ダークホース
数多の強豪を押しのけて、プレイヤーズツアーファイナル(以下PTF)を制したのはドイツのクリストフ・プリンツ/Kristof Prinzだった。1日日を無敗で終えた唯一のプレイヤーとして紹介されると、2日目も順調に勝ち星を伸ばしてトップ8の席を確保し、その実力がフロッグではないと証明してみせた。
さらに1週間後、決勝トーナメントにおいてプリンツの名前は常に勝者側のシートに残り続けていた。順当に勝ち星を稼ぐと、ベストデッキと称された熊谷 陸の黒単アグロに初めて土をつけた。
グランドファイナルでは再び熊谷と激突し、勝負は最終戦までもつれ込んだ。タイトロープを渡り続けたプリンツは《発展/発破》をトップデッキし、勝利を手繰り寄せたのだ。
しかし、私たちはプリンツのことをあまりに知らなすぎる。彼がcardmarketにスポンサードされた、《溶岩の斧》コレクターの好青年ということ以外情報はまったくないのだ!
『2020プレイヤーズツアーファイナル』 王者の選択より
統率者戦で経験を積んだ彼は、地元では《溶岩の斧》のコレクターとしても知られており、それをTwitterのハンドルネームにも反映させている。「フレイバーテキストに『そらよっ!』と書かれている限り、それは良いものです」だそうだ
果たしてプリンツとはどういったプレイヤーなのか。PTF覇者の素顔に迫るべくコンタクトをとると、彼は快く応じてくれた。
Who is Kristof Prinz
――優勝おめでとうございます。まずはプリンツさんとマジックの出会いから教えてください。
プリンツ「僕は小学生のころから遊戯王やポケモンカードゲームで遊んでいたんだ。あるとき近所のお店で遊戯王の大会に参加したんだけど、ほかの参加者がマジックを紹介してくれたのさ。シャドウムーアの発売されたころ少し遊び、2011年から本格的にプレイを始めてDCI番号も取得したよ」
プリンツ「そうそう、初めて引いた神話レアのフォイルは今でもよく覚えてるよ、《ファイレクシアの抹消者》だね」
――強力なカードですね。最初に使っていたデッキとか覚えていますか?
プリンツ「ああ、覚えているとも。最初のデッキの1つは黒単手札破壊で《リリアナ・ヴェス》と2枚の《ファイレクシアの抹消者》、何枚かの手札破壊呪文に加えて《破滅の刃》が5枚入っていたのさ」
――5枚!?
プリンツ「どうやら僕は間違えて《破滅の刃》を入れ過ぎてしまったみたいなんだ(笑)幸いなことに、カジュアルに遊んでいるときだったから、ゲームロスのお咎めもなかったね」
――プリンツさんにもそんな時期があったんですね。ところで、いつごろ競技マジックの世界へ足を踏み入れたのでしょうか?
プリンツ「大学に通い始めたころ、そこでできた友達に『PTQに参加してみないか』と誘われたのがきっかけさ。すぐに僕は競技の世界に夢中になり、ウィザーズがPTQを廃止した後もPPTQへと参加し続けたね。初めて参加したグランプリは2015年にユトレヒトで開催された『モダンマスターズ2015』のグランプリだったよ」
――初グランプリからわずか5年でPTFを優勝!?凄いです!普段から長時間マジックをプレイしているのですか?
プリンツ「大会前とかによって変わるけど、だいたい毎週20時間くらいプレイしているよ。試験前なら極端に短くなるだろうし、正確にどのくらいプレイしているかは自分が置かれている状況によってかなりの差があるね」
プリンツ「僕は競技以外のフォーマットも大好きだから、よくいろいろと遊ぶんだ。1番好きなカジュアルフォーマットは統率者戦と双頭巨人戦かな」
――統率者戦はとても人気なフォーマットですものね。
プリンツ「今の僕の統率者は、戦場に出たときの効果にフォーカスした《スカラベの神》、『増殖』を狙った《蠍の神》、そして『灯争大戦』の《狼の友、トルシミール》を活かした種族デッキだね。双頭巨人戦は友達と一緒に遊べて、喜びを共有できるところが1番の魅力さ」
プレイヤーズツアーファイナルへ
――PTFへ出場するまでの経緯を教えてください。
プリンツ「プレイヤーズツアー・ブリュッセル2020で12勝4敗することができて権利を獲得したんだ(最終成績は13位)。パイオニアは“カニスター/kanister”ことピオトル・グロゴゥスキ/Piotr Glogowskiのディミーアインバーターを使い、彼のデッキリストとサイドボードガイドのおかげで無敗(10勝0敗)だったよ」
――10勝!?今回のPTF優勝もですが、構築戦において非凡な成績を残せる理由をどのように自己分析されていますか?
プリンツ「得意なのは、攻めるべきタイミングを見極めることができるということさ。また、4色再生とディミーアインバーターのどちらもかなりいいデッキだったし、運も良かったんだ。大会を勝つということはそういった要素も必要さ。インバーターのデッキリストはカニスターの配信からコピーしたもので、準備工程をかなり省略できた。僕はこのデッキを3マッチほど大会前日に回したぐらいだからね」
――今回のPTFでも初日から素晴らしい成績を残し、勢いそのままにトップ8まで進み優勝となりましたね?そのときの気持ちを教えてください。
プリンツ「正直ほっとしたよ。見渡す限りトッププレイヤーたちばかりで厳しい戦いも多かったから疲れたけれど、かなり満足できた」
――手に汗握る試合ばかりで、視聴者もハラハラドキドキしたと思います。PTF全体を振り返って白熱した試合などありましたか?
プリンツ「熊谷 陸との試合はどれも白熱したし、予選ラウンドでは接戦となったミラー/疑似ミラーがいくつかあったね。特にカニスターとDominik Görtzgenとの試合はアツいものだった」
オンライントーナメントを戦うコツ
――ずばりお伺いしますが、PTFを振り返ってみて勝因はなんでしょうか?
プリンツ「デッキは間違いなく最適なものだったし、自宅でプレイできるのもよかったね。家はどこよりも快適だったし、時差もそこまでズレてはいなかった。でも、トーナメントは夜中の2時ごろまでやっていたので、最後のほうのラウンドはかなりきつかったかな。同居している両親がラウンドごとの近況報告を熱心に聞いてくれたのも、嬉しかったね」
プリンツ「集中力を削ぐと思ったので、音楽などは一切聴かなかったんだ。でも、水分補給はしっかりと心がけたし、トーナメント中に休憩時間が長くなると1日1回は散歩に行くようにした。ラウンドの合間にはリラックスして、色々な配信を見ることも忘れなかったよ」
――なるほど。では、競技シーンがオンラインへ移行してますが、それについてどう思われますか?
プリンツ「社会情勢的にオンライン化は必然だと思うし、住み慣れた自宅でプレイすることは快適の一言に尽きる。時差ボケに悩むこともなかったしね!」
プリンツ「ただし、このゲームがもつ『ザ・ギャザリング』のソーシャル的側面を失うのは悲しいね(集まる機会がなくなってしまう)。もっと大きなテーブルトップのイベントが再開されることを切に願っている」
――確かに対戦相手と顔を突き合わせてプレイすることこそ、マジックの醍醐味の1つといえますよね。
プリンツ「それでもオンラインでの競技マジックにはいくつかの利点があるんだけどね」
――快適さや時差ボケ以外にもですか?
プリンツ「車でトーナメントに行く必要がないので食事も気ままにできるし、ラウンド間の休養も自由にとれるのがいいね(仮眠もできる!)。車を使う必要もないし、二酸化炭素排出量が少なくて済むから地球にも優しいね」
プリンツ「また、ほぼ毎週末にトーナメントが開催されているのも助かっている。トーナメントを中心にスケジュールを組むのではなく、自分にとって1番都合のいいトーナメントを選べるんだから。それにオンラインならイカサマも発生しないし、ペアリングボードを見ているプレイヤーの群れもないから衛生的だしね」
――大規模なテーブルトップの大会がなくなったことで寂しくもありますが、オンライン化のメリットも十分ありそうですね。
プリンツ「そうだね」
――現在、アリーナオープンなどオンラインイベントが増え、多くのプレイヤーにチャンスが広がっています。そこで、最近MTGアリーナを始めた方やなかなか結果に結びついていなかった人へ、上達の秘訣を教えていただけますか?
プリンツ「カニスター(またはほかの高レベルプレイヤー)の配信を見て、Discordを介して議論に参加するべきだ。しっかりとプレイすることでデッキや環境を理解し、自分と他の人の間違いから学ぶようにすることは大切だね」
プリンツ「でも、注意してほしいのはやり過ぎは禁物ってことさ。メンタルを強く持ち、自分自身を追い込み過ぎないことはほかのすべてとと同じくらい重要なことなんだ」
プリンツ「大切なのはベストを尽くすこと。その道のりを、対戦自体を楽しんでほしい。上手くなりたい、勝ちたいという気持ちはわかるけど、マジックは第1にゲームだからね」
次のステージへ
――これまで大規模大会(PTクラス)に向けて、どのように調整してきましたか?
プリンツ「主に、そのフォーマットを得意とするプレイヤーの配信を見たり、ときにはテストチームに参加たりしてきたし、故郷であるドイツのハノーファーのコミュニティにも積極的に参加しているんだ」
――では、グランドファイナルへは誰と調整する予定ですか?
プリンツ「僕が所属しているDiscordサーバーの何人かが、ミシックインビテーショナルでグランドファイナルの参加権利を獲得することを願っているよ。そうでなければ、カニスターに聞いてみようかと思ってるんだ」
――最後になりますが、グランドファイナルへの意気込みをお願いします。
プリンツ「この最高のイベントへ参加できることをとても楽しみにしている。良い結果を残すことはもちろんだけど、自分はベストを尽くしたいと思っている。結果は、あとからついてくるだけさ」
――ありがとうございました。グランドファイナルでのご活躍をお祈りしています。
おわりに
PTF覇者と身構えていた我々の予想はすぐに覆された。そこには卓越したプレイスキルを持ちメンタルゲームに強いものの、カニスターの配信を見てデッキへの理解を深め、議論へと参加する姿があった。友人たちと統率者戦や双頭巨人戦を楽しむ1人のマジックプレイヤーだったのだ。
言語の壁こそあれど、我々が手を伸ばせば届く場所でプリンツは腕を磨き続けていたのだ!
締めくくりとなる2020年シーズン・グランドファイナルでは、競技者としてのプリンツの姿を再びみることになる。彼の言葉通り、素晴らしい結果を示してくれるだろう。