い回しになってしまいましたが、伝えたいことはわかっていただけるかと思います。環境が絶えず変化し、何度も何度も適応し、メタゲーム予想をするチャレンジこそ、マジックを魅力的なものにし続ける要素なのです。
生き残ったデッキ
さて、この禁止告知以降も生き残ったカードはなんでしょうか?目立ったところで思いつくのは《魔女のかまど》《時を解す者、テフェリー》《荒野の再生》です。
幸いにも新環境になって第1陣の大会はすでに終わっています。その新鮮な大会結果を見ていきましょう。ここに掲げたのは、Red Bull Untapped Online Qualifier Germany、直近のスタンダードチャレンジ、ショーケースチャレンジのトップ8を集めたもので、合計24つのデッキがあります。
デッキタイプ | 使用者数 |
---|---|
ジャンド城塞 | 9 |
ティムール再生 | 4 |
アゾリウスコントロール | 2 |
バントコントロール | 2 |
災厄赤単 | 2 |
グルールアグロ | 2 |
スゥルタイコントロール | 1 |
ラクドスサクリファイス | 1 |
赤単アグロ | 1 |
合計 | 24 |
新たに力を持ったデッキはジャンドサクリファイスのようで、非常に支配的なパフォーマンスを見せています。このデッキはラクドスサクリファイスよりも優れた選択である印象です。ご覧のとおり、初週はコントロールとミッドレンジが強い存在感を示しました。特にジャンドはアグロ戦略に強い傾向にあります。
驚きだったのは、そのジャンドが3つのどのイベントでも優勝していないことです。内2つはティムール再生が、3大会のなかでもっとも栄誉あるショーケースチャレンジは《災厄の行進》赤単でした。この型の赤単は『イコリア:巨獣の棲処』から《禁じられた友情》という強化を受けています。強そうなデッキではありますが、ジャンドサクリファイスが多いフィールドでは使うことをおすすめしません。
優勝した赤単のリストはこのあとご紹介しますが、75枚のなかに4枚挿しでないカードが3種しかないのは好印象です。美しく、シンプルにまとまっています。ティムール再生は3大会のうち2つを制しました。ジャンドサクリファイスがひしめいたトップ8では、”ミッドレンジキラー”であるティムール再生が輝きます。ジャンドサクリファイスがアグロを環境から押しやれば、ティムール再生がミッドレンジをあっさりと片づける状況が整います。
先週のデッキのなかからいくつかを取り上げてみましょう。
ジャンド城塞
3 《森》
1 《山》
4 《寓話の小道》
4 《血の墓所》
4 《草むした墓》
4 《踏み鳴らされる地》
-土地 (24)- 4 《大釜の使い魔》
4 《金のガチョウ》
4 《忘れられた神々の僧侶》
4 《波乱の悪魔》
4 《悲哀の徘徊者》
1 《フェイに呪われた王、コルヴォルド》
-クリーチャー (21)-
ティムール再生
災厄赤単
4 《エンバレス城》
-土地 (22)- 4 《熱烈な勇者》
4 《不気味な修練者》
4 《焦がし吐き》
4 《ブリキ通りの身かわし》
4 《朱地洞の族長、トーブラン》
-クリーチャー (20)-
第1週目のプレイヤーズツアーでは、ティムール再生が最善の選択であると考えています。ただ、ティムール再生がジャンドサクリファイスに有利に戦えることは周知の事実になってきており、そうなればティムール再生を食い物にするアグロの立ち位置が改善されるかもしれません。そのため、ティムール再生を選ぶのであれば、ジャンド、ミラーマッチ、急増するであろうアグロにゲームプランを持てる構成にしておく必要があります。
幸い、ティムール再生はカードプールが広く、柔軟性の高いデッキです。適切な構成にすれば、ほぼすべての戦略を倒すことができるでしょう。
僕はコントロールコンボが好きなので、禁止告知後は新環境のためにティムール再生を刷新しようとすぐに調整を始めました。新環境初週の結果が出ましたので、ここで僕の現在のリストをお披露目しようと思います。「現在の」と表現したのは、僕のリストは常に調整を加えて形を変えているからです。丸一日同じ75枚を使っていることは滅多にないですね。自らを進化させたいのであれば、いろいろなカードやゲームプランを試すべきです。
では、僕の構成をご紹介しましょう。
現時点でのベストレシピ
2 《森》
1 《山》
4 《寓話の小道》
4 《ケトリアのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《蒸気孔》
3 《踏み鳴らされる地》
1 《神秘の神殿》
2 《ヴァントレス城》
1 《爆発域》
-土地 (28)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
-クリーチャー (3)-
4 《成長のらせん》
2 《霊気の疾風》
2 《焦熱の竜火》
1 《否認》
3 《神秘の論争》
1 《旋風のごとき否定》
1 《嵐の怒り》
4 《発展/発破》
4 《荒野の再生》
3 《サメ台風》
-呪文 (29)-
2 《否認》
2 《萎れ》
2 《嵐の怒り》
1 《幽体の船乗り》
1 《厚かましい借り手》
1 《霊気の疾風》
1 《チャンドラの螺旋炎》
1 《焦熱の竜火》
1 《神秘の論争》
1 《旋風のごとき否定》
-サイドボード (15)-
1ゲーム目のプランは一般的なティムール再生と同じです。ゲームを長引かせ、《発展/発破》と《荒野の再生》のコンボを揃えましょう。僕はこの2枚をコンボと呼ぶようにしています。ティムール再生はコントロールコンボである《欠片の双子》デッキに似たものを感じますね。
コンボパーツを揃えるために、《霊気の疾風》に加えて打ち消しや除去などの妨害呪文を一定数採用しています。対コントロールの1ゲーム目では、飛行のサメ・クリーチャー・トークンや《自然の怒りのタイタン、ウーロ》などで相手の妨害に対抗していきます。
サイドボードは、完全なコントロールデッキに変形できるように構成してあります。”ウーロ・コントロール”と呼べるほど踏み切り、《荒野の再生》や《発展/発破》を大幅に減らすマッチアップは少なくありません。相手はエンチャント除去、《強迫》、《ドビンの拒否権》を投入してきますからね。
1ゲーム目ほどコンボは決まらなくなりますが、フェアな戦い方で勝ちやすくなります。というのも、脅威である《荒野の再生》をケアするために打ち消しのマナを構える相手は展開が遅れ、その結果としてインスタントスピードでのゲームプランを進めやすくなるからです。いまのところ、軽量の妨害と《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の組み合わせがお気に入りの勝利のレシピですね。
カード選択
《旋風のごとき否定》
さて、続いてはカード選択についてです。《旋風のごとき否定》は意外な選択だったかもしれませんが、現状では納得の採用になっています。ジャンドサクリファイスの誘発をまとめて打ち消し、《幸運のクローバー》や《エッジウォールの亭主》の誘発を対象にとりつつ、それを誘発させた「出来事」呪文やクリーチャー呪文まで対応。何よりも重要なのは厄介な《サメ台風》のトークンへの明確な解答となることであり、《旋風のごとき否定》を採用する価値のあるものにしています。
《嵐の怒り》
昨今は《嵐の怒り》の採用率が下がっているようですが、僕としては誤りだと思っています。《嵐の怒り》ほど強力な赤の全体除去はなかなかありませんし、歴史全体でみても最強かもしれません。メインに1枚入れておけば、相手が過剰な展開をしたときにあっさりと勝てる可能性があります。
また、リストに1枚あることで相手が尻込みし、《嵐の怒り》をケアして展開を遅らせるようなことがあれば時間を稼ぐことができます。ゲームの長期化こそティムール再生がひたすら願うものでしょう。《嵐の怒り》が飛んでくるかもしれないという心理的な効果は馬鹿にできません。
この全体除去は、評価が高まっている《災厄の行進》赤単の《炎の侍祭、チャンドラ》だけでなく、《水晶壊し》《グルールの呪文砕き》《探索する獣》《変容するケラトプス》といった厄介な緑のクリーチャーに対応できるため、採用したほうがよいだろうと思います。
《爆発域》
《爆発域》は素晴らしいカードで、2枚採用する構成もあります。ただ、現時点では少し欲張りな構成だろうという印象です。ティムール再生は色マナを多く確保しなくてはいけませんからね。マナベースのそのほかの部分については説明するまでもないでしょう。『イコリア:巨獣の棲処』に収録されたサイクリング土地を4枚含む28枚の構成はデッキの動きと整合しています。何よりも大切なのは土地を順調に伸ばすことですからね。
《霊気の疾風》
《霊気の疾風》は現環境にとても噛み合っており、メインに2枚、サイドに1枚の構成が適正であるように思います。4枚目は採用候補の上位にいますね。
《厚かましい借り手》
より強力な《サメ台風》がデッキに食い込んだことで、《厚かましい借り手》は最弱のカードになったと思っています。それでもサイドに1枚採っているのは、《サメ台風》ミラーで使ったり、サイド後はクリーチャーの戦闘ダメージによって勝つことが多いため3/1飛行というサイズが便利だからです。
今回のように鮮度の高いメタゲームでサイドボードを構築するのは難しいものです。検討すべきカードが山のようにあります。いくつか例をあげると《軍勢の戦親分》《終局の始まり》《ハイドロイド混成体》《薬術師の眼識》などです。
リストが非公開の大会であれば僕は《軍勢の戦親分》で相手の不意を突きたいタイプの人間ですが、プレイヤーズツアーであればこの選択肢は賢明であるように思えません。アゾリウス系のデッキでは《ガラスの棺》の枚数を多く確保するのがトレンドになっており、リスト非公開であっても《自然の怒りのタイタン、ウーロ》をケアするためにサイドインされることがほとんどでしょう。
《夜群れの伏兵》
《夜群れの伏兵》はフラッシュプランに合っているだけでなく、アグロ戦でも有効です。
《幽体の船乗り》
《薬術師の眼識》でなく《幽体の船乗り》を選択したのは、《時を解す者、テフェリー》や《覆いを割く者、ナーセット》に対して有効であり、さらには赤単の小型クリーチャーに対してブロッカーに回せるからです。
追加の除去
サイドに採った追加の除去は、数を増やすであろうアグロを食い止める狙いです。アグロやテフェリーデッキはティムール再生にとって苦慮する相手であり、備えておきたいと考えました。《チャンドラの螺旋炎》は違和感を覚えるかもしれませんが、赤単に非常に強く、ジャンドサクリファイスにも使え、ティムールアドベンチャーには驚くほど有効です。
現在のカードプールでは、ティムール再生をさまざまな方法で組み上げることができます。Hareruya Prosの同胞であるマティアス・レヴェラット/Matias Leverattoは《選択》をすべてカットし、《萎れ》や妨害呪文をメインデッキに昇格させることでサイドボードの枠を作ることに成功しています。《選択》は《自然の怒りのタイタン、ウーロ》 にとって重要なカードであり、1ゲーム目にコンボパーツを探す役割がありますから、この変更が正しいとは断言できません。ただ、《選択》を減らす、または完全にカットすることを検討する価値はあるでしょう。
プレイヤーズツアー予想
みなさんがサイドボードガイドをご希望されていることは重々承知しています。ただ、今回ばかりはプレイヤーズツアー前にあまり情報を漏らさないようにサイドボードガイドの解説は後日にさせてください。現在のリストでの戦い方やサイドボーディングのヒントは文章内に残しておきました。
また、3月時点でのティムール再生のサイドボードガイドはTwitterで公開していますから、気になる方は僕のアカウントをチェックしてみてください。違う環境ではありますが、同じアーキタイプの話をしています。プレイヤーズツアーが終わったらサイドボードガイドを公開する予定です。どうか今回は情報シェアできないことをお許しいただければと思います。
最後になりますが、第1週のプレイヤーズツアーについていくつか予想を立ててみましょう。
さて、僕の予想は合っているのでしょうか。いずれにせよ、ようやく大きなものを懸けたマジックの大会に参加できることにワクワクしています。早くリングに戻りたくてウズウズしますね。
では今回は以上になります。お付き合いいただきありがとうございました。またお会いしましょう。