Translated by Kohei Kido
(掲載日 2020/12/01)
1日目
11月の中旬だった。海辺を歩いてリラックスしようと努めながら、冬に向かって陰りゆく日光を浴びて、ウォルター・テヴィスの『ハスラー』をヘッドフォンから聞いていた。Netflixで映像化された『クイーンズ・ギャンビット』でも知られるテヴィスは、競技に臨む選手の心理を描く手腕が超人的に優れていた。優れた作品にも関わらず、自分はリラックスするどころか作品に集中することすらできなかった。
この一週間はとてもストレスが溜まっていた。これから始まる大会に向けて多くの時間を費やしたのに、まだまだ準備が足りないと感じていたのだ。3つのフォーマットを扱う大会であれば必ずそうなるのだろう。すべてのフォーマットで十分な準備をするには時間がいくらあっても足りない。準備不足と焦りを感じるたびに、大会に参加するほとんどのプレイヤーもそうだろうと自分に言い聞かせるしかなかった。
いろんな意味で、競技マジックは学習速度や調査速度の競争だと感じていて、時間の管理や最適化する能力がもっとも重要視されるものだと思う。そのせいか、大学で勉強しているよりも仕事のほうがずっと楽だと感じている。
例えば、企業には期待値がプラスになるような投資機会が複数あるが、そのすべてを追求するには十分な資金やリソースがない場合がある。そのような状況では、どの選択肢が最善なものなのかを判断することが重要だ。私はこれが、マジックの大会の練習にかなり近いものだと感じている。プロジェクトにお金を投資するにしても、デッキに時間をかけるにしても、カギとなるのは、どの選択肢が最良の結果を得られる可能性が高いか正しく評価することなのだ。
逆に大学での講義は、最大限学びながら最小限の時間で済ませるという効率はまったく重視されていなかった。灰色の講義室で、灰色の髪をした教授が、灰色な声で、灰色の話題について話しているのを聞きながら「これはなんの役に立つんだ?」と感じたのは一度や二度ではない。
教育はだれも取り残されないように組織化されていることが多く、それ自体は悪いことではない。しかし、一部の生徒にとってはとても効率の悪いものとなってしまうんだ。
少なくともフィンランドでは、高等教育で身につけるもっとも重要な能力は「学び方を学ぶことだ」とよく言われるが、大学のシステムや時代遅れの教育方法は、それをうまく実現できているとは思えなかった。私の人生で学び方を学んだ場は学校ではなく、もし学べているのだとすれば、それは間違いなくマジックの大会での準備から得られたものだろう。
話を戻そう。家に帰ってパソコンの前に座れば、今までの人生で一番重要な大会、つまりMagic Online Championships(以下、MOCS)が始まる。24人の選手と賞金総額25万ドルというのは、今まで参加した中でもっともレベルの高い大会だったのは間違いない。
ヴィンテージキューブドラフト
私が一番落ち着いてやれるフォーマット、ヴィンテージキューブで大会が始まることに安堵していた。一番楽しんでプレイしているフォーマットであるだけでなく、これだけのスキルを持ったプレイヤーがいる中で、自分がほかのプレイヤーよりも優位に立っていると実感できるのは、このフォーマットだけなのだ。
大会前のデータでは、大会参加者の中でヴィンテージキューブの勝率がもっとも高いグループに私はいた。ヴィンテージキューブでドラフトするときは、お遊びでドラフトすることも多かったのでこれには少し驚いた。私は自分に制約を課してドラフトすることが多い。楽しむためにドラフトしているときは、アグロや緑のランプはまず使わない。その代わり、重いクリーチャーの多い多色コントロールや《千年嵐》コンボデッキなんかを無理して組むことが多いのだ。
私は友人と「ロック・ドラフト」というものを何度もやったことがある。1人がドラフトを配信して、それを見ているほかのプレイヤーがピックを「ロック・ダウン」する権利を持ち、1ドラフトにつき1回指定したカードをピックさせることができるんだ。ロックされたカードは可能な限りメインデッキに入れなければならない。こうすると…まあ…「独創的な」ドラフトができるのだ…。
ドラフトがついに始まったとき、1パック目の1枚目で《Black Lotus》をピックできて、続いて《ヨーグモスの意志》と《ライオンの瞳のダイアモンド》もピックできた。ストームデッキにとってありえないくらい最高のスタートだ。これよりいい始まり方なんて考えられないくらいだ。しかし、このドラフトはカバレージのために運営によってやり直しになってしまい、すぐに興奮は冷めてしまった。
やり直しのあとは、つまらないパックから《貴族の教主》をピックして、続いて《魔力の櫃》と《ラノワールの使者ロフェロス》をピックした。これは楽しむのではなく、勝利を求めるときの典型的な始め方だ。基本的に、マナを使って何をするかよりも、早くマナを出すことのほうが重要だと思っている。だから私が勝つためにドラフトするときは、マナ関連のカードを集めるのは簡単なのもあって、緑のデッキになってしまうことが多い。
マナ加速できるカードをピックしたあと、6手目で《孔蹄のビヒモス》をピックできた。マナ加速したあとに使う緑のカードとしてはダントツで優れているカードで、ランプデッキを狙っているほかのプレイヤーもいないというシグナルでもある。自分がやりたかったストームデッキではないが、高い勝率を期待できるアーキタイプのひとつだ。
少なくとも、《精神錯乱》《トレストの使者、レオヴォルド》《森の知恵》をピックできたので、少しは面白くなりそうだった。《森の知恵》はキューブでもっとも過小評価されているカードのひとつであり、よく必要以上に遅い手番で回ってくることが多い。
デッキにはそれなりに満足していたけど、パワー9がどれも取れず、相手への妨害もあまりできないデッキだったのでベストとは言えなかったね。
1 《島》
1 《沼》
1 《虹色の眺望》
1 《Bayou》
1 《Tropical Island》
1 《吹きさらしの荒野》
1 《樹木茂る山麓》
-土地 (15)- 1 《東屋のエルフ》
1 《アヴァシンの巡礼者》
1 《フィンドホーンのエルフ》
1 《呪詛呑み》
1 《ジョラーガの樹語り》
1 《貴族の教主》
1 《献身のドルイド》
1 《水蓮のコブラ》
1 《ラノワールの使者ロフェロス》
1 《桜族の長老》
1 《森の女人像》
1 《トレストの使者、レオヴォルド》
1 《不屈の追跡者》
1 《世界を喰らう者、ポルクラノス》
1 《酸のスライム》
1 《囁きの森の精霊》
1 《孔蹄のビヒモス》
1 《森滅ぼしの最長老》
-クリーチャー (18)-
ラース・ダム/Lars Damと山形 悠太郎にテンポよく勝利したあと、ポッドの決勝卓で”Jaberwocki”として知られるローガン・ネトルズ/Logan Nettlesと戦うことになった。試合はアーカイブに残っている。彼は追加ターンを得るカードを連打して、3ゲームにわたる試合の末に勝者となった。私のデッキのほうが全体としては強かったと思うが、彼のデッキとの相性は良くなかった。
モダン
ドラフトの次はモダンだ。私はティムールウーロを使っていた。読者の一部は私がドレッジを使っていないことに驚くかもしれないが、メタゲーム上の立ち位置があまり良くないのだ。
一方で《自然の怒りのタイタン、ウーロ》はとんでもないカードで、使うデッキを探す作業の初めのほうでモダンのほかのどのデッキよりも《ウーロ》系のデッキを使ったほうがいいと判断した。残されたのはどの型の《ウーロ》デッキを使うべきなのかという問いだけだった。
典型的な3つの選択肢として、《創造の座、オムナス》入りの4色型、《神秘の聖域》を活用したスゥルタイ型、そして《守護フェリダー》と《サヒーリ・ライ》を使ったコピーキャットコンボを搭載した型が存在している。どれが一番いいのかはメタ次第なところがあって、最終的にはこれらの選択肢の中間辺りに位置するデッキを使うことにした。
個人的にはスゥルタイ型が一番好きだった。《大魔導師の魔除け》と《神秘の聖域》によって最高のドロー・ゴーができるからね。でもこれらのデッキの中で一番受け身のデッキでもあって、《レンと六番》や《時を解す者、テフェリー》のような単体で強力なカードは使えない。特に《レンと六番》は単体でゲームを支配することがあって、4枚までマリガンしたゲームでさえも勝てることがある。アレン・ウー/Allen Wuも記事で言っていたけどデッキに強いカードをたくさん使うことは大事だ。
逆にコピーキャット型は、ダントツで一番能動的な強いゲームプランを持っていることが魅力だった。《レンと六番》《時を解す者、テフェリー》《自然の怒りのタイタン、ウーロ》、そしてコンボによる突然の勝利の組み合わせは、相手にしたくないデッキだ。
すべての型のデッキで《夏の帳》と《神秘の論争》がサイドボードに入っているけど、両方ともコピーキャット型で使うのが一番強い。強力なカードを押し通すのに使えるからね。《夏の帳》と《神秘の論争》でサポートしながら《時を解す者、テフェリー》を着地させるのは難しいことではなくて、そうなるとコントロール寄りのほかの《自然の怒りのタイタン、ウーロ》デッキにとってかなりつらい。こういった理由からコピーキャット型は大会で使うデッキの第2候補だった。
デッキ調整のある時点で、スゥルタイ型の黒のカードを赤のカードに変えて《レンと六番》を使えるようにしてみようということになった。《レンと六番》自体はすばらしいカードでデッキパワーを押し上げてくれたけど、それには代償もついてきた。多くのデッキに対して《稲妻》は《致命的な一押し》の下位互換で、ティムール型では《血の長の渇き》も《突然の衰微》も使えないので、一度着地したプレインズウォーカーを対処するのは大変だ。1マナの強い除去の枚数が減ってしまうから、アグロデッキの一部に対しての相性は悪くなっていた。
最終段階でデッキをさらに進化させることができなかったら、コピーキャット型を使うことになっていただろう。しかし、ウーロデッキ同士のミラーマッチを多く試すうちに、《夜群れの伏兵》と《サメ台風》を試してみることにしたのだが、すぐにこれらはデッキに必要なカードだったと判明した。すべての問題は解決したわけではないが、多くの問題を解決してくれたのだ。
まず第一に、《神秘の聖域》型はタップアウトする余裕がない。というのも、ほかの型は《神秘の聖域》型よりも単純に強い動きができるからだ。そのため、《神秘の聖域》を使う側からすると《自然の怒りのタイタン、ウーロ》自体はあまり強いカードではなくて、試合を有利に進めるには《死者の原野》と《謎めいた命令》に依存することになる。
《夜群れの伏兵》と《サメ台風》があることで、インスタントタイミングで出せる脅威が増えて、サイドボーディング後には《自然の怒りのタイタン、ウーロ》をデッキからほとんど抜くことができるようになる。特に《サメ台風》を効果的に対処することはほとんど不可能だ。
もうひとつの理由は、この2枚のカードが対戦相手のプレインズウォーカーへの対処に優れていたからである。上でも言ったようにプレインズウォーカーはティムール型にとってかなり対処しにくかった。しかし、インスタントタイミングで出せる脅威が増えたことでそれは大きく変わった。というのも、相手にとってバリューを生み出してくれるプレインズウォーカーを守ることが難しくなったからだ。
《夜群れの伏兵》はアグロデッキやコンボデッキに対して八面六臂の活躍をする。アグロにとっては突破するのが難しく、コンボに対しては早い速度でゲームを終わらせることが可能になるのだ。
それまでのウーロデッキだと、コンボデッキ側は10ターンくらいのらりくらりと耐えれば完璧な手札をそろえることができたが、《夜群れの伏兵》でプレッシャーをかけられるようになると相手に許される時間は短い。5色人間のようなデッキに対しては、自分の全体除去を強く使うために《夜群れの伏兵》が活躍する。相手はクリーチャーを横に並べていかないと突破できないようになるからね。
1 《山》
1 《森》
1 《冠雪の島》
1 《ケトリアのトライオーム》
2 《繁殖池》
1 《蒸気孔》
2 《神秘の聖域》
4 《霧深い雨林》
4 《沸騰する小湖》
1 《溢れかえる岸辺》
1 《汚染された三角州》
1 《硫黄の滝》
1 《冠水樹林帯》
1 《孤立した砂州》
2 《廃墟の地》
2 《死者の原野》
-土地 (29)- 4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
-クリーチャー (4)-
私は正しいデッキを選ぶことができた。モダンで4-0を達成して《夜群れの伏兵》は多くのゲームの中心となるカードだった。
モダンラウンドのハイライトは、(再び)ローガンと対戦した試合だ。《ヴェールのリリアナ》の奥義と《沸騰》を乗り越えて勝利することができた。そして、1日目最終試合のオリバー・ティウ/Oliver Tiuと対戦した試合では、サイドボード後に相手の4色オムナスを蹂躙して、彼からメタ読みについて賛辞を受けた。ローガンがこの大会でジャンドを使ってくれてよかったと感じた。《死儀礼のシャーマン》が禁止されてからは、あまり強くないジャンドを使うことにこだわらなければもっと厳しい試合になったはずだからだ。
2日目
ヴィンテージキューブドラフト
大会の2日目もヴィンテージキューブのドラフトで始まった。誰も驚かないだろうが、私は再び緑のランプデッキをドラフトする結果となった。打ち消し呪文と《王冠泥棒、オーコ》でドラフトを開始して、コントロールデッキを作ろうとしたのだが、流れてくるパックのほとんどに取りたくなるような緑のカードが残っていたので、しぶしぶ運命を受け入れた。《露天鉱床》と《ラムナプの採掘者》のセットが取れて少しばかり妨害もできそうだったからね。
ひとつ言っておかなければならないのは、私はペアリングが順位に基づくと知っていたということで、Twitterでのやり取りがあったり、1日目の結果を遡って変更したりした結果、私と並ぶ6-1の成績を持つのはマイケル・ジェイコブ/Michael Jacobだけだったのだ。さらにマイケルが白と赤のアグロデッキを可能ならドラフトしたがると聞いていたので、ドラフト中も対アグロ用のサイドボードカードをふだんよりも優先的にピックするようにした。
3 《島》
1 《山》
1 《虹色の眺望》
1 《踏み鳴らされる地》
1 《露天鉱床》
-土地 (16)- 1 《アヴァシンの巡礼者》
1 《極楽鳥》
1 《貴族の教主》
1 《献身のドルイド》
1 《水蓮のコブラ》
1 《森の女人像》
1 《ラムナプの採掘者》
1 《三角エイの捕食者》
1 《錯乱した隠遁者》
1 《ゼンディカーの報復者》
1 《龍王アタルカ》
1 《マイアの戦闘球》
1 《テラストドン》
-クリーチャー (13)-
1 《修繕》
1 《自然の秩序》
1 《永遠溢れの杯》
1 《Mox Pearl》
1 《魔力の櫃》
1 《摩滅したパワーストーン》
1 《ダク・フェイデン》
1 《王冠泥棒、オーコ》
1 《情け知らずのガラク》
1 《野生語りのガラク》
-呪文 (11)-
1 《台所の嫌がらせ屋》
1 《巨森の予見者、ニッサ》
1 《暴れ回るフェロキドン》
1 《不屈の追跡者》
1 《血編み髪のエルフ》
1 《高原の狩りの達人》
1 《ピア・ナラーとキラン・ナラー》
1 《悪斬の天使》
1 《カルドーサの鍛冶場主》
1 《対抗呪文》
1 《火葬》
1 《差し戻し》
1 《破滅の終焉》
1 《内にいる獣》
1 《焦熱の合流点》
1 《千年嵐》
1 《ラノワールの憤激、フレイアリーズ》
-サイドボード (22)-
私たちの試合は8回戦目のメインのフィーチャーマッチとなっていた。どうやらマイケルのドラフトは少しばかり厳しいものだったようで、試合自体も私は滑り出し快調だったから、特に接戦ではなかった。2ゲーム目にマイケルが欲張って《ルーンの母》で攻撃したあと、私が《魔力の櫃》でマナ加速して2ターン目に《情け知らずのガラク》を出して除去できたので、彼には手痛い失敗となった。
続く2試合はなかなか経験できないくらい面白い試合だった。9回戦にはローガンと3回目の試合を戦うことになり、彼は再び青いコントロールデッキをドラフトしていて、3ゲーム目はすごいゲーム内容だったのだ。
《テラストドン》を唱えて、相手の白の土地3枚か青の土地3枚、もしくは自分の土地3枚を破壊する3択を選んでいるときはかなり優位に立っているつもりだった。最終的には白マナを破壊したのだが、彼は白マナを引いてきて、私の《テラストドン》に対処した。突然私は相手の象の大群によって圧倒されるようになってしまった。
長い時間をかけてお互いの脅威に対処しあったあと、デッキはお互い残り10枚ほどだった。戦場は私が有利だったが、私のデッキに残されたカードはあまり強くない状況だ。しかし、ローガンがガス欠になって《暗記/記憶》を「余波」で唱えることになってしまい、私のデッキは再び充実したものになった。私が通常のドローと合わせて引いた8枚のカードで相手のブロッカーを一掃してリーサルの攻撃をしかけられた。
ドラフトの最終試合もアーカイブに残っているので見てほしい。pacoelflacoとしても知られるファン・ホセ・ロドリゲス・ロペス/Juan Jose Rodriguez Lopezのリアニメイトデッキと当たった。これは基本的には緑のデッキにとって不利な試合だ。リアニメイトデッキ側が《納墓》を含むようないい手札を引けば、こちらが何をしようとしてもリアニメイト側のほうが早いからだ。リアニメイトデッキのほうが打たれ弱いのも確かで、対策カードに対して脆弱だが、緑のデッキはたいていその弱点を突くことができない。
1ゲーム目と2ゲーム目はお互い一方的な試合になったが、3ゲーム目はなかなか面白かった。《魔力の櫃》《ラムナプの採掘者》《露天鉱床》がそろっていて、相手の土地を繰り返し破壊してロックをかけられるいい手札を引けたのでガッツポーズをした。相手のデッキのゲームプランを崩せる私のデッキに入っている数少ない手段のひとつだが、それでもファンは比較的早くロックから抜け出した。
しばらくすると、彼の手札には《ネクロマンシー》と《動く死体》がある状況になったが、私の戦場にいる《三角エイの捕食者》(これもまた過小評価されている働き者だ)によってけん制されていた。さらにゲームが進行すると、彼は私の墓地の《テラストドン》を2回リアニメイトして、リアニメイトするオーラを毎回破壊することで象の大群を作り上げる機転の利いたプレイングに出た。
しかし、その返しで私は《ゼンディカーの報復者》を戦場に出すことに成功して、ファンは攻撃すると返しの攻撃で致命傷を負ってしまうようになって攻撃できなくなった。植物・トークンが成長するのをしばらく待ったあと、私の戦場は十分な数のクリーチャーが並んでいたので3/3の象の大群を超えて彼にとどめを刺せるようになった。
これで9-1の成績でパイオニアの部を迎えられるようになった。パイオニアの試合は少し怖かったのでこれには安堵した。モダンのように明確なビジョンを持ってデッキ調整ができたと言いたいところだが、実際はその真逆だった。狙いも定まらずにいくつもの異なるデッキを試して使いたいデッキを探そうとしたが、何を使ってもうまくいかなかった。それなりに勝てたデッキはThe Spyと自作の4色ヨーリオンデッキだけだったのだ。
パイオニア
パイオニアで難しいのは、すべての解答が状況を選ぶものでマッチアップ次第でしか機能せず、攻めるデッキはすべて異なる角度から攻めてくるということだ。バーン、スラムオーラ、The Spy、ロータスコンボに勝つにはそれぞれ異なる解答が必要になる。そのため、受け身のデッキを使うのは破滅に至る道のように感じられた。
ヨーリオンデッキは使っていて楽しかったうえに、勝ちたいと思って対策している仮想敵には勝てるデッキだったけど、それでも使わなかった2つの理由の1つは上記の理由だ。もう1つの理由は、単純にデッキリストを最適化するには時間が足りなかったからだ。
少し話が脱線するけど、「勝とうと思った相手に勝てるようにデッキを組める」というのは大きな罠だと思っている。「すべてのデッキに勝てる」と錯覚しやすいからだ。この2つはまったく異なっていて、ある方向を向けば反対側には背後を見せることになる。
最終的にはThe Spyを使うことにした。ほかの大会では使おうと思うようなデッキではなかった。普通の大会なら、相手に対して干渉していくカードを使いこなすスキルが平均的なプレイヤーよりも優れていると思うから、そういうデッキで勝負したほうがいい。
しかし、MOCSのほかの参加者の実力には敬意を持っていて、クリストファー・ラーセン/Christoffer Larsenやオリバー・ティウのような人物をスキルで圧倒できるとは考えていなかった。多くのマッチアップでThe Spyは少しだけ有利だと思っていたから、自分と互角かそれ以上の選手を相手に分が悪くない範囲で運に身を任せるのは問題ないと思った。ドミトリー・ブタコフ/Dmitriy Butakovが同じ大会で優勝したときに行っていたのと同じ理屈だ。
- 2018/03/13
- トーナメントにおけるデッキ選択について -強者か、弱者か-
- Dmitriy Butakov
もうひとつ些細な理由として、大会の開催時間がヨーロッパでは深夜だったという理由が存在していた。シンプルなデッキで短い試合をこなしたほうが正直なところ楽だ。さらに、The Spyでもっとも重要なのはマリガン技術だと思っているが、それには自信があった。何年もドレッジを使い続けたことで、積極的にマリガンするのは上手になった。
4 《森の女人像》
4 《絡みつく花面晶体》
1 《ナルコメーバ》
4 《カザンドゥのマンモス》
4 《秘蔵の縫合体》
4 《地底街の密告人》
3 《銀打ちのグール》
4 《欄干のスパイ》
1 《憑依された死体》
2 《世界棘のワーム》
-クリーチャー (35)-
2 《強迫》
1 《巨森の補強》
4 《新生化》
4 《バーラ・ゲドの復活》
4 《異界の進化》
4 《ペラッカの捕食》
4 《アガディームの覚醒》
4 《這い寄る恐怖》
4 《ハグラの噛み殺し》
1 《悪戦/苦闘》
4 《海門修復》
4 《変わり樹の共生》
-呪文 (44)-
大会の実際のメタゲームよりも、コントロールデッキや5色ニヴが多くなる環境を想定していた。普通のメタゲームを想定するならメインデッキに《強迫》は入れない。
あまり興味深い試合はなかったので、そこまで詳しく語る必要もないだろう。ただ先手をたくさん取れて、スロットを打つようにマリガンボタンを連打して、その結果として3ターン目《欄干のスパイ》が頻発した。
パイオニアラウンドは3-1で終えたが、1勝目の時点ですでにトップ4入りは確定していたと思っていたから、そこからは気楽なものだった。ローガンとこの大会で4度目の対戦をして勝利できたのはよかった。最後の試合では、マイケルをトップ4から叩き出そうとしたが、残念ながらほかの5敗ラインの選手もすべて負けてしまったので、マイケルはトップ4に入ってしまった。
2日目の終わりにmyyamagatとして知られる山形 悠太郎がMOCSのDiscordでキューブドラフトをやりたい人はいないかと人を募集していた。日本の彼にとって大会は深夜に始まって正午ごろ終わったにも関わらずだ。彼のマジックへ注ぐ情熱には思わず笑顔になったし、尊敬の念を抱かずにはいられないね。なんて男だ!
3日目
トップ4の試合が始まるまでしばらく時間があったが、食事をとることやリラックスすることが難しい状況になった。日中は4~5時間かけて準決勝で戦うマイケルのデッキを相手にして練習していたが、あまり結果は芳しくなかった。
2 《平地》
1 《虹色の眺望》
4 《寺院の庭》
4 《吹きさらしの荒野》
2 《霧深い雨林》
3 《地平線の梢》
1 《ペンデルヘイヴン》
1 《ガヴォニーの居住区》
-土地 (22)- 2 《歩行バリスタ》
4 《東屋のエルフ》
1 《ルーンの与え手》
4 《議事会の導師》
2 《オーリオックのチャンピオン》
2 《漁る軟泥》
1 《呪文滑り》
4 《太陽冠のヘリオッド》
4 《スパイクの飼育係》
3 《イーオスのレインジャー長》
1 《スカイクレイブの亡霊》
-クリーチャー (28)-
3 《夏の帳》
2 《スカイクレイブの亡霊》
2 《流刑への道》
1 《巨人落とし》
1 《オーリオックのチャンピオン》
1 《エイヴンの思考検閲者》
1 《弁論の幻霊》
1 《天界の粛清》
-サイドボード (15)-
ヘリオッドカンパニーとの相性は机上では有利だと考えていたが、実際に練習してみると厳しい印象を抱いた。《夏の帳》、《集合した中隊》、コンボによる勝利、破壊不能の《太陽冠のヘリオッド》、そして私が繰り出す脅威に対する良好な解答の存在によって、相手の脅威に上手く対処することが難しくなっていると感じた。私のデッキがアドバンテージを得る主な手段としている《レンと六番》と《自然の怒りのタイタン、ウーロ》はあまり意味がないようだった。
2 《ハシェプのオアシス》
4 《ニクスの祭殿、ニクソス》
-土地 (21)- 4 《エルフの神秘家》
4 《ラノワールのエルフ》
4 《炎樹族の使者》
4 《大食のハイドラ》
2 《ラノワールの幻想家》
2 《長老ガーガロス》
-クリーチャー (20)-
1 《石とぐろの海蛇》
1 《漁る軟泥》
1 《新緑の機械巨人》
1 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》
1 《トーモッドの墓所》
1 《墓掘りの檻》
1 《真髄の針》
1 《減衰球》
1 《キランの真意号》
1 《連結面晶体構造》
1 《護法の宝珠》
1 《領事の旗艦、スカイソブリン》
1 《王神の立像》
1 《グレートヘンジ》
-サイドボード (15)-
パイオニアのほうはやや有利だと感じたが、先手を取れることが重要だった。練習したほとんどの試合は一方のプレイヤーが相手を蹂躙して終わっていて、お互いに対する干渉もあまり起きなかった。
マイケルのデッキは、メインゲームからThe Spyを止められるという意味で珍しいデッキだ。《大いなる創造者、カーン》のおかげだが、その代わりにサイドボード後もそこまで対策カードが増えない。まあ、サイドボードが《大いなる創造者、カーン》で持ってくるカードで埋まっている関係で、実質的にサイドボードがないからね。
上位4人による対戦は2マッチ先取で行われた。モダンとパイオニアを1マッチずつやったあとに、1-1で3マッチ目が必要になれば2日目時点で順位が高かったほうがフォーマットを選ぶことができる。私たちの試合はアーカイブされているので見ることができる。
試合が始まると私の心配や焦りはすべてどこかに消えた。熱気、明晰さ、集中力。競技マジックを好きな理由でもある。目の前にはマジックしかなく、束の間すべてのほかのことを忘れてしまう。「ゾーンに入った」状態あるいはフローの状態、つまりは全神経を集中している状態になるためには、高いレベルの大会で自分の実力と互角以上の相手に対してどうしても勝ちたい試合を戦っているという状況が条件となる。対戦相手に慈悲の心はないから自分が犯したミスはすべて突かれる。ミスはできないということだ。
モダンの1ゲーム目は、マイケルが《太陽冠のヘリオッド》を手札に引きすぎて動けなくなってしまって勝利できた。でも続く2ゲーム目、3ゲーム目では彼の引きは良く、私の引きは平凡だった。さらに私は小さなミスもいくつか犯してしまって、それも足を引っ張った。
続いてパイオニアの試合だ。私は先手を取れていい気分だった。デッキがメインゲームでの強さを発揮して1ゲーム目はあっさり勝利した。先手3ターン目にコンボが成立したらマイケル側はとんでもない上振れの引きをしなければ止められない。
2ゲーム目は相手の《大いなる創造者、カーン》を《思考囲い》でハンデスして4ターン目にコンボ成立できる状況になったが、それでは足りなかった。もしコンボを実行すれば、《這い寄る恐怖》で12点のライフを得てライフは18になる。ブロッカーとして《ナルコメーバ》を1体立てれるが、相手はトランプル付きの打点が19点ある状況で、ちょうどライフを削り切られてしまう。計算を10回くらいやり直して自分が何か見落としていないか確かめたが、計算は合っていたので相手にサイドボーディングの内容を知られないように、コンボでデッキをすべて「切削」することをせずに投了した。
決着がつく3ゲーム目、私は競技人生でも難しい部類のマリガン判断を迫られた。私は先手で1回マリガンしたあと、相手は7枚でキープしていて私の手札はこれだ。
初見だと当然キープする手札に見えるかもしれない。マナ加速(《絡みつく花面晶体》)があって、コンボを起動するカード(《地底街の密告人》)もあって土地も十分な枚数ある。でも実は見た目よりも悪い手札なんだ。
プラスの面でいうと、この手札を改善してくれるカードはそれなりに多いことがあげられる。アンタップインの土地(デッキに11枚残っている)か《異界の進化》(デッキに4枚残っている)を引けば3ターンキルで、《思考囲い》《真髄の針》《ペラッカの捕食》(デッキに10枚残っている)のどれかを引けば3ターン目《大いなる創造者、カーン》を妨害できる。
37%くらいの確率で3ターンキルが可能で、《大いなる創造者、カーン》を妨害するカードを引いて4ターン目以降のコンボ成立を可能にできる確率もそれなりにある。もちろん、37%の3ターンキルのほうは《大食のハイドラ》か《真髄の針》で簡単に妨害されてしまう。
予想外かもしれないが、私は《大いなる創造者、カーン》がサイドボードから持ってくる対策カードを破壊するための《突然の衰微》や《自然のままに》はサイドインしていない。私の考えでは、最速でコンボ成立を狙うか妨害を《思考囲い》か《真髄の針》で防いだほうがはるかにいい。《大いなる創造者、カーン》は次のターンにほかの対策カードを持ってくることも可能だからね。
さて、あなたならどうする?
もし試合を見てくれていれば、私がこのときにマリガンしたことは知っているだろう。この判断が正しいかどうかを数学的に示すことはできない。私はフランク・カーステン/Frank Karstenのような能力を数学の分野では持っていないからね。でも私は直感的にマリガンしたほうがいいと判断した。5枚や4枚の手札でゲームを開始しても、3ターンキルするパーツがそろっていることはありえるし、3枚の手札でもそれなりの確率で可能になることはある。
どっちが正解だったとしてもかなり難しい判断で、キープが正解だったのかもしれない。《絡みつく花面晶体》ではなく《森の女人像》だったら確実にキープしただろうね。
結果としては必要な手札を引けず、1枚も呪文を唱えることなくゲームに敗北した。
だが結果に対して悲しみや怒りは感じていない。The Spyをデッキとして登録した時点でこういうことは起こると思っていた。大会を通して多くの試合に勝てていて、プレイングも悪くなかったし、勝者となるのにふさわしい人物に負けて、賞金額の高い大会でお気に入りのフォーマットをプレイできて、最終的に15000ドルの賞金を得た。
これより悪い大会なんていくらでもあったさ。
また次回。
マッティ・クイスマ (Twitter)