はじめに
こんにちは、若月です。
いきなり情報がいろいろ出た!新プレインズウォーカーの「魁渡」、大きく変貌しながらもかつての面影を残す神河次元。鮮やかに輝くネオンの夜景、そして最後の超かっこいい後ろ姿はやはり噂の……?
早くも公開されたストーリーでは、これまでのマジックとは一線を画す驚きの未来世界が描かれ、また要所要所に意味深な言及が。そして……読んでいてすっごく楽しくってわくわくした!再訪だけど新次元みたいな雰囲気、新しい要素だらけの中で、所々に懐かしい名前が見えるのに心をくすぐられます。
そんなわけで、おそらく2021年最後の連載記事は、先日公開されました『神河:輝ける世界』の続報から見えてきた新たな神河世界を語ります。行こう、ネオ神河へ!!
1. サイバーパンク神河
ネオンきらめく近未来世界、サイバー忍者が手裏剣ブレードを構える。この「ネオ神河」のインパクトは、最近の新セット発表の中でも相当なものでした。実際、サイバーパンク化した未来の神河を与太話の類として予想していた人は多かったと思いますが、本当にそれが公式のものとして来るとは。
さらに、ネオサイタマの語感で通りの良さから「ネオ神河」と言っていたら、セットの三文字略称が「NEO」、正真正銘ネオ神河なんですが。初報から、『神河:輝ける世界』は「サイバーパンク」であると明言されてきました。では、そもそもサイバーパンクの定義とは? 手元の辞書に尋ねました。
サイバーパンク〖Cyberpunk〗
《cybernetics(サイバネティックス)+punk(過激なロック音楽)から》コンピューターネットワークによって管理された暴力的で退廃した未来社会を描くSF小説の新潮流。1980年代にブームとなり、アメリカのSF作家ウィリアム=ギブスンや、ブルース=スターリングらが代表的な作家として知られる。
(デジタル大辞泉より)
そしてこれらサイバーパンク作品は、多くがアジアの大都市的な雰囲気を色濃くまとっています。上記のウィリアム・ギブスンの代表作「ニューロマンサー」の第一部サブタイトルは「千葉市憂愁(チバシティ・ブルーズ)」ですよ。千葉ですよ(ちゃんと買って読みました)。
元の『神河』ブロックは、現在の物語のタイムラインよりも1200年ほど前にあたります。そのため「現代神河」の世界の様相ががらりと変わっていても割と理解できます。なんせ現実の日本で1200年前と言ったら平安時代ですよ、そりゃあネオ神河にもなります。ああ初報では2000年前と言われていましたが、単純にミスであり1200年前が正しいのだそうです。
また、未来的と言える世界観のセットは以前にもありました。2016-17年の『カラデシュ』ブロックでは、現代的あるいは未来的な科学技術がそこかしこに見られました。こちらはサイバーパンクではなくスチームパンク、からの「エーテルパンク」と言われていました。
巨大ロボット、レーシングカー、ヘリコプター。それでもきちんとマジックとして受け入れられていましたよね。『カラデシュ』ブロックがあったからこそ、今回のサイバーパンク神河が生まれたのではないかなと私は思っています。
早速公開された『神河:輝ける世界』のストーリーには、サイバーパンクな神河の様子がふんだんに描かれていました。主人公の漆月 魁渡は失踪した親友を探すため、下層街にてギャングの仕事を請け負います。そのさほど長くない場面だけでも、マジックで初めて見るハイテク世界の様子が早速伺えました。
神河では、ほとんどの人々が手首に取りつけたクレジットチップを好む。だが賭博好きは装着可能な技術を使うほど愚かではない。都和市の賭博場の常連にはひとつの格言がある:「失ってもいい物だけを危険にさらせ」。全てを失う誘惑を避けるため、賭博師はクレジットチップよりも物理的な貨幣を好む。
クレジットチップ……つまりは電子マネーってことですよね。手首に取り付けた、ってことはApple Watchみたいな感じなのでしょうか。
同記事より引用
彼は紙幣に目を通し、念の為もう一度数えるとポケットから小型のタブレットを取り出した。いつかは他の勢団員たちが着用している網膜レンズのようなハンズフリー装置を買いたいが、今は時代遅れの通信機でやっていかねばならない。
装置が魁渡の両目をスキャンすると、ぼやけたホログラムが浮かび上がった。魁渡は現在有効となっているリストを指でスクロールし、やがてひとりの賭博師のピクセル画像が現れた。その下には名前、悟への借金額、隠れ場所の情報が記されていた。
タブレットに網膜レンズにホログラム……完全に現代、いやそれ以上だ。前知識なしでこれを読んで、これがマジックの小説の描写だと言われたとしたら信じられるだろうか。同じ場面ではカレーが出ていたり(ラヴニカに続いて神河にもカレーがある!)、後半ではドローンや「巨大な折り紙メカ」なる単語が。オ……オリガミメカ。原文でも「origami mech」。
今はまだちょっとくらくらしないでもないですが、少なくとも私が読んだ感想は「こんなのマジックじゃない」ではなく「すごいなあ神河!」でした。そしてそれは多分、「変わらない神河」も同じくそこにあるから……であるように思えました。
2. 変わらない神河
このように物語冒頭から目の眩むようなサイバーパンク世界が展開される一方、かつての神河の面影がしっかり残されているのもわかります。
■神の存在
そう、なんといっても神はまだきちんといるのです。百鬼夜行みたいなのが神輿を担いでる……かわいい。特に右端のカエルが私は好きです。「今宵の街路には神がうようよしていた。都和市に住む夜型の精霊は、多くがこの灯篭祭りを気に入っている」。ストーリーの冒頭から、神は今も神河にありふれており、人と共に生きていることが早速わかります。
神、と書かれていますが、ここで出ているのはむしろ妖怪ですね。神河の「神」はそのクリーチャー・タイプが示すようにGodではなくSpirit。森羅万象の精霊や付喪神、自然現象や概念の化身です。
少し後の場面には「電気の神/Electric Kami」なんてものも登場していました。どうやら近代的な技術の神も存在しており、その姿は日常的な光景であるようです。よく「現代の夜は明るすぎて妖怪の居場所はなくなってしまった」みたいな話がありますが、最先端テクノロジーの世界に当たり前のようにとけ込む精霊たち。いやサイバーパンクとしてこれは新鮮で面白い!
このドラゴンたちは旧『神河』ブロックの伝説のドラゴン・スピリット5体の転生だそうです。摩天楼の間を泳ぐ龍……すごい。絵の下の方には首都高のような高架が見えますが、道路なのかそれとも線路なのか。
旧『神河』ブロックでは「神の乱」、敵意をむいた神と人との戦いが描かれていました。人は襲ってくる神から身を守るために戦いはするものの、そこにあるのはむしろ敵意よりも困惑であり、積極的に神を敵視して倒しに行くような者は少数でした。人は神に敬意を払い、穏やかに共存するのが今なお変わらない本来の神河なのでしょう。
一方で、1200年前とは状況が異なるのも確かです。定命の世界である「現し世(うつしよ)」と精霊の世界である「隠り世(かくりよ)」、その境界を定めていた神である大口縄はもういません。『神河救済』のラストにて倒されました。
大口縄を倒したのは、精霊と定命の姉妹――香醍(きょうだい)と今田魅知子です。香醍というのは、《奪われし御物》として今田大名に奪われた大口縄の精髄、それが顕現した姿の名です。ふたりは世界を混乱に陥れた互いの父親を倒し、その後を継いで世界を修復する役割を担いました。ちなみに「香醍」の名前を与えたのは梅澤 俊郎です。顕現した直後、「御物」と呼ばれるのを嫌う彼女に「sibling(兄弟姉妹)の意」と提案したのでした。
そして今のところ物語で魅知子についての言及はありませんが、香醍は今もいるようです。社に住んでおり、神河の皇/Emperorとなんらかの繋がりを持っているとのこと。この皇についてもいろいろかなり気になるのですが、まだまだ情報が少ないのでひとまず次回以降に。
話を戻しましょう。神はいかにしてか精霊の世界から定命の世界へやって来ます。ですがその反対、定命が精霊の世界へ行くという話は聞きません。そういえば有名な伝説のクリーチャーについて、こんな解説があるのを思い出しました。
千の顔の逆嶋
(前略)彼は大峨の城塞、狐の森、空民の浮遊都市にすら侵入しました。逆嶋にとってはどれも簡単極まりないことでした。残る挑戦はただひとつ、神の領域である隠り世に侵入することです。
思えば今田大名も隠り世に手を伸ばして大口縄の神髄を手に入れるために、大がかりな儀式を執り行っていました。また今回のストーリーでは「隠り世」という単語こそ使われていませんでしたが、とにかく人が精霊の世界に入るのは不可能か、あるいは困難かつ危険であるようです。
現在では人が技術を用いて精霊の世界の側を研究しようとしているような、そして神の力の利用法についての倫理や対立が描かれるような雰囲気がありました。マロー曰く、『神河:輝ける世界』は「現代性と伝統(Modernity and Tradition)の対立」がひとつのテーマであるようですので、現代神河では神との関わりのあり方が問われるのかもしれません。
■各種ロケーション
過去に取り上げられた次元に再訪する際は、キャラクターだけでなく「あの場所はどうなったのか」も重要です。1200年経って様変わりした神河世界、ですが先日の動画やその後に公開された概要記事「『神河:輝ける世界』のシビれるお披露目」には……
これは「皇国の地、永岩城/Eiganjo, Seat of the Empire」。永岩城!光ってる!!
かつての永岩城は《永岩城の君主、今田》の居城でした。地形的に非常に堅固というだけでなく、《明けの星、陽星》にも守られていました。しかし、大口縄本体が《奪われし御物》を取り戻そうと現し世に姿を現して天守閣へと迫った際には、大口縄の頭に直接攻撃されて多大な被害を受けました。
今回のアートを見るに、さすがに元の天守閣は残っていないようです。ストーリーを読む感じでは、現在の永岩城は神河の皇がいる(いた?)「皇国」の宮、なのかな?ちなみに以前の記事で「元の神河に将軍はいるけれど皇帝はいなかった」と書きましたが、その件については今のところわかりません。
一方のこちらは「耐え抜くもの、母聖樹/Boseiju, Who Endures」。母聖樹!!
母聖樹は旧神河のメインストーリーには登場していませんでしたが、「神河物語 公式ハンドブック」に短い解説がありました。神河次元最古の樹なのだそうです。種類は杉。杉か……(花粉症持ち)。公開された動画によれば、母聖樹のある樹海は都市に侵食されていきましたが、母聖樹は摩天楼に圧倒されることを拒み、高いビルが建てられるたびに成長し、都和市の最高点よりも高い樹であり続けている……のだそうです。
Twitter:@wizards_magic
つまり初報に出ていたこれ?すっかり都市に取り込まれながらもすさまじい存在感、なるほど「耐え抜くもの」。ストーリーでは「母聖樹地区」という名前も出ていました。説明曰く「神に満ちた森であり、樹海の兵団の本拠地」「母聖樹地区の神は都和市から逃れた神だ。樹海の兵団以外には寛容に接しない」。つまり母聖樹地区は都会化を拒む者たちの居場所なのでしょうかね。
そしてこの「都和市(とわし)」。ネオン輝く摩天楼に、神と人が隣り合って生きる大都会です。この地名は、かつての「永遠原(とわばら)」が元になっているのではと想像できます。永遠原は神河最大の平原であり、中央の岩山の上に永岩城が建っていましたが、神の乱においてその周辺は荒廃しきってしまいました。神の乱の後に永岩城が再建され、そしてその周囲に街が発展していった……とかでしょうか。
また物語では、空民の都市である「大田原(おおたわら)」の名前も確認されました。《雲の宮殿、朧宮》が座す空中都市であり、タミヨウの自宅もここにあります。
とはいえそこには「ドローン」「巨大な折り紙メカ」というような単語が飛び交っていました。空民もテクノロジーにしっかり順応しているということでしょうか。こちらもかなり様変わりしていそうです。旧神河にはたくさんの伝説土地が収録されていました。永岩城と母聖樹以外にも、いろいろな場所の「現在の姿」が見られたらいいですよね。
そして、かつての神河の面影を語るならば、この人は外せません。
3. 梅澤の4人目
旧『神河』ブロックの主人公、梅澤 俊郎。カード面では本人以上にその持ち物である十手のほうが有名でしょうか。私も当時のスタンダードにて使い倒しました。過去に何度か書いてきましたが、『神河』ブロックストーリーのエピローグにて俊郎はドミナリアへと流され、現地で梅澤家を興しました。《Tetsuo Umezawa》はその子孫、《逃亡者、梅澤哲子》はさらにその子孫です。書籍「The Art of Magic: The Gathering – War of the Spark」から神河次元の解説を翻訳します。
書籍「The Art of Magic: The Gathering – War of the Spark」P.26より訳
神河
ニコル・ボーラスの野望において重要な部分ではないが、神河次元はボーラスの歴史においてひとつの重要な場所である。彼の不実な代理戦史、テツオ・ウメザワはその祖を神河へと遡るのだ。遠い祖先、梅澤 俊郎は神に等しい精霊、夜陰明神によって神河からドミナリアへと連れて来られた。
ほかのいくつかの次元と同じく、神河もドミナリアにて次第に増殖する時の裂け目の影響を受けた。逆説的に、トレイリアの時間遡行実験の失敗によって裂け目が形成される百年ほど前、その裂け目は神河の現し世と隠り世の境界を弱体化させた。今田大名はこれによって大口縄の神聖なる精髄を奪うことができ、二十年に渡る定命と精霊の戦、神の乱を引き起こした。
その境界の弱体化は同時に、神河とほかの次元の間の境界をも透過性にさせた。夜陰明神はこの透過性を利用してほかの次元を発見し、そこでは何らかの形で夜が崇拝されていた。その崇拝を喜んだ彼女は神の乱を伸ばそうと試み、梅澤 俊郎がこの乱を終わらせようとした際には罰した。
俊郎への罰は一種の追放だった。明神は彼をドミナリアへと送り込んだ。彼はマダラにて一族を興し、遠い子孫のテツオはマダラ帝国の神にして皇帝、ニコル・ボーラスの勇者となるのである。
一方、神河で俊郎に家族がいたという描写はありません。「神河謀叛 公式ハンドブック」によりますと、かつて神河の梅澤一族は身分の高い侍だったのですが、俊郎が成人するよりも前に没落し、世間から忘れ去られてしまったのだそうです。俊郎は若いうちから自分の力だけを頼りに、はぐれ者たちが縄張りとする竹沼で汚れ仕事をして生きてきました。そして空民といざこざを起こしたのをきっかけに、神の乱の真相へと関わっていくのでした。
そのように、神河に俊郎の血統は残っていない……と考えるのが自然です。が。
コートの縁は蛍光性の黄色に輝き、全体には光沢のあるホログラフィックで鯉の模様が描かれていた。梅澤悟に金を借りた者にしては、ずいぶんと大胆な服装。
同記事より引用
その女性が扉を押し開き、魁渡は恐る恐る中に入った。机の向こうに座した悟を目にし、彼は目を大きく見開いた。耳のすぐ下まで達する刺青。黒髪はきつく結われて顔全体を厳しく張りつめさせている。金属製の鎧は胸と両腕を効果的に覆い、だが肩と腹部の透明部分から色鮮やかな刺青が見えていた。首から下げられたガスマスクはネオンの緑色と青い渦巻き模様で彩られ、怪物の顎を思わせた。
「うめざわ・さとる」
都和市の下層街にてギャング(むしろ極道?)的な組織「氷山勢団」を統べる人物、梅澤 悟。……や、現実の日本でも「梅澤」の姓はそう珍しくありません。俊郎の親戚が生き延びていたのかもしれませんし、無関係の者が俊郎の名声(あるいは悪名)にあやかろうと梅澤姓を名乗っている可能性ももちろんあります。
ですが実は、俊郎の子孫が神河に残っている可能性は少しだけあるのです。これまでほとんど書いたことも話したこともなかったんですが。何せ神河は「再訪は難しい」と言われ続けていた次元だったため、取り上げる機会がありませんでした。ですが当時から17年を経てようやくその時がやって来たようです。いやそんな仰々しいものでもないのですけどね。
切苦。呪師にして暗殺者、『神河』ブロックストーリーにおけるメインキャラクターのひとりです。俊郎とはときおりの仕事仲間といった感じで、敵ではないにしても仲良くもない間柄でした。互いが実力者であることは認めていましたが、何せ裏社会ではいつ誰に寝首をかかれるかわからないのです。
小説「無頼の徒-小説 神河物語」P.32より引用
敏郎は身震いを覚えた。切苦は目の覚めるような美人だったが、恐ろしい女だった。彼女なら、瞬き一つするあいだに、魔術で十人の人間を殺すことができる。しかし、彼女の退屈そうな口調はほとんど変わらなかった。彼女には、なぶりものにする獲物を探す丸々とした猫のような、心を乱し、落ち着かない気分にさせる激しさがあった。切苦は敏郎の敵ではなかったが、二人とも相手を警戒しながら見ていた。
(※「俊郎」が正しいのですが、日本語版小説では「敏郎」になっています。三船敏郎に引きずられたのか、それとも元は本当にカードでも敏郎だったのか)
結論から入りますと、『神河救済』の小説序盤にてこの切苦と俊郎が一夜を過ごす場面があったんですよ。何だろう……多分にその場の勢い、だったんだろうか。魔法的に酩酊した(酒も飲んでいた)切苦が俊郎に迫り、俊郎はかなり警戒するのですが最終的には……という。ですが翌朝「後悔している」「二度とない」と切苦は言っており、それ以前にも以後にもデレるような態度は一切ありませんでしたので、やっぱり勢いだったんじゃないかなと私は思っています。
そして小説中盤、《無情の碑出告》とのエピソードが終わると共に切苦は退場(死んではいません)し、俊郎もエピローグにてドミナリアへ流されました。そのため「結局これ何だったんだ」と思わないでもないまま、以来神河に回帰する気配もなく、公式からは「神河回帰は難しい」と言われ続けて17年が経ったのでした。
しかし今回、梅澤を名乗る人物が登場している……つまりそういうこと?それだけでなく、梅澤 悟の周辺にはかつての梅澤 俊郎を思わせる要素が色濃く存在します。公開されたストーリーにはこんな記述がありました。
氷山勢団は目撃されるのを好まない。用心しなければ。
同記事より引用
ほとんどの勢団員は、忠誠の刺青をまず入れられる。もし悟を裏切ったなら、この入会の印は持ち主の肉を喰らい、やがて緩やかで苦痛に満ちた死にいざなう。
「氷山勢団/Hyozan Reckoners」は上でも説明したように、梅澤 悟が長を務めるギャングの名前です。英語でもHyozan。一方、旧神河にて俊郎が碑出告と交わした(そして後に切苦と《骨齧り》も加わることを余儀なくされた)誓約が「氷山の誓約/Hyozan Oath」であり、この誓約を交わした者たちの集団名もまた「Hyozan Reckoners」。旧神河のそれは「氷山の仇討ち人」という訳でした。誓いの内容は小説にて俊郎がわかりやすく宣言してくれています。
小説「無頼の徒-小説 神河物語」P.67より引用
「俺たちはみんな自由で、義務を負うのはこの三人だけだ。俺の命はおまえたちのもの。おまえたちの命は俺のもの。誰か一人が傷つけば、全員が傷つく。生き残った者は仇討ちしなければならない。何を奪われようとも、氷山はその十倍を取り返す」
そして氷山の仇討ち人同士が傷つけあった場合――つまり裏切った場合には刺青が牙をむきます。実際に描写もありました。『神河救済』の小説中、骨齧りは碑出告が俊郎を殺そうとしている様子を目撃し、助けるために乱入します。実のところ俊郎はこれの以前に密かに誓約を抜けており、碑出告はそれを知っての行動だったのですが。骨齧りは碑出告を不意打ちしてその目を突き刺し、俊郎のピンチを救いました……が。
小説「Guardian: Saviors of Kamigawa」チャプター10より訳
骨齧りは掌に刻まれた、わずかに煙を上げる三角形を素早く一瞥した。「誓約は消えたんだろ? 俺はあんたを救った。いいことをした」鼠人の両目が俊郎を伺った。「そうだろ?」その最後の言葉が発せられると同時に、骨齧りは身体を強張らせた。彼は立ったまま震え、ひきつり、顔面は紅潮した。骨齧りの毛皮から煙が上がるのが見え、その身体から発せられる熱を俊郎は感じた。
この後に続く苦しみは、刺青の箇所を切り落とされてようやく収まるほど……つまり手を切り落とす方がまだましという程に過酷なもののようでした。そしてもうひとつ。現代の氷山勢団の団員の中には、切苦を思わせる技の使い手がいるようです。
その言葉に他の勢団員が数人、賭博のテーブルから顔を上げた。ひとりは肘まで伸びる金属の手袋をはめた逞しい女性で、指先は針のように鋭く尖っていた。彼女の仕事ぶりを魁渡は前に見たことがあった――手の一振りだけで特別製の毒を植え付け、犠牲者の傷から毒の花を咲かせるのだ。
カードアートに紫色の椿が描かれていますが、切苦は花を用いた暗殺の技を用います。これも小説に描写がありました。
小説「無頼の徒-小説 神河物語」P.36より引用
小さな紫色の花は根を伸ばし、神の背中の皮膚に穴を掘った。
(略)神は猛烈な勢いでその場をぐるぐる回り、花が根を下ろした背中を引っ掻いていた。心を落ち着かせるような椿の紫色が、神の肉に触れたところから毒素の黒い色に変わり、不気味な根は波のようにうねりながら肉を掘った。
そんなふうなので、ストーリーを読みながら私は「おいおいこれ俊郎関係じゃん……」と変な顔になっていました。いやここまではっきり残っていたら逆に不自然では?と思わないでもないですが。いつか公式で言及されるかもしれませんが、想像の余地として残されるかもしれません。それはそれで。いいね?
4. 本番は年明けから
先日公開されたストーリーは、主人公であろう漆月 魁渡の「オリジンストーリー」でした。これがねえ、もう本当に面白い!楽しい!!世界観こそこれまでのマジックにないものですが、とてもまっすぐなジュブナイルものでした。
魁渡は失踪した親友を探すために裏社会に身を置き、逞しく生きていました。姉の英子は真っ当な道を歩んでいるものの、魁渡とは確かな絆を持ち続けています。小気味の良い空民研究者タメシ(命名法則が旧神河の空民のそれに従っていない?)や、「灯の神」との出会いを経てプレインズウォーカーとして覚醒。こんなに穏やかにプレインズウォーカーとして覚醒するキャラはなかなかいません。そして狸の神かわいい。ちょうかわいい。
そしてどうもこの魁渡の失踪した親友というのが神河の皇/Emperorだとのこと。このへんはもう少しきちんと情報が出てから掘り下げる予定です。そして読んだ人は気づいたかと思いますが、危険な人物の気配が漂っています。
「未来派とも勢団とも違う秘密組織の噂を聞いてる。あの金属の腕の男について、皇宮は耳を貸してくれなかった。けど自分が何を見たのかはわかってる――そいつが神河に姿を見せるなら、勢団は把握するだろうってことも」
金属の腕の男。ちなみに原文では「the man with the metal arm」ですので、片腕が金属です。そんな書かれ方をするキャラクターはひとりしか心当たりがないですよね……貴方カラデシュで、同じようにテクノロジーが発達した次元で暗躍していましたよね……
……それではまた次回に。
(終)