パイオニア情報局 vol.6 -魔の《ジャイルーダ》タイム-

富澤 洋平

はじめに

みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。

かつてのPTQ(プロツアー予選)を彷彿させるように各地で開催されているプレミアム予選。プレイヤーとプロツアーの最短距離を繋ぐこのルートには、毎週末多くの参加者が集まっています。

本稿は、毎週末に各地で開催されているプレミアム予選へと可能な限り帯同し、デッキ分布(メタゲーム)の分析とトップ8デッキを紹介していく企画となります。

それでは早速、先週開催された大会をみていきましょう。今回は晴れる屋 トーナメントセンター 大阪晴れる屋 トーナメントセンター 東京の大会結果を振り返っていきます。

先週末のトピック

今週のトピックは「バントスピリットとコンボデッキにチャンス到来」です。

ニクスの祭殿、ニクソス鏡割りの寓話大牙勢団の総長、脂牙ドミナリアの英雄、テフェリー

前回はアゾリウスコントロールが増加し、メタゲームが緑単信心、ラクドスミッドレンジ、アブザンパルヘリオン、アゾリウスコントロールの4デッキで形成されていることをお伝えしました。緑単信心は速度と安定性、リソース回復手段、特定のデッキに対するキラーカードを持ちながら、高いデッキパワーを有しています。トップ集団内で緑単信心が不利なデッキはおらず、立ち位置は良くなる一方といえます。

次の大会も緑単信心は同じかそれ以上のはず…そう考えるのは自然の理であり、今週は緑単信心を意識したアーキタイプにチャンスが巡ってきていました。

高尚な否定集合した中隊救出専門家

それを掴んだのがパイオニア黎明期から存在するバントスピリット。最近では緑単信心との相性を考え青単スピリットへと換装されていましたが、ラクドス系に相性が悪く単色ゆえの線の細さ、劣勢を覆せないカードパワーの低さが課題となっていました。原点回帰というべきか色を足し、《集合した中隊》を手に入れたことで改善したのです。

対緑単信心戦は打ち消し呪文が少ない分、メインボードは青単スピリットよりも劣りますが、サイドボードには《高尚な否定》などが用意されています。苦手としていたラクドス用に《集合した中隊》《救出専門家》があり、これらのおかげで単体除去では処理が追いつきません

不屈の独創力睡蓮の原野

さらに緑単信心と速度勝負ができ、デッキ構造上ミッドレンジに強いためコンボデッキも成果を上げています。クリーチャーと除去を主とした妨害要素をパッケージしたミッドレンジタイプのデッキはフェアデッキには対応できる反面、クリーチャーが極端に少なかったり、土地など干渉手段の限られたリソースを使うといったコンボをデッキを苦手としています。

《不屈の独創力》コンボはフィニッシャーこそクリーチャーですが、コンボ始動まではインスタントトリックに寄せたコントロールデッキ。除去は意味をなさず、手札に抱えたままゲームは終わってしまいます。

ロータスコンボはまさに土地を使ったコンボの代表格であり、《減衰球》こそ致命的ですが、採用率は低めとなっています。

実際、これらのデッキは週末の大会で活躍し、見事勝利を手中におさめています。

各大会のメタゲームブレイクダウン

第8週 TC大阪予選

デッキタイプ 使用者数 占有率
緑単信心 13 (20)
ラクドスミッドレンジ 8 (12.3)
アゾリウスコントロール 7 (10.7)
アブザンパルヘリオン 6 (9.2)
ラクドスサクリファイス 5 (7.7)
白単アグロ 4 (6.2)
ロータスコンボ 3 (4.6)
赤単アグロ 2 (3.1)
その他 17 (26.2)
合計 65人 (100%)

緑単信心が多いものの、それ以下は団子状態となったTC大阪のプレミアム予選。前週に続き、アゾリウスコントロールも上位にきており、現在のパイオニアのメタゲームイメージがそのまま重なります

フェイに呪われた王、コルヴォルド

ラクドスサクリファイスは緑単信心やアブザンパルヘリオンを狙うアグロデッキの増加を見越しての選択です。両面土地を活用してタッチされている《フェイに呪われた王、コルヴォルド》は、各種サクリ台(生け贄に捧げるカード)とシナジーを形成し、その成長速度によりゲームを終わらせるフィニッシャーとなります。

第8週 TC東京予選

デッキタイプ 使用者数 占有率
ラクドスミッドレンジ 23 (13.1)
緑単信心 22 (12.5)
アブザンパルヘリオン 15 (8.5)
ボロスヒロイック 9 (5.2)
白単アグロ 9 (5.2)
アゾリウスコントロール 8 (4.5)
赤単アグロ 7 (4.0)
ロータスコンボ 6 (3.4)
バントスピリット 6 (3.4)
ラクドスサクリファイス 6 (3.4)
イゼットフェニックス 5 (2.8)
マルドゥパルヘリオン 5 (2.8)
セレズニア天使 5 (2.8)
その他 50 (28.4)
合計 176人 (100%)

TC東京のプレミアム予選ではラクドスミッドレンジ、緑単信心がトップ。アブザンパルヘリオンは続きますが、アゾリウスコントロールは水をあけられています。

照光の巨匠サリアの副官鍛冶で鍛えられしアナックス

代わりに入ったのはボロスと白単の両アグロであり、その下にいる赤単まで含めるとラクドス、緑単に並ぶ数となります。ここ最近の傾向として、ラクドスはラウンドが進むにつれて数が減ってくるため、緑単信心とアブザンパルヘリオンを狙っていたのです。

さて、スイスラウンドが進行するにつれてデッキの分布は変化していくわけですが、最終ラウンドで1敗1分け以上にいたと思われるのは次のアーキタイプでした。2名残っていたのはラクドス、アブザンパルヘリオン、アゾリウスコントロール、イゼットコントロール、バントスピリットのみ。緑単信心はわずか1名のみにとどまっており、予想以上に対策が進んでいたようです。

黄金架のドラゴン奔流の機械巨人マグマ・オパス

複数名使用者がいるイゼットコントロールは《弧光のフェニックス》や「探査」に寄せた構築ではなく、打ち消し呪文と火力によるゲームコントロールを主眼においています。相手を減速させつつ《黄金架のドラゴン》《奔流の機械巨人》でマウントを取り、速やかにゲームを終わらせにかかるのです。

続いては実際の大会結果です。

大会結果

チャンピオンズカッププレミアム予選 in 晴れる屋 トーナメントセンター 大阪

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
権利獲得 クロダ マサシロ ラクドスサクリファイス
権利獲得 ウヅキ ユウシ ロータスコンボ
トップ4 ムラカミ カズヤ アゾリウスコントロール
トップ4 ウエモト タカヒロ 赤単アグロ
トップ8 キムラ シゲキ ラクドスミッドレンジ
トップ8 フナコシ ケンタ 青単スピリット
トップ8 タナカ ナオヒト アゾリウスコントロール
トップ8 シバタ アキラ 《奇怪な具現》コンボ

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

参加者65名で開催されたプレミアム予選(TC大阪)はラクドスサクリファイスとロータスコンボが予選突破しています。

焼けつく双陽

ロータスコンボは増加傾向にあるアゾリウスコントロール、ミッドレンジなどの中速デッキを狙っての選択です。コンボに全振りした戦略であり、通常アグロに対してノーガードですが、この構築ではメインに《焼けつく双陽》が採用されています。

《奇怪な具現》コンボ

《奇怪な具現》コンボはデッキ名にもなっている《奇怪な具現》の効果で、エンチャントをクリーチャーへと変換しながら戦場へ出た際の誘発型能力で差をつけていきます。たとえば《海の神のお告げ》をコストに《スカイクレイブの亡霊》を呼び出せば、カードを1枚引きつつ相手のパーマネントを除去できるわけです。

最終的に《深海住まいのタッサ》《空を放浪するもの、ヨーリオン》でパーマネントを「明滅」させて、アドバンテージを稼ぎ続けることになります。

弁論の幻霊

《弁論の幻霊》《法の定め》のクリーチャー版。イゼットフェニックスは機能不全に陥ってしまいますし、仮に《ニクスの祭殿、ニクソス》から大量のマナを出されたとしても活かしきれません。《ビヒモスを招く者、キオーラ》の効果も半減してしまいます。

チャンピオンズカッププレミアム予選 in 晴れる屋 トーナメントセンター 東京

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
権利獲得 タカハシ リョウ 《不屈の独創力》コンボ
権利獲得 ササキ ユウキ ジャイルーダコンボ
権利獲得 ミヤシタ ショウタ バントスピリット
トップ4 ハシモト サトシ ラクドスミッドレンジ
トップ8 ジュウモンジ リョウ バントスピリット
トップ8 マツモト ケイイチロウ アゾリウスコントロール
トップ8 タケオ カイ セレズニア天使
トップ8 ハラ コウキ アブザンパルヘリオン

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

参加者176名で開催されたプレミアム予選(TC東京)《不屈の独創力》コンボ、ジャイルーダコンボ、バントスピリットを使用した3名が権利を獲得しています。

至高の幻影集合した中隊天穹の鷲

バントスピリットは青単よりもクロックを太くし、干渉領域をボードや墓地まで広げています。《天穹の鷲》が追加されたことで打点を伸ばしやすくなり、青単ではリソースが足らずライフを削りきれなかった場面でも、《集合した中隊》を絡めて複数体のロードを出す展開を狙えます

霊廟の放浪者救出専門家無私の霊魂

サイドボードに採られた《救出専門家》はラクドスミッドレンジなどの消耗戦で活躍します。《無私の霊魂》《至高の幻影》《霊廟の放浪者》をリアニメイトすれば、攻防に参加できずとも十分なプレッシャーとなります

ジャイルーダコンボ

『イコリア:巨獣の棲処』実装時、レガシーで大暴れした《深海の破滅、ジャイルーダ》がパイオニアへ参戦してきました。コンセプトは同じく、高速で《深海の破滅、ジャイルーダ》をプレイし、コピー能力を持つクリーチャーで《深海の破滅、ジャイルーダ》のコピーを生成し続けます。最終的にライブラリーアウトか《龍王コラガン》で速攻を付与して殴りきります。

深海の破滅、ジャイルーダ

《深海の破滅、ジャイルーダ》自身は伝説のクリーチャーであるため、通常の《クローン》では誘発型能力こそ続くものの、頭数が増えません。ですが、クリーチャーによっては「伝説のクリーチャーを無視」でき、横へ並びます

灯の分身たなびき織りの天使

《灯の分身》は伝説を失い、+1/+1カウンターが置かれるため7/7と一回り大きな《深海の破滅、ジャイルーダ》となります。後続の《クローン》もこれをコピーすることで伝説を失い、複数体コントロールできるのです。

また、《たなびき織りの天使》《深海の破滅、ジャイルーダ》を「明滅」して再利用します。こちらをコピーすれば《深海の破滅、ジャイルーダ》の能力を繰り返しながら《たなびき織りの天使》が増えていくことになります。

回りだしたら最後、相手のライブラリーが切れるか《龍王コラガン》が戦場へ出るまで、ほとんど止まらず誘発型能力は繰り返されます

プレミアム予選結果まとめ

デッキタイプ 権利獲得回数
緑単信心 8
ラクドスミッドレンジ 6
白単アグロ 3
イゼットフェニックス 3
青単スピリット 2
ラクドスサクリファイス 2
《不屈の独創力》コンボ 2
ボロスヒロイック 1
バントスピリット 1
アゾリウスコントロール 1
エスパーコントロール 1
ジェスカイオパス 1
ロータスコンボ 1
ジャイルーダコンボ 1
マルドゥパルヘリオン 1
合計 34

最後になりますが、2ヵ月間国内で開催されたプレミアム予選全21回の権利獲得デッキを集計いたしました。見てわかるとおり、緑単信心とラクドスミッドレンジの権利獲得数が群を抜いて多くなっています。環境初期から存在し、周囲から激しくマークされたにもかかわらず、やはりこの2つは安定性とデッキパワーともに頭一つ抜けたデッキだったのです。

弧光のフェニックス宝船の巡航

初期の3強といわれたイゼットフェニックスは、中盤失速してしまいました。アブザンパルヘリオンなど墓地を活用するデッキが増えたことによる過剰な墓地メタを乗り越えることはかないませんでした

霊灯の罠高尚な否定精霊への挑戦

緑単信心を仮想的としたアグロ寄りの戦略も複数通過しています。青単スピリットとバントスピリットはクロック+妨害、白単アグロは《精霊への挑戦》による突破力を武器に攻略を試みたのです。

不屈の独創力睡蓮の原野深海の破滅、ジャイルーダ大牙勢団の総長、脂牙

個別アーキタイプではなく、「コンボのくくり」では4つのアーキタイプが該当します。今回権利を手にした《不屈の独創力》を筆頭に、ロータス、ジャイルーダ、マルドゥパルヘリオンです。ほかと比べて得意不得意のはっきりしたデッキです。

全体的に打ち消し呪文有する青が厳しく、色を選ばないキラーカード《減衰球》《未認可霊柩車》はどのデッキでも採用できます。無理に対策を乗り越えるよりも、プレイヤーの意識が離れガードの下がったタイミングを狙って選択したいデッキでした。

忌まわしい回収サテュロスの道探しエシカの戦車

意外だったのはアブザンパルヘリオンの権利獲得者が1人もいないことです。8月頭に始まった快進撃は終盤まで続き、トップ8の常連となりました。しかし、あと一歩届かず。

手札破壊と《ウィザーブルームの命令》で抵抗できるとはいえ、《大いなる創造者、カーン》擁する緑単信心は厳しかったのは間違いありません《大牙勢団の総長、脂牙》+墓地に《パルヘリオンⅡ》とシンプルなコンボゆえに対策がされやすかったのもあるでしょう。

次のエリア予選は『団結のドミナリア』入りとなります。既存デッキがアップデートされて上位に残り続けるのか、新勢力が台頭するのかは現時点では不明ですが、少なくとも緑単信心とラクドスミッドレンジは仮想的となりそうです。

おわりに

さて、2ヵ月間に渡って開催されたチャンピオンズカップ予選も、今回でひと段落となりました。イゼットフェニックス、ラクドスミッドレンジ、緑単信心で始まりましたが、毎週のようにメタゲームは変動して、あらゆるデッキにチャンスが巡っていました。パイオニアの名にふさわしい多様な環境だったのです。

次回よりエリア予選の情報を可能な限りご紹介する予定です。それでは!

(本稿ではデッキの詳細解説は行わないため、それにつきましては以下の記事をご覧ください。トッププレイヤー視点での環境解説がございます。 )

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら

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