シールドの神髄 ~前編~

Jean-Emmanuel Depraz

Translated by Kohei Kido

原文はこちら
(掲載日 2021/2/25)

運ゲーのフォーマット

初心者や構築を中心としてプレイしているプレイヤーの間で、シールドは運ゲーだと言われることが多いね。大会での成績と開封したパックに入っているレアや神話レアの質には強い相関関係があるという意見が存在している。

経験あるプレイヤーと話せば、そんな単純なフォーマットではないことがすぐにわかるはずだ。シールドは確かにドラフトや構築よりも参加しやすいフォーマットだ。《星界の大蛇、コーマ》を引き当てて、大会中も毎回引けば誰でも勝率はいいだろう。でもカードプールから最適なデッキを組むのは相当困難なんだ。

星界の大蛇、コーマ

やっていくうちに他のどのフォーマットよりもシールドで強さを発揮するカードがいろいろと存在していることに気づくだろう。確定除去やカードアドバンテージ源、色マナ調整機能のあるカードといった具合だ。デッキ構築やプレイングを主流の型に合わせていくことも覚えていくだろうね。いくらかのボムと除去カード、きれいなマナカーブに近いデッキ構成、そして使う予定の色で比較的使えそうなカードを使って残りの枠を埋めていく。もっと慣れていくと、使ってもあまりゲームに影響を与えないようなカードやシナジー依存のカードはあまり使わないようにもなるだろう。

幸運のクローバー

しかし、シールドについて書かれた指南の記事は基本的なことについて書かれたものが多い。もしかするとシールドが運ゲーだという風潮が蔓延しすぎている弊害かもしれないね。よく語られる基本的なことを理解したプレイヤーがさらに勝率を上げたり、シールドについて理解を深めたりしようと思うと、なかなか記事が見つからないんだ。

私たちフランス人のマジックプレイヤーはリミテッドが大好きで、これまで多くの理論を編み出してきた。一部は私たちの小さなコミュニティやDiscordサーバー以外には知られていない内容だろう。

殺害予言精神腐敗

この記事の読者はすでに《殺害》《予言》《精神腐敗》が良質なシールド向きカードだということを知っていると想定しているよ(もちろんこの3枚は同レベルのカードではない。)だから、この記事ではそれよりも深い話をしたいんだ。

1. マナ基盤は弱い

不安定な足場

まずは基礎的なことから始めよう。

リミテッドのマナ基盤は通常であれば弱い。構築と比べて使える多色土地は少ないのに、要求されている色マナが少ないとは限らないからだ。

フランク・カーステン/Frank Karstenのありがたい分析の話から行こう。2ターン目に2枚の土地は持っているとして、特定の色の2マナのカードを90%以上の確率で唱えられるようにするためには、その色のマナが出る土地が40枚のデッキには9枚以上必要だ。リミテッドのデッキには16~18枚の土地が入っていて、異なる色の2マナカードを含んでいるのがふつうだね。この時点ですでに要求されているマナが厳しいのはわかるだろう。4ターン目にダブルシンボルのカードを唱えたい場合は、必要な土地が11枚まで上がってしまう。計算上は10枚の方が90%に近いけど90%以上になるのは11枚からだ。同じ色の2マナでシングルシンボルの呪文を4ターン目に2枚唱えられるのも同じ確率だ。できることならいつでもやりたいのに!

マリガンせずに手札をキープするかどうかの判断になるとこれはもっと深刻な問題になる。まだカードは7枚しか見ていないから、2色目の土地を引くかどうかを運に頼らないためには、先攻で1マナのカードを1ターン目にプレイできるようになる量と同じ量の土地が必要だ。そして、なんとこれは2色とも10枚ずつ必要になるんだ。リミテッドのデッキの多くは、マナ基盤がこの水準に達していないことは知っているだろう。

当然の帰結として、色が合う多色土地は重要な戦力で、基本土地を1枚あるいは複数枚入れないといけないようなタッチ色はかなり重い負担になる。マナ基盤が不安定になれば、手札をマリガンする頻度も上がるし、マナカーブ通りに展開できないことも増える。そういう事態になりづらいデッキを組むことにはメリットがある。

単純だけど、デッキの土地を増やすのは解決法の1つだ。そこで余ったマナを使ってマナフラッド受けをできるカードが重要になり、それは土地の枚数を減らさない理由にもなる。低いマナカーブのデッキでも土地が少ないと色が出なくてきれいに展開できない事態は発生する。だから、15~16枚の土地でマナフラッド受けカードがないデッキよりも、17~18枚の土地でマナフラッド受けできるカードを入れたデッキの方が組みたいね(これはMTGアリーナのBO1にも言えることで、一般的には土地の枚数を減らしたほうがいいと言われているけど、これは初手調整アルゴリズムが色マナを考慮していないことを無視していて、土地の枚数が減ると各色のマナが出る土地も減る。)

情け無用のケイヤツンドラの噴気孔大蛇の餌

もちろん《情け無用のケイヤ》をタッチするべきではないという意味ではないし、《ツンドラの噴気孔》《大蛇の餌》を両方入れるべきではないということでもない。これらのカードはリスクを冒してでもデッキに入れる価値があるものだ。でも3色もタッチ色ではないような均等3色デッキは常道を踏み外したデッキだ。

プレイアブルなカードが少なすぎて、それをしなければデッキが組めなかった時期も過去には確かにある。でも現代のリミテッドにはプレイアブルなカードがたくさんある。過去10年の間には1、2回ほど2色ではまともなデッキにならないようなシールドのカードプールを引いたこともある。過去2~3年だと記憶にないね。不要なリスクは冒さなくていいと思わないかい?

マナスクリューやマナフラッドで負ける試合はもともとたくさんある。3色目のプレイアブルなカードも元の2色で使えたカードよりも多少マシなだけだ。だから均等3色のデッキを組むためにマナ基盤に無理を強いる理由なんてないんだ

さてタッチ色について考えてみよう。タッチ色というのは1~3枚のカードを採用するために増やされる色として定義されることが多い(たとえば17landsのサイトはそう定義しているね。)マナ基盤が脆弱なのに色をタッチするのはなぜだろうか?ゲーム終盤にならないと唱えないカードや、とても強力だから少し待たされてでも使いたいカードがあるのは確かだろう。

ドワーフの援軍龍族の狂戦士

この話の終着点に予想がついたかい?マナカーブ通りに展開したいようなカードはタッチしてはいけないということだね。色をタッチする目的を無視している行いだからだ。でも「予顕」していた《ドワーフの援軍》を、赤マナがやっと出るようになった7ターン目に唱えているような人をいまだに見かける。除去はタッチしてもいいが、ゲーム終盤の脅威にも対処できる除去にするべきだ。ボムもタッチする価値があるけど、《龍族の狂戦士》のようなクリーチャーはタッチすべきか微妙な水準にある。

金への捕縛悪魔の稲妻

何をタッチするにしても、中心となっている2色以外のカードを増やせば増やすほど、ゲーム中に何も唱えられない状況が増えることは覚えておこう。タッチ色は増やせば増やすほどデメリットが目立つ。青と緑を中心としたデッキだとして、《金への捕縛》のために白をタッチしているのに、《悪魔の稲妻》をそこに足すとデッキにとってメリットよりもデメリットの方が大きくなるからサイドボードに置いておく、というのはよくある話だ。

そういった理由から、色マナを調節してくれるカードがたくさんあるのでなければ3枚以上タッチすることは控えることが多いね。もしタッチしたいカードが1枚あるならタッチ色を出せるカードは3枚入れるようにする。これで後手なら6ターン目に70%の確率で唱えられるようになる(これでも確率が高いとは言えないことは覚えておいて欲しい。)タッチしたいカードがもっとたくさんあるなら、もっとタッチ色のマナを出しやすくする方法を考える。

最後になるけど、その色のマナが出る土地がもともと多ければ多いほど、そこに土地を1枚追加することによる効用は減る。確率というのはそういうものだからだ。経験を積んできたリミテッドプレイヤーでも理解にてこずる事実でもある。デッキの中心色が出る土地がすでに9枚あるとしよう。10枚目を足してもマリガン前の7枚の手札にその色が出る土地がある確率は3%しか上がらない。それに比べて、タッチ色のマナが出る土地を3枚から4枚に増やすと、6ターン目に唱えられる確率は10%も向上する。この2つの事実は土地の枚数に関して閾値が存在することを示しているし、興味深いことに中心色に加えて2色目を採用することと比べて、1色でデッキをまとめることにはメリットが薄いことも示している。

最後の部分はシールドというよりはドラフトに関する話だね。シールドで単色にまとめる動機があることも、そもそもそれができるだけのカードの枚数があることも稀だからだ。でも2色目のカードを3~4枚入れるべきか、それとも赤単にすべきか、という疑問を持っている人をよく見かける。だからここで一応書いておくことにした。数学的な妥当性ではそうすべきでなくても、人々が単色デッキを組みたくなってしまうような魅力が単色デッキにはあるのかもしれないね。

2. シールドにはメタゲームが存在している

「はじめに」でも触れたようにシールドで上達したいプレイヤーはみんな似たようなアドバイスを参考にすることが多い。だから組んだデッキも似たようなデッキになる。タッチ色が多い(ときには多すぎる)遅いミッドレンジデッキで、使えるボム、除去、カードアドバンテージ源が入れられるだけ入れてあるデッキだ。

全員同じカードプールを使っているわけではないのだから、これが全員にとって最適な戦略であるはずはない、というのがこの風潮の問題点だ。

誤解はしないで欲しいけど、シールドのカードプールで本当にどうしようもないのはごくわずか(たとえば5%くらい?)だ。ふつうのカードプールでは勝ちようもないくらい強いカードプールも同じくらいごくわずかだ。でも、どのカードプールでも同じような構築方法で同じように勝てるなどというのは幻想だ。

破滅を囁くもの

たとえば《自然の怒りのタイタン、ウーロ》が禁止される前のヒストリックで大会に向けて準備しているとしよう(暗黒時代のことを思い出させて申し訳ない。)あなたが楽しんでいるデッキはスゥルタイだ。不幸なことに《破滅を囁くもの》を持っていない上にそれを入手するために出費することもできない。すでにメタゲームが煮詰まっていることは知っているから、多くの人がスゥルタイを使うだろうと想定している。なぜなら…スゥルタイが最強だからだ。そして《破滅を囁くもの》がミラーマッチで強いこともみんな知っているだろうと考えている。さてどうしようか?

こういうときの答えは、スゥルタイは使わずに、流行りそうなスゥルタイの特定の型のデッキを標的にしたデッキを使うべきだ、というものだ。たとえば《アン一門の壊し屋》を採用したグルールとかどうだろう?たとえばの話だから、本当に正しい答えがグルールかどうかはあまり大事な話ではない。ここで強調したいのは、他の全員が《破滅を囁くもの》を使っている環境で自分だけ使わずに大会に出たら、ただ負けるだけだから他の方向性を試してはどうだろうか、という考え方だ。

シールドはそういう意味では全く変わりがない。シールドにはシールドのメタゲームがある。シールドのデッキリストに多様性があるからと言って、平均的なプレイヤーよりも明らかに弱いデッキしか組めない状況で、他のプレイヤーと同じアーキタイプのデッキを組むことが愚かではないということにはならない。

もしかすると「タッチ色が多い(多すぎる)遅いミッドレンジ戦略は他のどの戦略よりも優越した戦略だから、弱いカードプールでもその戦略を採用するのが一番勝率を高くする方法なんだ」と反論したい読者もいるかもしれない。シールドのメタゲーム次第ではそれが事実であるセットも存在しているかもしれない。でも少なくとも『カルドハイム』はそうではない。

戦場の猛禽拷問者の兜金脈のつるはし

先ほどの反論が真実であるためには、他のあらゆる戦略がとても弱いか、(ドラフトの24パックではなく)シールドの6パック分のカードでは組みようがないような戦略であるはずだ。『カルドハイム』ではボロスカラーは興味深い色で、装備品の枚数によって組めるかどうかが決まる。3枚以上使える装備品があるなら、マナカーブ通り使えるクリーチャーならなんでもいい。マナカーブ通り出せる適当なクリーチャーは『カルドハイム』にはたくさん存在しているから、アグロデッキとして機能するデッキを組むのは難しくない。

ボロス装備品デッキは単なる一例だ。後編で他にも色々教えるよ。ここで一般論として知って欲しいのは、対戦相手と同じゲームプランを採用しているのに相手よりもカードプールが弱いなら、それは相手のゲームプランが成功するのを手伝っているようなものだということだ。ロングゲームになったときに勝てないなら、「シールドではそうすべきだと聞いた」という理由でロングゲームをしようとするようなデッキを組んではいけない。それよりもメタゲームを読んでそれに合わせて行動するんだ。

自分が持っているボムとロングゲームになったときの強さを相対的に推し量るには、環境に関する深い理解が必要だ。もしシールドのカードプールをいくつも用意して練習する時間がないのなら、インスタントのコンバットトリックや除去をリストにするときのように、強いボムをリストにして覚えておくという方法がある。

情け無用のケイヤ星界の大蛇、コーマシュタルンハイムの解放
雪上の血痕トロールの喚起アールンドの天啓
語りの神、ビルギ冬の神、ヨーン星界の軍馬

Tier(ティアー)をつけて覚えてもいいね。たとえば、もっとも対抗しにくいとんでもないカード(《情け無用のケイヤ》《星界の大蛇、コーマ》《シュタルンハイムの解放》)をtier1、とても強いレア(《雪上の血痕》《トロールの喚起》《アールンドの天啓》)をtier2、平均よりは上だけどすごいことにはならないカード(《語りの神、ビルギ》《冬の神、ヨーン》《星界の軍馬》)をtier3といった具合でどうだろう。「ボム」の強さを推定するときに使える尺度として、コモン除去に対する耐性がどれくらいあるのか、という基準がある。

撲滅する戦乙女

たとえば《撲滅する戦乙女》はtier2とtier3の間のどこかだろうね。戦場に定着すればとても強力だけど、コモンの除去のほとんどで除去できてしまう。

多元宇宙の警告大蛇の餌金への捕縛サルーフの群友

ボム以外にカギとなるコモンがあるかどうかも気にしよう。多くのボムにきれいに対処できるカードや自分のボムや相手への解答に向けてデッキを掘ることができるカードだ。強いものを強さの順に並べるなら《多元宇宙の警告》《大蛇の餌》《金への捕縛》《サルーフの群友》といったカードだね。《悪魔の稲妻》もこれらより少し劣る程度で強いカードだけど、サイズの大きなクリーチャーには対処できない。《星界の瞥見》は「多相」を含めた巨人さえ十分使えるなら《多元宇宙の警告》の代わりになる。

ボムがすごいわけでもなく、これらのカードが2枚以上あるわけでもないなら、ロングゲームになったときに他のミッドレンジデッキに勝てるのかは疑問に思うべきだ。《多元宇宙の警告》《サルーフの群友》はドラフトで強いコモンのツートップなのにどうして差があるのか疑問に感じているかもしれないね。シールドで《サルーフの群友》がいまひとつなのは、環境で使われている中盤戦のクリーチャーによってけっこう簡単に3/3のパワー・タフネスの価値が薄れてしまうからなんだ(それでもパックを開けたときに入っていればうれしいよ!)陥りがちな事態として、戦場がにらみ合いになったとしよう。デッキを4枚掘れるカードの方が、今すぐには必要ない3/3のクリーチャーが付いていて1枚ドローするだけのカードよりもはるかに強力なんだ。

ジャン=エマニュエル・ドゥプラ (Twitter / Twitch)

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Jean-Emmanuel Depraz フランスのMPL所属プレイヤー。グランプリ・ワルシャワ2017での優勝を皮切りに、プロツアー『イクサランの相克』で7位に入賞、ワールド・マジック・カップ2018でフランスを優勝に導く。その後も勢いは衰えず、2019年のミシックチャンピオンシップⅤで準優勝、2020年のプレイヤーズツアー・オンライン2でも準優勝を果たすなど、ハイレベルなイベントで好成績を残し続ける確かな実力を持つ。マジックの競技シーンとカジュアルの間には溝があると考えており、それを埋めることができるようなプレイヤーになりたいというのが彼の一つの夢である。(写真: Wizards of the Coast) Jean-Emmanuel Deprazの記事はこちら

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