Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2021/03/17)
そこにしかない世界
みなさん、こんにちは!
個人的に今のマジックは微妙な立ち位置にいます。マジックは僕が愛しているもの(そしておそらくこれからも愛していくもの)ですが、やはり僕にとってその最大の魅力は現実世界での大会なのです。あの興奮・人の熱気・空気感というのは、自宅のイスに座り、スクリーンの電源を入れ、クリックをして得られるものではありません。
誤解のないように言っておきますが、MTGアリーナも本当に楽しんでいますよ。ただ現実世界の大会とは違うものだと言いたいのです。グランプリに参加してドロップしたとしても、友人と時間を過ごしたり、応援したり、夕食に行ったりと、良い時間を過ごすことができます。
ではMTGアリーナの予選ウィークエンドに参加した場合はどうでしょう。丸々一か月かけて準備したのに2-3ぐらいの成績で終わったとしたら……。そんなことが起きたら、自分の時間を全て注ぎ込んだことに意味があったのかと疑問に思ってしまいます。もちろん、今の状況を考えれば、ウィザーズ社は素晴らしい対応をしてくれているとは思いますけどね。
新環境を支える4つの柱
『カルドハイム』が発売されてから、リミテッドを中心に遊んできました(これは『カルドハイム』に限った話ではないですけどね)。アリーナ・オープンでも賞金を獲得するほどでしたが、やはり自分の強みを発揮できるのは構築戦であり、生まれ変わった新スタンダード環境に触れずにはいられませんでした。MPLの試合を観戦してみると、すぐに興味を惹かれるデッキが見つかりました。佐藤 レイのティムールアドベンチャーです。
僕は昔からバントとティムールが好きな色の組み合わせでした。そのカラーリングのデッキが新環境の第一線で戦えるのですから、それはもう夢中になりました!
新環境は今もなお固まっておらず、多くのデッキが活躍できる状況です。とはいえ、Tier1は以下のデッキだと言って差し支えないでしょう。
今はまだ環境初期ですから、最終的にどのデッキが”ベストデッキ”として頂点に立つのかはわかりません。これから各デッキは洗練され、他のデッキに対する理想的な対策を見つけていくでしょうからね。
とはいえ、今はいわゆるジャンケンの構図になっています。サイクリングは遅いデッキに勝ち、アグロはサイクリングに勝ち、アドベンチャーはアグロに勝つという構図です。スゥルタイは中間に位置するデッキであり、これまでのミッドレンジと同じく、全ての敵を倒そうと試みています。
しかし、現実はここまでシンプルな問題でありません。「今週はあのデッキが増えるから、それに相性の良いこのデッキは良い選択肢だ」。これはある程度まで正しいのですが、デッキの素のパワーを無視してはいけません。Tier1以外のデッキとも対戦することになりますから、有利なマッチアップは”どれぐらい有利”なのか、反対に不利なマッチアップは”どれぐらい不利”なのかを考慮しなければならないのです。
わかりやすくするために、極端な例をあげてみましょう。みなさんはフェアリーが環境の最大勢力であり、環境の2割を占めているとわかっているとします。そして赤単バーンはフェアリーに対して55%の勝率を誇ります。さて、一見すると赤単バーンを選ぶことが賢明であるように思えますね。
たしかに環境の最大勢力に対して有利だといえそうです。しかし、現実はそこまで単純ではありません。環境にはまだ8割のデッキが存在しており、それらのデッキとの相性が良くないのだとしたら、総合的に見れば優れたデッキ選択ではないでしょう。もしかしたら他のデッキを選ぶべきかもしれません。
(今のスタンダードもそうですが)実際のメタゲームはこの例ほど単純ではありません。ですが、僕の言いたいことは理解していただけたと思います。Tier1デッキとの相性だけでなく、さまざまな要素を考慮するようにしましょう。予想されるメタゲーム、(想定外のデッキを含めた)フィールド全体に対するデッキの強さ、これらをもとに判断を下すのです。
先ほども言いましたが、現時点で4つのTier1デッキのなかでどれが「不利な相手はいても総合的に見ればベストなデッキ」になるのかはわかりません。ですから、良いリストを知っていて、立ち回り方もわかっているのだとすれば、4つのなかから好きなものを選んでしまって問題ないでしょう。
MPLでは予想よりもアドベンチャーが多く、スゥルタイは少ない結果になりました。今現在はサイクリングとスゥルタイが増加傾向にあるので、おそらく赤単などが増えることでしょう。こういった予想も重要ですが、メタゲームは開放的であり予測不可能な状態にありますから、個人的にはそこまで真剣に捉えなくても良いのかなと感じています。
ティムールアドベンチャーとの出会い
初めてティムールアドベンチャーを使ったときは、佐藤 レイと同じリストを使いました。少し話は逸れますが、レイのようなトッププレイヤーのリストをコピーするときは、最初は何も変更を加えるべきではありません。違和感のあるカードが含まれていることもありますが、僕たちが何か見落としている可能性もあります(何らかの理由があって作成者は採用したわけですから)。
実際に数ゲームプレイしてみたら、カードを入れ替え始めていいでしょう。もともとのリストはその週のメタゲームに合わせて練られているでしょうから、使用した感触に合わせてカードを入れ替えるのは自然なことです。
では彼のリストを見てみることにしましょう。
《獲物貫き、オボシュ》によって奇数のマナコストのカードしか採用できないこともあり、メインデッキに関してはほとんど手を加える余地がないと思います。しかし、自由枠がいくつかあるので言及しておきましょう。
自由枠
《棘平原の危険》
1枚だけ採用されていますが、僕も同じ結論になりました。ティムールアドベンチャーはマナを多く必要とするデッキですから、土地の枚数を多めにすることが肯定されます。
ただし、タップイン土地はすでに多く入っており、1点火力のモードが有用でないマッチアップもありますから、1枚が適正だと思います(最近はサイクリングが増えてきていますしね)。《棘平原の危険》はうまくデッキをまとめ上げている1枚だといえるでしょう。
《襲来の予測》
実際のところ、このカードはとても弱いですし、デッキのプランにも合っていません。ですが、《黄金架のドラゴン》と相性が良く、環境には《出現の根本原理》や《天頂の閃光》といったマストカウンターの呪文がありますから数枚は入れざるを得ないという状況です。
とはいえ、メタゲームが劇的に変わらない限りは4枚目は入れたくありません。僕のリストでは《襲来の予測》は2枚だけになっていて、さまざまな状況でゲームをひっくり返せる《神秘の論争》がピン挿しされています。
《グレートヘンジ》
極めてカードパワーが高いアーティファクトですが、伝説であり、マナコストの重い呪文をたくさん入れるわけにもいかないので2枚が適正だろうと思います。
《星界の大蛇、コーマ》
僕のリストからは外されています。切り札として良いカードに思えますが、実はそこまで効果的ではありません。ただでさえマナコストの重い呪文が多く入っているのに、7マナの呪文はさらにデッキを重くしてしまいます。7マナも払うのであれば勝利に直結するカードであって欲しいものですが、実際に使ってみると多くのデッキは《スカルドの決戦》や《出現の根本原理》で簡単に《星界の大蛇、コーマ》を乗り越えてきます。サイクリングに至っては完全に無視してくるでしょう。
そこで代替となるカードを探したところ、とても好感触だった《アールンドの天啓》の4枚目に行きつきました。《アールンドの天啓》を連打すればたいていはGood Gameになります。だったら4枚入れるべきでしょう!
ペトル流のティムールアドベンチャー
これからサイドボードの構成を解説したいと思いますが、まずは自分のデッキリストを公開しておきましょう。
デッキリスト
サイドボードの変更点
レイと僕のサイドボードの違いをまとめるとこうなります。
もとのリストからの変更点
《厳格な放逐》 -2枚
レイは白単アグロに対抗するために採用したのだと思います。もしかしたら緑単やグルールアグロも考慮していたかもしれません。しかしこれらのデッキは勢いが衰えてきていますから、現環境ならば別の除去に変えるべきだと考えました。
《アゴナスの雄牛》 -2枚
《アゴナスの雄牛》はライブラリーを破壊するローグに対して有効であり、消耗戦にも効果的なカードです。しかし、これまで見慣れてきたグルールアドベンチャーとティムールアドベンチャーでは事情が異なります。
ティムールアドベンチャーはもともとフィニッシャー級のカードが多く揃っており、《アゴナスの雄牛》をサイドインしたいマッチも多くありません。たとえばスゥルタイには3ドローしたとしても《出現の根本原理》で押し負けてしまいますし、打ち消し呪文を捨てたくない(あるいはタップアウトしたくない)のであれば《アゴナスの雄牛》を唱えることすら叶いません。
つまり、ローグ・スタックス・その他のコントロールなどに対してだけ有効なカードとなっているのです。こういったデッキに効果的であるのは間違いないので1枚は残していますが、評価はそこまで高くありません。
《影槍》 -1枚
サイクリングのトークンを貫通できる装備品ですから、強みがあるのはわかります。ですが、より幅広いマッチアップで活躍できる《長老ガーガロス》をこの枠に入れることにしました。
《神秘の論争》 +1枚
僕はスゥルタイとの戦いにあまり自信がないので打ち消し呪文を1枚追加しました。他のマッチアップでもサイドインできますから、入れない理由がないですね。
《レッドキャップの乱闘》 +1枚
これから赤単が増えていくと思います。相性は非常に良いですが、軽い除去を1枚追加すれば戦いの助けになるでしょう(特に後手)。しかし《レッドキャップの乱闘》を増やした主な理由は、サイクリングの《アイレンクラッグの紅蓮術師》にあります。厄介なカードであり、追加の解答を入れたいと考えたのです。
《弱者粉砕》 +2枚
《猛火の斉射》を採用していた時期もありますが、《弱者粉砕》のほうが良いだろうと判断しました。タフネス2が多いナヤアドベンチャーを相手にしたときに差が生まれるからです。このカードの採用を考えているとき、これまで使われてこなかった理由が思いつきませんでした。効果的なマッチアップはかなり多いと思います。僕が何か見落としている可能性はありますが、ここまでは高評価ですね。
《長老ガーガロス》 +1枚
あらゆるクリーチャーデッキに対して切り札になります。《レッドキャップの乱闘》などを警戒して《黄金架のドラゴン》をサイドアウトすることがあるので、交代するメンバーがいた方が助かります。
その他のサイドボード
その他のサイドカードはレイと同じですが、それでも言及しておく価値はあるでしょう。
《運命の神、クローティス》 2枚
相手が墓地を利用する場合、あるいはロングゲームになる場合に抜群のカード。ただ、普通は除去されませんし伝説であるので、2枚以上引くと裏目が大きいです。なので採用枚数が2枚になっています。
《魂標ランタン》 1枚
主にサイクリングを意識したカードです。もっと枚数を増やしても良いのではないかと思っていましたが、サイクリングは多角的に攻めてくるため、複数枚引くと弱いことがあります。1枚がちょうどいいですね。
《魂焦がし》 2枚
「破壊不能を失う」という文言が《秘密を知るもの、トスキ》に強いことがありますが、メインターゲットは《恋煩いの野獣》です。もちろん、多様なデッキに対してサイドインできる汎用の除去としても機能します。
Tier1との戦い方
ナヤアドベンチャー
このマッチアップはひたすら盤面をめぐる攻防になります。《スカルドの決戦》《秘密を知るもの、トスキ》《黄金架のドラゴン》《グレートヘンジ》など、一度動き出したら止まらないカードがあるため、より強い盤面を構築してアドバンテージを築いていった方が勝利を手にするのです。そのため、《砕骨の巨人》を《厚かましい借り手》でバウンスするなどしてでも、有利な盤面を作らせないように対策していきましょう。
サイドボーディング
対 ナヤアドベンチャー(先手)
対 ナヤアドベンチャー(後手)
当然ですが、ナヤアドベンチャーの構成は多岐にわたるため、それに合わせてサイドボーディングは調整しましょう。もっとも一般的なのは《クラリオンのスピリット》が入っている形だと思いますが、《厚かましい借り手》は《クラリオンのスピリット》に弱いです(特に先手はリソースを1枚でも無駄にできません)。そのため、上記の表では《厚かましい借り手》を1枚減らしています。
後手のときは《カザンドゥのマンモス》をサイドアウトしたり、1点火力モードが強くないマッチアップで《棘平原の危険》をサイドアウトしたりすることがよくあります。「モードを持つ両面カード」はマナベースの一部を構成しているため、こういったサイドボーディングには違和感を覚えるかもしれません。ここについては少し説明する必要があるでしょう。
マジックは複雑なゲームですが、結局は確率に集約されます。手持ちのカードのなかでどう組み合わせれば勝率を最大限まで高められるかということです。だからこそ、今回のような違和感のある変更が起こり得ます。
例をあげましょう。理論上は《カザンドゥのマンモス》《棘平原の危険》を減らして土地の枚数を減らすようなことはしたくないはずです。しかし「モードを持つ両面カード」を減らすような状況では、これらはただのタップイン土地に過ぎません。先ほども言ったように、これらをサイドアウトするのは呪文のモードが有効ではないときですからね。タップイン土地だとすればデッキに入れておく価値は低く、理想よりも土地の枚数が多少減ることになったとしても、別のカードと入れ替える方が”総合的に見たときに”優れた構成になるのです。こう考えれば「モードを持つ両面カード」はサイドアウトすべきでしょう。
もうひとつ例をあげてみましょうか。理想の土地の枚数が25.7枚であるアゾリウスコントロールを考えてみます。そしてマナベースには《幽霊街》が1枚含まれているとしましょう。もし《幽霊街》がただの無色土地になってしまうマッチアップならば、理想的な土地の枚数でなくなるとしても《幽霊街》をサイドアウトして25枚にすべきでしょう。《幽霊街》そのものの価値が低いですからね。
ティムールアドベンチャー
これもナヤアドベンチャーと同じで、盤面の構築が最大のポイントになります。ただ、今回はお互いに《グレートヘンジ》や《アールンドの天啓》といったパワーカードに加えて打ち消し呪文を3枚擁しているので、それをめぐるちょっとした攻防があります。仮に《エッジウォールの亭主》で大量にドローを進めていたとしても、相手が一方的な盤面を構築していたら巻き返せません。この点を意識しながらプレイしましょう。
サイドボーディング
対 ティムールアドベンチャー(先手)
対 ティムールアドベンチャー(後手)
《レッドキャップの乱闘》は大幅なテンポを得られるので、後手でこそ強いカードだと思います。先手であれば怪物級のクリーチャーたちをひたすら叩きつけていきましょう!相手の動きに対応することは二の次です。特定の1枚のカードを対処すれば良いマッチアップではありませんから、確定カウンターである《襲来の予測》は評価が下がります。
スゥルタイヨーリオン
スゥルタイは除去が豊富で、《出現の根本原理》が打ち消せないとたいていは負けになります。厳しい相手ですね。大切なのは速度で押すことと、相手がプレイしづらいように立ちまわることです。たとえば相手が全体除去を撃つターンは、相手のエンドフェイズに《厚かましい借り手》を出し、返しのターンで《黄金架のドラゴン》を出せるように準備しておくのです。初動が遅い手札はキープしないようにしましょう。
サイドボーディング
対 スゥルタイヨーリオン(先手)
対 スゥルタイヨーリオン(後手)
相手が《漁る軟泥》を使っている場合は《運命の神、クローティス》はサイドインしません。
《アゴナスの雄牛》を後手だけサイドインするのはとても変だと思ったでしょうか。先手は相手を押せることが多いですが、後手では《カザンドゥのマンモス》は4枚も必要ありません。後手ならばフェアな戦いになるのが通常なので、カードアドバンテージ源が重要になります。
《アールンドの天啓》がかなり弱いマッチアップです。盤面にクリーチャーがいてこそ強い効果であり、スゥルタイ相手にはあまり起きない状況です。《神秘の論争》にも引っかかってしまいますしね。
サイクリング
アドバイスできることは多くありません。最速で相手を倒しに行き、《天頂の閃光》に打ち消し呪文を合わせましょう。
サイドボーディング
対 サイクリング
対サイクリングのサイドボーディングは難しいです。たとえば、打ち消し呪文は相手の動きによっては刺さらないことがありますが、《天頂の閃光》を考えるならば絶対に欲しいでしょう。墓地を追放するカードを投入してはいますが、それでも打ち消しを数枚だけ残しているのはそういう考えからです。
相手の《レッドキャップの乱闘》の枚数次第で《黄金架のドラゴン》は強いカードにも弱いカードにもなりえます。相手のサイドボードに合わせて評価してください。
赤単氷雪
ティムールアドベンチャーのカードがもともと赤単に強いため、一番有利なマッチアップです。《エンバレスの宝剣》のターンに除去を1枚以上構えておけば問題ないでしょう!
サイドボーディング
対 赤単氷雪
言うことはほとんどありません。除去をあるだけ入れて、使い勝手の悪い/マナコストの重いカードをサイドアウトしましょう。
おわりに
今回はここまでになります。記事がみなさんの役に立ち、新スタンダード環境を楽しんでもらえたらと思います。僕のコンテンツに興味を持ってくださったみなさんは、Instagram/Twitter/Youtubeをチェックしてみてください。