はじめに
みなさま、「名カード集」へようこそ。
この「名カード集」では、時代を過去へと遡り、昔のエキスパンションの名だたるカードを紹介していきます。
今回は蜃気楼を意味する『ミラージュ』のカードをご紹介しましょう。
『ミラージュ』ってどんなセット?
『ミラージュ』とは、1996年10月に発売されたミラージュ・ブロックの大型エキスパンションであり、初の日本語版のエキスパンションとなります。収録カードは350種類、エキスパンションシンボルはヤシの木になっています。
新キーワード能力「フェイジング」はターンごとにパーマネントの実体が現れたり消えたりする、まさに蜃気楼のような能力となっておりました。ほかに「側面攻撃」もありましたが、『ミラージュ』において重要だったのはキーワード能力よりも各種サイクル呪文でしょう。
小型クリーチャーながら複数の能力を持つ《ギルド魔道士》や特定のカードタイプを探し出す《教示者》はゲーム戦略の幅を大きく広げたものでした。マナベースを支える《ダイアモンド》、元祖フェッチランドである《氾濫原》もここに登場したのです。
逆に現在でこそ一線級のデッキのキーカードでありながら、発売当時は不遇のカードとして扱われていたものがいくつも存在しています。動画でも紹介されている《ライオンの瞳のダイアモンド》と《ファイレクシアン・ドレッドノート》はその代表格であり、かなり限定的な使われ方にとどまりました。しかし、後年、《ヨーグモスの意志》や《オーリオックの廃品回収者》など相性の良いカードがいくつも登場し、トーナメントレベルのデッキが構築されたのです。
さらに、『ミラージュ』のフレイバー・テキストは名文の宝庫ともいわれており、読むだけでマジックの世界を堪能できるほどカードの性質やストーリーでの役割を見事に表現しています。たとえば《政略》はカード名、効果、フレイバー・テキストピッタリとハマった1枚となっています
あなたがコントロールする土地1つと、対戦相手1人がコントロールする土地1つを対象とする。それらのコントロールを交換する。(この効果は永続する。)
政治なんてゲームと同じ ――― 石を動かしたり、動かされたり ――― ただ、その石がときどき血を流すの。
――― 終末を招く者、ショークー.
『ミラージュ』の名カードたち
《悟りの教示者》
あなたのライブラリーから、アーティファクト・カード1枚かエンチャント・カード1枚を探し、そのカードを公開する。あなたのライブラリーを切り直し、その後そのカードをその一番上に置く。
チューター(Tutor)の語源である教示者サイクルはここに『ミラージュ』にて生まれました。色ごとに特定のカードタイプを探しだしてデッキトップに積み込む効果であり、アドバンテージこそ失ってしまうものの、キーカードを軸にした戦略やメタカードを探し出すことを可能にしてくれたのです。『ミラージュ』では青の《神秘の教示者》、緑の《俗世の教示者》と合わせて3種類のチューターが収録されました。
チューターを採用した戦略は数多くありますが、なかでもエクステンデッドにおけるメイヤーオースはもっとも知られたデッキのひとつでしょう。ボブ・メイヤー/Bob Maher選手(現マジック・プロツアー殿堂)がプロツアーシカゴ99を制したのは、《悟りの教示者》によるシルバーバレット戦略を前面に押し出した《ドルイドの誓い》デッキでした。
《悟りの教示者》のおかげでデッキ内のエンチャント/アーティファクトの枚数は実質的に水増しされており、高確率でプレイすることができたのです。たとえ1枚しか採用していないカードであっても、4枚の《悟りの教示者》で探せるのならば5枚あるのと同じといえるでしょう。
これによりデッキ内にスロットを生み出し、複数の対策カードを採用することに成功したのです。アグロ相手にはクリーチャーを呼び出す《ドルイドの誓い》、コントロールデッキにはアドバンテージ源となる《森の知恵》などが選択されていました。《悟りの教示者》はデッキに柔軟性とメタゲームへの適応力をもたらしてくれた1枚なのです。
《農芸師ギルドの魔道士》
(赤),(T):クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。《農芸師ギルドの魔道士》はそれに1点のダメージを与え、あなたに1点のダメージを与える。
(白),(T):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで先制攻撃を得る。
ギルド魔道士サイクルの緑版であり、わずか1マナながらティム能力を有した有能なシステムクリーチャーです。当時のスタンダードではクリーチャーベースの5色デッキが誕生しており、マナベースは《極楽鳥》《クウィリーオン・レインジャー》に頼っていました。《農芸師ギルドの魔道士》はそれらを牽制し、さらに自身が緑のためプロテクションにも引っかかりにくい存在だったのです。
《農芸師ギルドの魔道士》は5CGにおけるボードコントロール役となり、小型クリーチャーの天敵となりました。そしてスタンダードを去った後は活躍の場をエクステンデッドへと移し、緑赤白の攻撃的な3色デッキ、Three Deuceにてダメージクロック兼小型クリーチャー対策となったのです。
《墓石の階段》
累加アップキープ(1)(黒)(あなたのアップキープの開始時に、このパーマネントの上に経年カウンターを1個置く。その後あなたがこの上に置かれている経年カウンター1個につきアップキープ・コストを1回支払わないかぎり、それを生け贄に捧げる。)
各ターンのアップキープの開始時に、《墓石の階段》が戦場に出ている場合、各プレイヤーは自分の墓地にあるクリーチャー・カード1枚につき、《屍鬼》という名前の、速攻を持つ黒の2/2のゾンビ・クリーチャー・トークンを1体、それぞれのコントロール下で生成する。
各終了ステップの開始時か、《墓石の階段》が戦場を離れたとき、それによって生成されたすべてのトークンを破壊する。それらは再生できない。
過去に存在したワールドという特殊タイプを持つエンチャント。通常のエンチャントと同様に戦場に出すものの、ワールド・エンチャントはプレイヤーが何人いようが最大で1枚しか戦場に存在できません。決して軽くない維持コストと相手にもトークンを与えるデメリットがありますが、それでも《墓石の階段》は採用に値するほどの破壊力を持っていたのです。クリーチャーを多く採用したアグロデッキでは対処の難しい追加ダメージソースとなり、コントロールに対する必殺の1枚となりました。
アジア太平洋選手権97を制した香港型黒ウィニーは、大量の小型クリーチャーを『アライアンス』で紹介した《Krovikan Horror》と《墓石の階段》で後押しする強力無比なデッキでした。高速展開でライフを削っていき、途中から《Krovikan Horror》がクリーチャーを火力に変え、墓地に溜まったクリーチャーを糧に《墓石の階段》が大量のゾンビ・トークンを生成するのです。累加アップキープのため長く維持することはできませんが、墓地にクリーチャーが5体いただけでも10点クロックとなるため、相手のライフを削りきるのにそれほど時間は必要としません。
《早摘み》
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分がコントロールするすべての基本土地をアンタップする。
基本土地のみアンタップできるマナ加速呪文。《暗黒の儀式》に近いカードですが、効果を発揮するために事前準備が必要となります。その効果から《不屈の自然》《耕作》など基本土地を並べるカードや、マナを増幅する《春の鼓動》《ほとばしる魔力》と相性が良いカードであり、コンボデッキとして活躍しました。
《早摘み》を使ったデッキでは、マスクス-インベイジョン期のスタンダードデッキの再供給ファイア、神河-ラヴニカ期の《禍我》シュートが有名です。両デッキともは土地を伸ばしていき、前者はデッキ名にもなっている《再供給》で《早摘み》を何度も使い回し、後者は《春の鼓動》を置くことで土地1枚から生み出せるマナ数を倍化して《早摘み》の効果を高めていたのです。
たくさんマナを溜めてX火力である《ギトゥの火》や《現し世の裏切り者、禍我》を打ち込む、比較的簡単なコンボデッキとなっておりました。
《マロー》
《マロー》のパワーとタフネスはそれぞれ、あなたの手札のカードの枚数に等しい。
手札をどんどん使っていく緑にあって、《浄火の鎧》のように手札を維持することを要求する非常に珍しいデザインのクリーチャー、それが《マロー》です。
マーク・ローズウォーター(Wikipediaより引用)
それも納得かもしれません。このカードはウィザーズ・オブ・ザ・コースト社開発部の主席デザイナーマーク・ローズウォーター/Mark Rosewater氏が最初にデザインしたカードなのです。そのためにカード名も本人の愛称であるMa Roとからつけられています。
のちにマローの名を受け継いだ5色の「麻呂(=マロー)」サイクルが誕生しており、オリジナル同様に手札の枚数に依存したパワーとタフネスを持っています。
まだある名カード
さて、『ミラージュ』名カード集、お楽しみいただけたでしょうか。しかし、「あの有名カードなくない?」「もっといいカードあるよ!」と思われた方もいらっしゃるはず。
もっと『ミラージュ』のカードについて知りたい方は、ぜひ、動画もご覧ください!
次回の「名カード集」では、『ビジョンズ』をお届けいたします。