パイオニア情報局 vol.8 -私もあなたもファイレクシアン-

富澤 洋平

はじめに

みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。

かつてのPTQ(プロツアー予選)を彷彿させるように各地で開催されているチャンピオンズカップ予選。プレイヤーとプロツアーの最短距離を繋ぐこのルートには、毎週末多くの参加者が集まっています。

本稿は、毎週末に各地で開催されているエリア予選へと可能な限り帯同し、デッキ分布(メタゲーム)の分析とトップ8デッキを紹介していく企画となります。執筆にあたり、各店舗様にご協力をいただき公開へといたっています。改めて感謝申し上げます。

それでは早速、先週開催された大会をみていきましょう。今回は関東圏内の3大会を振り返っていきます。

先週末のトピック

『団結のドミナリア』リリース後、パイオニアを巡るメタゲームは大きく変化しました。これまでトップメタといわれた緑単信心、ラクドスミッドレンジ、アブザンパルヘリオンのパワーバランスは崩れ、ラクドスミッドレンジが突出したトップアーキタイプへと成長していたのです。

これはもはや、環境初期にありがちな「使い勝手の良さ」や「安定感」「ミッドレンジの万能感」を選択理由としてあげるのは相応しくありません。多くのプレイヤーがラクドスミッドレンジこそエリア予選に最適なデッキと判断しているのです。ラクドスミッドレンジを巡る情勢の変化を見ていきます。

過去の威光もあり、《ヴェールのリリアナ》ばかりに注目が集まっていましたが、ラクドスミッドレンジにおける《黙示録、シェオルドレッド》は無視できない存在となりつつあります。

電圧のうねりエシカの戦車

キーポイントはタフネス5。ラクドスやイゼットの火力に耐え、あらゆる地上クリーチャーを受け止めてしまいます。この煽りをモロにくらってしまったのがアブザンパルヘリオン。主戦略の機体リアニメイト以外に、《エシカの戦車》によるサブプランを盛り込むことで、《真っ白》《未認可霊柩車》の上からビートダウンできる設計でした。

《黙示録、シェオルドレッド》の登場によりこのサブプラン自体が崩壊してしまったのです。アブザンパルヘリオン側にこのファイレクシアンを対処できる除去はほとんどなく、対処を苦慮している間にラクドスミッドレンジは墓地を封殺してしまえばいいのです。

鏡割りの寓話宝船の巡航

また、誘発型能力にも注目です。パイオニア内にドローソースのないデッキはほとんどありません。《黙示録、シェオルドレッド》は生きた《地獄界の夢》であり、《鏡割りの寓話》のII章や青系全般の強みであるドロー呪文をダメージソースへと変換しします。

黙示録、シェオルドレッド

《黙示録、シェオルドレッド》を対処するには「紛争」を達成した《致命的な一押し》、2点のライフを代償に《戦慄掘り》《ヴェールのリリアナ》《スカイクレイブの亡霊》などと限られたカードのみ。ほかの脅威を無視してこれらをキープしておくことは難しく、結果として生き残りやすくなっているのです。

各大会のメタゲームブレイクダウン

第2週(土) イエローサブマリン マジッカーズ★ハイパーアリーナ

デッキタイプ 使用者数 占有率
ラクドスミッドレンジ 23 (28.8)
アブザンパルヘリオン 10 (12.5)
緑単信心 9 (11.3)
《不屈の独創力》コンボ 7 (8.8)
アゾリウスコントロール 5 (6.3)
バントスピリット 5 (6.3)
エスパーコントロール 3 (3.8)
その他 18 (22.5)
合計 80 (100%)

ラクドスミッドレンジが単独トップへと躍り出た一方で、やや元気がないのが緑単信心。《ヴェールのリリアナ》の加入によりデッキ相性差は覆りつつあるようです。きちんとマナさえ確保できればいくらでも《収穫祭の襲撃》にてボードを再構築できますが、単体除去でマナクリーチャーを潰し、スローダウンさせてからの《ヴェールのリリアナ》マウントにより、そこまでたどり着くのが難しくなっています

不屈の独創力ドミナリアの英雄、テフェリー

ラクドスミッドレンジが最大数となることを予想して、《不屈の独創力》コンボや青系コントロールの選択者が増加しています。アゾリウスとエスパーの両コントロールを合わせればトップ集団に食い込むほどです。

黙示録、シェオルドレッド

こうなると手厚すぎた墓地対策をやや減らし、コントロールデッキに負荷をかける要素が欲しいところ。《黙示録、シェオルドレッド》は立っているだけでドロー呪文にダメージを付与するため、今後ますます出番が増えていきそうです。

第2週(日) トーナメントセンターバトロコ高田馬場

デッキタイプ 使用者数 占有率
ラクドスミッドレンジ 29 (26.6)
緑単信心 11 (10.1)
アブザンパルヘリオン 10 (9.2)
アゾリウスコントロール 6 (5.5)
《不屈の独創力》コンボ 6 (5.5)
ラクドスサクリファイス 6 (5.5)
バントスピリット 5 (4.6)
赤単アグロ 4 (3.7)
エスパーコントロール 4 (3.7)
白単人間 3 (2.8)
黒単アグロ 3 (2.8)
5色ニヴ 3 (2.8)
その他 19 (17.4)
合計 109 (100%)

上位5アーキタイプに変化はなく、ラクドスミッドレンジを包囲するアーキタイプがズラリと並びます。それでいてなお、ラクドスミッドレンジに人気が集中しているのは、デッキパワーの高さの証明でしかありません。

エンバレスの宝剣スレイベンの守護者、サリア思考囲い

こちらで注目したいは、下位アーキタイプ。赤単、白単、黒単といったアグロデッキにも一定数の選択者がいました。ラクドスミッドレンジを25%として、それを除いた残る75%のコントロールやコンボに狙いを定め、妨害を絡めた速度で有利に立とうとしていたのです。

第2週(祝・月) CARDBOX青馬堂書店矢向店

デッキタイプ 使用者数 占有率
ラクドスミッドレンジ 26 (29.5)
アブザンパルヘリオン 10 (11.4)
緑単信心 6 (6.8)
アゾリウスコントロール 6 (6.8)
白単 5 (5.7)
ラクドスサクリファイス 5 (5.7)
バントスピリット 5 (5.7)
赤単アグロ 4 (4.5)
イゼットフェニックス 4 (4.5)
マルドゥミッドレンジ 3 (3.4)
その他 14 (15.9)
合計 88 (100%)

ガラッと変わったのがこちらの結果。どうやら《不屈の独創力》コンボは賞味期限切れと判断されたのか、選択者はわずか2名まで減ってしまいました。変わって数を伸ばしたのはまさかのイゼットフェニックス。墓地対策が薄まりつつあり、《焦熱の交渉人、ヤヤ》を得て不死鳥のごとく舞い戻ってきました

焦熱の交渉人、ヤヤ消失の詩句

マルドゥミッドレンジはラクドスミッドレンジに《消失の詩句》をタッチしたアップデート版《黙示録、シェオルドレッド》をはじめ、《老樹林のトロール》《茨の騎兵》、有色機体を狙い撃ちます。追放とインスタントこそが《戦慄掘り》にない利点ですね。

続いては実際の大会結果をみていきましょう。

大会結果

チャンピオンズカップエリア予選 in イエローサブマリン マジッカーズ★ハイパーアリーナ

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
権利獲得 イヌイ タカシ ラクドスミッドレンジ
権利獲得 タンジ ケンスケ ラクドスミッドレンジ
権利獲得 ミラヤマ キョウヘイ ラクドスミッドレンジ
権利獲得 ナガヤ マサヤ ラクドスミッドレンジ
権利獲得 ヨシモリ ショウ 緑単信心
権利獲得 ヤマネ ナオト 緑単信心
権利獲得 イチカワ ヒデユキ アブザンパルヘリオン
権利獲得 サトウ ヨシノブ セレズニア人間
権利獲得 モトヤ トオル アゾリウスフラッシュ
権利獲得 セゴウ ケンジ アゾリウスコントロール
権利獲得 イケダ ヒデナリ エスパーコントロール
権利獲得 イシワタ コウイチ ロータスコンボ

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

メタゲームおよびデッキリストにつきましてはイエローサブマリン マジッカーズ★ハイパーアリーナ様にご協力いただき、掲載しております。

参加者80名で開催されたエリア予選(マジッカーズ★ハイパーアリーナ)ではラクドスミッドレンジが最多4名もの権利獲得者を出しています。

アゾリウスフラッシュ

アゾリウスフラッシュはインスタントタイミングでプレイ可能なクリーチャーを、大量の打ち消し呪文でバックアップしていく攻撃的なコントロール。ダメージソースはクリーチャーに限らず、《サメ台風》《放浪皇》なども含まれます。ひとたびクロックが定着すれば、豪華20枚もの打ち消し呪文が相手の呪文をシャットダウン。一方的にNOを押し付けます。

巻き直し

マナコストはやや重いものの、《巻き直し》はテンポ面に優れたミッドレンジに強い打ち消し呪文です。うかつに重い呪文をプレイしようものなら、打ち消された上に同一ターンにクロックを用意されてしまいます。《巻き直し》から《放浪皇》《大天使アヴァシン》への展開は悪夢というよりほかありません。相手の大振りを最大限に利用するカウンターパンチのような1枚なのです。

チャンピオンズカップエリア予選 in トーナメントセンターバトロコ高田馬場

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
権利獲得 ノミヤ ヨウヘイ ラクドスミッドレンジ
権利獲得 ナカシマ アツシ ラクドスミッドレンジ
権利獲得 ヤマグチ ダイスケ ラクドスミッドレンジ
権利獲得 ミカミ ヨシロウ マルドゥミッドレンジ
権利獲得 ミヤベ コウイチ アゾリウスコントロール
権利獲得 コバヤシ アキラ エスパーコントロール
権利獲得 オガサワラ トモアキ 緑単信心
権利獲得 ハラ コウキ アブザンパルヘリオン
権利獲得 ナカヤマ サトシ オルゾフ人間
権利獲得 コバヤシ トモヤ イゼットフェニックス
権利獲得 フジワラ ミズキ イゼットコントロール
権利獲得 タナカ ユウ 5色ニヴ

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

メタゲームおよびデッキリストにつきましてはトーナメントセンターバトロコ高田馬場様にご協力いただき、掲載しております。

参加者109名で開催されたエリア予選(TC バトロコ高田馬場)は青系コントロールが複数名権利を手にしたことに加えて、イゼットフェニックスが帰ってきました。ほかにも5色ニヴやイゼットコントロールなどコントロール色の強いアーキタイプが複数抜けています。

オルゾフ人間

これまで人間といえば速度に特化した白単、《集合した中隊》の粘り強さが強みのセレズニア、《閑静な中庭》などの部族土地を活かした5色などがありました。今回紹介するのは《ドラニスのクードロ将軍》をタッチしたオルゾフ人間です。

ドラニスのクードロ将軍新ベナリアの守護者

《ドラニスのクードロ将軍》が担うのはボード強化と墓地対策。《サリアの副官》とセットで2種8枚のロードを得たことで、ほか色の人間デッキよりもダメージレースを得意とします。人間すべてを《墓地の侵入者》化し、用済みとなった軽量クリーチャーや後述の《婚礼の発表》のトークンを除去として再利用できる器用な将軍なのです。

《新ベナリアの守護者》はラクドスミッドレンジを意識した破壊されない人間。ひとたび戦場へ出れば追放以外で除去されず、「後援」によりドローの質を高めてくれます《集合した中隊》のような1枚で複数枚のリソースを得るカードがないため、占術で無駄牌を引かない工夫が活きてきます。

婚礼の発表

《婚礼の発表》は人間デッキの固定枠となりつつあります。コンボデッキにはマナコストの重さがネックとなりますが、それ以外のアグロやミッドレンジには効果抜群。ボード上のやりとりに滅法強く、《ドラニスのクードロ将軍》の起動型能力のコストにも使えます

チャンピオンズカップエリア予選 in CARDBOX青馬堂書店矢向店

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
権利獲得 ムラエ リュウジ ラクドスミッドレンジ
権利獲得 イシイ ヒロユキ ラクドスミッドレンジ
権利獲得 コンドウ ゴウ ラクドスミッドレンジ
権利獲得 スギモト タカシ 緑単信心
権利獲得 マツモト トモヒロ 緑単信心
権利獲得 ヒラヤマ レイ アブザンパルヘリオン
権利獲得 ヨコミゾ ゴウキ アブザンパルヘリオン
権利獲得 ヤマシタ ヨシキ 白単アグロ
権利獲得 ヤマグチ コウタロウ 白単アグロ
権利獲得 ホンマ コウスケ イゼットフェニックス
権利獲得 ナカムラ カズヒロ ラクドスサクリファイス
権利獲得 Sun Sihong アゾリウスコントロール

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

メタゲームおよびデッキリストにつきましてはCARDBOX青馬堂書店矢向店様にご協力いただき、掲載しております。

参加者88名で開催されたエリア予選(CARDBOX青馬堂書店)はこれまで控えめだったアグロとアブザンパルヘリオンが複数名抜けています。人間デッキには《婚礼の発表》が定着し、フェアデッキを強く意識していることがわかります。

イゼットフェニックス

イゼットフェニックスは墓地を武器にしたミッドレンジデッキ。軽量火力でボードコントロールしていき、その過程やルーティングなどで肥えた墓地を活用し、《弧光のフェニックス》や「探査」呪文のコストを踏み倒します

イゼットフェニックスが抱えていた課題はサイドボード後のダメージソースでした。《真っ白》《未認可霊柩車》《安らかなる眠り》などこれでもかと吹き荒れる墓地対策を前に、《弧光のフェニックス》は速攻付きの《噛みつきドレイク》まで成り下がっていました。

焦熱の交渉人、ヤヤ

《焦熱の交渉人、ヤヤ》は墓地に依存せず、継続的にカードアドバンテージをもたらしてくれます。それでいて対処手段が限られているため、しぶとく戦場へ残り続けます。適正ターンに手札破壊や《戦慄掘り》をプレイできないと、ボード一面モンクの海に。インスタントの多いこのデッキでは、モンクは見た目以上に頼もしいクリーチャーです。

メタゲームが完全に好転したわけではありませんが、ラクドスミッドレンジのサイドボードから《真っ白》が減りつつあるのは事実です。プレミアム予選が始まった当初のように、必ずしも3枚採用されているわけではありません。プレイヤーの意識がラクドスミッドレンジミラーへと傾き、やや墓地対策が薄くなった今、イゼットフェニックスはエリア予選の舞台へと戻るにいたったのです。

まとめ

前回に引き続き、ラクドスミッドレンジの存在感が強調された週末となりました。以下の権利獲得デッキ一覧を見れば、ラクドスミッドレンジがいかに安定したアーキタイプがお分かりになるかと思います。

デッキタイプ 使用者数 増加人数
ラクドスミッドレンジ 20 +10
緑単信心 10 +5
アブザンパルヘリオン 7 +4
アゾリウスコントロール 6 +4
白単アグロ 3 +2
イゼットフェニックス 2 +2
ラクドスサクリファイス 2 +1
《不屈の独創力》コンボ 2 +0
バントスピリット 2 +0
セレズニア人間 1 +1
オルゾフ人間 1 +1
アゾリウスフラッシュ 1 +1
イゼットドラゴン 1 +1
ロータスコンボ 1 +1
エスパーコントロール 1 +1
マルドゥミッドレンジ 1 +1
5色ニヴ 1 +1
青単スピリット 1 +0
黒単アグロ 1 +0
赤単アグロ 1 +0
セレズニア天使 1 +0
ジェスカイエンソウル 1 +0
バント人間 1 +0
合計 68名 +36名

一部のデッキにつきましてはBIG MAGIC様から引用しています。

第1週目に開催された東京、大阪両トーナメントセンター、札幌店、TCGshop193大須店の結果に今回の結果を足したものとなります。一目見てわかる通り、ラクドスミッドレンジの権利獲得数は2位の緑単信心と比べて倍の差があり、突出した数を叩き出しています。

アブザンパルヘリオン、アゾリウスコントロールも数を伸ばしていますが、緑単信心と合わせてようやっとラクドスミッドレンジを越える程度。今後の巻き返しに期待したいところです。

次回もエリア予選の結果をご紹介したいと思います。それでは!

(本稿ではデッキの詳細解説は行わないため、それにつきましては以下の記事をご覧ください。トッププレイヤー視点での環境解説がございます。 )

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら

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