スタンダード情報局 vol.71 -コンボよ、止まれ-

富澤 洋平

はじめに

みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。

前回はナヤルーンとトレジャーギャンビットという2つのコンボデッキをご紹介しました。コンボパーツもカラーボードも異なるアーキタイプながら、ともにワンショットキルを狙っています。スタンダードの奥深さを垣間見ると同時に、まだまだ埋もれている戦略がありそうですね。

今回は日本選手権2021 FINALの大会結果を振り返っていきます。

先週末の注目トピックは?

選りすぐりのプレイヤーが集い、しのぎを削りあった日本選手権2021 FINAL。大方の予想通り一番人気はナヤルーン、次いでトレジャーギャンビットとなりましたが、両デッキとも激しいマークに合ってしまい結果はふるいませんでした。参加者たちはコンボの増加を予想して対抗策を用意していたのです。

スレイベンの守護者、サリア

とりわけ効果的だったのが《スレイベンの守護者、サリア》です。どちらのデッキも非クリーチャー呪文を多く採用しており、コンボ時は連鎖的に呪文をプレイしていくためこのカードは天敵。最序盤に《スレイベンの守護者、サリア》が出てしまえば、コンボ始動はおろかデッキが回るかすらも危ぶまれます

《スレイベンの守護者、サリア》が優れているのは何もコンボ相手に限った話ではなく、呪文を主体としたコントロールの動きも制限できる点にあります。わずか1マナ増えるだけと思うかもしれませんが、序盤から攻勢をかけてくるデッキ相手に3マナの《表現の反復》や7マナの《告別》はプレイアブルといえるでしょうか?

《スレイベンの守護者、サリア》の影響は大きく、日本選手権2021 FINALの上位には白いクリーチャーデッキが複数見られます。非クリーチャー呪文を極力減らすことで自身は影響を受けずに展開でき、出遅れた相手に立て直す時間を与えずそのままビートダウンしてしまいます。《スレイベンの守護者、サリア》は先週末もっとも活躍した1枚といえるでしょう。

前置きが長くなりましたが、それでは大会結果をみていきます。

日本選手権2021 FINAL

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 中道 大輔 白単アグロ
準優勝 宇都宮 巧 エスパープレインズウォーカー
トップ4 井川 良彦 ボロスアグロ
トップ4 簗瀬 要 白単アグロ
トップ8 手塚 陽 ボロスアグロ
トップ8 藤本 岳大 グルールアグロ
トップ8 二俣 洋次郎 ゴルガリミッドレンジ
トップ8 平見 友徳 エスパープレインズウォーカー

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

参加者36名で開催された日本選手権2021 FINALは白単アグロを使用した中道 大輔選手が制しました。トップ8には「改善」をキーとしたグルールアグロやゴルガリミッドレンジなど新しいデッキも入賞しています。

熊野と渇苛斬の対峙兎電池

MPLに所属する井川 良彦選手が選択したのはオリジナルのボロスアグロ。相手によってムラのあるタフネス1のクリーチャーを排除し、カードパワーが高く無駄になりにくい1マナ域へと入れ替えています。同デッキの詳細は【日本選手権2021 FINAL TOP4のボロスができるまで】にてご覧になれます。

メタゲーム

デッキタイプ 使用者数 トップ16
ナヤルーン 6 2
イゼットドラゴン 4 1
トレジャーギャンビット 3 0
白単アグロ 3 2
エスパープレインズウォーカー 3 2
ジェスカイコントロール 2 2
ボロスアグロ 2 2
アゾリウステンポ 2 0
アゾリウスコントロール 2 0
その他 9 5
合計 36 16

コンボデッキに人気が集まるなか、対抗馬としてあがったのはイゼットやエスパーなどの青いコントロール。インスタントタイミングでの干渉手段が多く、攻撃面に関しても《黄金架のドラゴン》《放浪皇》など隙を作りにくいパーマネントを採用できるためです。

しかし、真の勝ち組は別にありました。白単とボロスを使用した5名中4名がなんとトップ8に入賞していたのです。コントロールを含めてほとんどのデッキが攻防の主体を非クリーチャー呪文に頼っていたこともあり、《スレイベンの守護者、サリア》の活躍しやすいメタゲームが形成されていました。日本選手権2021 FINALは《スレイベンの守護者、サリア》のために用意されたイベントだったのです。

トップ8デッキリストはこちら

大会放送リンクはこちら

白単アグロ

白単アグロ

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BIG MAGIC所属の中道 大輔、簗瀬 要両選手が使用し、優勝とトップ8へ入賞をさらった白単アグロ。メタ的立ち位置の向上はありますが、マナベースやクリーチャー選択にいたるまで綿密な調整の後が見られます。《不詳の安息地》亡き後の構築はどうなっているのでしょうか。

平地フロスト・ドラゴンの洞窟

白単アグロは3ターン目まではスムーズに土地を伸ばす必要がありながら、それ以降引いた分だけ勝率が下がってしまうマナフラッド(土地の引きすぎ)に弱いアーキタイプです。土地枚数はフラッドをケアして21か22枚、逆に3マナ域を厚く取ったり《軍団の天使》を採用することで23枚まで増やす、これが既存の構築でした。

しかし、優勝した白単アグロは土地総数を24枚まで増やしながら、それでいてマナフラッドにも耐える魔法の構造となっています。これを可能にしたのが3種類の能力土地です。これまでは《フロスト・ドラゴンの洞窟》を少数採用する程度でしたが、《皇国の地、永岩城》《這い回るやせ地》まで採用したことで土地を引きすぎたとしても使い道が生まれています。

皇国の地、永岩城這い回るやせ地

《皇国の地、永岩城》は戦闘時しか使用できない制限はあるものの、自身の《スレイベンの守護者、サリア》に引っかからない貴重な除去。《黄金架のドラゴン》に対して「魂力」しても宝物トークンを生成されません。また、白単アグロは伝説のクリーチャーを複数採用しているため、見た目以上に低コストで使える除去となります。

《這い回るやせ地》は回避能力はないものの、起動コストの軽さと成長速度が強味です。《フロスト・ドラゴンの洞窟》よりも1マナ軽く、《ドゥームスカール》《告別》の返しにはぴったり。しかもマナが余っているときにコツコツ+1/+1カウンターを貯めておくこともできます。ボードのプレッシャーに負けてタップアウトで全体除去を使ったが最後、手痛いダメージを受けてしまいます。

放浪皇

土地総数を増やしたことでそれに見合ったパワーカードも採用されています。メインに4枚投入された《放浪皇》はインスタントタイミングで登場するプレインズウォーカーであり、対処が難しく、戦況を問わずに活躍が見込めます。

インスタントでの使用例としては《食肉鉤虐殺事件》や火力がある相手にクリーチャーのタフネスを増やして射程圏外まで逃がすことがあげられます。ほかにも攻撃クリーチャー指定後にプレイすることで攻撃先に指定されずに除去として使えるのは理不尽というほかありません。

粗暴な聖戦士スカイクレイブの亡霊

メインボードは《傑士の神、レーデイン》《精鋭呪文縛り》といった対コントロール用の3マナ域が多く採用されていますが、アグロ相手には別の3マナ域と入れ替わります。合計で7枚とられた《粗暴な聖戦士》《スカイクレイブの亡霊》はクリーチャーデッキ全般に加えて、ナヤルーンにも効果てきめん。《樹海の自然主義者》《ルーン鍛えの勇者》を対処されてしまうと大幅に減速してしまいます。

エスパープレインズウォーカー

エスパープレインズウォーカー

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惜しくも準優勝だった宇都宮 巧選手が使用したのはエスパープレインズウォーカー。オルゾフミッドレンジをベースに青を足して新鋭《漆月魁渡》を採用し、打ち消し呪文により干渉領域を広げています。

漆月魁渡

《漆月魁渡》《放浪皇》に共通するのは高確率で次の自分のターンまで生存できる点にあります。プレインズウォーカーはマナを使わずに何らかのアドバンテージを生み出してくれるため、1ターン生存できるかどうかで戦況は大き変化します。《漆月魁渡》は出たターンに「フェイズアウト」するため、戦況が不利であってもほぼ確実に能力を2度使えるのです。

しかし、《漆月魁渡》がもっとも輝くのはミッドレンジやコントロール戦です。ルーティングによりドローの質を高めるだけでなく、[+1]能力を使用することで《ひきつり目》《神憑く相棒》といった本来脅威になりえないカードへ役割を持たせるからです。攻撃するだけでルーティングはドローへと変わり、手札の差は開いていきます。《消失の詩句》の対象外であるのもグッド。

心悪しき隠遁者軽蔑的な一撃

《心悪しき隠遁者》は1枚でダメージソースと妨害を兼ねた遅いデッキ全般に強いクリーチャーであり、4マナ以降にプレインズウォーカーが多いオルゾフ相手によく効きます。起動コストも青1マナと軽く、相手からすれば何かしらのカードを差し出さざるを得ません。《棘平原の危険》《消失の詩句》で処理されないように、タップアウトでプレイすることは極力さけるべきです。

《軽蔑的な一撃》も同様ですが、こちらは《黄金架のドラゴン》まで対処可能。このドラゴンはコントロール色の強いイゼットやジェスカイにも採用されていることから、現在は《否認》よりも《軽蔑的な一撃》に軍配が上がっています

グルールアグロ

グルールアグロ

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グルール愛好家のみなさま、お待たせいたしました。アドベンチャー亡き後上位で見ることがめっきり減ったグルールでしたが、この度BIG MAGIC所属の藤本 岳大選手が「改善」を全面に押し出したデッキでトップ8に入賞しています。このデッキは大まかに分けて+1/+1カウンターを配置して「改善」するカードと、「改善」によって恩恵を受けるカードの二部構成となっています。

熊野と渇苛斬の対峙活力の温泉

まずは「改善」するカードですが、マナ域ごとにわかれて合計18枚採用されています。なかでも《熊野と渇苛斬の対峙》はシンプルながら使い時が難しいカードです。最序盤に設置して2ターン目のクリーチャーを無償で「改善」するもよし、あえてズラし2ターン目にプレイすれば《髑髏砕きの突撃者》を定着させられるのです。

《活力の温泉》は古の《ヤヴィマヤの火》の流れをくむカードであり、最大4回まで「改善」しおまけに速攻を付与してくれます。《オラン=リーフの軟泥》《エシカの戦車》など相性の良いカードも多く、不利な状況でも先に設置しておくことで逆転の布石となりえます。全体除去やプレインズウォーカーなどソーサリータイミングの行動が多いコントロールはこれだけでライフを詰められてしまい、速攻の脅威を再認識させてくれます。

蜂起軍の無法者轟く雷獣神の火炎

では恩恵を受けるカードはどうでしょうか。《蜂起軍の無法者》《轟く雷獣》はほかの「改善」クリーチャーがいることでパワーが上昇したり、直接ダメージを与えてくれる攻撃面の優れたカードになります。仮に突破するのが困難な盤面になってしまった際は、《轟く雷獣》を意識して+1/+1カウンターを分散しておきましょう。

《神の火炎》は序盤から中盤まで使いやすい高効率火力であり、終盤は《轟く雷獣》と合わせてライフを詰めるカードへと変わります。プレインズウォーカーも対象にとれるため、無駄になりにくいのもポイントですね。

その他の大会結果

Standard Challenge #12392344

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 LucasG1ggs 白単アグロ
準優勝 guinthos201111 ナヤルーン
トップ4 O_danielakos イゼットドラゴン
トップ4 Cabezadebolo セレズニアミッドレンジ
トップ8 pokerswizard イゼットドラゴン
トップ8 Torres6 ナヤルーン
トップ8 McWinSauce エスパーコントロール
トップ8 Idea029 4色機体

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

Standard Challenge #12392344を制したのも何と白単アグロ。構築はまったく同じであり、完成度の高さがうかがえます。

メタゲーム

デッキタイプ トップ32 トップ16
ナヤルーン 6 3
イゼットドラゴン 5 4
白単アグロ 3 1
アゾリウスコントロール 3 0
ジェスカイコントロール 2 1
ボロスアグロ 2 1
オルゾフミッドレンジ 2 1
その他 9 5
合計 32 16

トップ8デッキリストはこちら

Standard Challenge #12392356

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 Gul_Dukat ナヤルーン
準優勝 Mudda 白単クレリック
トップ4 Killah_SUV 白単アグロ
トップ4 IslandGoSAMe 白単アグロ
トップ8 Misplacedginger オルゾフミッドレンジ
トップ8 Snapcaster-Bolt 白単アグロ
トップ8 Drugo 白単アグロ
トップ8 Terribad ナヤルーン

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

翌日に開催されたStandard Challenge #12392356はナヤルーンが優勝したものの、トップ8の半数は白単アグロが占める結果に。オルゾフ系がやや盛り返しを見せていましたが、白単アグロの快進撃を止めるには至りませんでした。

メタゲーム

デッキタイプ トップ32 トップ16
ナヤルーン 6 5
白単アグロ 5 5
イゼットドラゴン 5 1
オルゾフミッドレンジ 3 2
ボロスアグロ 3 2
アゾリウスコントロール 2 0
その他 8 1
合計 32 16

トップ8デッキリストはこちら

おわりに

白系のアグロが活躍した週末でしたが、今後はメタられる側へと回ります。《燃えがら地獄》《よろめく怪異》をメインボードへ戻すことが予想されます。

コンボにオールインしていたナヤルーンですら、メインボードに除去カードを採用する必要があるかもしれません。《スレイベンの守護者、サリア》を前に、メタゲームはどのように変動していくのでしょうか。

次回もスタンダードの情報をお届けしたいと思います。それでは!

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら

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