Translated by Kohei Kido & Nobukazu Kato
(掲載日 2020/07/16)
(編注:この記事は『Jumpstart』の実装前に執筆されたものです。)
未開のエターナルフォーマット
みなさん、こんにちは。
私はHareruya Pros所属のルーカス・エスペル・ベルサウド/Lucas Esper Berthoud。かつてのプラチナレベルプロです。
エターナルフォーマットが魅力的になりフォーマットとしてのアイデンティティを得ていくには、時代を飛び越えたカード間の予期せぬシナジーをプレイヤーたちが見つけていく必要があります。次回のミシックインビテーショナルや8月のアリーナ・オープンのフォーマットに選ばれたヒストリックは、まだその段階には至っていません。ただ、このフォーマットには『アンソロジー』を介して調整されたカードプールがありますから、そのポテンシャルは高いことでしょう。
そのため、現状では、かつてのスタンダードで活躍した強力なシナジーを研究することが中心となっています。これはこれで面白いですし、MTGアリーナが幅広いフォーマットを育てるに当たって多くの助けを求めている状況ですからヒストリックは今後も継続的な支援を受けて発展していくことでしょう(大会運営社たちがリミテッドの存在を思い出したら話は変わるかもしれませんけどね)
今回は、《運命のきずな》禁止後の環境予想を示そうと思います。また、デッキ公開制の大会に向けてデッキ構築をするに際し、念頭に置くべきシナリオや役立つ理論をご紹介するつもりです(デッキ公開性はミシックインビテーショナルに限らず、競技性の高いイベントで広く採用されています)。ヒストリックにご興味のない方でもお楽しみいただけることでしょう。
禁止への見解
《運命のきずな》と《炎樹族の使者》が禁止となりました。
実はこの記事は禁止告知を受けて内容を修正したのですが、修正前の記事では《荒野の再生》から《運命のきずな》につなげる動きは終盤戦の動きとして支配的であると記載していました。5ターン目以降のアクションは、ほかのデッキの追随を許さない強さだったのです。
そして《不連続性》の登場により《運命のきずな》デッキは頂点を極めます。終盤戦のゲームプランがさらに強化されただけでなく、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の生け贄に捧げる効果を《もみ消し》することでアグロに対する非常に明確かつ強力な初動が取れるようになったのです。《運命のきずな》の禁止は正解だと思います。
他方、《炎樹族の使者》の禁止にはやや疑問が残ります。《炎樹族の使者》はグルールアグロに必須のクリーチャーとは思っていませんでしたが、マナ加速するデッキに速度勝負するにはカードプールにいたほうがいい重要な存在でした。ランプのデッキパワーが非常に高い現状においては、この禁止は環境にとって害のほうが大きい可能性があると思われます。
理論上は、《運命のきずな》が禁止されたことによって、そのほかの中盤~終盤のプランが通用するようになるはずです。ただ、そういったプランの方向性を指し示すのは依然として《成長のらせん》と《自然の怒りのタイタン、ウーロ》なのではないかと睨んでいます。
今回の禁止告知を受け、フォーマットに深みが出るのかどうか。それはエスパーヒーローのようなデッキが通用するか否かがひとつの大きな指標となるでしょう。つまり、マナ加速を用いずに妨害することに寄せたアグロ以外のデッキが環境に居場所を見つけられるのかどうかです。
《隠された手、ケシス》や《創造の歌》を使ったコンボデッキがときおり顔を見せるようになっても環境は面白くなるでしょうね。
4色ケシス
4 《インダサのトライオーム》
2 《ゼイゴスのトライオーム》
4 《湿った墓》
3 《神聖なる泉》
3 《寺院の庭》
2 《繁殖池》
1 《神無き祭殿》
2 《内陸の湾港》
1 《水没した地下墓地》
1 《氷河の城砦》
-土地 (24)- 4 《精励する発掘者》
4 《迷い子、フブルスプ》
4 《万面相、ラザーヴ》
4 《湖に潜む者、エムリー》
4 《隠された手、ケシス》
2 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
-クリーチャー (22)-
ヒストリックのマナベース
(《神聖なる泉》などの)ショックランドと(《氷河の城砦》などの)チェックランドという相性のよい2種が揃っており、あまり苦労することなく3~4色のミッドレンジを構築できます。昨年のスタンダードではエスパーヒーローや《隠された手、ケシス》コンボが活躍しましたが、あのようなデッキを組み上げられるのです。
ミッドレンジを2色でまとめれば、(《啓蒙の神殿》などの)占術ランドや(《灌漑農地》などの)サイクリングランドによる安定性を享受することができます。3色目を足すには大きな代償を伴うのです。
カードプールには《死者の原野》も存在します。土地の種類は十分にあるため、《死者の原野》の構築制約を満たしつつ多色化も可能です。ここまではいいことづくめですね。
マナベースが大きな足かせとなるのはアグロデッキです。《試合場》や《手付かずの領土》といった部族サポートを用いない限り、異なる色の1マナ域を安定してプレイできません。
そのため、グルールアグロのような2色アグロは1マナ域のメインカラーを選ばねばならず、2色目は序盤にダブルシンボルを唱えられない覚悟が必要です。つまり、グルールアグロは《生皮収集家》と《エンバレスの宝剣》を同時運用するには理想的な構成ではない、ということです。とはいえ、競技レベルで生き残るにはどちらも必要なデッキでもあります。
グルールアグロ
7 《山》
4 《踏み鳴らされる地》
4 《根縛りの岩山》
-土地 (25)- 4 《ラノワールのエルフ》
4 《生皮収集家》
3 《漁る軟泥》
4 《砕骨の巨人》
4 《グルールの呪文砕き》
4 《恋煩いの野獣》
4 《探索する獣》
2 《長老ガーガロス》
-クリーチャー (29)-
先ほど解説したようにマナベースへの足かせがあるため、2色デッキは土地の総枚数が多くなりがちです。上記のグルールアグロのように、オールインするのではなくミッドレンジ寄りな構成になる傾向にあります。
ヒストリックにおける正真正銘の超高速アグロは単色デッキが中心となっています。1マナ域の数が豊富な赤・白・緑は構築が現実的です。しかし特に使用率が高いのは青単です。
《鍛えられた鋼》
4 《ザルファーの虚空》
-土地 (20)- 4 《羽ばたき飛行機械》
4 《石とぐろの海蛇》
4 《ジンジャーブルート》
4 《知りたがる人形》
4 《ロークスワインのガーゴイル》
4 《演習用模型》
4 《鋼の監視者》
2 《通電式召使い》
-クリーチャー (30)-
次期環境のポイント
《成長のらせん》と《自然の怒りのタイタン、ウーロ》はさまざまな終盤戦のプランを可能にしますが、どれもある程度は似たものになるでしょう。マナ加速先を《精霊龍、ウギン》にするのか、《死者の原野》/《風景の変容》にするのか、あるいは《発展/発破》にするのかといった具合に。つまり、何らかのボムへとマナ加速していくわけですが、ランプ呪文がライブラリーを掘り進める機能も備えているため、非常に動きが安定しているという特徴があります。
終盤戦プランのどれがベストなのかは未知であり、これから時間をかけて研究していくつもりです。現時点では個人的に《発展/発破》が有力候補です。《荒野の再生》と《不連続性》による追加のシナジーを得られますし、特に後者はデッキリスト公開制の大会でとても魅力的なカードになります(詳しくは後ほど)。ヒストリックにおいて《時を解す者、テフェリー》の数が減り、アグロデッキの立ち位置がいい環境になればなおさら《発展/発破》プランに惹かれますね。
《不屈の巡礼者、ゴロス》/《風景の変容》のゲームプランもスタンダードで長い間支配的だった時期があり、かつての栄光を取り戻すだけの十分なポテンシャルを感じます。そう考える大きな理由は、デッキリスト公開制の大会でキーカードとなる《空の粉砕》が使えることです。
《風景の変容》
2 《森》
1 《平地》
1 《沼》
1 《山》
3 《寓話の小道》
1 《インダサのトライオーム》
1 《ケトリアのトライオーム》
1 《ラウグリンのトライオーム》
2 《繁殖池》
1 《神聖なる泉》
1 《寺院の庭》
1 《氷河の城砦》
1 《内陸の湾港》
1 《陽花弁の木立ち》
1 《啓蒙の神殿》
1 《神秘の神殿》
1 《豊潤の神殿》
4 《死者の原野》
1 《爆発域》
1 《廃墟の地》
1 《幽霊街》
-土地 (30)- 1 《樹上の草食獣》
4 《エルフの再生者》
3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
4 《不屈の巡礼者、ゴロス》
2 《帰還した王、ケンリス》
-クリーチャー (14)-
デッキリスト公開制が準備に与える影響
私にはある持論があります。それは、フォーマットに支配的なほど強力なカードやシナジーがある状況において、ロンドンマリガンとデッキリスト公開制が併用された場合、ほかのデッキは対抗策を用意・実践しづらくなる、ということです。
これまでの観察結果から直観的に感じていたことであり、これをどう言語化すればいいのか確信はありませんが、この場を借りて挑戦してみようと思います。
こういった要素が一番強力なデッキを打ち倒す手段を制限していますが、それでもそういったデッキを倒す可能性を高めていく手段がないわけではありません。
経験上、デッキリスト公開制の大会のためにデッキを構築する上で頭に入れておく必要のある3つの主要なシナリオがあります。
1. デッキにはマリガンで探せる上振れを用意しよう
初めに紹介するシナリオは、デッキ公開制においてアグロデッキの立場が悪くなるということです。これには去年気付きました。大会に向けた練習中にミッドレンジやコントロールを構築する際、デッキ内の30枚を遅めのデッキを意識したカードにし、残りの4枚を全体除去にした構成が肯定されやすかったのです。仮にアグロと対戦することになった場合、そのマッチアップを事前からあまり意識していなくても、全体除去を求めてマリガンすれば1ゲーム目を勝ち取れる確率が十分にありました。
これはメインデッキに入れられるようなカードに敗北してしまう線の細いデッキ全般に言えることです。アグロは典型例であり、もしあなたがアグロを好むプレイヤーならデッキを構築する際にこのことを頭に入れておかなければなりません。
そのような束縛のなかでアグロデッキが対抗していくには、メインデッキに異なる切り口の攻撃手段が必要です。ヒストリックで使えるカードプールでは成立しないのは残念ですが、マルドゥ機体がここではいい例になるでしょう。機体やプレインズウォーカー、クリーチャー化できる土地を採用しているため、盤面をリセットされても長いゲームを戦い抜くことができる力がありました。純粋な速度よりも持続性を重視したアグロデッキだったのです。
しかしながら、今のヒストリックでは《成長のらせん》から《自然の怒りのタイタン、ウーロ》につなぐ脅威的な動きがあるため、アグロデッキは最速を目指して構築しなければならず、多角的とは異なる別の方向性を強要されています。この現象は《運命のきずな》が使えた頃からすでに起きており、マナ加速先となるほかのボムについても同じ強制力を持つのかどうか判明するのを今は待つのみです。
グルールアグロや《鍛えられた鋼》デッキを例にとりましょう。どちらもよく使われているデッキであり、全てのデータはこれらのデッキがランク戦でいい成績を残していることを示しているようです。ですが、デッキが公開される大会になると遅いデッキは《空の粉砕》のためにマリガンすることや、遅い手札をマリガンで回避することで1ゲーム目に圧倒的な戦術的アドバンテージを得られます。
私がランプデッキを使うとして、アグロを倒すためにメインデッキの枠を何枚割けばいいのか今はまだわかっていませんが、テストプレイすれば導き出すのは難しくないと予想しています。メインデッキに盤面をリセットするカードを十分入れて積極的にマリガンするだけの話なのですから。
メインデッキからアグロを圧倒する必要はありません。ただ妥当な妥協点を見つけてサイド後に調整すればいいのです。要するにここで重要なのは、あまりデッキの枠を圧迫しないということ。相手に干渉するカードよりも、デッキの残りの枠を使ってシナジーを強め、素のデッキパワーを高められるのです。
現状のアグロデッキでこの裏をかくことができるとすればそれは青単で、研究するには面白い選択肢だと思います。1枚のカードに敗北することはないですが、それでも相手が遅い手札を捨ててマリガンしたら戦いづらくはなるでしょうね。
もうひとつ興味深いのは、コンボによる勝利やとんでもなく上振れした手札になる可能性があるデッキは、どんなに相性の悪い対戦相手でもそれなりに勝てる可能性を持てるということです。もし対戦の組み合わせが厳しいものなら、1~2回マリガンしてその上振れした手札を探しに行くことができます。
上記のようにそういうデッキはデッキリスト公開制ではより強力なものとなるので、《隠された手、ケシス》はヒストリックの表舞台に戻ってくる可能性はあると思います。またアグロデッキを使っているなら、ゲームプランを多角化するとしても、そういったデッキに対して安定して速くライフを詰めきることができる必要があります。
2. サイドボードに入れる脅威を多様化して相手に予想させよう
2つめのシナリオは、サイドボードに1種類だけ入れた変化球で不利なマッチアップを克服することは難しくなっているということです。特に、対処されづらい脅威だけで戦い抜こうという狙いは主たるサイドボードプランにしづらくなっています。
たとえば、前の環境のスタンダードではジャンドサクリファイスはランク戦でティムール再生に対して、赤い火力では解答しにくい《朽ちゆくレギサウルス》の強さのおかげで上手くやれていました。
当時からティムール側は《朽ちゆくレギサウルス》に対処する手段を採用していましたが(《厚かましい借り手》や、手札にあまった《発展/発破》でコピーした《焦熱の竜火》2連打)、それらのカードは《燃えがら蔦》の存在のせいで必ずしもジャンド相手にサイドボードしたあとにデッキに残しているカードではなかったのです。1ゲームでも相手がサイドボードを間違えれば試合を取れるというところに頼っていたのです。
デッキリスト公開制ではそこまで上手くいきません。この制度のもとでの理想のサイドボードは、解答が噛み合わない状況を発生させるような複数のゲームプランを持ち、完全な情報を持っているにも関わらず相手が過剰に反応するのを期待することです。だから対戦相手に特定の解答を使うことを強要するゲームプランを取るなら(たとえば《朽ちゆくレギサウルス》に《厚かましい借り手》を強要するように)、ほかの勝てる手段も用意しておいて、相手にどれが本当なのか予想させ続ける必要があります。
過去の例でいうと、ジャンドが《朽ちゆくレギサウルス》を引けなかったのに相手が《厚かましい借り手》を引いた時に十分対抗できるデッキである必要があります。練習の結果として、それはジャンドにとって比較的いい状況ではあったものの、50%以上の勝率を出すには十分な状況ではありませんでした。
3. 相手により多くの判断をさせよう
3つめのシナリオはゲームを決定づけるほどのものではありませんが、実施するためのコストが低いので覚えておくとよいものです。デッキリスト公開制を想定してデッキを組むときは、相手が注意して立ち回る必要があるカードを採用し、ゲーム中にできるだけ多く判断させるような構成にしてみてください。
1枚でも《サメ台風》がデッキリストに入っていれば、相手はノーリスクで《時を解す者、テフェリー》の忠誠度マイナス能力を起動できなくなります。完璧なプレイヤーが対戦相手なら、1枚だけ入っている《サメ台風》をこちらが持っている確率を正確に計算してすべてのリスクを正しく評価するでしょうが、実際の対戦相手はこの計算を間違えがちです。
それをケアするために変わったプレイングを要求するカードは、デッキリストに少量ずつ入れるのに基本的に適しています。対戦相手が欲張ったプレイングをしにくくなるうえにミスまで誘えるからです。
4. あなたは相手が使うカードを知っている
4つめのおまけのシナリオはたぶん読者の方も知っているものです。それは、《翻弄する魔道士》はデッキリスト公開制で強さを増すということ。残念ながらこのようなツイートの状況は実現しないのでしょう。
Reasonable Blind Name pic.twitter.com/8fP9DA8xQu
— Justin 'IamActuallyLvL1' Gennari (@Gennair) June 30, 2020
(相手のデッキがわからない状況で《翻弄する魔道士》が《逆説的な結果》を指定)
ランプデッキに対する華麗な妨害になるので、《翻弄する魔道士》がプレイアブルな環境になって欲しいと思っています。《翻弄する魔道士》、《第1管区の勇士》、《思考消去》(《翻弄する魔道士》のために追加の情報を得られるカード)、《暴君の嘲笑》(アグロを減速させながら自分の《翻弄する魔道士》をソーサリー速度の除去から守れるカード)。これらのカードの間のシナジーが強い相互作用は、エスパーヒーローがまた活躍できると私が感じている理由となっていて、ヒストリックの環境を多様化する良い効果が生まれるはずです。
おわりに
私のヒストリック研究の道はまだまだ先が長く、プレイヤーたちはロンドンマリガンとデッキリスト公開制の影響を完全にはつかみきれていないと感じています。対戦相手の意図を見破るという点ついては以前にも書いていますので、ご興味のある方はこの記事をご覧になってみてください。
- 2020/03/11
- マジックに理由なきプレイなし~ルーカスの奇妙な経験~
- ルーカス・エスペル・ベルサウド
ミシックインビテーショナルでは私やほかの晴れる屋所属プレイヤーを応援してくれると嬉しいです。
ご清聴に感謝します。
ルーカス・エスペル・ベルサウド (Twitter)