先週末の勝ち組は?
ティムール再生がスタンダードを去ってから早1週間。次の環境定義となるデッキを見つけるべく、スタンダード環境は目まぐるしく変化しています。
今回はRed Bull Untapped International Qualifier VとSCG Tour Online Championship Qualifier #3の大会結果を振り返っていきます。
まずは先週末の勝ち組デッキを確認していきましょう!
2 《沼》
2 《森》
4 《寓話の小道》
4 《ゼイゴスのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《草むした墓》
2 《湿った墓》
-土地 (27)- 4 《ハイドロイド混成体》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
3 《厚かましい借り手》
-クリーチャー (11)-
先週末の勝ち組は、SCG Tour Online Championship Qualifier #3を制したAlexander Gordon-Brown選手のスゥルタイランプです。トップ8の内6名が同じアーキタイプを使用しており多くのプレイヤーがミラーマッチを見越してプレインズウォーカーを多用し、重いアドバンテージゲームを意識するなか、優勝デッキは逆を突く軽めの構成となっていました。
ダメージソースとして消耗戦に強い《自然の怒りのタイタン、ウーロ》と《ハイドロイド混成体》に加えて、インスタントタイミングで仕掛けられる《厚かましい借り手》と《サメ台風》が採用されています。前者はダメージレース狂わせたりパーマネントを処理するバウンス付きのクリーチャーであり、コントロール戦ではプレインズウォーカーへの牽制役も果たしてくれます。後者はマナの多いこのデッキにかみ合ったカードであり、打ち消しにくいダメージソースとなっています。
両者ともにインスタントタイミングで仕掛けられるため相手のタップアウトを咎め、自分のターンで《世界を揺るがす者、ニッサ》や《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を追加すれば、一気に脅威となるカードを2枚用意することになります。ひとたびマナが起きれば打ち消し呪文も構えられるため、ゲームの主導権を握りやすくなっていますね。相手からすれば、打ち消し呪文をかいくぐりつつ脅威2枚に対処しなければならないため、非常に厳しい選択を迫られることになります。
一般的だった除去呪文をサイドボードへと移し、《否認》や《神秘の論争》と入れ替えています。自身のクロックを守ることで、軽い構成ながらミラーマッチに強くなっているのです。
Red Bull Untapped International Qualifier V
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Anthony Arevalo | イゼットテンポ |
準優勝 | Oliver Frith | ボロスサイクリング |
トップ4 | Reamonn Behal | 黒単アグロ |
トップ4 | Toru Saito | スゥルタイランプ |
トップ8 | 増田 勝仁 | スゥルタイランプ |
トップ8 | Kirill Tsarkov | スゥルタイランプ |
トップ8 | Christian Bartl | 赤単アグロ |
トップ8 | Richie Ong | ティムールアドベンチャー |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者890名で開催されたRed Bull Untapped IQ Vはイゼットテンポを使用したAnthony Arevalo選手が優勝となりました。スゥルタイランプこそ3名いましたが、黒単アグロやボロスサイクリングなど多彩なアグロデッキが活躍を見せてくれました。
Oliver Frith選手はボロスサイクリングを手に、決勝戦まで進みました。《夢の巣のルールス》を「相棒」にした従来通りの構成ですが、注目すべきはサイドボードです。《ドラニスの判事》は手札以外の領域から呪文をキャストすることを封じるため、ティムールアドベンチャーに対して絶大な効果を発揮します。しかもタフネスが3あるため《砕骨の巨人》で落ちず、《厚かましい借り手》を使い一時的にバウンスする以外対処できません。
《魂標ランタン》は手札を減らさずに《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を対策でき、《夢の巣のルールス》がいれば使い回すこともできますね。
Richie Ong選手はティムールアドベンチャーへ刺激的なスパイスを加えました。不足しがちだった2マナ域に《ゴブリンの電術師》を採用したのです。これにより各種「出来事」と《願いのフェイ》のサーチ先は1マナ軽くなり、対応力が上がりました。このクリーチャーがいれば4マナから《踏みつけ/Stomp》 をキャストするだけではなく、《砕骨の巨人》 を召喚することも可能となったのです。
トップ8デッキリストはこちら。
イゼットテンポ
6 《山》
4 《蒸気孔》
4 《天啓の神殿》
-土地 (20)- 2 《幽体の船乗り》
4 《戦慄衆の秘儀術師》
4 《スプライトのドラゴン》
4 《嵐翼の精体》
-クリーチャー (14)-
今大会を制したAnthony Arevalo選手のイゼットテンポは、従来の2マナのダメージソースを呪文でバックアップするという構成は堅持しつつ、より軽く、しかも息切れ防止策がとられた画期的なものでした。必要とするのは重い除去ではなく、軽いクリーチャーと呪文によるビートダウンするまでの一時的な優位なのです。
以前の構成では8枚のキャントリップを入れることで手札を減らさずに攻撃の継続を図りましたが、引きムラやマナフラッド(土地を過剰に引くこと)に悩まされることもありました。デッキから「出来事」を排除することでクリーチャーが減ったことになりますが、どのように工夫したのでしょうか。
Anthony Arevalo選手が着目したのはマナフラッドの緩和です。《幽体の船乗り》を採用することで、4枚目以降の土地を有効活用できるようになり、リソース不足が解消されました。マナコストも1マナであるためほかのカードを邪魔せずに唱えることができます。
《王家の跡継ぎ》も余剰な土地を新たなカードに変えてくれる存在ですが、3マナとこのデッキでは重いため1枚に抑えられています。基本はルーティング能力を使用しますが、赤単/緑単アグロとのマッチアップで戦場に《戦慄衆の秘儀術師》がいて、墓地に《霊気の疾風》がある際はパンプアップ能力を使うことで再利用することもできます。
《厚かましい借り手》を《送還》へと変えたことで対応力は下がったものの、戦略には一貫性があります。《戦慄衆の秘儀術師》は攻撃を持続することでアドバンテージを生み出すため、1マナの干渉手段が増えることは攻撃回数の増加に直結し、《スプライトのドラゴン》や《嵐翼の精体》の強化へと繋がっているのです。
ライフゲインとブロッカーを1枚で用意できる《ハイドロイド混成体》はこのデッキにとって厄介なカードですが、誘発型能力もまとめて打ち消せる《旋風のごとき否定》を採用しています。打ち消し呪文であるため、ほかのコントロール戦でも活躍できるフレキシブルなカードですね。
このデッキのオススメ!
クリーチャーを用いたビートダウンデッキながら、白単/緑単アグロのように頭数を並べて機械的にダメージを刻むデッキとは一線を画しています。《戦慄衆の秘儀術師》と「果敢」が組み合わされば、呪文によって加速するダメージは天井知らず。ただ攻めるだけではなく、インスタントを絡めたトリッキーなアグロデッキを使いたい、サイズの優れたクリーチャーを使いたい、《秘密を掘り下げる者》好きなあなたにオススメ!
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黒単アグロ
4 《ロークスワイン城》
-土地 (24)- 4 《どぶ骨》
4 《漆黒軍の騎士》
4 《帆凧の掠め盗り》
3 《死より選ばれしティマレット》
4 《朽ちゆくレギサウルス》
4 《騒乱の落とし子》
3 《悪ふざけの名人、ランクル》
-クリーチャー (26)-
Reamonn Behal選手が選択したのは黒単アグロ。マナカーブ通りの展開と除去呪文だけではなく、《朽ちゆくレギサウルス》+《悪魔の抱擁》のパッケージにより相手の意表を突く構成となっています。
プレイヤーズツアーファイナルのときと比べてメタゲームは変化したため、よりクリーチャー戦を意識した構成となっています。《朽ちゆくレギサウルス》は《砕骨の巨人》や《恋煩いの野獣》にサイズ負けせず、単体とは思えないダメージを刻むことができる1枚。《悪魔の抱擁》と合わせれば、一撃でトータルライフの半分を削ることを可能にします。
クリーチャーでは3枚採用された《死より選ばれしティマレット》が目を引きます。サイズ自体は平凡ですが、クリーチャーでありながらメインボードから《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を対処できるため、スゥルタイランプが溢れる環境に適したクリーチャーといえるでしょう。
《強迫》などのスロットは《闇の掌握》と《悪魔の抱擁》へと変更されています。ティムールアドベンチャーが多い今の環境では、攻撃を継続するためにメインボードからある程度の除去呪文が求められています。
中盤以降地上が止まりがちになることもあり、後詰めとして《悪魔の抱擁》と《悪ふざけの名人、ランクル》が控えています。スゥルタイランプ対しても《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を乗り越えて攻撃できるため、適した選択になっています。
忘れてはならないのはこのデッキのもう1つの魅力である粘り強さです。ほかのアグロデッキに比べて除去呪文やマナフラッドに強くできています。《どぶ骨》は繰り返し使えるクリーチャーであり、《悪魔の抱擁》は引き過ぎた土地を有効牌へと変えてくれます。手札自体が足りなければ、黒いデッキの嗜みである《ロークスワイン城》を起動していきましょう。
このデッキのオススメ!
マナカーブに沿ったクリーチャーとテンポ除去を持つアグロデッキですが、消耗戦にも強いオールラウンダーといえます。除去呪文に強いアグロデッキを使いたい、戦場以外にも干渉手段を持ちたい、何よりも《霊気の疾風》嫌いなあなたにオススメ!
SCG Tour Online Championship Qualifier #3
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Alexander Gordon-Brown | スゥルタイランプ |
準優勝 | Koutarou Ishibashi | スゥルタイランプ |
トップ4 | Tooru Horie | スゥルタイランプ |
トップ4 | Karl Sarap | スゥルタイランプ |
トップ8 | Mitch Sachs | マルドゥウィノータ |
トップ8 | Shohei Yamamoto | スゥルタイランプ |
トップ8 | Masaru Abe | イゼットテンポ |
トップ8 | Corey Baumeister | スゥルタイランプ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者135名で開催されたSCG Tour Online Championship Qualifier #3は、トップ8の内6名がスゥルタイランプを使用という結果になりました。第2の矢として《エンバレスの宝剣》を忍ばせたマルドゥウィノータやサイドボードに《唱え損ね》を4枚採用したイゼットテンポも見られましたが、トップ4をスゥルタイランプに独占される結果となりました。
トップ8デッキリストはこちら。
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メタゲームブレイクダウン
両大会のメタゲームを確認すると、スゥルタイランプの人気は突出したものとわかります。使用率ですが、Red Bull Untapped IQ Vでは1日目こそ3割以下に抑えられていましたが、2日目に入ると4割近くまで伸びています。どのデッキもスゥルタイランプを意識しているはずですが、1日を経て使用率が上がったということこそが、デッキパワーの高さを物語っているといえますね。トップ16でも約半数を占めています。
手札破壊、単体/全体除去、打ち消しと干渉力が高く、プレインズウォーカーの選択肢も広く、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》と《ハイドロイド混成体》はアドバンテージの塊です。ミッドレンジ帯のデッキは総じて不利であり、攻略するのは困難を極めそうです。
ミッドレンジが負け組となったことで、Red Bull Untapped IQ Vでは使用率を伸ばしたデッキが2つあります。赤単アグロはティムールアドベンチャーやサクリファイス系が減ったことでトップ16に3名を送り込みました。《エンバレスの宝剣》が特徴的なデッキですが、小回りの利くクリーチャーと除去に強い《鍛冶で鍛えられしアナックス》があり、さらに《朱地洞の族長、トーブラン》は流行の《取り除き》の対象外となっています。
押し込む要素の強い赤単アグロですが、スゥルタイランプとティムールアドベンチャーは苦しい相手です。しかし、安定性と爆発力の両方をもつため、3色のマナベースも相まって決して覆せない相性差ではありません。スゥルタイランプを狙うフラッシュ系や3色デッキに強いため、環境が固定化していない今こそ、活躍するチャンスといえそうです。
緑単アグロはトップ8こそ逃しましたが、苦手とするミッドレンジデッキが減ったことでこちらも複数名がトップ16へ入りました。『基本セット2021』で手にした《漁る軟泥》は《自然の怒りのタイタン、ウーロ》キラーとしてメインボードから活躍する1枚。ひとたび+1/+1カウンターが載れば《無情な行動》で除去されないため、《生皮収集家》や《石とぐろの海蛇》と合わせて安定したダメージ源となりそうです。
《ガラクの先触れ》はこのマッチで輝く“黒からの呪禁”を持っています。3マナ域は《ギャレンブリグの領主、ヨルヴォ》や《恋煩いの野獣》と競合先が多いですが、スゥルタイランプの多い現状のメタゲームでは対処手段の少ない《ガラクの先触れ》は最適な選択肢といえるでしょう。
ただし、両デッキともに《霊気の疾風》の餌食となってしまうのは大きなマイナス点です。相性はスゥルタイランプ側が採用している《霊気の疾風》の枚数によって、大きく変化しそうです。
まとめ
スゥルタイランプが増えつつあるスタンダードですが、対抗馬は現れるのでしょうか?赤単/緑単アグロは《霊気の疾風》がにらみを利かしているため、白単/黒単アグロに期待したいところですが、ミッドレンジデッキの層が厚いため愚直なデッキでは上位に食い込むことは難しそうです。アグロデッキはティムールアドベンチャーをはじめとしたミッドレンジデッキの攻略が課題となりますね。
クリーチャーベースのデッキである限り、スゥルタイランプの餌食となってしまうため、ミッドレンジ帯のデッキも干渉力を高めるかほかの勝ち手段が必要となりそうです。いずれにしてもスゥルタイランプの牙城は崩れそうにありません。
いよいよ本日から日本選手権2020秋予選が始まりますね。次回も最新スタンダード情報をお届けしたいと思います。