Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/7/30)
バントというカラーリングは必然なのか?
8月初頭のアリーナ・オープンを見据え、私はヒストリック環境のデッキを広く試している最中だ。ルーカス・エスペル・ベルサウド/Lucas Esper Berthoudが直近の禁止告知の影響を扱った記事を先日公開していたが、あれから『Jumpstart』が実装されたことで新カードがこのフォーマットに一挙に導入された。
- 2020/07/29
- 禁止告知後のヒストリックとデッキ公開制への適応
- ルーカス・エスペル・ベルサウド
その新カードのなかから、早速環境の主役となったカードが2枚登場している。《上流階級のゴブリン、マクサス》と《探検》だ。
《成長のらせん》に加えて《探検》を使えるということは、ランプ型のデッキは2ターン目にマナ加速呪文を非常に安定して唱えられることを意味している。
そこで私がまず目をつけたのはティムール再生だったが、十分に納得できる仕上がりだとは感じられなかった。メインのゲームプランである《荒野の再生》と《発展/発破》のコンボはヒストリックでも強力なものであるが、このフォーマットのティムール再生はこのコンボにやや頼り過ぎている。スタンダードのティムール再生はメインプランのコンボが揃わずとも《サメ台風》や《自然の怒りのタイタン、ウーロ》でなんなく勝てるが、さらなる速度と強さが求められるヒストリック環境においてはこの2枚のプランでは明らかに心もとない。
ティムール再生のもうひとつの問題点。それは、妨害呪文の対応範囲が環境デッキの幅広さについていけていないという点だ。私の経験から言えば、この環境は3つの柱、すなわちゴブリン・ゴロスランプ・ケシスコンボから成っているが、これらすべてに有効な妨害呪文を探し出すのは決して容易ではない。状況を選んだりマナコストが重かったりするカードを詰め込み過ぎない構成を摸索してみたが、ティムール再生ではそれを達成する方法が見つけられなかった( そのようななかでもゴブリンには圧倒的に勝利できていたが。)
そこで私は別の《探検》 + 《成長のらせん》デッキへと乗り換えることにした。バントゴロスである。このデッキには何度も敗北を喫し、その粘り強さに魅了されていたのだ。勝てないのなら、それを使う側に立てばいい。バントゴロスのマナ加速から《死者の原野》でゾンビトークンを大量に並べるという動きは、ティムール再生の《荒野の再生》から《発展/発破》を放つ動きよりもはるかに安定して実現できる。また、《不屈の巡礼者、ゴロス》そのものが《霊気の疾風》《神秘の論争》《否認》といった環境で人気の妨害をかわせる点も大きい。
バントゴロスはおおむね素晴らしい出来であったが、あるときから白のカードの存在理由に疑問を抱くようになった。《空の粉砕》がゴブリンを筆頭としたアグロに強いことに疑いはないが、ぜひとも採用したい白のカードはそれ以外にはなかった。こういったカードが一般的なリストに含まれているのは、”ヒストリック”な理由が背景にあるのだろう(ダシャレのつもりはなかった)。
こうして私は白のカードを黒のカードへと入れ替えることにした。依然としてデッキの大部分が青と緑で構成されているため、色替えすることが大規模な変革とは言えなかったが、黒のカードは白のカードにはない優位な点がいくつかあると考えている。
白のカードでぜひとも使いたいのは《空の粉砕》だと言ったが、黒にはその代替となる《衰滅》がある。現在の環境であれば、除去したいクリーチャーはほぼすべて《衰滅》の対処範囲内に収まっている。対処できない例外もいくつかあるが、特に重要なのはほかならぬ《不屈の巡礼者、ゴロス》だ。しかし、その除去できないという事実はデメリットではなく、メリットであることが多い。相手のクリーチャーを一掃しつつ、自分の《ゴロス》は生き残るからだ。
《空の粉砕》と違って相手に1ドローを献上しない点もひとつのメリットである。たとえば、赤単に対しては《衰滅》のほうが明確に効果的だ。相手に1ドローにさせないばかりか、《鍛冶で鍛えられしアナックス》はサイズが縮小するために生成されるサテュロストークンの数も減らせる。
また、黒に変更することで《肉儀場の叫び》や《黄金の死》などの3マナの全体除去にアクセスできるようになる。もしバントカラーで全体除去を増やそうと思ったら、《時の一掃》のような5マナの全体除去に頼るしかない。それにゴブリンは3ターン目に《上流階級のゴブリン、マクサス》を展開し、即刻ゲームに勝利できるデッキだ。1~2ターン早く全体除去を唱えられるかどうかが勝敗を分かつことも少なくない。
サイドボードの枠を割く価値があるという確固たる自信はまだないが、現状の構成ではサイドボードに《漂流自我》を2枚採用している。最悪の相性であろうケシスコンボ戦では多少役に立つ。また、ゾンビ軍団と速度勝負したり突破できたりする勝ち筋を複数用意していない構成のティムール再生を機能不全にすることもできる。とはいえ、《漂流自我》は本質的にカードとテンポを損するカードであるため、気軽にサイドインするようなカードではないことは忠告しておこう。ひとつ例を挙げると、ミラーマッチではサイドインしない。
一見わかりにくいが、重要な利点が黒にはある。マナベースが健全なのだ。バントとは異なり、色が噛み合った《ゼイゴスのトライオーム》という3色土地を運用できる。また、《ボジューカの沼》はデッキ内に入れておきたいカードであるが、バントではまったく関係のない色の土地を墓地追放効果のために採用するはめになり、動きに支障がでかねない。その点、スゥルタイであれば《ボジューカの沼》は無理なく採用でき、ケシスコンボや相手の《自然の怒りのタイタン、ウーロ》に対してサーチできる墓地対策となる。
デッキリスト
2 《森》
1 《平地》
1 《沼》
1 《山》
3 《寓話の小道》
1 《インダサのトライオーム》
1 《ケトリアのトライオーム》
1 《ゼイゴスのトライオーム》
2 《繁殖池》
1 《草むした墓》
1 《湿った墓》
1 《水没した地下墓地》
1 《内陸の湾港》
1 《森林の墓地》
1 《欺瞞の神殿》
1 《疾病の神殿》
1 《神秘の神殿》
1 《ボジューカの沼》
4 《死者の原野》
1 《爆発域》
1 《廃墟の地》
-土地 (30)- 4 《エルフの再生者》
2 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
4 《不屈の巡礼者、ゴロス》
2 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》
-クリーチャー (12)-
メインデッキについてだが、ランプ呪文はほぼ固定されている。全体を通して一度も変更したいと感じなかった。他方、妨害呪文とフィニッシャーの枠はカスタマイズの余地がいくらかある。その構成にはメタゲームが大きく影響する。
これが現在の構成である。アグロが増えてきた場合は4枚目の《衰滅》に枠を割いてもいいし、アグロが減ってきた場合は軽量の妨害呪文の枠にフィニッシャーを追加すればいい。私の経験から言えば、軽量の妨害呪文としては《霊気の疾風》がもっとも優れている。ミラーマッチではやや弱いが、完全に腐ることはめったにないし、ゴブリンの怒涛の攻撃をしのぐ除去として必要だ。特に《スカークの探鉱者》でゴブリンを複数生け贄に捧げながら唱えられた《上流階級のゴブリン、マクサス》を《霊気の疾風》できると理想的だ。
現状では2枚の《精霊龍、ウギン》はほぼ必須だ。アグロに対して明らかにベストなフィニッシャーでありながら、そのほかのアーキタイプに対しても十分な働きを見せる。3枚目すら検討に値するだろう。反面、《孔蹄のビヒモス》という強力なライバルがいる《絶え間ない飢餓、ウラモグ》はそこまで不動の立場にない。ミラーマッチを打開する手段はいくらか必要だが、どちらを選らぶかはメタゲームによる。
《孔蹄のビヒモス》の強みは、
《絶え間ない飢餓、ウラモグ》の強みは
対ゴブリン戦では、どちらも速度が間に合っておらず、マナコストが重いほぼ無価値なカードである。これらを唱えられるほどロングゲームになっているのであれば、いずれにしても勝てることだろう。そのため、ゴブリン戦に限って言えば、どちらを選んでいてもほとんど関係ない。
After a bit of iteration, have begun to roll over everyone with this Temur Rec Field deck in Historic.
— Stephen Croke (@crokeyz) July 24, 2020
It's absolutely disgusting and some of these cards need to go.
Decklist: https://t.co/y5AFdz9G1l pic.twitter.com/ZQYwmqeOf3
この1週間はCrokeyz作の《荒野の再生》と《死者の原野》のハイブリッドデッキをコピーしているプレイヤーが多かったため、現在は《孔蹄のビヒモス》よりも《絶え間ない飢餓、ウラモグ》ほうが多少評価が高い。とはいえ、相手のデッキに応じてフィニッシャーを調整できるように《孔蹄のビヒモス》はサイドボードに入れておきたい。
サイドボードガイド
ケシスコンボ
対 ケシスコンボ (先手)
対 ケシスコンボ (後手)
このマッチアップでは、マナカーブを少し低めに設定し、フィニッシャーを《孔蹄のビヒモス》のみに抑える。相手のコンボ速度と渡り合っていくにはこのクリーチャーが最適だ。
《自然の怒りのタイタン、ウーロ》は脅威として頼りないだけでなく、ランプ呪文としても遅いため、このマッチアップでは評価が下がる。ただ、後手の場合は《夢を引き裂く者、アショク》を出されると《移動経路》が腐ってしまうため、《ウーロ》のほうがまだマシだ。一方、先手の《移動経路》は2ターン目のマナ加速から3ターン目にをプレイできる大きなメリットがあるため、数枚は残しておきたい。仮に《アショク》を出されたとしても、「サイクリング」してしまえばいいため、デメリットは非常に小さいといえる。
《隠された手、ケシス》への軽い妨害として《霊気の疾風》を1~2枚追加投入していた時期もあったが、そのほかの使い道がなさすぎた。《霊気の疾風》の対象となるものが唱えられなかった場合、その浮かせていたマナを注ぎ込む別のインスタントアクションがこのデッキには乏しく、マナを構えておくリスクは非常に大きい。また、ケシスデッキは《霊気の疾風》を乗り越えてコンボを決めることもできる。《神秘の論争》は対象に取れるものが多く、たった1マナで唱えられる強みがあるため、こちらのほうが断然評価は上だ。
《漂流自我》で主に宣言するのは《ケシス》と《モックス・アンバー》だ。勝利条件となるカードではない。
ゴブリン / 赤単アグロ
対 ゴブリン / 赤単アグロ
ゴブリンとの相性をさらに改善したいのであれば、《黄金の死》や《肉儀場の叫び》をサイドボードに増やすといいだろう。全体除去が効果てきめんな相手だ。ただ、黒のダブルシンボルを揃えることは少々骨が折れる。土地が30枚の割には驚くほどマナベースが弱いデッキなのだ。
相手のデッキは軸が《上流階級のゴブリン、マクサス》であり、《群衆の親分、クレンコ》が採用されていることもあり、《物語の終わり》をサイドインすることは完全な間違いだとは言えない。ただ、先ほどもお伝えしたように、このデッキにとってマナを構えておくことは非常にリスクが大きい。甚大なプレッシャーがかかっている状況でマナを無駄にする余裕などないのだ。
赤単アグロ戦も同様だ。《鍛冶で鍛えられしアナックス》《朱地洞の族長、トーブラン》《エンバレスの宝剣》など、《物語の終わり》が対象に取れるものは十分にあるが、あまりにも状況依存なカードになってしまう。
ゴロスミラー
対 ゴロスミラー
先述の2つのマッチアップと比べ、だいぶゲーム速度は遅くなる。カードパワーの高い脅威を増加させて、マナカーブを高めに設定していい。《物語の終わり》は大型呪文の大半に対応するとともに、《孔蹄のビヒモス》の誘発型能力も打ち消せるため、このマッチアップでは守備範囲の広い呪文だ。必要であれば《寓話の小道》や《廃墟の地》の能力を封じてもいい。
相手が《ハイドロイド混成体》を使っているようであれば、2枚目の《霊気の疾風》もサイドアウトして《神秘の論争》をもう1枚追加すべきだろう。反対に《孔蹄のビヒモス》を確認した場合は、《霊気の疾風》を2枚とも残していい。相手の構成次第ではあるが、最後の1枚として《黄金の死》をサイドインすることもある。このサイドプランをとる代表例は、相手が《風景の変容》を採用しているときだ。
おわりに
ヒストリックは楽しめるフォーマットという印象だ。ランク戦では異常なほど幅広いデッキとマッチアップする。まだプロプレイヤーが最強のデッキを発明していない段階であり、このフォーマットには可能性が広がっている。
ただ、そのなかでも《死者の原野》はひと際目立つ存在だ。試してみることをおすすめする。
マッティ・クイスマ (Twitter)